■ 農家騒然!絶妙すぎるマシン ニッチで勝つ人情のものづくり
筑水キャニコムは、農業機器の世界ではちょっと変わった存在だ。茨城県で開かれていた農業機器の展示会(第41回 農機・生産資材大展示会)を覗いてみる。そこに並ぶのは大手メーカーの巨大マシン。トラクターが930万円、最新式コンバインは1140万円。実は4798億円(2014年)ある農業機械市場のうち、田植機・コンバイン・トラクターで市場の8割を占める。その中で、筑水キャニコムが手掛けるのは農業機器でもニッチな、運搬用農業機器が中心。しかし、国内シェア4割という圧倒的な強さを誇っている。
人気の秘密は、高齢者に人気の超低速走行モード。1秒に7センチしか進まない。荷台を楽々と持ちあげられるパワーアシスト機能。農家のかゆい所に手が届く、様々な機能に客も納得。そんな筑水キャニコムの本拠地は、福岡・うきは市にある。本社に入ると、会社というより、郵便局のような雰囲気。そこでは意外なものが売られていた。ロト6だ。よく当たると評判。実は、宝くじがあたる秘密があるという。敷地内にある創業者がつくったモニュメント。縁起のいいスポットだとか。かなりユーモアのある創業者だったようだ。
「ユーモアはある方だと思っていたけど、私よりは無かったでしょう」
この男こそ2代目、包行均さん。
実は均さんは、草刈機に「まさお」というダジャレのようなネーミングを自ら行うユニークな経営者。さすがに社内会議もひと味違っていた。セネガル人にドイツ人。実は、キャニコムは世界10ヵ国の出身者を採用するグローバル企業なのだ。このような海外部隊の活躍で、現在アメリカからヨーロッパ、東南アジアまで、42ヵ国に輸出。年商49億円(海外比率 約4割)。そんなキャニコムのキャッチフレーズが本社近くに立つ看板に謳われていた。
「ものづくりは演歌だ」
いったいどういう意味なのか、聞いてみると、
「「演歌」は日本人の心。「ものづくり」ときたら日本。これが合体して「ものづくりは演歌だ」」と熱弁をふるう包行だが、その秘密は本社隣の工場にあるという。演歌と表するキャニコムのものづくりの本拠地。中を覗くと、そこで削り出していたのは歯車。更にその歯車を使って組み立てているのは、変速機。キャニコムではひとつ一つの製品を歯車から最終製品の組み立てまで、ほぼ手作りに近い少量生産で作り上げていく。そしてそこに掲げられるのは、巨大な写真のパネル。一枚一枚は製品を買ってくれた農家の人々。そんなパネルが工場内の至る所に。キャニコムのものづくりは全て、農家一人一人に応えるために行われているのだ。
「ものづくりは演歌だという取り組みの1つ。まずは「1人のお客様のために」ということで、お客を身近に感じるために写真を掲載している」
効率よく作って安く大量に売るのではなく、農家の苦労を思い、義理と人情の心で製品を生み出す。そういうものづくりを演歌にたとえているのだ、
包行社長は、誰よりも農家を回り、その苦労に耳を傾け、一緒になって商品開発を行ってきた。そういた農家との強い結びつきがキャニコムの圧倒的強さを生み出してきた。
「1人のじいちゃん、ばあちゃんがいて、この人は相当苦労している。このじいちゃんのために何とかものを作ってやりたい。そういうバーンとしたものが出るんですよ。情熱がメラメラと出てきて、「何が何でも作るぞ」
『独創的マシンで農家を歓喜 義理と人情のものづくり』
低速で運搬車(みなみの春お)を走らせながら、作物の次々と積み込める。そうした一連の作業を「ながらミッション」と呼んでいる。従来のキャタピラ式運搬機の場合、障害物を乗り越える時に、車体が地面に強くたたきつけられていた。「春お」は、段差をなめるようにローラーが動くようになっているので、「バターン」とはならない工夫が施されている。
MCから質問。
「ものづくりは演歌だというキャッチフレーズは、農家の人への義理と人情を大切に商品を作るという考えを大切にしているからこそのものですか?」
「ずっとお客さんと何十年のお付き合いをしている。1回限りの商売じゃなく、キャニコムの商品を20年、30年、使ってもらっている。今よりも、もっといい、素晴らしい商品をもっと楽になる商品を開発して、働く苦労から、何とか脱出させてやりたい。こう思うところが演歌に通じて「義理と人情」を果たせるかなと。
MCから質問。
「高齢者の方の要望は強く意識されているのか?」
「今、65歳を過ぎている、農家の平均年齢が。やっぱり、じいちゃん、ばあちゃんに合わせて作るのが中心になっている」
村上氏から質問。
「高齢者にも操作しやすい、しかも作業量をへらすことができる、疲労度も少ないというものを作っているということは、結果的に、日本の農業に貢献しているといえるのでは?」
「そうだと思いますよ。日本の農家の皆さんも非常にこだわりがある。品質のいいい、「俺にしかできない作物」を作りたいと。そこに応えた機械を持って行くと「義理と人情」に通じるところがある」
■ 農家思いの農機マシン続々! 「ほやき」を集めて商品開発
ここに1台の運搬機「ピンクレディー」がある。ボタンひとつでエンジンがかかる。以前はスターターをひもで引っ張っていた。更にコンテナの大きさに合わせて、荷台の幅がワンタッチで調整可能にしてある。そして、トラックへの積み替え作業がさらに便利になったリフトアップ機能。トラックの荷台と高さを合わせられるので、箱の積み替えが格段に楽になった。
筑水キャニコムが農家目線で次々と商品改良がおこなえるには秘密がある。商品展示会で農家の方に試してもらっている姿をビデオで撮影する従業員がいる。
その従業員いわく。
「本社に帰って、みんなで見て、1人1人の意見を聞いて、“ボヤキ”、小さな意見を拾っていくのが当社の取り組み。」
彼らが狙う 「ボヤキ」 とは?
