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バフェット氏率いるバークシャー 米国最強の複合企業に 事業会社利益8割超 資金融通に強み

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ そもそも巨大企業の経営管理は事業ポートフォリオ管理

経営管理会計トピック

企業規模が大きくなってくると、自然と複数の事業が企業グループ内に取り込まれていくことになります。同一市場、同一事業の定義自体があいまいなのですが、それは経営意思決定のために必要な情報と判断者の資質の違いがある程度認められる違いと、ここでは仮定しておきましょう。

つまり、「自動車業界」を例にとった場合でも、軽自動車、セダン、PHV、トラック・バス、SUV、自動車向け電装部品、日本顧客向け、北米顧客向け、、、等、販売地域や車種、エンジン技術、完成車か部品か、といった違いが、それぞれの販売戦略、R&D戦略で異なる情報が必要になり、異なる競争状態を監視する必要がある場合は、別事業だといえるということです。

巨大企業がさらに成長する、収益力を高めるためには、社内に抱えている複数の事業への投資選別が重要になります。それは、「ポートフォリオ管理」として通常は認識されています。今回の新聞記事へのコメントを通じて、この経営管理・経営戦略の要諦をざっと振り返ってみたいと思います。

2015/8/18|日本経済新聞|朝刊 バフェット氏率いるバークシャー 米国最強の複合企業に 事業会社利益8割超 資金融通に強み

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイが変身を遂げつつある。投資会社としてスタートしたが、株式などの売買に伴う投資事業の比率は小さく、利益のほとんどは傘下の事業会社が稼ぎ出す。保険から鉄道、エネルギー、製造業など多岐にわたる事業を抱え米国最強の複合企業(コングロマリット)として拡大する経営形態は、米グーグルなど有力企業も参考にしている。」

巨大複合企業を形成するバークシャー_日本経済新聞朝刊_20150818

(上図は新聞記事に添付されていたものを転載)

さらに、バークシャーの利益の源泉が、「純投資」ではなく、「事業利益」であることを強調しているのが次の一節になります。

「実は利益の8割超は長期保有する投資先企業の利益が占める。1996年に買収した自動車保険大手のガイコを核とした保険・再保険事業や、ミッドアメリカン・エナジーを核とするエネルギー事業など、投資先企業の事業利益がバークシャーのほとんどだ。買収した企業は連結子会社となり、利益の拡大が続く。バークシャー副会長のチャーリー・マンガー氏は「原則、子会社は売却しない」と強調する。」

バークシャーの利益構造_日本経済新聞朝刊_20150818

(上図は新聞記事に添付されていたものを転載)

こうした文脈で記事を読むと、

① バークシャーは事業会社の集合体である「複合企業(コングロマリット)」
② バークシャーはコングロマリット経営の成功事例である

という記者の意図が見えてきます。筆者はこの見方に組みしません。

 

■ ポートフォリオ管理には2つある。「投資ポートフォリオ管理」と「事業ポートフォリオ管理」

まず、コングロマリット経営成功のためのポイントとして、よく挙げられるのが、

① 複数事業を管理・統制する優秀なマネジメントチームの意思決定(専門家の利益)
② 事業間のシナジーの発揮(1+1が2以上)
③ 機動的な事業間の資金移動(PPM理論)

の3つです。例えば、IT業界とテクノロジーに精通した経営者が、ハード、ソフト、サービス(最近ではAIまで)といった各領域のビジネスを個々に投資・開発をすすめるより一体運営により、間接コストの節約(バックオフィス費用の多重利用)、共通技術・特許の共有、優秀な人材のグループ内での再配置など、事業運営の隅々にまでエッジを効かせた統制を行っているIBMが、コングロマリット経営の代表例といえます。
(実は、最近のIBMはここのポジションからバークシャーの位置取りへ移りつつあるのですが、、、)

上記の経営スタイルは、「事業ポートフォリオ管理」ということができます。マネジメントチームは、各事業運営の執行・管理の実践、または高い専門知識をもってその監視・統制を行っているからです。

一方で、各事業をあくまで投資対象とだけ見て、投資収益性に関する高いファイナンス知識と、各投資対象事業が置かれている市場における競争優位性への目利き力をもって、株主など、広く資金提供者から預かった資金の最も利回りの高い運用先としての「事業」を選択、入れ替えする経営スタイルは、「投資ポートフォリオ管理」ということができます。

両者の違いを分かりやすく図示してみます。

20140923131359544

⇒「事業ポートフォリオ管理(1) - 経営者が管理したがる理由

 

■ バークシャーは「投資ポートフォリオ管理」で成功している!

