■ タックスプランニング包囲網
欧州連合(EU)が、加盟国のアイルランドへの米アップル社に適用してきた法人税の優遇措置について、公正な競争条件を整えるEUの規定に違反しているとの見解を明確に示しました。
2014/10/1付 |日本経済新聞|朝刊
欧州委、アップル税優遇は違反 アイルランド税制巡り
この当局の動きは米国でも同調されている模様です。
2014/10/1付 |日本経済新聞|朝刊
租税回避 包囲網狭まる 欧州委、アップル巡り「違反」 米でも批判
さらに、米国では、医薬品業界の企業買収戦略に対して既に実際に影響が出ています。
2014/9/30付 |日本経済新聞|朝刊
英アストラゼネカ、医薬品買い入れに重点 がん・糖尿病で ファイザー提案は拒否強調
■ 税務当局へ課税単位の変更を求む
まず、米ファイザーによる買収提案を拒否した英アストラゼネカの件から。
この件に関連して、米当局が9/22に「法人税の負担軽減を目的とする海外企業の買収を制限する措置を発表した」とあります。記事では、法人税率の高い米国(35%)ではなく、英国(2015年に20%)やアイルランド(12.5%)に本社を移されては、米国歳入庁への実入りが減ることへの対抗措置ととれます。
当然、買収規制の強化は、製薬業界の再編機運をしぼませてしまう懸念があります。
先日コメントしたように、本社(リーガルエンティティ・個社・単体)に課税するのではなく、連結グループに課税し、従業員や土地建物等、外形標準で各国に明確な基準で納税額を按分する方式を採用してはと考えます。企業の方が、グローバルで経済活動を実施しているのに、税務当局がローカルのままでいることの矛盾なのだと思います。
■ アイルランドは善管注意義務違反
アイルランドのアップルの件、ルクセンブルグのフィアットの件、いずれもEUという主権国家の主権の一部(財政政策など)をEUに委譲し、EU域内では特定の企業に優遇措置を与えて、というより国家補助を与えてEU域内の自由競争を阻害しないように、というEU内部のルール徹底という話なら、EUの統治の問題です。
しかし、アップルの件は、アイルランドが低い税率でアップルを誘致したというより、アップルが、アイルランド=オランダ間の租税条約のスキを突き、さらに、バミューダ諸島(タックス・ヘイブンで有名)に収益を移転したという、いわゆる「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」という米国IT企業の中ではもはや常識となった節税スキームを、アイルランド当局が放置していたことが問題だと思います。
■ タックスヘイブンは誰が編み出したか
このことは、世の中に「タックスヘイブン」が存在する限り、税務の専門家が必ずルールの網の目をかいくぐり、新たなスキームを築き上げるので、当局とのイタチごっこが継続することになります。企業側の税務担当者は、各国の税務当局OBが高報酬で引き抜かれて任命されていることですし。
各国税務当局OBが企業に転職するのを規制するのは、職業選択の自由を奪うことで、基本的人権にかかわること。高度な法務的判断が必要になります。そういう場当たり的な弥縫策(びほうさく)実施より、OECD諸国がタックスヘイブン諸国に政治的圧力をかけて、軽減税率制度を強制終了させることが最終手段となります。
しかし、そもそもタックスヘイブンは、国際金融取引の活発化を目的に、英国や米国でその概念が生まれて発達したものです。最近のグローバルな財・サービス取引もその付加価値源泉を高度に知的財産権化して、ロイヤリティ取引にして収益を簡単にタックスヘイブンへ移転できるようにしただけのこと。これまで英国や米国の金融業界関係者の一部の人たちが享受していたメリットを大体的に活用されるようになっただけです。
自分たちはこれまで享受していた特権をメーカーが利用するのはけしからん、ということでしょうか?
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