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揺れる企業統治(4)2年目の課題 有識者インタビュー 日本経済新聞まとめ

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ CEO経験者・現役経営者から見たコーポレートガバナンスとは!?

経営管理会計トピック

前回に引き続き、企業統治に関する連載へのコメント投稿になります。今回は、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が公表されてから2年が経ちましたので、「2年目の課題」と題して、6名の有識者の方へのインタビューがありました。本投稿では、同インタビュー記事を要約した上で、筆者のコメントを注記していきたいと思います。

2016/7/13付 |日本経済新聞|朝刊 揺れる企業統治 2年目の課題(上)

「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の導入2年目となる今年は制度面など形だけでなく、企業価値の向上といった質が問われる年となる。日本の企業統治改革に何が必要かを聞く。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

●「トップはCEOだけ」 日立製作所前会長 川村隆氏

(下記は同記事添付の川村氏の写真を転載)

20160713_川村隆_日本経済新聞朝刊

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Q1:日立製作所の相談役を6月22日付で退き、本社の執務室も引き払います。

「欧米では社長退任の翌日には出社しないのが当たり前だ。社長を退いた後に会長、その後は相談役にほぼ自動的に就く日本の企業社会が世界的には変わった企業統治といえる。経営トップは最高経営責任者(CEO)ひとりであるべきだ。“CEO的”な人が何人も社内に残っていたら、社員やステークホルダー(利害関係者)も混乱する」

(筆者コメント)
機関設置として、代表取締役、取締役会議長、執行役トップを明確に定義し、それぞれの法的権限と義務を明確にしておくことがまず大事で、運用の妙として、OBのウィズダムを上手に引き出せる人間関係を構築しておくことは、企業価値増大にとっても有益なのではないでしょうか。一概にマネジメントOBが相談役や顧問という肩書で残っていること自体は何ら批判されるべきものではないと考えます。

Q2:日立の新経営体制では取締役13人のうち、9人が社外です。

「意識的に社外取締役の数を増やしたり、企業経営の経験がある外国人を取締役に招いたりしてきた。外国人取締役が5人まで増えた結果、経営にダイバーシティー(多様性)も生まれ議論も活発になった」

「ただ最近は外国人取締役の数は多すぎるかもしれないと感じている。海外にいる外国人では、工場や販売現場、お客様の声を直接聞く時間をとるのが難しい。今後は日本人の元経営者などの社外取締役を増やすことも検討課題だ」

(筆者コメント)
日立は指名委員会等設置会社であるため、取締役会の仕事はモニタリングであって、経営執行ではありません。それゆえ、執行のための経営判断および執行指示を出すためのバーバルコミュニケーションの壁と、モニタリングを有効化するに足る情報を得るためのランゲージバリアは、質的に異なると考えます。

Q3:取締役会に占める社外の比率で適正な水準は?

「社外取締役の比率が少し高い方がいいのでは。日立は約33万の従業員のうち、日本人は約19万だ。日本人の従業員が中心となって議論すると、社内論理を優先したローカルな結論を出しがちだ。グローバルな視点での経営が求められるなか、社内の論理に流されないようにするには社外取締役が多い方がいい」

(筆者コメント)
日立は、グローバル市場でのプレゼンス向上を目下の目標としています。それゆえ、経営のグローバル化を意識しての発言と受け止めました。これについては、その会社の主要市場や事業展開によって、どういう経歴・スキルを持った監督者としての社外取締役が自社に必要か、外形標準だけ(外面をよくするためだけのダイバーシティー演出)ではなく、実質的な実利でもって、人選を考えた方が良いと思います。

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●「指針、現場を知らない」 東レ社長 日覚昭広氏

(下記は同記事添付の日覚氏の写真を転載)

20160713_日覚昭広_日本経済新聞朝刊

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Q1:日本の企業統治指針に異を唱えています。

「企業統治は経営者の倫理観だけの問題だ。まずは経営者が公私混同しなかったり、不正を許さなかったりという倫理観が問われる。指針は企業価値を上げるために投資家が経営者にリスクをとって経営するよう監視しなさい、とうたっているが、全く間違っている。そもそも経営者は失敗の可能性が高いリスクのある投資はしない。指針は企業経営の経験がなく、経営を知らない頭でっかちな有識者が作ったものだ」

(筆者コメント)
下記に、日覚氏が念頭に置いていると思われるコーポレートガバナンス・コードの一節を抜粋します。

20160801_コーポレートガバナンス・コード_原則4-2

同コードは、むしろ、
①経営陣がリスクテイクする場合は、より入念な説明責任を取締役会に対して果たす
②極端なリスクテイクにより、経営陣が自己の短期的な利益(報酬)を不当に得ることを防ぐために、中長期的な業績報酬制度を導入する
ことを推奨している、というのが該当箇所についての筆者の読み方になります。

Q2:問題点は?

