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配当性向30% 横並び意識の強い日本企業への処方箋 ①単年度決算主義の呪縛からの解放と真の株主との対話を促進とは?

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 配当性向まで横並び意識の強い日本企業の特異性を考える

経営管理会計トピック

何かと何かを比べるというのは、相対的に有意差のある特徴を議論したいからです。ここでは、顕著に日本企業のローカル度を如実に表す「配当性向」について議論を進めたいと思います。株式市場はもはやグローバル化しており、日本市場だけで通用するローカルルールを順守しているだけでは、有利な資本調達は覚束きません。

筆者は、形式論的なグローバル経済論に簡単になびくつもりはありません。日本的経営の強みを信じるものだからです。しかし、資本調達市場は、もはやグローバルプレイヤーの独壇場。日本特有の論理では有利な資本調達は無理な状況なのです。

It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is most adaptable to change.

生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである。
(チャールズ・ダーウィン)

 

2017/12/8付 |日本経済新聞|朝刊 配当、最高の12.8兆円 配分比率3割横並び余る資金活用課題

「好業績を裏づけに上場企業の配当が増えている。2017年度の配当総額は前年度比7%増の12兆8000億円と最高を更新する見通しだ。だが純利益に対する配当の比率を示す配当性向(総合2面きょうのことば)は3割強と過去5年はほぼ横ばいで推移し、欧米企業に見劣りする。個々の企業の配当性向も3割前後に集中し、それぞれの個性が見えづらい。投資か分配か。日本企業はどっちつかずの横並びの配当を脱し、余る資金の最適な使い道を探る局面に来ている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

この新聞記事リード文の趣意はやや分かりにくいものです。事実、配当性向の平均値は欧米企業と比べると見劣りがするのですが、モード(最頻値)が30%に偏り、尖度も高く、なぜに30%に集中しているのか、個別企業の財務調達戦略が見えてこないという批判なのです。

(下記は同記事添付の「日本企業は配当性向が30%前後に集中する「富士山型」」を引用)

20171204_日本企業は配当性向が30%前後に集中する「富士山型」_日本経済新聞朝刊

この現状に対する解説は記事から次の通り。

概ね、企業業績の好調が日本企業の配当性向を徐々に拡大させているというものです。

「株主配分の拡充を求める投資家の声が強まり、配当拡大を後押ししている」
(ゴールドマン・サックス証券の鈴木広美ストラテジスト)

「上場企業の純利益は17年度に2年連続で最高を更新する見通しだが、配当増加は利益拡大の裏返しだ。配当性向の水準はほぼ変えていないため、株主への配分姿勢では欧米企業に劣っている。」

ただし、まだまだ欧米企業と比較すると、

「だが株主は手放しで喜べない。東証1部上場の主要500社の配当性向は平均31%にとどまり、欧州の主要600社(62%)や米国の主要500社(39%)よりも低い。」

では本記事は、もっと日本企業は欧米並みに配当性向を上げるよう励むべしと主張しているのでしょうか?

 

■ 配当性向の高低は、企業の成長戦略の裏返しである

同日の日本経済新聞「きょうのことば」で配当性向が取り上げられています。

2017/12/8付 |日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)配当性向 株主への利益配分示す

「企業が最終的なもうけから、どのくらいの額を配当に回したかを示す。配当支払額を純利益で割って求める。配当性向が高いほど株主への利益配分が厚いといえ、投資家が重視する指標の一つだ。」

(下記は同記事添付の「日本企業の配当性向は30%前後で推移」を引用)

20171204_日本企業の配当性向は30%前後で推移_日本経済新聞朝刊

配当性向(%)= 現金配当支払額 ÷ 当期純利益 × 100

ただし、この配当性向の水準に対して本記事は次のように解説を付しています。

「日本の上場企業の配当性向は過去5年間は30%前後で横ばい。利益じたいが伸びているため、配当性向が変わらなくても配当額は増えている。」
「日本の上場企業は配当方針として「配当性向30%」と掲げている場合が多い。(中略)多くの日本企業が目安として掲げる30%だが、その根拠は明確ではない。」

つまり、単年度決算の結果数値である当期純利益に対する比率のみに着目し、企業が事業再投資に必要な内部留保「額」には無頓着。その比率が、投資家による何かの事業投資に対するハードルレートや、企業内での再投資のためのハードルレートを直接的・積極的に示すものでもなく、単に、他社が出している配当性向を下回ると、それだけ株式による資金調達(ここでは株価動静に直ちに現れる)に悪影響がでそうだから、なんとなく合わせておこう。そういう空気感を感じさせるのです。

当期純利益は単年度ごとの企業活動における税引後の企業内部に留保可能な利益です。B/S視点から言えば、期首の企業財産が1年間の企業活動を通して期末時点でどれくらい増やすことができたかを示すものです。それを次年度の事業再投資にどれくらい振り向けるか、株主からの出資に報いるべく、どれくらい現金配当として企業外部に流出させるか。経営者目線から言えば、事業再投資のために企業内で資金循環させるか、株式市場を通した資金調達の一環として、ファイナンス視点で広く株式市場の中で資金循環させるか、経営の目利き力を出して、判断するべきお題目なのです。

