本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

業務プロセスの管理(4)PSI管理の基本を再学習して業務プロセスの効率性に敏感になる

経営管理_アイキャッチ 組織管理(入門)
この記事は約9分で読めます。

PSI管理の本質とは

前回まで、ものづくり現場を業務プロセスの代表例として、生産ラインの生産性と効率性(ついでに収益性)の適切な評価方法をみてきました。ここでは、生産ラインの管理でよく使われる「PSI管理」という手法についてみていきます。

繰り返し念押ししておきますが、生産ラインにおけるプロダクト(ハードウェア)の生産性・効率性を分析する手法は、ホワイトカラーの生産性やソフトウェアやサービス商品にも十分に適合させられるものです。しかも、モノは目に見えるので、最初の分析例として好都合なのです。

PSI管理のPSIは、P:Production(またはProcurement)、Sales、Inventory、の頭文字をとったものです。日本語では、生産(調達)、販売、在庫となります。後工程や顧客から製品を3個欲しいと依頼されたとします。その3個を実際に引き渡すことができれば3個分の販売が実現します。その販売数量3個は、いったん在庫を無視すれば、販売と同時に生産活動によって3個の要求を受けた製品を提供することになります。

PSI管理:需要が多い場合

仮に、月曜日の朝の時点で、今週末までに3個の納品を求められた場合、これから生産に着手して3個すべてを用意できるのなら、シンプルにそれで問題はおしまいです。もし、今週末までにどんなに頑張っても、2個しか生産できない場合、足りない1個分は以前に作り置きしておいた在庫をあてがう必要が生じます。この在庫を注文にあてがうごとを、「在庫を引き当てる」とも表現します。

PSI管理:供給が多い場合

逆に、1週間の生産能力が3個なのに、顧客からの発注が2個しかなかった場合、1個分だけ余分に製品を作る能力(生産能力)が余っていることになります。これは無駄にしている生産能力の分、効率性が悪くなります。さらに、この能力を確保しておくためだけにコストが発生しているとき、そのコストは売上金額から回収されずにそのまま垂れ流し状態になるので、同時に収益性も落ちることになります。

この余剰生産能力を余しておくのがもったいない。とりあえず生産ラインは稼働させておこうと考えて、顧客からの引き合い(実需)がないけれど、作っておくのが「在庫」ともいえます。

PSI管理の視点

「効率性」は投入された経営資源がアウトプット(製商品)に生まれ変わる際の代替率をさしています。一般的に、インプットされた数量(個数やトン、メートルなどの計量基準で測定されたものすべて)、アウトプットされた数量の絶対値やbefore/afterの変動で見ることが多いです。

「収益性」はそれを売上とコストの金額対比に置き換えてみるものです。こちらは金額(差し引きの利益)で見ることが多いです。ここでは、PSI管理ということなので、数量、すなわち「効率性」に着目する管理を行うことを主眼に置いていることになります。

では「効率性」を上げるにはどうしたらよいでしょうか。もっとも簡単な方法は、余剰生産能力を発生させないことです。つまり、無駄な生産設備や余剰人員を抱えないことです。そのためには、常に実需に供給能力を即応させていくことが理想的です。

しかし、現実的には、需要予測をピタリと当てることは至難の業ですし、品質チェックにひっかかる不良品が発生したり、非熟練工を生産ラインでの加工作業に習熟させるために、あえて訓練目的でライン稼働を維持したりすることが当たり前になっています。

ですので、現実解としては、予想される生産能力+アルファ、自動車のハンドルでいう「遊び」がいくらかないと運転がスムーズにできないのと同じように、そこそこの効率性で生産ラインを維持することになります。

そうはいっても、コンサルタントには複雑な現実をできるだけシンプルな言葉でまとめる「要約力」が期待されていることも承知していますので、PSI管理の要諦(筆者がいつも留意しているポイント)を簡単に箇条書きにしておきます。

  1. 需要予測の精度を上げる
  2. 需要変動(製品ミックスの変化)に即応できるラインの段取り替え能力を上げる
  3. 需要変動(納期変更)に即応できるラインのスケジュール調整力を高める
  4. ボトルネック工程の稼働率をできるだけ高める

ロジ系のコンサルがいう、「グループでPSI情報を共有しましょう」「リードタイムを短くしましょう」「多能工を育成して製品種別変更に即応できるようにしましょう」などの施策は、突き詰めれば、

① 需要変動という外乱要因(不確実性)をできるだけ抑制する
② フレキシビリティを高くし、誰も(何も)余剰にさせずに節約する

ということになります。外界からの影響を抑制するか、社内の対応力を高めるか、の2択になります。

PSI管理の具体例

実は、PSI管理は日本初の現場管理メソッドです。リテールの現場における「タンピン管理」と実は同根のものです。さらに、会計とも親和性の高い管理手法です。以下は、会計と結び付けてPSI管理のあらましを確認してみましょう。

PSI管理と勘定連絡図

会計には、勘定連絡図という「丁勘定(T勘定)」のフォームを使って、借方と貸方の金額を順番に勝つ網羅的にすべての費目についてバランスさせる手法があります。例えば、仕掛品勘定・製品勘定の4要素、「期首在庫」「当期仕入高(生産高)」「当期売上高」「期末在庫」を用いて、製品のPSI的な動きを見てみましょう。PSIのPが「当期仕入高(生産高)」、Sが「当期売上高」、Iが「期首在庫」と「期末在庫」に相当します。