「指針は企業価値を時価総額や自己資本利益率(ROE)で定義している。時価総額やROEは企業価値にとって1割程度の存在。時価総額はある種の人気投票だ。わずか1週間で株価が下がって、時価総額も半分になることもある。それだけで企業価値のすべてが下がったとは誰も思わない。もっと地域社会や環境保全への貢献度合い、従業員の待遇も考慮して企業価値を考えるべきだ」

(筆者コメント)
コーポレートガバナンス・コードには、「ROE」そのものの使用は無いのですが、それをにおわせる表記が確かにあります。その一方で、「サスティナビリティー」についての言及もあり、短期的な株主へのリターンだけを重視しているという訳でもありません。しかし、全文に流れる趣意というのは、英米流の株主に報いる機関設計と役員のミッション設定になっていることは確かです。それは、そもそもこのコード導入の背景には、外国人投資家を日本の株式市場に呼び込むという意図があるからです。

Q3:指針導入後、社外取締役を増やす企業が相次ぎました。

「米国型の企業統治の形をまねをしてるだけで、日米間の社会の本質が違うことを理解していない。米国は金融資本主義で、時価総額や株価を上げることを目的化している。社外取締役の意見を聞かないから経営判断を間違ったというのは、経営者の単なる言い訳だ」

「リスクをとって経営するのは、渡り鳥のように会社を渡り歩く『プロ経営者』と呼ばれるような人たちだ。こうした経営者はROEといった数値を重視して経営判断して、事業の切り売りなどをしてしまう。現場を知らない人が本当に経営をできるのかどうかは疑問だ。本当のプロ経営者とは現場を知り尽くした社長や最高経営責任者(CEO)を呼ぶものであって、渡り鳥経営者のことではない」

(筆者コメント)
米国型の企業統治を真似ているのは、意識的に行われていることで、それはアングロサクソン的思考回路の投資ファンド・機関投資家からの投資を日本の株式市場に呼び込むための緊急措置的なもの。それが嫌なら、従来の日本流の中長期的経営、シェアホルダーではなく、ステイクホルダー重視の経営、を勇気を持って最優先すると、宣言すれば済むことです。「コーポレートガバナンス・コード」は規制ではなく、いわゆるソフト・ローに位置づけられるもので、「順守せよ、さもなければ説明せよ」(Comply or Explain)」という設定方針。自社独自のガバナンス指針を公開し、アングロサクソン流資本主義に毒されていない資金の出し手だけを相手にする。そういう企業があってもいいのではないでしょうか?

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■ 機関投資家から見たコーポレートガバナンスとは!?

2016/7/15付 |日本経済新聞|朝刊 揺れる企業統治 2年目の課題(中)

●「共同体主義捨て改革を」 経営共創基盤CEO 冨山和彦氏

(下記は同記事添付の冨山氏の写真を転載)

20160715_冨山和彦_日本経済新聞朝刊

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Q1:日本の企業統治を「サラリーマン共同体主義」と批判しています。

「日本企業は会社の構成員の総意を得られないことができないケースが多い。絶対にもうからないのに最近までテレビは自社で生産する前提だった。電子機器の受託製造サービス(EMS)にする選択肢があるのに大事な従業員の削減につながるからできない」

「共同体主義は1980年後半までは機能した。バブル崩壊と東西冷戦の終結、デジタル革命でグローバル化が一気に進んだ。ゆっくり事業を縮小して他の事業で雇用を吸収するやり方もある。だが、グローバル競争が時間的猶予を与えてくれなくなり会社が全滅してしまう。常に構造改革ができるガバナンスが必要になる」

(筆者コメント)
個々の事業選択、事業ポートフォリオのデザインについては、その当該企業の組織構成員のケイパビリティやインタンジブルアセットの問題、事業運営方針の優劣に資するもので、ガバナンスだけで全て解決されるべきものという認識ではありません。大胆な方向転換と、その結果の成功事例が耳目を集めているだけで、その裏には地道な努力による事業成功や、目立たない構造改革でいつの間にか高収益体制になっていた、という事例の方が圧倒的に多いことを、ここに記しておきます。

Q3:日本では社長が退任後も事実上権限を持つ例が少なくありません。

「社長から『次は君に決めた』と言われて『一晩考えます』と返事した結果、最終的に指名を承諾するという話がある。このやり方では社長に反発しない人が偉くなる。前任の社長がやったことをやめられない。執行部と取締役会が5~10年ぐらいの時間を使って選ぶべきだ」

