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経営デザインシート(3)誕生した背景・理由から考える効果的使い方とは 価値創造プロセスの可視化

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経済と消費の仕組みが変わったことに気づく

経営デザインシートは、最初から、ビジネスモデルをデザインすることを当初の目的として掲げて遂行された政府肝いりのプロジェクトではなかったそうです。

音頭を取っているのが内閣府知的財産戦略本部というセクションなので、当初は、知的財産権(知的所有権)―例えば、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権などが含まれますが― を有効活用して、日本企業のさらなる成長と収益性向上をどうやって目指すかという取り組みとしてスタートしました。

それは、「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース」の第1回会合(2017年/平成29年11月16日)の議事録を確認すれば簡単に分かります。

知財のビジネス価値評価検討タスクフォースの開催について

知財を中心とした無形資産の見える化や価値評価、またその活用の在り方について検討することとする。

外部リンク 知財のビジネス価値評価検討タスクフォースの開催について(平成29年11月2日検証・評価・企画委員会座長決定〔委員名簿含む〕)P1

そこでは、日本企業・日本経済の無形固定資産への投資が少ないことが、日本企業の国際的な競争力を落とすことになった原因であるという仮説を持っていたことを窺い知ることができます。

我が国の無形固定資産投資

外部リンク 無形資産投資の適切な評価に向けて~価値協創ガイドラインとローカルベンチマーク~(経済産業省)P4

そして、今や世界の経済の新しい中心となっているといっても過言ではないGAFAと比較して、日本企業のR&D投資(研究開発投資)の促進こそ問題解決の糸口である、というふうに、ある程度、タスクフォースでの検討の落としどころを最初から探っていた節があります。今や、猫も杓子もデータ・エコノミーですからね。^^)

研究開発投資データ

外部リンク 無形資産投資の適切な評価に向けて~価値協創ガイドラインとローカルベンチマーク~(経済産業省)P6

研究開発投資を積極的に行うということは、投資家から資金を集める(ファンドをレイズする感じで)必要があります。そして昔から、お金を集める際には、情報開示を行い、アカウンタビリティを明確にするという鉄則があります。

研究開発投資(R&D投資)は、成果を得るためにはかなり長期の時間を要します。ファイナンス視点では、より遠い将来のキャッシュフローを予測することは、より不確実性が増すことにつながります。低い将来予見性は高い割引率をもたらせますので、多額の資金調達は困難になります。

そこで、ファイナンス情報(財務情報)だけに頼らずに、非財務情報としての、定性的なR&Dに関連する情報の開示をどうするかという問題に直面することになるのです。

非財務情報の開示といったら統合報告書

最近は、SDGsを基準に投資家が投資判断を行い、企業を選別しているそうで、その際に投資家の判断材料のひとつが、企業が出している「統合報告書」になります。

2019/9/20 |日本経済新聞|電子版 ソニー吉田社長の覚悟、投資と研究開発「長い目」に
SONY再生の先へ

ソニーが研究開発(R&D)でこのようなイベントを開くのは今回が初めてだ。「自らの強みを積極的に社外へ発信することで、よりよい仲間を集められる」とする吉田社長の肝煎りで開催された。その根幹には、吉田社長が重視する「長期視点」が関わっている。
(中略)
研究開発の時間軸も大きく変わった。「3~10年先を意識し、仕込みを進める」。事業部に属さず、幅広い領域に活用できる基盤技術を担う「R&Dセンター」を率いる勝本徹専務はこう話す。

ソニーが2019/9/18に、開発中の技術を紹介するイベント「テクノロジーデイ」を開催し、ソニーの中長期的な技術戦略を広く世の中に提示することで、外部の技術者とのリレーションを深めて、自社の技術的優位性も同時に確保するというオープン・イノベーションの考え方に沿ったイベントでもありました。

また、投資家目線を知るには、次のような記事も一読に値するかもしれません。

2019/2/18 |日本経済新聞|電子版 非財務情報 開示広がる ESG対応など、約400社が統合報告書 基準多様化、企業手探り

環境対策や企業統治の状況など非財務情報を開示する上場企業が増えている。財務情報と組み合わせた統合報告書を発行する上場企業は2018年に400社近くに上り、投資家の注目度も増している。ただ開示の統一ルールはなく、欧米の非営利組織などから多様な指針や基準が出ている。自社の活動を伝えるために手探りの情報発信が続いている。(宇賀神宰司)
(中略)
統合報告書は損益計算書などの財務情報と非財務情報から構成されるリポートのこと。一覧性があり、業績やESG(環境・社会・企業統治)対応などの企業活動全般を投資家が把握しやすくなる。年金基金などがESGを投資尺度として重視するようになり、発行が相次いでいる。

主な非財務情報の開示の指針 基準_20190218

同記事添付の「主な非財務情報の開示の指針・基準」を引用

本記事によりますと、経済産業省が「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」をまとめ、国際統合報告評議会(IIRC)がフレームワークを発表し、組織が経済、環境、社会に与えるインパクトを一般に報告「サステナビリティ報告書」を作成する際に参照するグローバルレベルにおけるベストプラクティスを提示するための規準であるGRIスタンダードも注目を浴びています。

さらに、米サステナビリティ会計基準審議会(SASB)が、11産業77業種ごとに重要性の高い開示項目と開示手法と必要な開示対象を具体的に提示したことで、この日財務報告開示をますます熱を帯びたものにしています。

