■ 社外取締役を欲する! 誰か適任者はいないか?
コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の導入から、独立社外役員を複数人立てることが推奨されました。急に人材を必要としても、準備が伴わず、社外役員のなり手が少ないお話は以前にも取り上げました。そんな中で、社外役員の兼務制限も話題になりました。
⇒「社外役員の兼務制限 日立、4社まで 外部の知見、自社に集中」
2016/3/25付 |日本経済新聞|朝刊 (真相深層)社外役員、適材奪い合い 企業統治改革は1年にして成らず 株持ち合いも根強く
「「企業統治改革元年」と盛り上がった2015年度。なじみが薄かった社外取締役が普及し、株式の持ち合い解消宣言も相次いだ。「変わる日本企業」に期待した海外マネーが、株高を演出もした。だが今、実効性が問われる2年目を前に「企業統治改革は1年にして成らず」――、そんな現実も浮かび上がる。
「残念ですがこれ以上は無理です」。都内の女性大学教授は最近、社外取締役のオファーを断った。既に3社の社外取締役を務める。月1回の取締役会出席だけでなく、事前準備や工場視察など、本来の社外取締役の責務を果たそうとすると「兼任には限界がある」。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「元年には一気に1000人超の社外取締役が生まれた。企業統治指針が6月に適用され、東証上場企業は経営を外部の目でチェックする社外取締役を複数人置くことが求められた。つい数年前までトヨタ自動車や新日鉄住金など主要企業でも不在だった社外取締役は、今や約9割の企業が導入する。2人以上を擁する企業も4割超ある。」
下記は、日本取引所(東証)発表の、社外取締役の選任状況を示したグラフです。
(参照元:東証上場会社における社外取締役の選任状況<確報>)
■ 社外取締役を欲する! 誰か適任者はいないか?
引き続き上記新聞記事から。
社外取締役適任者不足から、強い人材の奪い合いが発生中です。
「その結果起きたのが、社外取締役の争奪戦だ。「特に倍率が高いのが『女性』かつ『経営が分かる』人で、2~3年待ちの状態」(役員紹介を手掛けるプロネッドの酒井功社長)という。適材層の薄い日本で、4社以上の社外役員を務める兼任者は約60人を数える。
今後は人材難が一層激化する。米議決権行使助言大手、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、今年2月開催の株主総会から「複数の社外取締役がいない企業の経営トップの選任に反対を推奨する」と助言方針に明記、従来の「1人以上」から反対の条件を引き上げた。さらに17年には「3人以上」を視野に入れる。世界標準は「取締役の過半数」だからだ。1人から2人、そして3人……。日本企業は逃げ水の数あわせに追い立てられる。」
ちょっとここで一言。社外取締役がいて当然、委員会設置会社が当然、というのは、短絡的かもしれません。その会社、その国には、文化や風土に適した会社統治の方法がきっとあるハズ。常に、欧米流を模さなければならない必然性はありません。
「黒い猫でも、白い猫でも、鼠を捕るのが良い猫だ」 by 鄧小平
欧米流と一括りにしましたが、経営と執行が分離しているのが普遍的な英米流とドイツとでは、機関設計の趣旨が異なっています。ドイツのコーポレートガバナンスは、日常の経営執行判断は、取締役会で行われていますが、その取締役の選任権限を含む最高の意思決定機関は監査役会で、その構成メンバは、資本主側と労働者側から同数ずつを出すのが原則となっています。
「社外取締役でも社内取締役でも、会社業績を良くする役員が良い取締役だ」 by TK
経営と執行が完全に分離していることを前提としている英米流のコーポレートガバナンスルール。これを一生懸命に日本に植え付けようとしても、「木に竹を接ぐ」ようなことにならなければいいのですが。。。 そもそも、流行の「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワードシップ・コード」導入の背景には、海外(特に英米)からの投資家を日本の株式市場に呼び込むためのアベノミクス第1段で実施された施策という面があります。株価浮揚のために、海外投資家が好むルールを一生懸命に導入しようとする。だからこそ、その弊害も大きくなるわけですね。
⇒「企業統治指針「全項目を順守」1割強 適用から半年 報告書「表現横並び」課題」
■ 「岩盤」20兆円超 日本の株式市場の現状を見てみる
「日本独特の悪弊と批判されて久しい株式の相互持ち合い。保有株をテコに関係強化を狙う日本的慣行は、議決権を封印した「物言わぬ株主」を大量につくり出した。「時代の役割をとうに終えた」(京都大学の川北英隆教授)はずの持ち合い株について、企業統治指針は保有の方針や理由の説明を求め、解消を促す。
まず動いたのが、計10兆円に上る持ち合い株を持つ3メガバンクグループだ。昨年11月にそろって今後3~5年で持ち合い株の約3割を売却する数値目標を掲げた。
だが、実はその倍、20兆円以上に及ぶ「岩盤」が残る。事業会社同士の株式持ち合いだ。」
(下記は、同記事添付の日本市場の持ち合いの様子を模したイメージ図を転載)
海外投資家を呼び込むために、彼らが嫌う株式持ち合いを解消させる動き。この変化を迫る流れは、同じく独自の会社統治機関を有するドイツに対するプレッシャーとしても、現地で有名になっています。ドイツでも年々銀行の持ち株比率が下がっていっています。
(参考)
⇒「日本の個人投資家、議決権行使は米英超す3割 金融庁調べ」
それでは、記事で紹介された個別企業の事情を見てみると、、、
「マンション施工の長谷工コーポレーションは前期に住友不動産株を買い増した。「受注増につながった」。今中裕平取締役は明言する。ある準大手ゼネコンは東海旅客鉄道(JR東海)株を新たに購入した。目的はリニア中央新幹線の入札だ。落札できるかはともかく、「株なしでは入札への『入場券』がないも同然」(幹部)という。」
「ゼネコンだけではない。「頼まれて買い増した銘柄もある。うちから売却は切り出せない」と目を伏せるのは、京都のある電子部品メーカーの幹部だ。
京セラ、ロームに日本電産、オムロン……。京都拠点のエレクトロニクス関連の企業群は網の目のような持ち合いで知られる。00年代半ばに「物言う株主」や外資による買収から身を守るために始め、時代が変わった今も目立った変化はない。」
■ 最後は金主の言うことを聞かなければならないのか? 失望売りは回避できるのか?
専門家の調査結果と意見表明は次の通り。
「野村証券の西山賢吾氏によると「今や事業会社は銀行を抜いて最大の持ち合い主体」。足元の持ち合い比率は6%強とおよそ15年で1ポイント強しか減っていない。同期間に銀行の持ち合い比率が8ポイントも減ったのと対照的だ。」
「「日本株のリスクは企業統治改革に期待しすぎることだ」。シンガポールの運用会社、イーストスプリング・インベストメンツのディーン・キャッシュマン氏は言う。自身は20年の日本株運用歴があり、日本の企業風土を熟知する。だが、アベノミクス以降に参入した新参の海外マネーは「劇的な変化」を期待しがち。「失望に変わったときの反動は大きい」と警鐘を鳴らす。2年目の企業統治改革に立ち止まっている時間はない。」
当然、会社法の建付けとしては、株主が株式会社の所有者に違いは無いのですが、
「キャピタルゲインとインカムゲインだけを欲する一過的な株主のために会社があるんじゃない。長期的にご愛顧してくれる顧客のために会社があるんだ!」(青島俊作風)
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