■ 関西経済連合会のコーポレートガバナンスのあり方への提言を評価する!
日本経済新聞夕刊の著名コラムで標題にある関西経済連合会のコーポレートガバナンスに対する提言が取り上げられており、コラムでも興味深い分析がなされていたので、さらに尻馬に乗ってコメントを乗せていきたいと思います。
(コラムの題名が、、、この投稿名に使用しようか迷いましたが、ご覧の通りとさせて頂きました)(^^;)
2016/6/24付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)どっちもどっち
「関西経済連合会から「わが国企業の持続的な企業価値向上とコーポレートガバナンス整備のあり方に関する提言」が公表された。自己資本利益率(ROE)など、外形的な数値指標の過度の重視は、日本企業の理念や実態に合わず、「企業は社会の公器」「三方よし」など、伝統的な経営哲学が大事との主張だ。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
コラムは、元日興マンの馬渕治好氏(ブーケ・ド・フルーレット代表)によるものです。氏の主張に耳を傾ける前に、関西経済連合会のコーポレートガバナンスに対する提言のサマリからお届けします。なかなかいいこと書いてありますよ。
● わが国企業の持続的な企業価値向上とコーポレートガバナンス整備のあり方に関するに対する提言 ~社会貢献と長期的視点の日本型経営の再評価とその活用~(PDF)
1.現状分析
昨今の政府によるコーポレートガバナンス強化の動きは、海外の投資家から、日本企業の不祥事や低収益性(低ROEなど株主利益の低さ)を問題視され、英米流のガバナンス改革(社外取締役選任の拡大、モニタリング型取締役会)を強く求めている。
2.官制ガバナンス強化への反論
① 時々の経営の断面であるROEで企業価値の全てを測ることはできない
・短期的な利益志向から、R&D費、先行投資、人件費削減に走れば、企業の中長期的な成長力を毀損しつつ、ROEを高めることはできる。
・ROEを過度に重視することは、社会貢献を意識した企業倫理、長期的指向での経営の安定と成長力強化を是とする日本企業の理念とは合わない。
② 会社は、法制度的に株主のものであるが、ステークホルダーのために存在する
・日本企業の伝統的な経営哲学の「企業は社会の公器」「三方良し」など、企業は、株主・顧客・従業員・取引先・仕入先・地域社会などのステークホルダーのために存在する。
・企業価値=株主価値ではなく、ステークホルダー全体の価値創造の総和が企業価値である。
③ ガバナンス評価は、欧米流の機関設計を取り入れればそれでOKというわけではない
・企業不祥事は、欧米流の委員会設置型にするだけで無くせるものではない。監査役会設置会社でも取締役の業務執行に対する適切な監査機能を発揮しているケースも多い。
・「形式」だけ整えて、株主利益最大化だけを求めるのではなく、様々なステークホルダーへの目配りと、長期的視点での経営の安定と成長という日本的経営の強みを生かした「実質」を大切にするコーポレートガバナンス改革こそ必要になる。
和製コーポレートガバナンス改革は、残念ながら、欧米の投資ファンドのお金を日本の株式市場に招き入れることも視野に入れたものなので、いきおい欧米の投資ファンドに好まれるものにしないと初期の目的を達成することはできません。ここに筆者の中にある最大の懸念から、下記のような問題提起を2つさせて頂きます。
『大勢的に、欧米の投資ファンドは短期主義であるため、キャッシュリッチ企業の株式を大量購入し、株主還元を求めて果実を得たならさっさと株主から降りる、すなわち将来の成長の原資である内部留保を交渉上手な欧米の投資ファンドに上納しているだけと見受けられるケースがあまりに多い』
『日本的経営が強みにしてきた、ステークホルダーとの共生や、長期的視点による持続可能な成長戦略の採用といった古き良き経営手法が、株主価値最大化の抵抗勢力として排除・否定され、日本的経営の哲学が壊されかねないケースがあまりに多い』
経営哲学も内部留保も無くなった企業は市場から消え去るのみです。
■ 関西経済連合会のコーポレートガバナンスに関する具体的な施策提言を評価する!
