■ ドイツにおける「クラスター資本主義」の躍動
従来は、米国流の「株主資本主義」と日本を含むアジア流の「クローニー資本主義」の2項対立でよく語られたものですが、今回は、ドイツ、中国、日本における企業経営の方向性について、最近の新聞記事による動静から眺めていきたいと思います。
ドイツで「インダストリー4.0」が公に提唱され始められたのが2011年。それから3年の間に、ドイツの「ものづくり」が目を見張るような革新を続けています。
2014/12/9付 |日本経済新聞|朝刊
(革新力 The Company)製造業ネクスト(1) 考える工場 ドイツから新産業革命
「4.0のデモ工場がある独南部カイザースラウテルンの研究室では現在、シーメンスやボッシュ、フェストなどドイツ10社の機器をつないだ生産ラインが実証を繰り返す。複数メーカーの機器をつなげても円滑に動くことは確認済み。来年以降、40社の機器をつなげ“工場拡張”の予定だ。」
「製造業向けデジタルツール分野のトップ、ヨアヒム・ザイデルマン氏はフェストなどの機器を組み合わせた実証を続けてきた。「4.0はスマート工場という概念にとどまらず、製造業がサービス化する動きだ。物流やエネルギーなど工場外のスマート化も同時に推進する」という。」
(以上、Web連動記事「ドイツ「4.0」最前線 製造革新進める伝道師たち」から引用)
■ 産業革命の歴史のおさらいと、インダストリー4.0の凄み
記事によると、産業革命を次のように整理しています。
◆ 第1次産業革命 … 18世紀の綿織物工業の機械化
◆ 第2次産業革命 … 20世紀初頭の電気による大量生産
◆ 第3次産業革命 … 1980年代のコンピュータによる自動化
◆ 第4次産業革命 … 自動化された工場が業種を超えてネットワーク化 (→ インダストリー4.0)
まず、「インダストリー4.0」は、完全なフレキシブルラインによる究極の多品種少量生産を可能な工場を前提にします。その構想を支えるのが、「モノのインターネット,インターネットオブシングス(IoT:Internet of Things)」と表現されるテクノロジー。
「生産する製品の材料が近づくと、機械がICチップの情報を読み取って必要な工程を指示し、複数の生産設備を最適のラインに組み替える。人は不要。機械同士が「会話」して、どんな製品でも生産する究極のフレキシブルライン」
ここまでなら、2000年初頭に一世を風靡したけど、そんなに実績は残せなかった「RFID」と同じです。「4.0」の凄みは、
「狙うのは工場の枠を超えた連携だ。自動車なら素材や部品メーカーから販売店、電力、輸送会社などまであらゆる産業がネットでデータをやり取りする。極めれば在庫ゼロ、人件費やエネルギー消費も最小化できる。いわばドイツ国内が「1つの仮想工場」。10年以内に独製造業の生産性を5割前後高めるという。」
という風に、ひとつの企業の枠を超えていること。
まさに、ポーター氏が提唱した「産業クラスター」の実践であるところです。
「ドイツは日本同様に中小企業の数が多く、グローバルニッチトップの中小企業が1000社あるとされる。コンサルティング会社、独ローランド・ベルガーのトーマス・リン氏は「ドイツの素材、機械などのニッチトップ中小企業がこのままグローバル競争で埋もれかねない」と指摘。「4.0はドイツの中小企業が世界市場にアクセスしやすくなることが重要なポイントだ」と分析する。」
相対的に生産性が低いとされる中小企業の生産技術や、きらりと光る尖った製品を動員していること、製造業の枠にとらわれず、エネルギー供給業や物流・販売業の企業も取り込んでバリューチェーン全体の最適化を図っていること、この2点が画期的であることは間違いありません。
■ 日本企業への脅威となるか?
2つの点で、この動きに日本企業が追随できずに、競争力を急激に失ってしまう可能性があります。
「10月。独首相のメルケル(60)らと会談した中国首相の李克強(59)は「4.0」関連の技術交流や標準化への協力でも合意した。ドイツ企業や政府は外資にも参加を呼びかけ、スイスのABBや米IBMなどが活動を開始。各国の主導権争いも激しさを増す。」
とあるように、まず一つ目の脅威は、「デファクトスタンダード」「規格」づくりに乗り遅れる可能性があり、「先行者利益」、または「プラットフォーム利益」を享受できなくなる恐れがあることです。まさに、「Winner takes all」。
さらに、
「モノ作りでなお優位にあるとされる日本。自動化技術も先端を行くが、企業単体や系列内の連携が前提で産業全体でネットワーク化する取り組みは視野の外にある。」
とあるように、二つ目は、日本企業の強みであった「ケイレツ」がかえってクラスター形成に逆作用となってしまう恐れがあることです。
2014/11/29付 |日本経済新聞|朝刊
トヨタ再編、部品強く ブレーキなど3事業集約 独勢にらみ競争力
「トヨタ自動車がグループ内の部品メーカーの再編に乗り出した。ブレーキ、ディーゼルエンジン、マニュアルトランスミッション(MT)の国内3事業の重複を解消する。省エネや安全技術などの競争が過熱するなか、「強い部品」が競争力を高める上で不可欠になっている。トヨタは特定のグループ企業に事業を集約して開発と生産の効率を高め、競争に備える。」
上記記事にあるように、天下のトヨタでも、ケイレツ内での最適化は比較的速やかに実現できそうですが、下記の燃料電池車(FCV車)の普及のためには欠かせない、「水素ステーション」の設置などのインフラ整備をどれくらいのスピードで進められるのか、まだまだ未知数なところがあります。
2014/12/5付 |日本経済新聞|朝刊
トヨタ社長、エネ業界に「共闘」呼びかけ 燃料電池車普及で
2014/11/19付 |日本経済新聞|朝刊
水素供給拠点 25年80ヵ所 都が中間報告 燃料電池車向け整備
「水素ステーションはFCVが都内を平均的な速度で走った場合、15分程度で到着できるよう配置。25年には10分程度に短縮できるよう80カ所の設置を目指す。現在は港区や八王子市など都内4カ所で開設が決まっており、整備を順次進める。」
11年かけて、官民の総力を挙げて、都内の限られた範囲のたった80か所ですか?
昨今の、半導体、パソコン等のITデバイス機器、白物家電、オーディオ機器など、日本企業が次々と敗れ去っていく市場を目の当たりにして、負け犬根性が染みついたのか、この記事を読んで、一人、背筋がぞっとした筆者でした。
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