「改善は無理だと諦めている商品への要望」
実はキャニコム、客である農家の感想をビデオに撮り、そうしたボヤキを集めることを商品開発の柱にしている。ビデオを使うのは些細なボヤキを聞き逃さないため。ひとしきり話を聞いていると、運転席隣のスペースについてこんな発言が。
「あってもなくてもいいものだけど、平らになっていてストッパーがあれば、工具箱をおけるかなと。まあ、それはあってもなくても。」
荷物置き場にストッパーがあってもいいのに、、、 これがボヤキ。
「本当に小さい「ここがあと少しこうだったら」と、そういうボヤキを少しでも改良していければ」
微妙なニュアンスのボヤキを共有し、客が本当に望んでいることを探り当てる。
「常日頃、ビデオをもって、“お客の真の声”がどこにあるのかを拾い集めていくことが重要」
驚くべき執念で農家と対峙し、他にない商品を生み出す筑水キャニコム。それを可能にしたことこそ、包行の長年による格闘にある。
1949年、福岡県生まれ。23歳の時、跡取りとして、父の経営する筑水農機に入社。しかし、営業で農家を回ってみると、「また、油が漏れ始めとっぞ。お前んとこは故障ばっかりたい」待っていたのはクレームの嵐。新商品を売り込むどころではなかった。
「お前のところの商品はあかんわ。なっていない、と言われたときに、がっかりしているだけではダメだし」
危機的状況を打開するため、包行は客が満足する商品づくりを決意。農家を回り、そのニーズを聞き出すことにした。
「今使っている機械に不満な点はないですか?商品づくりの参考にしますので。」
しかし、その答えは予想外のものだった。
「別にそげんこと言うたって、なんも変わらんやろうが、、、」
「いろんな大企業も聞きに来る。メモもしっかり取って帰ると。でもその通り作って持ってきたメーカーはないと。お前のところもそうじゃないの、と言われた」
しかし、包行はこうした農家の反応に燃えあがる。
「何言ってるんだ、やっちゃうよ、やれるよ、と。
包行は農家に通いつめ、徹底的に話を聞き、その細かい要望に沿った商品開発に没頭する。そして、
「この前使いづらいと言っていたハンドルの高さ、調整できるようにしてみたんですが、使ってみてもらえませんか。」
すると、
「本当に直してきたとね。そりゃありがたか。使うてみよう」
「あのじいちゃんが待っているんだから、あの人とあれだけ話したんだから、あのじいちゃんが驚く顔が見たい、早く作ろうぜ、と。やっぱ、お客さんの要望を私の言葉で言うと、“ボヤキ”にいかに対応していくかと、そこにうちの価値があるんじゃないかと、どんどん思えてきた」
1人1人の農家に向き合い、それに応える商品を作る。いまそうした商品づくりを担うのがこの部署。「世界初商品開発本部」
「常に世界初・業界初の機能や商品を創造して作り出そうと」
例えば、業界初の機能が草刈機 まさおに搭載された画期的機能。洗いにくいといわれていた、歯の内側を簡単に洗う仕組み。水道のホースを車体横のノズルに指し組むだけ。後は歯を回転するだけで、手を触れることなく歯をきれいに洗うことができる。
そして、開発現場では、今日も農家を驚かせ続ける新たなボヤキの解消に挑み続けていた。
MCが尋ねる。「どうしてビデオ撮影をするのか?」
「何を言っているのか、よく分からない。九州弁や東北弁、方言でじいちゃん、ばあちゃんが話すので。本当に話している“生の声”をビデオで撮って来いと」
あってもなくてもいいんだけどね、、、というポロッとこぼれた言葉にヒントがある。
「ありがとうございました、と言って、帰るときに、ボヤいたいりする。本当に、最後になんでこんな大事なことを、と思うようなことを言われたり、こんなことすりゃいいのにな、と聞こえるか聞こえないような小さい声でつぶやいたりとか。それらを拾わなければダメ」
村上さんがいいこと言う。
「“ボヤキ”って苦情やクレームだと思いがちだけど、心の底からの願いなんだから」