記事には、次のような記述があります。

「バフェット氏は、投資会社発の複合企業体の強みの一つに成長分野への機動的な投資など資金使途の効率性を挙げる。その一例が72年に買収したシーズキャンディー社。社名にもなっているブランドのキャンディーが主力だ。同社が稼ぎ出した税引き前利益は累計で19億ドルだが「追加投資は4千万ドルで済んでいる」という。
バフェット氏は「シーズ社の利益をキャンディー事業の拡大に生かそうと試みたが、諦めて他の事業を買う資金の一部にした」。シーズ社が上場企業であれば、余剰利益は投資家に配当などで還元する必要があった。」

ここから、投資ポートフォリオ管理の成功の秘訣が読み取れます。

① 内部留保利益の社外流出(配当金支払)を極小化し、事業への再投資を通じて、最大限の「複利効果」を得る
② PPM理論の強制的な実行により、「金のなる木(Cash cow)」から「花形製品 (Star)」へ機動的に資金移動させ、「負け犬 (Dog)」から早期に資金を引き揚げる

筆者も、事業会社(当然複数事業を持っていました)勤務とコンサルタントとしての経験から、自部門・自事業で儲けたお金を同じ会社・グループ内にいるといえども、他人の部門・事業に回すことには、最大限の抵抗を示すのが世の常です。自部門内で最高な(と見せかけた)投資機会を作り上げては、自部門内での再投資を優先する傾向が観察されます。

つまり、「部分最適」と「全体最適」の争いです。でもこれは仕方がないことです。事業責任者にとっては自分の部門こそが「全体」ですから。

バークシャー社、バフェット氏はこのジレンマから最大限に自由といえるからこそ、今の成功があります。

記事には、

「投資対象が上場企業の場合、一般的に交渉を通じて資本提携などに至るが、バークシャーは投資部門により市場で株式を買うことでその企業の成長を取り込んでいる。」

「傘下事業会社の経営には口を挟まず、「徹底して任せる」ルールも特徴の一つだ。バークシャーの従業員は連結グループでは34万人だが、本社単体では25人にすぎない。買収などを計画する経営企画といった部署も存在しない。」

とあります。元々、4兆円を投じて完全買収するプレシジョンも、株式売買部門で上場株式として数%投資していた投資先のひとつに過ぎませんでした。儲かると思って純投資を始めた結果、「支配権プレミアム」(=その会社を買収・支配するために支払う追加コスト)を支払っても、バークシャーに取り込んだ方が、先述の「複利効果」による将来利益・将来企業価値の方が大きくなるとの判断からでしょう。

そして、バークシャー社のトップマネジメントチームでは、各事業の経営執行の監視・統制は行っても、経営執行そのものへの助言や事業統括者になり代わっての意思決定は行われていません。これでは、純投資の延長線上に、100%子会社があると言わざるを得ません。それゆえ、新聞記事で語られている「バークシャーは投資会社ではない、コングロマリット(事業会社の集合体)だ」というのは、そのまま受け入れることはできないのです。

外形標準的に、100%所有の事業会社が傘下に複数いるからコングロマリットだといえるとしたら、プライベート・エクイティ・ファンドが100%所有の事業会社を複数所有して、経営のプロを外部から招聘して、個別事業の経営には口出ししていない状況と、何ら変わっていないのに、バークシャーだけコングロマリットだと呼ぶのは難しいでしょう。

 

■ グーグルの持ち株会社「アルファベット」新設はバークシャーを参考にしている!?

当記事では、

「持ち株会社「アルファベット」を設けて組織再編に踏み切るグーグルは、拡大し複雑化するビジネスを展開する上でバークシャーをモデルにしたという。ソフトバンクグループも経営形態を参考にしている。」

とあります。筆者はこれにも疑問を提示します。

2015/8/12|日本経済新聞|朝刊 グーグル「第2の創業」 持ち株会社「アルファベット」新設 創業者、新事業に専念

「米グーグルは10日、持ち株会社の新設を柱とする大がかりな組織再編を発表した。持ち株会社のトップに就く創業者の2人が事業子会社となるグーグルの経営を事実上離れ、ここ数年投資を拡大してきた自動運転車や先端医療など新規事業の立ち上げに専念する。1998年に生まれたインターネットの巨人は、検索と広告で築き上げた自らの殻を破る「第2の創業」に挑む。」