(筆者コメント)
先任社長が後任を指名する行為には、ゴーイングコンサーンとして中長期的な企業戦略の継続性の維持という効果もあります。院政を敷くとか、前例踏襲に陥る、という弊害も確かにあります。それが、「指名委員会」による後継者指名というプロセスの導入だけで、弊害除去できるとは限りませんし、従前の事業の継続性の効果を減殺するリスクもはらみます。プロセスだけを問うのではなく、会社構成員の意識の方を問題視すべきです。

Q4:トヨタ自動車は国内の個人投資家に限定した種類株を発行しました。

「機関投資家は文句を言うかもしれないが、ガバナンスの形態は多様性があったほうがいい。正しいガバナンスは結果でしか評価されない。会社が持続的に発展すれば、それはすばらしいガバナンスだ」

(筆者コメント)
種類株式の発行自体は、問題ないと思います。会社が株主を選ぶ、つまり、資金調達戦略の選択の幅を広げることは、当事会社の財務的効率を向上させるものと考えます。

Q5:パナソニックの社外取締役に就きました。

「私を選んだということは構造改革をする方向に脱皮しようとしていることだろう。構造改革を常態化できるようにするのが私の役割だと思っている。10~20年は歯を食いしばってやって、その後の10年間が緩むのでは良くない」

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●「社外取締役、数よりも質」 東京海上HD会長 隅修三氏

(下記は同記事添付の隅氏の写真を転載)

20160715_隅修三_日本経済新聞朝刊

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Q1:日本企業は変わりましたか?

「劇的ではないが、改革意識は急速に高まった。昨年は社外取締役の人数などの形式論が焦点だった。今は中身の議論が始まっている。取締役会をしっかり運営するのが経営者の義務だと感じる企業は明らかに増えた」

Q2:具体的には?

「企業の投資家向け広報(IR)活動のレベルが上がった。かつては自社の財務状況を説明するだけの企業も多かった。今では外の目線を意識し、自社の戦略の分かりやすい説明を競っている。味の素、オムロンなどが先進企業だろう」

(筆者コメント)
オムロンは東証による企業価値向上表彰の2014年(第3回)の大賞を取っています。
日本IR評議会による2015年度(第20回)の受賞企業として、IR優良企業大賞に味の素、IR優良企業賞にオムロンが選出されています。選出の理由はいろいろあるのですが、オムロンは、ROEやROICを重視し、ROICツリーで企業内にKPIを展開していること、味の素は、ASV (=Ajinomoto Group Shared Value)と経営戦略に一貫性を持たせた説明や、初開催のESG説明会が投資家に好評を得たことがポイントになりました。

Q3:社外取締役の活用の現状をどうみますか?

「導入は各社1人、2人と広がってきた。私も取締役会議長を務める身なので分かるが、重要なのは頭数ではなく質だ。当社の社外取締役は社内の論理とは異なる意見や耳の痛い指摘をしてくれる。それに応えるため風通しのいい取締役会づくりに取り組んでいる」

Q4:社外取締役に必要な資質は何でしょうか?

「企業がため込んだ内部留保を成長投資に回すためのアクセル役として社外取締役に期待する風潮が強いようだ。だが社外取締役は本来、ブレーキ役だろう。企業の成長戦略や経営陣の行動が横道にそれていないか、見張る役割こそ肝心だ」

(筆者コメント)
そもそも社外取締役、そして指名委員会等設置会社は、英米流の経営と執行をわけるコーポレートガバナンス形態を良しとする考え方で導入されたもの。そこでは、経営陣の独走に対する一定の抑止力としての権能をあらかじめ期待されています。日本的経営においては、それプラス、社外取締役独自の第三者的判断や、社外人脈からのインプット情報の提供など、どうせ社外取締役を迎えるのなら、単なるブレーキ役以上の期待を込めた人選であってもいいかと思います。

Q5:株主と企業はどうしたら共存できますか?

「我々も多くの企業の株主として、一定の基準で企業を仕分けし経営改善を促しているが、それで十分かと自問自答している。日本の投資家は欧米の投資家より弱腰だ。アナリストももっと勉強し有用な助言をしなければならない」

「企業統治の優れた企業に投資するファンドにも資金を投じている。改革を投資家の立場から後押しする好循環が生み出せているのではないか。このような資金の流れが増えてほしい」

(筆者コメント)
スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードは企業統治を進化させる車の両輪と言われています。「株主との対話」の中で、機関投資家もしかるべき責務を全うせよ、ということです。積極的に、投資先偉業の経営にコミットして、企業価値最大化に寄与することで自己利益も獲得するという、企業とWin-Winに持っていく関係を目指していくということです。

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■ アナリストと学者から見たコーポレートガバナンスとは!?

