■ 「名古屋めし」に新名物!? 高級ハンバーグの人気店
ブロンコビリーは、ステーキとハンバーグが売りのレストランだ。ランチの一番人気は、俵の形をした「がんこハンバーグ」。こんな形にしたのは熱をむらなく通すため。さらに、客の目の前で切り分け、レアに熱を通した中心部を炙り、中に火を通す。昼時はこのハンバーグ目当てのお客さんで店は溢れかえる。肉肉しいハンバーグ。そう思わせる工夫が実は作り方にある。仔牛の骨からとる自家製ブイヨン。これをわざと粗挽きにしたミンチへ。だから肉肉しくジューシーになる。自社工場で朝作ったものを冷凍せずに店舗に運び、そのまま焼く。こうして鮮度の高い肉のゴロゴロ感が残ったハンバーグになるのだ。そして夜の看板メニューが分厚いステーキ。中でも名物がぶどうカスを食べさせたオーストラリア産のぶどう牛を使った「熟成ぶどう牛ステーキ」。赤身だが柔らかいのが特徴。
ランチの平均単価は1200円、ディナーの平均単価は2100円とちょっと高め。決して安くないのにお客を呼び込み、いつも大盛況。いったいなぜなのか?
ブロンコビリー人気の秘密①
・備長炭の炭火焼き
手間も技術も必要な炭火焼きで、外はこんがり中はじっくり焼きあげている。
ブロンコビリー人気の秘密②
・ひと味違うサラダバー
もちろんおかわり自由の食べ放題。野菜は常に20種類。どれも鮮度が良くシャキシャキだ。大学芋やひと手間加えた季節の彩サラダなどもある。さらに、皿を空にしないようにと、サラダバー専用のスタッフを置き、厨房から常に見えるように天井近くには鏡が置いてある。皿を空にしないだけでなく、常においしそうに大盛り状態を維持する徹底ぶり。
ブロンコビリー人気の秘密③
・炊き立て極上米
大きなガス釜で魚沼産コシヒカリを炊いている。価格は通常の業務用米の2倍。
おいしさへの試みはお客の心つかみ、昨年は過去最高の130億円を売り上げた。それ以上に驚異的なのが、経常利益率15.4%と飲食業順位で1位なのだ。しかし、材料にこだわり手間もかけているのにどうしてこのような利益率になるのか? その理由のひとつがここに。訪ねたのがブロンコビリーのセントラルキッチン。
ブロンコビリー高利益率の秘密①
・牛肉を塊で仕入れ
筋を丁寧に切り分ける熟練の技が必要だが、その分仕入れ値は安くなる。切り出した中にはやや硬いがうまみの強い部位も。ここはミンチにしてがんこハンバーグに使う。ぎりぎりまで使い、コストを抑えている。
・ステーキソースも自社で製造
毎日作ってそのまま出荷するので、保存料もいらず、雑味が無い。
ブロンコビリー高利益率の秘密②
・本部にはお金をかけない
シビアにコストを絞る姿勢は本部にも共通。建物には元店舗を再利用し、そこに席を並べている。使用しているのは長机。数台で済ませ、どこに座ってもいいスタイル(フリーアドレス制)。会長ですら、固定席はない。
「利益を出さない所はできるだけ節約しようと。店は思い切ってお金をかけている。」
現在、東海関東中心に93店舗だが、これを5年後に200店にする予定だ。
「いっぱい店を出して挑戦している間は、みんなのモチベーションが上がって夢が描ける。」
■ 絶品ハンバーグの人気店 驚異の外食利益率1位!