「本当のクレームなら、「バーン」と言われるのでわかりやすいが、「できっこない」と思われているんですよ、これが本当の“ボヤキ”。最初の頃は、訪ねていくと、じいちゃんが戦争の話を1時間する。戦争の話から始まって、次に自慢話をする。「俺はこの梨を千疋屋に送ってやった」「あれで1000万円儲かった」とか「ばあさん、そうだったよね」とか言って。戦争が1時間、儲け話が1時間、我々は、それから「もういいですか」という感じで本題に入る。それくらいの時間を作っていかないと。カウンセリングみたいですね」
村上氏が質問。
「農家一人一人の要望やニーズを取り入れていって、それは会社の売り上げとか利益とは矛盾しないんですか?」
「1人のおじいちゃんのために悩みとか“ボヤキ”を聞く。そうすると、同じ悩みを持っている人があとに500人や1000人いる。だいたい同じ悩みが多い。お客さんに買ってもらうのに、必要なのは価格コストじゃない。お客さんがどうしてもこの30度の坂の草を刈りたい、という場合は値段ではない。30度の坂の草を刈れるかがポイント。実現するためにコストをかけるので、どうしてもキャニコムの商品は高くなる。しかし、お客さんからすると、この急な坂で草を刈れると。これで満足してもらえる。」
■ “まさお”の底力
黄金の陣が見下ろすミャンマー第2の都市、マンダレー。ここがキャニコムにとって宝の山だという。手作業で昔ながらの道具で草を刈る住民たち。ミャンマーでは様々な農作業がまだ手作業で行われているのだ。キャニコム社員が“まさお”の実力を実演。現地の人は“まさお”の性能にびっくりしている。危険な海外のジャングルに進出するキャニコムの海外進出戦略。
高価なマシンが売れまくる、驚愕の義理と人情の必殺技とは!?
インド、バンガロールにキャニコム流の海外攻略の現場がある。商社には頼らず、自らで市場を開拓する。営業担当がやってきたのはコーヒー農園。ここではコーヒー豆を担いて運ぶ重労働を無くすため、荒れ地に強い「小型運搬機 ヒラリー」を試験的に使ってもらっていた。使い心地は最高だというが、こんな“ボヤキ”が。
「買うにはちょっと高すぎるよ」
実は今回、そのボヤキを解消するための秘密兵器を準備していた。ヒラリーの荷台を外して取り付けたのは、緑色のすり鉢型のアタッチメント。実はこれ、肥料を撒くための機械。前回訪問時、肥料を撒くのも大変というボヤキを耳にし、今回改良してきたのだ。安上がりで済む1台2役の使い方に評判も上々。
(海外営業担当者の弁)
「本当に皆さん困っているんですよね。何とかしてほしいという声を聞いているので、応えてあげたい」
お客さんに寄り添って、お客さんのために何とかしてあげたい。キャニコムの義理の人情経営に国境はない。
「海外展開をする会社は、まず代理店探しに奔走すると思うが、代理店を探しに行くと「高い」と。「こんなもの持ってきても誰も買わない」と。「売れないよ」と。そこで商談は終わる。だから、キャニコムは現場から先に行く。フィリピンの時なんかは、代理店の候補もなかったので、市役所の周りが草だらけだったので、そこに行って草を刈ったら、市役所の人が出てきて、「なんだ、なんだ」から始まって、「すごいね、これいくら?」と。「お前が代理店やれよ」と、「市がいくら出す?」こんな話になってくる。だから、現場から行った方が早い」
「コスト、コストと言って物を作ると、何を作っていいか分からなくなる。誰のために作っているんだと。「コスト」と言ったら、会社のためのように感じてしまう。お客は「本当にこれだけのコストで作らないと買わないの」と。そんなことない。私は名刺の裏に「経営はコストアップ」と書いている。高いものを目指さないと、お客の要望を全部取りこんだら高くなる、どうしても」
『誰のためのコストダウンなのか?』
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番組ホームページはこちら
(http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/20151022.html)
筑水キャニコムのホームページはこちら
(http://www.canycom.jp/)
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