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「指名委」設置4倍 475社 企業統治意識高まり14年比で 人事透明に、運用カギ

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 「監査等委員会設置会社」か、それとも「指名委員会等設置会社」がいいか?

経営管理会計トピック

セブン&アイ・ホールディングスの1件で、「指名報酬委員会」の設置が、一躍脚光を浴びました。しかし、従来の監査役設置会社のまま、任意機関としての「指名報酬委員会」を置くケースがあり、いったん会社法に基づく機関設置と、経営管理の実情からの意思決定機関の設計とは、密接不可分ですが、制度内か制度外家はきちんと認識しておくことが重要です。

セブンの場合は、例の後継社長の指名について、2016年3月8日のプレスリリースで、直前に設立された取締役会の任意の諮問機関でしかないはずの「指名報酬委員会」での承認取付のあるなしで、2016年4月7日以降の新聞報道にある通りの騒動の原因となりました。

⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(1)発端はサード・ポイントの株式取得から始まった - 日本経済新聞まとめ

2016/4/25付 |日本経済新聞|夕刊 「監査等委」設置広がる 上場600社、企業統治強化

この記事を受けて、現在会社法が通常の株式会社の機関設定として想定している、
① 監査役会設置会社
② 監査等委員会設置会社
③ 指名委員会等設置会社

の選択におけるメリット・デメリットにつきましては、下記の投稿で解説させて頂きました。

⇒「「監査等委」設置広がる 上場600社、企業統治強化 - 監査等委員会設置会社への移行メリットとは?

セコム、クックパッド、大塚家具と、後継指名や経営者交代については、いろいろと物議を醸しだす論点ではありますが、ここは落ち着いて、機関設置の大勢についての解説に徹します。

2016/5/18付 |日本経済新聞|朝刊 「指名委」設置4倍 475社 企業統治意識高まり14年比で 人事透明に、運用カギ

「社長など経営陣の人事を議論する「指名委員会」を設置する企業が急増している。指名委を導入した上場企業は17日時点で475社と、2014年の約4倍になった。企業統治がより重要になり、経営陣の人事についても透明性を向上させたいとの意識が強まっているためだ。新しい制度が急速に普及するなかで一部では混乱も生じており、スムーズな運用のための工夫が問われている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

 

■ 「指名委員会」が任意機関であることの問題点とは?

ここからは、上記新聞記事のサマリ+コメントでお届けします。

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<経緯>
東京証券取引所のデータによりますと、指名委員会を設ける上場企業は過去数年間、110~120社前後で推移してきました。しかしながら、2015年6月に企業統治の強化を求める「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」が導入されたことで流れが変わり、指名委員会を取り入れる企業が急増しました。

指名委員会には2種類あります。ひとつは企業統治の面で条件が厳しい「指名委員会等設置会社」がつくる指名委員会。このケースでは指名委が決めた取締役の人事案には法的な拘束力があり、参加者の過半を社外取締役にする必要もあります。

もう一方は任意に設ける場合で、法的な拘束力を持たず、参加者を開示する義務もありません。セブンもセコムもこっちです。急増しているのはこちらの指名委員会で、406社と2014年(53社)の8倍弱に膨らんでいます。指名委員会等設置会社に移行する手続きを経ないでも、スピーディーに指名委を立ち上げられることが好まれる理由のひとつです。

(下記は、同記事添付の法定と任意の指名報酬委員会の差異表を転載)

20160518_「指名委員会」が急増している_日本経済新聞朝刊

<事例紹介>
任意の指名委員会は多くの業種に広がっています。セブン&アイ・ホールディングスやセコムのほか、住友化学、ニチレイ、三菱製紙などが昨年度に導入しました。
 ニトリホールディングスは5月13日に任意の指名委員会を設置し、参加者5人のうち過半の3人を社外取締役とすると決めました。同社は「創業者の似鳥昭雄会長の独断ではなく、外部の目を通した手続きを踏み、中長期的な成長につなげる」と説明しています。IHIは昨年6月につくった任意の指名委の参加者4人のうち3人を社外の人材としました。同委員会の決定と異なる人物を取締役会がトップに選んだ場合は社長が理由を説明する規定も設け、透明性を高める工夫を設けています。

ニトリホールディングスのプレスリリースはこちら

<問題点>
セコムは5月11日の取締役会で当時の伊藤博社長と前田修司会長の解職と中山泰男新社長の就任を決めました。任意の指名委員会の議論がきっかけとなったのですが、構成メンバーは非公表で、「企業統治指針が掲げる『透明・公正』の精神が見えない」(ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパンの小口俊朗代表)といった批判が一部にはあります。

2016/5/12付 |日本経済新聞|朝刊 セコム、会長・社長を解職 指名委意向映す

「警備最大手のセコムは11日の取締役会で前田修司会長(63)と伊藤博社長(64)を解職したと発表した。2人は同日中に取締役も辞任した。」

2016/5/14付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)セコム創業者主導 否定 トップ解職劇新社長に聞く 「前体制に社内不満」

「好業績が続きながら11日の取締役会で前田修司会長(63)=当時=と伊藤博社長(64)=同=の2人を解職した警備最大手のセコム。常務から社長に昇格した中山泰男氏(63)が13日、日本経済新聞の取材に応じた。創業者で取締役最高顧問の飯田亮氏(83)も解職に賛同したが「飯田氏主導ではない」と強調。「前田・伊藤体制の風通しの悪さに不満が出てやむを得ず襟を正した」と責任は2人にあるとの主張を展開した。」