「家を買った社員がいて、「何年ローン?」と聞いたら「35年」と。僕は思わず「35年もたんぞ会社」と言った。なんとかして、長いこと続いて、みんなが安心してもらえる会社をつくりたい。そのためには業界ナンバーワンにならないと残れない。利益が無いとダメだし、働く人の心がひとつでないとダメ。2つが揃うとなんとかなる。」
経常利益率(2014年度)
ブロンコビリー 15.4%
外食企業 平均 3.2%(上場91社)「飲食店経営」調べ
村上氏が聞く。「客単価が高いのが高利益率の秘密のひとつか?」
「ありがたいことに、日曜日とか土曜日は、お客が30~40分待ってくれる。たくさんのお店の中から選んで来てもらっている。サラダバーも手間がかかる、炭火も燃費が悪いし、温度が変化する。釜戸ご飯もお金が高いし、釜戸でわざわざやらなきゃならない。その3つ4つを組み合わせるとマネできないでしょう。釜戸はマネできる、炭火焼きもマネできる、サラダバーもマネできる、楽しい店もマネできる。だけど、4つ組み合わせると他はそこまでできない。それがお客に分かって頂けているみたい。」
村上氏が問う。「コシヒカリにはこだわるとか、コストのひとつひとつ、どこを見極めているのか?」
「ステーキひとつ、ハンバーグひとつ出すにしても、他より見えないところですごく努力をして、肉を切る担当者は筋と肉をギリギリまできれいに切る、仕入れは生産元まで行ってできるだけ買う。トマトは年間1億円も使う。」
どれくらい努力するかに尽きる。
ブロンコビリーが人知れずやっていることがある。この日はハンバーグの試作。今の商品でベストなのか、まだ改良する余地はないのか、絶えず追求し、マイナーチェンジを繰り返しているのだ。こうした試作会を月に数回行っている。これも竹市が言う、いろんな努力のひとつにすぎない。
「商品は「彼女に出すラブレター」みたいなもんで、また来たいと思ってもらえるように、絶えず変わるのが当たり前。」
実はここまで徹底してやる裏には、過去に苦い経験があったという。
「食べ終わった時に、「前よりまずくなった」と言われた」その痛恨の過去とは。
■ 絶品ハンバーグの裏舞台 2度の危機をチャンスに
ブロンコビリーは東海地区で絶大な人気を誇り、関東にも広がるやみつきのレストラン。その創業は1978年、名古屋。炭火焼きやサラダバーで人気になり成長した。転機は1998年、外食産業は低価格競争の時代となっていた。竹市も会社を大きくしようとその競争に飛び込む。肉の質を落としてメニューを値引き。サーロインステーキを700円に、ハンバーグは400円に。この値段だから、炭火焼きもサラダバーも廃止。すると、
お客は安いから来てくれるが、「前よりまずくなった」と言う。安売り競争のさなか、2001年 BSE問題が。日本中で牛肉離れが起こり、店は5億円の赤字を出した。さらにピンチは続く。竹市は脳梗塞で緊急入院。無事退院はできたが、その後は3週間も仕事は止められた。しかし、これが復活の思わぬきっかけとなる。竹市は会社に通う代わりに、連日、近所のスターバックスに通った。その店のゆったりしたソファーで、毎日10時間以上、ビジネス書や経営書を読み漁ったのだ。
「稲盛和夫の本とか、安岡正篤、中村天風。普通の時は読めないんですよ、そういう本は難しくて。壁にぶつかると何か探さなきゃと」
今まで経験したことのないピンチの中で、必死に探したヒント、そして、ある答えに行き着く。それは旨の奥深くにあった本当の気持ち。
「とにかく安く売って、「前よりまずくなった」と言われる商売が、やっぱり自分の性格と生き方に合わない。ブロンコビリーの「得意なこと」、「好きなこと」をやろう、そして「高い評価を受けること」をやろうと決めた。廃止していた炭火焼きとサラダバーを復活。新たに、ご飯の釜戸炊きを始めた。手間を惜しまず、質の高い料理を提供し、顧客に価値を感じてもらう。現在も続くスタイルに方向転換したのだ。業績もV字回復を果たした。
2013年、再び、思いもしない事件が起こる。舞台は東京・足立区 ブロンコビリー足立梅島店。ここで働いていたアルバイト従業員がふざけて冷蔵庫に入った写真をSNSに投稿したのだ。
2013/8/13付 |日本経済新聞|朝刊 冷凍庫内で写真のステーキ店閉店 元店員に賠償請求検討
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「ステーキレストランを展開するブロンコビリー(名古屋市)は12日、足立梅島店(東京)で冷凍庫内に入った姿の写真をインターネット上に掲載した元店員2人に対し、民事での損害賠償の請求を検討していると発表した。6日から営業を中止している同店の閉店も決めた。清掃と従業員の再教育を実施したが、信頼回復は難しいと判断した。」
2013/9/13付 |日本経済新聞|朝刊 (フォローアップ)悪ふざけ投稿「もうやめて」商品廃棄・一部店舗は閉鎖 企業、損賠請求の構えも
