■ 中学生プロ棋士、藤井四段が示したAIと人間の新たな関係とは?
AIがもてはやされる現代、将棋ソフトを使いこなした藤井四段が連勝を伸ばし、やっぱりAI時代の到来を確実にする報道の方向でマスコミがはやし立てる中、もっと現実的で、もっと影響範囲の大きい、既に起きていることが他にもあります。
2017/6/26付 |日本経済新聞|電子版 AI時代の申し子 偉業 藤井四段、ソフトで探究
「デビューから快進撃を続ける将棋の藤井聡太四段(14)が26日、30年ぶりの新記録となる公式戦29連勝の偉業を達成した。藤井四段は将棋ソフトを積極活用して急速に力をつけた「AI(人工知能)時代の申し子」。今後は連勝記録だけでなく、最年少タイトルなどの記録更新にも期待がかかる。」
(下記は、同記事添付の「増田四段に勝利し、29連勝となった藤井四段(26日午後、東京都渋谷区の将棋会館)」を引用)
将棋ソフト(当然AIと何気なく一括りにされている機能を搭載している)を使いこなし、生身の人間なら一生かかってもこなすことのできない数多くの棋譜を読み込んだ熟達のソフト相手に、定石をくつがえす奇手・新手を繰り出す。
その様子は、諸先輩方も次のように評しています。
「深浦康市九段(45)は「ソフトの影響が大きい」と指摘する。具体的には軽快な動き方をする「桂馬」の使い方だ。「序盤から積極的に桂馬を跳ねて主導権を握りにいくのはソフトによく見られる指し方。それを藤井四段は実戦でうまく生かしている」と言う。」
「「勝負どころでの形勢判断の正確さ」(野月浩貴八段)も、ソフトを使った研究に負うところが大きい。名人さえも撃破するほどに進化した将棋ソフトを、藤井四段は昨年の初夏ごろから積極的に利用している。」
AIの勝利を決定づけた電王戦は、今年限りでAI対人間という対決は終わりにし、来年からはタッグ戦になります。これは、いつまでも、AI対人間の構図でAIを捉えるのではなく、どうやったらAIを活用して人間の仕事の品質を上げることができるか、引いては生活の質を向上させることができるか、に大きく舵を切ったことを示しています。新技術に対しては、ひたすら恐れるべきではなく、どうしたら人間や社会に役立てることができるか、少なくとも悪用を防止できるか、早くそういう意識に切り絵換えるべきであります。
これは、「ヒューマンオーグメンテーション(Human Augmentation)」として、知覚能力・認知能力・身体能力・存在感や身体システム(健康)に至るまで、AIやIoTがもたらす情報処理と人間とを一体化して、人間の能力を拡張させるテクノロジーを開拓していく考え方に通じるものがあります。この考え方は、さらに、人間とテクノロジー・AIが一体化し、時間や空間の制約を超えて相互に能力を強化しあう、IoA(Internet of Abilities:能力のインターネット)という未来社会基盤の構築をも視野に入れたものになります。
(参考)
● ソニーと東京大学 「ヒューマンオーグメンテーション(人間拡張)学」を始動
■ AIがホワイトカラーの仕事を奪うとの脅威論について
AIが高度な判断業務を含むホワイトカラー職種にとって代わられるというAI脅威論およびその批判などの論調が昨今、隆盛を極めています。
(参考)
⇒「(大機小機)転職・復職400万人時代 - 同一労働同一賃金への違和感とAIの脅威について」
⇒「(経済教室)人工知能は職を奪うか(上)日本、生産性向上の好機に 労働者の再教育カギ オックスフォード大学准教授 M・オズボーン、オックスフォード大学フェロー C・フレイ」
⇒「(経済教室)人工知能は職を奪うか(下)意思疎通能力、一層重要に 労働市場の整備カギ 柳川範之 東京大学教授」
⇒「AI(人工知能)が人事部と経理部から人間を駆逐する日はいつか? - HRテックとフィンテックの影響は?」
これに対して、現在のテクノロジー(深層学習、強化学習を中心としたもの)に基づくAIがどうしても乗り越えられない人間の智の壁と、既に乗り越えられた(凌駕された)部分についても、筆者は冷静に分析しているつもりです。
⇒「どうして現在のディープラーニング技術ではAIが東大入試を乗り越えられないのか? - AI脅威論にも安易な礼賛にも同調しない人間中心のAI活用について」
⇒「(経済教室)人工知能の光と影(下)「人間の脳を超越」あり得ず 機械知より生命知に強み 西垣通・東京経済大学教授 - 今のAIでは論理的飛躍は不可能だ!」
いわゆるビックデータ解析により、既存の統計データに沿って、高度な回帰分析に基づく統計的な確からしさの拠り所にした判断なら、現在のAIテクノロジーはすでに現実のものにしています。つまり、定型的な判断業務ならAIに任せてもほぼ間違いない頭脳の代替技術は実現化されました。後は、お手々として、どうやってAIに実際の作業をやらせるか、その実現性が待たれていました。それを一部可能にするのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という分けなのです。
■ RPAの効用と影響力を考える!