しかし、ここに若干の問題がありまして、財務情報ですら企業規模や業種、ビジネスモデルの違いにより、一律的で細目まで規定された財務諸表を開示することが困難な状況に、気候変動やダイバーシティの推進、そして今回のテーマであるR&Dへの中長期的な取り組みについて、どういう風に情報開示することが、質量ともに必要にして十分な情報なのか、企業側も手探り状態が続いていることは想像に難くありません。

非財務情報の開示で企業の模索が続く中、開示に対する作業負担も増している。投資家が分かりやすく比較できる基準作りについて、国際的な議論も必要になりそうだ。
(2019/2/18の記事より抜粋)

経営デザインシートがイノベーティブ企業の手助けになる

ようやく、ここで「経営デザインシート」の登場となるわけです。

知財のビジネス価値評価検討タスクフォースは、そこで考えたのです。これまでも、知的財産を含む無形固定資産の可視化についてなんども、いくつものチャレンジをしてきたよねと。

知的財産を含む無形資産の見える化の取組

外部リンク 概況説明資料(事務局)P9

そして、こうも思ったのです。これまでの取組はちょっと小難しくて誰でも容易に使いこなせるものではなかったよね。もっと企業側にも使い勝手がいいツールで、知財権が価値を生み出すメカニズムをクリアに説明できたら、企業経営者も、彼らを支える戦略スタッフも、投資家もハッピーになるのではと。きっと、たばこ部屋でそういう会話があったに違いありません。^^;)

環境の変化と経営をデザインすることの必要性

外部リンク 「経営デザインシート」について(PDF)P2

良いものを作れば売れる需要過多の時代は完全に終わった。飽和社会の中で、顧客のウォンツやニーズに訴求できるモノコトづくりできるようになるには、経営そのものを「リ・デザイン」する必要がある、とも考えたに違いありません。

ここで、「リエンジニアリング」ではなく、「リ・デザイン」としたのは、一世を風靡している「デザイン思考」の言霊の強さに乗ったのでしょう。そして、「リ・デザイン」ではなく、多くの企業が経営にデザインを意識するのは初めてだろうから、「リ」を最初からとって「デザイン」としたのだろうと推測します。

求められる企業 社会像とその実現パス

外部リンク 概況説明資料(事務局)P3

経営デザインシートの特徴とは

当初は、R&D投資のための中長期視点に立った良質の資金集めから始まった検討は、第1回目から、確かな方向性を持ってスタートしたことになります。投資家を説得できる力を有する資料を作るためには、まず社内の関係者が自社の価値創造のためのメカニズムを深く理解し、自社の価値創造に知財権がどのように貢献するのかを知ることが大事であることに気が付くのです。

知財のビジネス価値評価検討TFについて

外部リンク 概況説明資料(事務局)P16

それは、投資家への開示を優先するのではなく、企業内部関係者の戦略策定に資することを第一義とすることにつながっています。外部開示は各社の任意判断とされ優先順位を下げることになりました。もちろん、「経営デザインシート」を用いれば、同じ背景・理論を知っている者同士ならば、一見しただけで詳細まで内容を理解するのを助けてくれることは十分にお分かりになると思います。

もうひとつの特徴は、「経営デザインシート」が、イノベーションを、そのもののネタが何かを問うとともに、というより、そのネタをつかって、どうやってうまくイノベーションを起こすか、というHowの明示化にこだわったところです。

価値創造メカニズムについて

外部リンク 「経営デザインシート」について(PDF)P3

その企業のケイパビリティが何で、どうやってコアコンピタンスを競争上の強みにするかは、長らく、経営戦略における論壇でも大きなテーマになっています。

プロダクト・イノベーションは目に見えやすいのですが、しくみやプロセスとして認知されるプロセス・イノベーションはインタンジブルで、なかなかそれと認知することが難しいものです。「経営デザインシート」はできるだけそれを分かりやすく描こうとテンプレート化されています。

筆者は、最終的には、「経営デザインシート」が完成しなくてもいいとさえ思っています。「経営デザインシート」を使って、自社のケイパビリティと価値創造プロセスが何かについて思考を巡らすだけで、経営には正の影響を及ぼすものだという信念があるからです。

皮肉的にも、当初はR&D投資の資金集めのための非財務情報開示の方法を探るところから、企業関係者が自社の価値創造プロセスを深く理解するためのツールが生まれたことが、このアンビバレントが望外の価値を生むことの証左ではないでしょうか?(聡い官僚は最初からすべて分かっていたという仮説も成り立ちますが)

入山章栄教授が提唱する「両利きの経営」において、『知の探索』と『知の深化』について高い次元でバランスを取る経営というものは、そういう活動から生まれるものではないでしょうか。

そういう意味で、「経営デザインシート」を一度騙されたと思って、自社について1枚作ってみるのはいいと思います。1時間か2時間、じぶんでシートを目の前にいろいろと試行錯誤するだけで、見えてくるものがきっとあるはずですから。

関連記事 経営デザインシート(1) 内閣府が始めた知財権の有効活用から始めるデザイン思考
関連記事 経営デザインシート(2) 内閣府知財権戦略本部が推奨するシートの書き方とその背後にある経営戦略思想とは
外部リンク 経営をデザインする|知的財産戦略本部|内閣府
外部リンク 作成テキスト【入門編】(PDF)
外部リンク 作成テキスト【応用編】(PDF)

みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

経営デザインシート(3)誕生した背景・理由から考える効果的使い方とは 価値創造プロセスの可視化

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