■ 「原価の本質」を「対偶」で論理補強するために「非原価」を語る
論理学において「対偶」とは、反対の反対は賛成というやつです(笑)。
命題「AならばB」の対偶は「BでないならAでない」
これは、数学的には片方が成立すればもう片方も成立するし、片方が間違っていればもう片方も間違っている、というやつです。
では詳細な説明に入る前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。
原価計算基準における「三 原価の本質」を簡単にまとめると次の4つになります。
(1)経済価値消費性
(2)給付関連性
(3)経営目的関連性
(4)正常性
(1)経済価値消費性
空気のように消費しても経済価値のないもの、工場用地のように経済価値があっても消費していないすべての財・サービスは、何らかの代償を支払って、犠牲にして新たな財貨を生み出すものは、原価を構成するに足ります。
⇒「原価計算基準(7)原価の本質① ものづくり経済を前提とした原価の本質的要件は4つ」
(2)給付関連性
「製品」「完成品」は最終給付、「半製品」「仕掛品」「他部門への振替製品」等は中間給付。顧客に提供することを目的として、経営活動内で産出された成果を「給付」というのです。
(3)経営目的関連性
「給付」は顧客に提供するもの。顧客に提供する「製品」「サービス」を生み出すプロセスは経営過程・経営活動。それに関連するものはこれすなわち「原価」なり。よって、資金調達(財務活動)における支払利息は、細かいことを言わなければ原価にはなり得ません。まあ、例外とIFRSとの違いは下記過去投稿をご参照あれ。
⇒「原価計算基準(8)原価の本質② 建設利息の扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する」
(4)正常性
企業は毎年、継続的・安定的に給付活動を行っているとして、激しい原価変動を想定していません。それゆえ、比較可能性の担保という視点で、毎年大体同じくらいという意味での正常原価であることを要請しているのです。こまかい財務会計上の処理は下記過去投稿をご参照ください。
⇒「原価計算基準(9)原価の本質③ 正常原価と異常原価の扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する」
これら、原価とは何ぞやを語った基準三を対偶で論理補強するために「基準五 非原価項目」が存在すると一般的には言われています。
■ 「非原価」は原価計算基準によれば4つあるけれど、、、
まずは原価計算基準の本文を確認してみましょう。延々、個別の事例が出てくるので、ざっと目を通す感じで。(^^)
五 非原価項目
原価計算制度においては、原価の本質的規定にしたがい、さらに各種の目的に規定されて、具体的には次のような諸種の原価概念が生ずる。 非原価項目とは、原価計算制度において、原価に算入しない項目をいい、おおむね次のような項目である。
(一) 経営目的に関連しない価値の減少、たとえば
1 次の資産に関する減価償却費、管理費、租税等の費用
(1) 投資資産たる不動産、有価証券、貸付金等
(2) 未稼働の固定資産
(3) 長期にわたり休止している設備
(4) その他経営目的に関連しない資産
2 寄付金等であって経営目的に関連しない支出
3 支払利息、割引料、社債発行割引料償却、社債発行費償却、株式発行費償却、設立費償却、開業費償却、支払保険料等の財務費用(二) 異常な状態を原因とする価値の減少、たとえば
1 異常な仕損、減損、たな卸減耗等
2 火災、震災、風水害、盗難、争議等の偶発的事故による損失
3 予期し得ない陳腐化等によって固定資産に著しい減価を生じた場合の臨時償却費
4 延滞償金、違約金、罰課金、損害賠償金
5 偶発債務損失
6 訴訟費
7 臨時多額の退職手当
8 固定資産売却損および除却損
9 異常な貸倒損失(三) 税法上とくに認められている損失算入項目、たとえば
1 価格変動準備金繰入額
2 租税特別措置法による償却額のうち通常の償却範囲額をこえる額(四) その他の利益剰余金に課する項目、たとえば
1 法人税、所得税、都道府県民税、市町村民税
2 配当金
3 役員賞与金
4 任意積立金繰入額
5 建設利息償却
「対偶」と言いながら、実は「基準三」と「基準五」の各項目は1対1で対応していないことが一目で分かると思います。
■ 丁寧に「原価の本質」と「非原価」を対応させていくと、、、
まず、原価の本質の4項目を整理します。
「(1)経済価値消費性」と「(2)給付関連性」は、特に、原価計算制度にこだわらない、学問的な原価の性質です。最も広義の原価の性質を指します。ここで、原価計算制度とは、財務会計のフレークワーク内で、期間損益計算と棚卸資産の評価を行うことを意味します。制度会計や管理会計、様々な領域で原価といったら、この2要件は必ず満たしておく必要があります。
「(3)経営目的関連性」と「(4)正常性」は、原価計算制度として充足すべき2要件となります。この2要件を加えて、これら4つが全て揃っていないと、原価計算制度上の原価の要件を満たしたことになりません。それゆえ、非原価項目の4つのうち、前2者は、この2要件に対応するものとなっています。
① 経営目的に関連しない価値減少は原価ではない
② 異常な状態を原因とする価値減少は原価ではない
では残りの「税法上認められている損金算入項目」と「利益剰余金を構成する項目」の扱いはどのように考えればよいのでしょうか?