「飲食店のアルバイト店員らが、店内での悪ふざけをインターネットに投稿する問題が相次いでいる。店側の対応は商品の廃棄にとどまらず、閉店に至るケースも出た。一部の企業は損害賠償請求の構えを見せている。訴えが認められるかどうかは不透明だが、「軽はずみな投稿が拡散し、トラブルとなるリスクを知る必要がある」と教育現場も対策に乗り出した。」
(下表は、新聞記事添付の事件一覧)
当時似たような事件が頻発。反響は大きく、ブロンコビリーの名前は不本意な形で広まった。事件発生から1週間後、竹市は大きな決断を下す。店舗を閉鎖。損害額は5500万円に上った。
「もう一回ゼロからやり直そう。企業理念(フィロソフィー)を徹底的に伝えて、一緒になってみんなでいい店にしよう」
人材こそが店の未来を決める。竹市はこの時にその思いを強くした。人を育てようとずっと続けていることもある。一泊二日の合宿研修会。お酒を飲みながらお互いの理解を深め合う。日頃の悩みや胸に溜めていることを直接竹市にぶつける時間も設けられている。
MCから次々と上記のエピソードについての質問。
「BSEでガタガタになったけど、BSEのせいではない、自分のせい。お客から信頼をとっていなかったから商売を変えて安売りで。BSEの問題ではない。みんなは一生懸命働いてくれたのに、自分の先の手の打ち方がまずくて、潰れそうになったのは全部自分の責任だと思えた。」
「スターバックス好き。13時間半いた記録がある。1日4杯飲んだ、コーヒーを。本を20冊もっていって、その時に気がついた。時代が変わって「価格」の時代から「価値」の時代になった。稲盛さんの本も読んで、花王石鹸やセブンイレブンの本を読んだら、「安いから買う」という時代ではないのに気がついた。生き残るには価値を上げることだと。」
「スケートの真央ちゃんも羽生さんもめちゃくちゃ練習して有名になる。SNSは投稿したらすぐ有名になれる。あれですごく勉強になったのは、35年間、企業理念を伝えてきたけど、浸透していないことが分かった。いかに考え方や企業理念が伝わっていないか、自分では伝えていたつもりだった。もう1回本格的に伝えようと思うきっかけをもらった。5500万円、あれは授業料ですよ。その時はちょっとピンチだったが、良かった、あれが。」
■ “パートさん”に株譲渡 人情オヤジの「感謝」経営
ブロンコビリーは創業37年だが、20年以上働いているパートさんが全店合わせて30人以上いる。
創業以来オープンしているお店を訪ねて、
「(この人たちは)半分は友達みたいだと自分では思っている。この20年とか30年とかいう歴史は、自分も(勤続年数が長いパートの)3人がいてもらえると安心する。」
実は、この3人は、BSEで経営が揺らいだ時も、会社を辞めず、店を守り続けてくれた。こんな人たちがいたから、最大のピンチを逃れることができた。だから、V字回復を見せ、会社を上場させたときには、感謝の意を込めて、自分の持ち株を勤続8年以上のパートに譲渡した。
パート従業員をどれだけ大事な戦力と考えているか? それが分かるのがアメリカ研修。毎年2回、西海岸で人気のステーキハウスやレストランを巡り、本場の味や接客を体験するというもの。この研修にはパートも連れていく。
熱心で誠意を込めた一生懸命なパートさんが多いんですかね?
「同じご飯を1週間食べると気持ちが変わるのかね。」
「アメリカ研修費は、25人で行って、1250万円ぐらい。創業した時に、飲食業は教育業と思い、ずっと並行して教育には2億円くらいかけている。教育は年輪みたいなもので後戻りが無い。」
「利益を出すのと、みんなが成長するためにお金を出すのとは、同じくらい大事なんですよ。」
MC村上龍氏が質問。
「会長の言葉に、「今日の最高が明日の最低」というものがあるが、どういうことですか?」
「一歩でも、何か変わっていないと同じことやっているとダメになる。おいしいものを毎日食べていると味が落ちたと思う。だけど同じ。手を抜いていない。」
最後にニュージーランドの牧場視察の無駄話で。
「肉は、豪州、ニュージーランド、米国の牛を飼っている所まで見に行く。ニュージーランドのオーシャンビーフは海の近くでものすごく環境のいい所。ハエがいない。牛がいても。向こうの牧場の人がパッとむしって草を食べる。僕らもしょうがないから食べて、どうですかって聞かれて、まあまあと答えるけど。牛は1日1キロずつ肥える。それで牛に声をかけた。「あんまり食べ過ぎると早く殺されるぞ」と。」
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番組ホームページはこちら
(http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/20151015.html)
ブロンコビリーのホームページはこちら
(http://www.bronco.co.jp/)
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