上記提言が、「企業と中長期保有株主との対話促進のための制度改善を」と題する3つの具体策の提言を下記に紹介します。
1.企業情報開示の見直し
① 四半期開示は、企業ごとの実態を考慮せずに業績見通しなどの無理な開示を一律に求めるものであり、短期的な利益確保が問われ、中長期的な経営を阻害することから義務付けを廃止すべきである。
② 中長期的に企業を評価してもらうために、非財務情報である経営理念、経営戦略、社会貢献などの多面的な企業活動情報を発信していくべきである。
2.株主提案権のあり方の見直し
個人的動機による提案権の濫用が目立つため、建設的対話の促進の観点に立った株主提案権のあり方の見直しを次期会社法改正の論議に加える。
(筆者注:意味のないふざけた社名への改名や、全く現業に関係のない事業を定款に加えるなど、社会通念上、嫌がらせとしか思えない株主提案がここ数年増えてきました)
3.株主総会日程の見直しはオプションに
株主総会開催日集中の緩和、株主に十分な議案検討期間を確保させるなどを目的に、議決権行使基準日を決算日から後にずらす(4か月後程度の後ずれ)論議がある。4か月後では、役員の選解任や経営戦略の意思決定の遅れに直結する。一律に「推奨」「要請」ではなく、企業のオプションにすべきである。
上記提言の何一つ、問題の無い現実感のある逆提案だと、筆者は考えますが、皆さんの印象はいかがでしょうか?
■ 馬渕氏の直言を端的にご紹介
上記コラムが引用されたのは、著者による3つの過度な官から民へのお節介(民業介入)への批判の一具体例として採用されたからです。
① コーポレートガバナンス強化の流れ ← 上記提言の引用はここ!
② 公的資金のROE重視の運用
③ 日銀の「賃上げ・設備投資ETF(上場投資信託)」の購入
続けて、官のお節介を、馬渕氏は次のように批判しています。
「金融政策でも、量的緩和の効果が発揮されないのは、景気回復の弱さにより融資を伸ばしにくく、結果として銀行が日銀当座預金に資金を滞留させていることが大きい。そこに懲罰的にマイナス金利を課しても、銀行収益が傷むばかりだ。銀行の背中を蹴る政策と言える。」
一方で、氏は、民の側にも非があるのではと直言しています。
① 政府の経済政策や各国のマクロ経済動向といった「外部環境頼み」の姿勢が目立つ。② 何があろうと売れる製品・サービスを開発し自社だけは成長する、という気骨が感じられない。
③ 結果として漫然と手元現金を抱え、日銀の量的緩和の効果を減殺しているのではないか。
元証券マンとしての見識は次のセリフにも表れています。
「金融・証券業界においても、銀行OBからは、銀行の審査能力が低下し、融資の過度の安全運転に陥っていると聞く。日銀が成長企業への融資を支援しているが、民間銀行がもっと早くから取り組んでいるべきものだ。ガバナンスへの監視も、資産運用業が先行して推進していなければおかしい。目先の運用成績だけを運用業者に求めた、年金や個人投資家など最終投資家にも、責任の一端がある。」
これを浅学な筆者が解釈するに、エージェンシー理論(受託者責任の理論)を重ねるならば、自分の大切な資金、自分の大事な時間や人脈、事業機会を十二分に生かすためには、官から押し付けられた、義務化されたルールでガバナンス(企業統治)ルールを、外形標準的に満たすだけで、事なきを得ようとするだけでは、不十分なのです。積極的に、自分の(自社の)ビジネスをもっと効果的・効率的なものに変革するためには、自浄作用が働き、官に言われなくても、自ら率先して、自社の経営管理・内部統制に最適なルールを自ら作り出し、運用に当たっても、実のある、すなわち中長期的な企業価値の最大化に資するルールになるように、自ら改編を絶えず行うハズです。
それを怠れば、如何に創業家が軌道修正を図ろうとしても、安きに流れて、官の言う通り、外形標準的に官製ルールに従って事なきを得て一安心はできる。その代わりに企業業績の長期低落は避けられないものとなってしまうのではないでしょうか。最近、創業家の現経営陣への反対意見の表明ケースが目立ちますが、創業家の自己保身か、企業の持続可能な成長のための具申かは、その中身をみれば、一目瞭然だと思いますが。えっ、具体例を示せと? すみません、筆者もいろいろとビジネス上の利害関係がありまして、露骨な直言はここでは控えさせて頂きます。m(_ _)m
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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