2016/7/16付 |日本経済新聞|朝刊 揺れる企業統治 2年目の課題(下)

●「業績連動報酬で改革促せ」 ゴールドマン・サックス証券チーフ日本株ストラテジスト キャシー・松井氏

(下記は同記事添付のキャシー・松井氏の写真を転載)

20160716_キャシー・松井_日本経済新聞朝刊

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Q1:長く企業統治改革を唱えてきました。

「改革が進み株主重視の経営になれば、日本人のお金を株式市場に呼び込むことにつながる。国内投資家の参加率が上がれば、株価の動きはより安定する。東京市場の売買の6~7割は海外投資家で、2016年も彼らの動きが日本株の値動きを左右している。相場変動率は新興国並みだ」

(筆者コメント)
そもそも、アベノミクスの一環で進められた「コーポレートガバナンス・コード」適用は、英米の機関投資家の資金を日本の株式市場に呼び込むための政策です。日本の個人投資家、日本の機関投資家だけを対象とするなら、もっと別の規程体系になっているのではないかと考えています。

Q2:投資家と企業の対話が本格化して今年で2年目になります。

「海外投資家は日本企業との対話の質が向上したと感じている。従来は自己資本利益率(ROE)の数値目標を掲げるだけで説得力に欠けた。最近は達成に向けた具体的な行動計画を説明する企業も増えた。ROE改善は遅れているが、改革はまだ始まったばかりで長い目でみる必要がある」

(筆者コメント)
導入当初は、目先のROE改善のため、「財務レバレッジ」一辺倒の会社が目立ちました。デュポンチャート方式によると、

ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

売上純利益率は、予想外の円安によって、2013年度、2014年度は事前予想以上に伸長しました。本当の企業の収益体質強化の成功のカギを握るのは、「総資産回転率」。しかし、ここ2~3年、主要企業のこの財務KPIは劇的に改善してはいません。根本的な所でのビジネス変革はもっと長い目で見るべきでしょうが、、、まあ、ROEも分解すれば、短期的対応のものと長期的対応が必要なものに分別することができます。「ROE経営」も実は頭ごなしにダメ、という訳ではありません。要はKPIの使い方次第、ということです。

Q3:課題は何ですか?

「取締役の意識改革だ。社外だけでなく、取締役はみな株主から委託を受けて会社の方針を決め、経営を監督する。社内取締役は各事業部門の代表といった意識が強く、改善の余地がある。取締役の中心が社内昇格という日本の企業文化があり、変化に時間がかかると思う。外部機関による研修を活用したらどうか」

(筆者コメント)
これも、英米流の経営と執行の分立が最も正しいガバナンス形態である、という仮説に基づいた見解に過ぎません。
取締役の教育については、コーポレートガバナンス・コードでも謳っており、参考投稿は次の通り。

⇒「「監査等委」割れる評価 導入1年、400社超が設置 「改革が中途半端」/「迅速に意思決定」

「日本の統治改革は企業に行動指針への準拠を求めるなど『ムチ』の施策が目立ち、経営者の業績改善意欲を高める『アメ』が欠けている。業績連動型の報酬の導入を促すとともに、それを客観的に決定・監視する報酬委員会の設置を義務化したほうがよい」

(筆者コメント)
なにが日本の経営者にとっての『アメ』になるのかは、各自に聞いてもらいたいものですが、欧米企業に比べて、日本企業の経営者報酬の特徴は次の2つ。
① 固定報酬割合が多い
② 平均的水準が国際的に低い

⇒「欧米出身者の経営者の高額報酬に反発の動き - アローラ氏やゴーン氏の報酬は本当に適正か? そして日本的経営の強みとは?

業績連動型になれば即時『アメ』となるとは限りませんが、中長期の業績比例報酬制度にすれば、経営者の努力を企業価値の中長期増大に結びつけやすくなる効能は間違いなくあります。一方、平均的水準が低い点については、高い損害賠償リスクとのバランスを取っている面もあるので、一概に日本の経営者が冷遇されているとは思いません。

⇒「企業不祥事の責任どこまで 役員賠償保険(D&O保険)、割れる対応 東京海上、企業訴訟でも支払い 損保ジャパン、適用の範囲限定的に

Q4:株式持ち合いの解消も焦点です。

「経営陣の姿勢を変える起爆剤になる。ドイツは1990年代から00年代前半に統治改革で持ち合い解消が進み、M&A(合併・買収)ブームが起きた。経営者は買収されないようにするため株価への意識が高まり、競争力の強化と株主還元の増加につながった」