持ち株会社制に移行するグーグルの新体制_日本経済新聞朝刊_20150812

(上図は新聞記事に添付されていたものを転載)

この再編のポイントは次の記事内の2つの記述にあります。

「グーグルが「ムーンショット」と呼ぶ長期的な新規事業を巡っては、研究開発など増え続ける費用を懸念する声があった。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のような複合企業に形態が近づく新体制では、グーグルとそれ以外の会社の決算を分けて開示する方針。透明性を高めることで、成長投資への投資家の理解を得る狙いがある。」

「大きく変わるのはスンダル・ピチャイ上級副社長がCEOに昇格するグーグルだ。位置づけは子会社に変わるとはいえ、アルファベットの収益の大半をグーグルが稼ぐ構図は当面変わらない。だが、ペイジ氏は中核事業のかじ取りを思い切ってピチャイ氏に委ね、「セルゲイと自分は新規事業の立ち上げに本気で取り組む」と宣言した。」

ここから読み取れるのは、

① 外部からの資本参加者(株主)に大胆なPPMの実践を許容してもらうために、各事業の収益状況を分かりやすく開示する(→明瞭会計を心がける)

② 優れた創業者たちによるトップマネジメントチームが、新規事業育成の方に専念できる体制とする

ということです。どうしても、純投資の延長線上にあるバークシャーと、テクノロジースタックで企業運営してきたグーグル(アルファベット)が、どうしても同種の経営スタイルには見えてこないのですが、読者の方々の印象は如何でしょうか?

 

■ 説明がつかない時に「コングロマリット・ディスカウント」を持ち出すのはもうやめましょう!

最初のバークシャーの記事には以下の囲み記事が添付されています。

2015/8/18|日本経済新聞|朝刊 事業多岐、評価難しく PBR、市場平均下回る

「ただ株式市場の実質的な評価は必ずしも高くない。投資指標の一つであるPBR(株価純資産倍率)は1.2倍程度。米主要企業の平均が2倍超なのに比べ見劣りする。」

「モーニングスターのアナリスト、グレゴリー・ウォーレン氏は「バークシャー株の評価はそれぞれの事業ごとに評価し合算させる手法をとるが、事業割合の多い保険会社として見る例もある」と説明する。事業が多岐にわたるため投資家が評価しにくい「コングロマリット・ディスカウント」の状態にあるともいえる。資源会社として捉えられがちな日本の大手総合商社などと同じ課題も抱えている。」

バークシャーの株主構成と株主権利には特徴があります。

① バフェット氏の持ち株比率が約3分の1ある
② バークシャー・ハサウェイは、A種株式とB種株式を発行している
(B種株式の発行価格はA種株式の1500分の1に抑えられている一方で、A種株式はB種株式の10000株相当の議決権が与えられている。バフェット氏の所有株はA種株式である)

⇒「風速計 ベンチャー上場 もろ刃の種類株

つまり、バークシャー社の株を一般株主が購入したとしても、会社支配権が剥奪されているのです。この支配権なき普通株式は、いわゆる「優先株式」と位置づけは同じです。「社債」にも会社清算時には劣後する「優先株式」(といっても配当率も実際には優遇されていないのです)としてのプライス算定しないと、適正な株価は計算できません。しかも、簿価ベースでの資本構成比率はB種株は1500分の1ですよ!

バークシャーのB種株を買う人は、バフェットチームの優秀なファンドマネージャーとしての腕を見込んで出資していることでしょうから、普通株式としての適正理論株価からいくら乖離していても問題視されていないのです。ですから、この種類株の違いを加味した株価算定をする必要があるのです。どうですか?耳触りのいい「コングロマリット・ディスカウント」を持ち出してきて説明不能だと騒ぐ前に、この種類株の経済価値算定をやってみてはいかがでしょう???

ちなみに、グーグルの共同創業者は普通株の10倍の議決権を持つ種類株を所有しており、実は、この2人の議決権は50%を超えているので、ここでも創業者の会社支配権は確立されているわけです。

⇒「Googleの株式構造と種類株の威力
(http://shuheikoyama.com/blog/google-dual-class-share-structure/)
⇒「議決権種類株式の存在意義
(http://fis.nri.co.jp/ja-JP/publication/kinyu_itf/backnumber/2014/05/201405_3.html)

今回は、「ポートフォリオ管理」「種類株」についての解説となりました。皆様の経営戦略立案と株式投資の参考にしていただければ幸いです。

 

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