(筆者コメント)
自由闊達な議論をする空気感が失われたとか、典型的な日本的経営の「社内の空気」で人事を動かす。それの任意機関での決定というお墨付きになるのか、いまいち曖昧なもので。でも「空気感」で社内統治をしているので、任意機関のお達しでも十分に機能する、それが日本の会社でしょう。

セブン&アイで鈴木敏文会長らと社外取締役の意見が対立した舞台も任意の指名委員会でした。指名委員会の反対を押し切る形で中核子会社セブン―イレブン・ジャパンの社長更迭を諮ったものの取締役会では過半数を得られず、鈴木会長は辞任を決めました。指名委員会での社外取締役の権限があいまいだという問題が改めて認知された事案になりました。

「任意も含めて指名委が増えているのは企業統治の前進」(コンサルティング会社、エゴンゼンダーの佃秀昭社長)との指摘は多く、今後は指名委での議論を活用しながら、優秀な人材を経営陣に登用していく運用の巧拙が企業の課題になる、と記事は締められています。
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■ 「指名委員会等設置会社」への移行は企業統治指針への急ごしらえの対応なのか?

同日の記事では、「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」の解説がありました。

2016/5/18付 |日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)企業統治指針 上場企業が守るべき原則

まずは、企業投資指針の概要説明から。
「上場企業に企業価値の向上を求める行動指針。東京証券取引所と金融庁が2015年6月に導入した。取締役会の役割や経営戦略の策定、株主との対話などで守るべき原則を示す。強制力はない半面、指針を実施しない企業はその理由を投資家に説明しなければならない。73項目ある原則の全てを実施している企業は現時点で全体の1割にとどまる。「取締役会が機能しているかの分析・評価」が未着手の企業が多い。」

(下記は、同記事添付の企業統治指針で定められている遵守または説明を求める事項の対応状況グラフを転載)

20160518_企業統治指針_日本経済新聞朝刊

ここから、指名・報酬委員会のお話に。
「経営に外部の客観的な視点を反映するよう求める項目が多い。その目玉として東証1、2部に上場する企業には、経営から独立した立場の社外取締役を2人以上選ぶよう求めている。これに対応し、15年は多くの企業で社外取締役の複数選任が進んだ。指名・報酬など重要な意思決定に関わる委員会の設置も指針では要求している。「独立取締役の適切な関与・助言を得るべきだ」としている。」

英米流の「所有」と「経営」と「執行」を完全分離させた会社統治ありきの、「指名委員会等設置会社」まで、一気に振り子をふれない日本企業の苦肉の策としての任意機関としての設置。「中庸」っていつでも「妥協」か「妥当」の区別は難しい!?

 

■ 「指名委員会」のあり方、識者に聞く

どうせなら、同日掲載の有識者3名のコメントまで紹介して今日は終わりにしましょう。筆者のコメントだけだと心もとないですよね。(^^;)

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法務省出向時代に改正会社法の企画立案に携わった塚本英巨弁護士 

20160518_塚本英巨_日本経済新聞朝刊

企業統治強化を盛り込んだ昨年の会社法改正は、社内実力者が人事などの決定権を握っている状況に風穴を開ける狙いがあった
 任意の指名報酬委員会は東京証券取引所などが定めた上場企業のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)でも活用を促している
 任意の指名報酬委の決定に法的拘束力はなく、委員の人選によっては社内実力者の意向を追認するお飾りとなる可能性があるため、ガバナンス向上につながるかは経営者の意識次第
 組織の透明性を高めるため、指名報酬委員の実名公表など開示内容の拡充を検討する必要もありそう

(筆者コメント)馬○とハサミは使いよう! どんな制度でもね。
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企業統治に詳しい経営人材紹介プロネッドの酒井功社長 

20160518_酒井功_日本経済新聞朝刊

法定の指名委員会は取締役らの人事権を持つ
6日に社長交代を発表した東芝は、社外取締役だけで構成する指名委が人事を決めた
不適切会計問題で過去の経営陣が責任を問われる非常事態だっただけにプロセスの透明性を重視したのだろう

任意の指名報酬委は、委員会が主体となって取締役を選ぶのか、経営者が選んだ候補者の妥当性を検証するのか、役割を明確にすべき。それによって委員を務める社外取締役に求められる責務も変わってくる

(筆者コメント)任意機関の場合は、委員会のミッションと手続きをきちんと文書化して公開しておくことが大事かと。どんな名前を付けようと、ルールが非公開・未定義ならば、従来の密室政治とは何ら変わらないですよね。

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企業統治に詳しい浅見隆行弁護士 

20160518_浅見隆行_日本経済新聞朝刊

セブン&アイ・ホールディングスやセコムが任意で設置した指名報酬委員会が機能したといえるか微妙。双方ともトップが退任したが、指名報酬委にすべての取締役が従ったわけではなく、創業者側の意向が反映された結果のように見える

任意の委員会を設置するなら、取締役全員から委員会の意向に従う旨の誓約書を出させるなど拘束力を持たせるべき。結局は取締役会が意思決定するなら委員会の存在意義はない

日本企業では形骸化した企業統治の仕組みが散見される。人材の流動性が低く、人事システムも企業風土も違う日本にガバナンスだけ欧米流を移植したことが背景にある

(筆者コメント)おっしゃる通り!英米流(欧米流とは違いますよ、独仏の企業法制はまた別なので)の形式だけ輸入しても、、、仏作って魂込めず!
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(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

(参考投稿)
⇒「取締役会評価、二の足 企業統治指針、実施4割どまり 課題発見で成果も -コーポレートガバナンス・コードを押しつけた弊害ここにあり!
⇒「企業統治指針「全項目を順守」1割強 適用から半年 報告書「表現横並び」課題

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