外から仕入があって、外へ販売されるフローは、「P1→P1→S2→S2」のひとつだけです。同じく、外部販売があった「I1→S1→S1」のフローは、前の期間に作りだめしておいた在庫を販売に引き当てています。あなたの会社に置き換えた場合、原材料を仕入れてそのまま社内加工プロセスを経て製品を販売するのがシンプルで管理の手間もかからないので理想的に思えるでしょう。

しかし、在庫が一切なくて、仕入即売上だけの場合、ちょっとだけ不都合が生じる可能性があります。仮に、上図にある通り、顧客からの需要が毎期一定の2個分だけ継続することが高い確率で見込める場合、この販売期間を逃すことはあなたの会社の利益を考えると得策ではありません。できるだけ、欠品しないように気を配って生産管理にあたるはずです。

現実には、不良品が出て納品の数に足りなくなったり、熟練工が風邪でお休みしてラインを止めざるを得なくなったり、時には、貿易戦争のあおりをくって、予定していた原材料の輸入がストップしてしまい、作りたくても作れない状況になるかもしれません。

上で挙げた問題に対して、決して恒久的な解決策ではないことが分かっていますが、今月いや今週しのげればあとは何とかなる、という場面があるかもしれません。そういう場合に、窮余の策として一定の在庫が確保されていれば、それが材料在庫でも製品在庫でも、それを引き当ててものづくりや販売をする工程は一息入れることが可能になります。

「在庫を持つ」ということは、そうした生産ラインの不確実性からくる「ペイン(辛いこと)」に対処する保険の意味があります。保険ですので、適正適量の処方がいいに決まっているので、無制限に保険をかけすぎると(在庫を必要以上に持ちすぎると)、保険料の負担(在庫費用の負担)がかえって大きくなり、コスト倒れの施策となってしまうことは要注意です。

在庫は仕事量のアンバランスの調整弁

売れっ子の週刊誌の連載を持っている漫画家さんの日常の忙しさは凡人に体感するのは難しいかもしれません。原稿を落とす、という事故により休載の連絡が乗っていたら、読者としてはがっかりですが、ひいきにしている漫画家さんの身の上に何が起きているかも同時に考えてみましょう。

漫画家さんも人間ですので、お盆と正月ぐらいはお休みしたいと思います。としますと、毎週1本の連載を持っている漫画家さんは、週1本の厳密なスケジュールで原稿を仕上げるだけでは、一日たりとも休日は取れないことになってしまいます。普段は7日かかる工程を6日に短縮し、それを7週間継続することでようやく1本分の余裕を持つことができます。

この1本分の追加で制作された原稿は在庫と同じ意味を持ちます。そして、在庫はモノであると同時に、時間でもあります。漫画家さんの週刊連載の原稿には、1週間という時間的価値があります。原稿が余計に2本手元にあれば、2週間のお休みをとることができます。

この例の漫画家さんは、在庫としての原稿を1本創るのに7週間かかります。そして1本の原稿が漫画家さんに与えられる休息は1週間になります。つまり、この漫画家さんの作業スケジュールをPSI的に生産管理するとしますと、8週間サイクルで生産計画を立てて、必要な材料(ペンや紙など)を調達し、アシスタントの作業時間を配分し、どの連載誌に優先的に原稿を出すかを決めると、無駄な時間をできるだけ抑制しつつ、いい作品が書けるようになるかもしれません。

このように、在庫は時として、「時間価値」を現し、生産計画サイクルの長さまで決める重要な手掛かりになるものなのです。これは、時間の変化とともに、顧客や後工程から需要が変動することに生産ラインがどのように生産量を調整して対応するか、という問題に帰結するともいえます。

ということは、在庫は、顧客からの納品要求に関する変更への対処手段として有効策のひとつであることが分かると思います。顧客からの急な納期変更や発注数量の増減は、現場の生産計画を混乱させます。顧客からの発注変更は、これを要求量の変化としても、要求される納期(タイミング)の変化のどちらで考えたとしても、結局は一定期間中に自工程が納品すべき(生産すべき)数量が変わることを意味します。

よって、時間の揺らぎも数量の問題に置き換えると、自工程における数量調整の問題としてだけ考えればよくなるので、対処がしやすくなる、と考えるのが生産管理の考え方なのです。

あなたが、仮に新聞のデスクだとして、記者Aさん(バリバリで何本も記事が書ける)、記者Bさん(こだわり派でいい記事書くが時間がかかる)が下にいた場合、Bさんの1本記事を仕上げるリードタイムを軸(確認ポイント)にして、Aさんに複数の記事作成を依頼し、Aさん、Bさんの作成記事が揃ったところで版面を確認して校了させるという場合にも、リードタイムを在庫(Bさんの作業結果)の問題に還元して対処していることになります。

そういう意味で、PSI管理は、業務プロセス管理の王道中の王道であるともいえるのです。

関連記事 業務プロセスの管理(1)処理フローの連続として作業を見る
関連記事 業務プロセスの管理(2)生産性をいかにして最大限に引き出すか
関連記事 業務プロセスの管理(3)生産ラインの生産性・効率性・収益性を評価できるようになるためには

みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

業務プロセスの管理(4)

・在庫が需要と供給の調整弁としていつでも機能する
・在庫を減らすには、需要変動という外からの不確実性を抑制する
・あるいは、供給体制の柔軟性を富ませ、誰も・何も余らせないようにする

コメント