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは、
デジタルレイバー(Digital Labor)とも呼ばれており、ホワイトカラーの間接業務を自動化することで、① 閑散期と繁忙期の間の工数変動の波を抑制する、② 間接工数自体を削減することで、間接人件費を削減する、ことを目的としています。デスクトップ上で人間がする作業をロボットに記憶させますので、ロボットがあなたの定型業務を代行してくれます。ロボットの代行業務によって、24時間365日休むことなく、定型的な業務を繰り返し反復して自動化してくれることで、これまで手が付けられなかった煩雑な作業も短い時間で処理してくれる効果まで期待することができます。
2017/6/28付 |日本経済新聞|朝刊 仮想ロボに事務お任せ テンプHDやNEC系 データ入力を自動化 人手不足に対応
「人材派遣会社やIT(情報技術)会社がデータ入力など単純作業をロボットで自動化するサービスを拡大する。「仮想ロボット」などと呼ばれる新技術で、業務の効率化だけでなく、人的ミスの防止や監視の目が届きにくい海外子会社の不正防止にも活用できる。人手不足に悩む業界や働き方改革で業務を効率化する企業の需要を取り込む。」
(下記は同記事添付の「単純な事務作業をロボが代行」を引用)
本記事では、人材派遣大手のテンプホールディングス(IT子会社インテリジェンスビジネスソリューションズ:IBS)と、NEC子会社のアビームコンサルティングの事例が紹介されています。
● IBS
この4月にRPA専門組織を立ち上げました。そのサービス内容とは、
① 自動化する業務の範囲を提案する
② 専用ソフトをパソコンやサーバーに組み込む
③ ロボットが顧客情報をシステムに打ち込んだり、経費精算のチェックをしたりする
これにより、業務の一部をロボットで代替することで人員を4割程度減らせる効果があると試算しています。
● アビームコンサルティング
「ソフト開発のRPAテクノロジーズ(東京・港、大角暢之社長)と組み、基幹システムの会計処理など10種類以上を用意した。
例えば決算処理のRPAでは、国内外の子会社からメールで受け付けた各社の決算申告を自動で集計し台帳にまとめる。添付ファイルを開封して内容をチェックしたり、ミスや記入漏れをメールで指摘したりする。申告がない子会社への督促といった作業もこなす。」
RPAは、システム改修を行わずに、比較的簡単なプログラミングだけで、仮想ロボ(デジタルレイバー)を動かすことができます。大抵は、専用のソフトウエアを使い、人手でやっていた作業の一部を自動化することを目的とします。データの入力やデータチェックなど、高度な人の判断(複雑な思考錯誤が不要な確認作業はできる)がいらない単純な業務を処理するためのプログラムで仮想ロボを動かすことができます。
この種の記事にありがちなフレーズで解説が締められています。
「単純作業をロボットに任せ、人はより付加価値の高い仕事をするといった企業の動きが加速しそうだ。」
この種でよく言われる「付加価値の高い仕事」とは一体何を具体的に指すのでしょうか? もはや、為替や株式・債券と言った金融商品を扱うディーラーや各種アナリストも職を奪われているのが実体です。また、アメリカで顕著なのですが、パラリーガル(paralegal)だけでなく、裁判に勝てそうな最適な判例探しの知的作業でも、AIの浸食が進み、法廷弁護士以外は多くのロースクール卒業者は受難の時代を迎えています。
つまり、「高付加価値」という曖昧なカテゴライズではなく、AIやRPAを使いこなして、作業効率化と判断業務の確からしさの水準をギリギリまで高めた上で、高度な社会的コミュニケーション(会話による交渉・折衝・教育など)を生業とする職業だけが、生身の人間に残された職業領域となっていくと思われます。当然、経営コンサルタントも職種として存在できるかどうかという単純な見方ではなくて、AIやRPAを使いこなしたうえで、より高度な判断業務を支援する仕事、またはAIやRPAをどう使いこなすかを指南する仕事に従事する者として、必ず生き残る(生き残っていかなければならない(^^;))職業であるのだと声を大にして言いたい!(いったい誰に主張しているのやら。。。)
そして、従来のAI脅威論が相手をしていた漠然としたホワイトカラーから、RPAの実践性がより高まった現在では、判断作業を含んでいても定型作業だったり反復作業だったりするものに従事しているホワイトカラーはRPAにより完全代替される将来絵図が確実視されてきたということです。感情エンジン、推論エンジンの搭載はまだまだ先のことかもしれませんが、判断エンジンは既にRPAに搭載済みであることは、もはや忘れてはいけません。
■ 最後に、筆者が予定しているRPAのセミナーの宣伝です!(^^;)
2017年7月12日(水)に、一般社団法人 日本CFO協会主催による「CFO NIGHT!!2017」があります。株式会社三菱ケミカルホールディングス 代表執行役副社長 小酒井 健吉氏による基調講演の後、プロフェッショナルセッションBとして、小職が「経理業務へのRPA導入および運用事例」と題して、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA:Robotic Process Automation)を経理業務に適用した事例紹介と、RPAの今と将来について語りたいと思います。
● RPA導入のポイントとは?
ロボットに、一定のルールを覚えさせることで、基準にもとづいた判断作業をさせることも実現可能になります。将来的には、AI(人工知能)による強化学習・深層学習(ディープラーニング)機能により、より高度な判断作業をさせることもでき、その生産性向上と応用範囲の広がりに対する将来性は大きなものがあります。
また、人間のデジタル情報処理を代わりに行わせるという発想に立つ技術を用いているので、既存の基幹システムやワークフローシステムを再構築する導入コストを最小限に抑えることができます。従来、システムとシステム、データとデータを人間系でつないでいた、その「人間系」をロボット(デジタルレイバー)に置き換える点が、画期的であると考えています。
お申込み、セミナー概要をご確認されたい方は、下記、日本CFO協会のホームページまで
● 一般社団法人 日本CFO協会 CFO NIGHT!! 2017
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
コメント