前者は税法会計上の取り扱いであり、わざわざ原価計算基準にて言及するのは不適切というのが学問として原価計算基準を見た時の一般的見解になります。そして後者は、営業利益を計算するために集計される経済的価値でもないし、財・サービスを顧客に直接的に提供する経営活動に関連して消費された価値でもないので、論外の説明事項なのでした。
まあ、学問としての原価計算としても、会計実務としても、この2つは無視(軽視くらい?) して頂いて結構でしょう。
■ (おまけ)特論:未稼働・休止の固定資産の減価償却費と利子の原価性について
未稼働とか、長期にわたって休止しているとか、経営活動においての使用状態を具体的に指摘されている生産設備等による減価償却費は、非原価扱いされています。しかし、ちょっとだけ留意して頂きたいのは、そもそも、経営活動(財・サービスを顧客に提供する目的)のために購入・建設して取得した固定資産であったはず。それが、経営・生産の実態を見て、稼働してない、長期にわたって休止している、という状態を見て、原価か非原価かを判断するのです。
つまり、根源的に、「それは原価(非原価)だよ」という定義ではなくて、「今現在、経営(生産)に使用しているから原価なんだよ」と言っているのです。これは、学問的には「経営目的関連性」の視点からの判断で原価か非原価かを見極めます。一方、実務的には「正常性」が強く意識されているものでもあるのです。むしろ、こっちの方が重要視されています。
なぜかというと、ものづくり企業を前提とした原価計算基準は、計算された結果としての原価が、前期と今期、A製品とB製品とで、比較可能性を保証する必要があるからです。というのは、原価管理というのは、目標と実際の差異管理、過去実績と今期実績の差異管理が本質であるからです。それゆえ、使っていない生産設備の減価償却費が原価計算に入り込むと、比較可能性が崩れてしまい、差異管理を本質とする原価管理の障害になるからです。
この比較可能性という視点は、広く、財務会計情報を活用する投資家目線でもいえることです。去年のP/Lと今年のP/Lを比べて、対前年比で〇〇だけ改善した(悪化した)という評価・分析をするでしょう?
そして「支払利息」。とある製品を製造するために使用する生産設備を取得するための資金を株式で調達した場合は非原価で、銀行借入で調達した場合は原価算入する、などと決めていては、原価の比較可能性を損なってしまいます。こちらは、状態(どんな資金源で取得したか)を無視して、そもそもの構成要素として、支払利息とか、支払配当とか、どんな名目であれ、非原価としようと取り決めてあるのです。
どちらも、判断基準は異なるけれど、原価管理・原価分析のための比較可能性を保証する、という視点では、原価/非原価を区分方法としては、一本筋が通っています。それが、現状の制度会計ルール(IFRSや業法など)では、多少歪んではおりますが。いやあ、学問と実務の微妙な差異ということでお許しください。(^^;)
⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!」
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について」
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)
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