(筆者コメント)
「持ち合い株式が悪い」という見解は、英米流の浮動株主にとって不利益な面、不透明な点があるから敬遠される、それゆえ、コーポレートガバナンス・コードで厳しく言及(読み方によっては保有禁止にも解釈可能)されているだけのこと。

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●「議論は入り口、道のり長く」 慶応大教授 池尾和人氏

(下記は同記事添付の池尾氏の写真を転載)

20160716_池尾和人_日本経済新聞朝刊

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Q1:指針を策定した有識者会議座長を務めました。社外取締役など改革は進んでいるように見えます。

「企業統治はあくまでプロセスであって、仕組みを作ることが目的ではない。その仕組みがきちんと機能しているかどうかを評価することが今後必要になるだろう」

「例えば東芝。いち早く指名委員会等設置会社に移行したが、残念ながらその仕組みがきちんと機能していなかった。単なる仕組みづくりで終わるのではなく、企業風土も含めた改革に取り組まなければ意味はない。社外取締役を増やすといった議論はマラソンコースに例えれば、約42キロメートルのなかのほんの100メートル程度の距離。まだまだ道のりは長く、継続的な努力が必要になる」

(筆者コメント)
そもそも、社外取締役というステイタスの役員のミッションは、社外の有識者による経営執行に対するモニタリング(監視)とチェック(牽制)があると、社内取締役および執行役が株主利益にそぐわない行動をしないような効果がある、という英米流の企業統治精神の大前提ありきの考え方によるものです。それがうまく機能しないのは、まだ取組みが浅いから、と片付けられるレベルの話ではなく、そもそもの企業統治の考え方の違いによるものです。木に竹を接いでも上手くいく分けがありません。経営と執行を分離することで、チェックアンドバランス機能をマネジメントにもたらすというのが自社の企業風土に、何の意識改革もなく溶け込んでいくのかについて検討すべきです。

日本企業のマネジメント感覚というのは、相談役や顧問などからの人脈的牽制、社内外からの風評(日本文化がいわゆる“恥の文化”という前提から)、中長期的な企業目標(共同体意識から醸し出される暗黙の了解)の共有に基づいているというのが筆者の認識です。それをドラスティックにアングロサクソン流の制度・ルールにするなら、そこでは働く人の意思期まで改変していかないと。。。

Q2:なぜ日本で企業統治改革が必要なのでしょうか?

「日本企業の収益性や資本効率は欧米企業と比べて低く、過去30年間で見ても収益性は下落傾向にあった。いかにして日本企業の稼ぐ力を回復させるのかが重要となっており、海外の投資家からのプレッシャーも強まっている」

(筆者コメント)
収益性の低下は、事業利益率だけを見てそう即断できるものでしょうか? 投資家から見れば、投資資産のレントから事業収益性が評価されるべき。資金調達金利が低ければ、その資金を使った事業のリターンもそれ相応に低くても問題ないのです。株式市場を含む金融市場は、金融商品間、国境間で裁定取引が働き、それ相応のレントになっているはずです。それは、簿価上の利益率からは把握できないものです。

「日本企業の主流である監査役設置会社は世界的に見ると独特の形態だ。独自の企業統治が一概に悪いとは言えない。だが、収益的なパフォーマンスをこれまで上げてこなかったことを考えれば、国際標準を意識した企業統治の見直しも必要になる」

(筆者コメント)
事業収益性の水準を決めるのが企業統治形態である、という命題で統計処理した結果を示してもらいたいものです。ドイツも労使参加を前提とした監査役会中心のコーポレートガバナンス形態を採っていますが、ドイツ経済は好調だという報道がなされています。EU内で独り勝ち。それは、低コストの労働力(移民中心)を上手に利用し、さらにユーロ安の恩恵を被った影響を考えた場合、企業統治だけで収益性が決まるような言い回しは受け付けられません。

Q3:指針対象は上場企業ですが、日本企業の大部分を非上場の中小企業が占めています。

「非上場企業でも公共性や社会性を持っており、外部からの意見に耳を閉ざしてはいけない。外部の意見を聞く機会やチャネルを用意すべきではないだろうか。中小企業版のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の議論も考えるべきだろう」

(筆者コメント)
上場企業が、資本主(株主)による規律がコーポレートガバナンスというのなら、非上場企業の場合、同じ機能を金融機関が果たしているはず。金融機関が融資審査の前提に、中小企業版の企業統治指針が必要だと主張するなら、その金融機関の審査力を疑います。

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(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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