 

■ 配当性向を積極的に経営のコントロールレバーにしている欧米企業の理屈とは

冒頭の記事で、欧米の配当政策について好意的に論じてありますので、そちらを筆者視点で整理し解説を試みます。

無配を経営者失格と自戒する日本企業の経営者の覚悟たるや頭が下がる思いです。しかし、戦略的に将来投資のための内部留保を厚くするのも経営者判断です。

「欧米企業は必ずしもそうではない。16年度は主要500社の米企業で無配社数は80社を超え、欧州は主要600社中およそ40社が無配だ。投資との兼ね合いで配当を柔軟に決めているからだ。」

欧米企業は、単年度の決算(P/Lの当期純利益とそこから計算される配当性向)にとらわれることなく、複数年スパンでの企業成長戦略を見据えて、配当性向を調整するのが常識です。

「例えば米製薬大手アラガンは1千億円を超える大型買収を繰り返して成長。本業で稼いだ利益をできる限りM&A(合併・買収)に回すため、1993年の上場から昨年まで無配を続けてきた。2017年に入り「大型買収からひとまず距離を置く」と方針を変え、ようやく配当を始めた。」

資金需要が旺盛な企業成長期は、むしろキャッシュの社外流出を避けるために、無配を続けることは当たり前の財務戦略です。かの米マイクロソフト、アップルなどもかつてはずっと無配を続けていました。

「米欧はばらつきがある。例えばグーグルの持ち株会社アルファベットやアマゾン・ドット・コムが無配なのに対し、石油メジャーのエクソンモービルや電力大手アメリカン・エレクトリック・パワーなどは純利益を5割超上回る配当を払った。」

業績管理会計(入門編)_利益計上はキャッシュの社外流出をもたらす

⇒「アマゾン77%減益 4~6月純利益 先行投資重視を強調 それがどうした。究極の経営は利益を上げないこと!
⇒「ジェフ・ベゾス(1)長期的に見れば、顧客の利益と株主の利益は必ず一致するはずなのですから

アマゾンは、配当性向を云々依然の問題として、期間利益を上げることすら企業財務目標としていません。利益計上して法人税として社外流出させるくらいなら、AWSの開発および設備投資にそのお金を回した方がいい。徹底しています。

 

■ 企業成長と株主リターン(配当性向)のバランスをどうやってとるのか?

冒頭の記事より。

「配当性向3割の企業では、純利益の7割が内部留保に積み上がる。多くの欧米企業は配当を見送ったうえで成長を生む設備投資やM&Aに資金を活用したり、そうでなければ利益の全額を配当で株主に配分したりしてメリハリを利かせている。日本企業が横並びで採用する配分比率は、そのどちらでもない中途半端な配当政策といえる。」

適正な内部留保率がどれくらいかというコーポレートファイナンス論の手練手管は別稿に譲るとして、具体的に株主(将来の株主という意味での投資家)相手にどういう調整をするべきかについて、簡単にまとめたいと思います。

⇒「ADワークス、個人株主を調査 「配当を重視」87% - 配当崇拝の誤りを正す! 配当は企業価値を毀損し、株主の利得を減らすだけ
⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(3)(ゼロから解説)「複利」を投資の味方に 投信、毎月分配型は利点生かせず

株主には、目のための現金配当がいいか、将来時点の複利で運用されたより大きな金額(期待値)を選好するか、その投資スタンスをじっくり聞いてあげる。それが企業財務担当者が株主(投資家)に対して行うべき最低限の行いです。

将来の期待値は、すでに現時点での時価総額やPER(株価収益率:Price Earnings Ratio)に反映されているとみるべきでしょう。そのうえで、IR(インベスター・リレーションズ:Investor Relations)、最近はSR(シェアホルダーリレーションズ:Shareholder Relations)という用語も目にすることが多くなりましたが、として、事業の成長戦略と、それを裏付ける資金需要状況をきちんとワンセットで説明することが肝要です。

筆者の感覚では、目の前の現金配当性向や内部留保の掃き出し(自社株買いなど)を強面で強要してくる株主は株主名簿から整然とご退場頂く。そんな要求を突っぱねて、中長期的な事業成長戦略を「買い」としてみてくれている株主だけを真剣に相手にしていれば自然とそういう株主は駆逐されていきます。ご心配なく。

『悪貨は良貨を駆逐する』という事態は、きちんと説明責任を果たしていれば起こりにくいはずです。

そのために、アベノミクス政策のひとつとして、外資を取り込むために、「コーポレートガバナン・コード」の導入・浸透が大いに喧伝されたではありませんか。

その中で、中長期的な株主との対話の方法として、同コードには、「第5章 株主との対話」で次のように語られているではありませんか。

20171210_コーポレートガバナンス・コード_第5章 株主との対話

「会社の持続的成長」
「中長期的な企業価値の向上」
とは、決して目の前の現金配当性向を精一杯上げることではないのですよ。(^^;)

⇒「配当性向30% 横並び意識の強い日本企業への処方箋 ②株主との対話は株式益回りとPERからDOE、そしてTSRへ

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

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