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ドコモ、無償プライムで挑む1ギガの壁 注目銘柄2020(3)ユーザー1人当たりの月間収入(ARPU)底上げで株価も今が底なのか?

経営管理会計トピック_アイキャッチ 会計で経営を読む
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業績数値をどのように解釈するべきか

菅官房長官からの厳しい値引き要請(一説には昔懐かしい行政指導?)がありましたが、大手キャリア3社による、2019年10月1日からの改正電気通信事業法の施行に合わせた新料金プランはそれほどサプライズはありませんでした。

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基地整備の遅れから、楽天のキャリア参入が後ろ倒しになり、本格的な競争激化は2020年4月以降に先延ばしになりました。市場競争があるほうが価格競争が活発化するので、消費者が携帯費で値頃感を得るにはもう少し時間が必要かもしれません。

それは、裏を返すと、寡占市場では、供給者側に生産者余剰が過多に配分されることになりますので、平均的に業界全体の利益率が高まるともに、寡占企業間の利益率も相対した差が生まれることもなくなります。

そうした状況が、この記事で用いられているグラフ等で、どのように表現され、読者にどのように受け止められるのか、数字を使った企業とマスコミと消費者(個人投資家)の間のコミュニケーションについてが本稿のテーマとなります。

筆者は現職が現職なので、個別銘柄株の適時レビューは立場上できませんが、ファンダメンタルズを示す様々な指標をグラフで可視化したものの解釈方法についてはコメントできます。それぞれのグラフの解釈方法について、世の中の理解度が深まるような解説を施したいと思います。

経営者に聞く2020年の有望銘柄に携帯キャリアからはドコモだけ

日本経済新聞が毎年新春に発表するリストのひとつに、主要企業の経営者アンケートで今年の経済・ビジネス情勢についてのフォーサイトをきくというものがあります。毎年必ず目を通して、その見通しが的を得ていたかを確認するようにしています。

結果からいうと、正答率は半分以下ですが、トップランナーたちが年頭に何を考えているかのヒントにはなると思います。その中に、今年の有望銘柄を尋ねるというものがあります。

この記事を書いている時点で、ソニー、伊藤忠、ドコモ、ダイキン、トヨタが「記者の目」で取り上げられています。

携帯キャリアビジネスが業界として有望なら、KDDIやソフトバンクも規模・収益性からいっても、このランキングに入っていてもおかしくないですが、ドコモだけがランキングしているのは、同質的競争要因ではない何かのプラスワンがドコモにある、と有名経営者が考えているのかなと邪推してみたりしています。

ドコモの顧客囲い込みとアップセルの戦略

携帯電話キャリア最大手のNTTドコモは2020年3月期の営業利益が5年ぶりの減益になる見通しだ。昨年6月の値下げが数年かけて最大で年間4千億円の減益要因として効いてくる。しかし、吉沢和弘社長は「今期が利益の底となる」と明言する。反転攻勢に向けた自信はどこからくるのか。

2020/1/8|日本経済新聞|電子版|ドコモ、無償プライムで挑む1ギガの壁 注目銘柄2020(3) 証券部 井川遼

吉沢社長への取材がソースと思われるドコモの戦略をまとめると次のようになります。

  • アップセル:同じカテゴリーの商品の中でより高価なものを買ってもらい、既存顧客からの収益を底上げする戦略
  • 携帯電話ビジネスにおけるアップセル:ユーザー1人当たりの月間収入(ARPU)を積み上げること

度重なる総務省や総理官邸からの値下げ要求に対抗するためには、企業収益確保・向上のために、まず目玉サービスで顧客を囲い込み、ヘビーユーザになってもらって従量課金を上げることに目が行くのは当たり前なのかもしれません。

ここから見て分かる通り、19/1~3に一気にARPUが100円近く下落し、それ以降はユーザ数も減少しています。

戦略は弱点を補強または消滅させるか、長所をさらに伸ばすかです。ドコモは全社に勝機を見たようです。それを示すのが、下記のライトユーザが過半を占める現状です。まだ深堀する余地があると判断したようです。

本記事では、アップセル(ARPU)の対策として、アマゾンプライム無償提供や5G向け新サービスの模索、非通信の収益拡大策として、「dカード」を中核とする金融・決済サービスの伸びに期待していると言及されていました。

これらの戦略はそれ自体は効果的かと思いますが、他社と比べてサービスの差別化が思いっきりなされているかと言ったら疑問符が付きます。

スーパーアプリ構想は、Zホールディングス・LINEの統合という地殻変動を起こし、KDDIも出資先のauカブコム証券で、販売手数料無料化を呼び水にユーザ獲得を急いでいます。5Gの商用サービスにしても、各携帯キャリアはどこと組むかという違いだけで、サービス内容それ自体に独自性はあまり見られません。

2019/12/30|日本経済新聞|電子版|動画配信、「嵐」呼ぶ黒船来襲 NetflixやDAZN 添付を引用

各キャリアはどこと組むかで差別化を図るしかなく、何を提供するかの独自性には乏しいかもしれない

よって、ビジネスサイドおよび短期業績的にみて、ドコモがKDDIおよびソフトバンクと決定的に差別化が図られているとは思い難く、最初に戻って、どうしてドコモだけが有望銘柄に入るのか、ちょっとキツネにつままれた感じがしています。

PERが大きければ、買われすぎ(割高)とは限らない

本記事が、ビジネス欄ではなく、投資欄(証券欄)に属するものであるため、当然のごとく株価の話に最後は行き着くのですが、ちょっとここでも違和感がありました。

株価は値下げ発表前の18年9月の高値3095円に迫る。予想PER(株価収益率)は17倍台とKDDI(12倍台)、ソフトバンク(14倍台)を上回り、「割安感で買える水準ではない」(国内運用会社のファンドマネジャー)との指摘が聞かれる。

2020/1/8|日本経済新聞|電子版|ドコモ、無償プライムで挑む1ギガの壁 注目銘柄2020(3) 証券部 井川遼

上記グラフは、横軸に売上高営業利益率(ROS)をとって、縦軸にPERをとっています。足元の財務指標としての収益性を示すものとしてROAでもROEでもなく、ROSを採用できる場合は、ビジネスモデルと収益性が同質的で、オペレーションやターゲット顧客の微妙な差異をあぶりだすときに用いられるのが通常です。

また、PERは、営業利益ではなく、当期利益の何倍まで株が買われているかを示す指標で、その逆数は、会計的利益を基準にした利回り・割引率、正式名称:株式益回りを意味します。

  • ドコモのPERが17倍なら、5.88%
  • KDDIのPERが12倍なら、8.33%
  • ソフトバンクのPERが14倍なら、7.14%

この数字が意味するところは、ドコモの現在の株式時価は、将来の成長を織り込んで、利回り5.88%の金融商品になっているが、KDDIは成長期待が織り込まれていないので、まだ8.33%の利回りのまま市場に晒されている、ということです。

金融のプロ達が、この差異を見て、飛びつかないということは、これではアービトラージでさやが抜けない、何かがあると考えてみる必要があるのかもしれません。

Yahoo ファイナンスより 筆者作成

このグラフの解釈はいたって基本に忠実です。下記の恒等式を前提にグラフ化しています。

ROE = 当期利益 ÷ 自己資本
=(当期利益 ÷ 時価総額)×(時価総額 ÷ 自己資本)
= PER × PBR

PERとROA相関グラフに、青の直線が引いてあるのは、この線上が、

  1. 財務レバレッジは無し
  2. 株価純資産倍率(PBR)=1

を意味しています。3社ともこの線より上方にプロットれているので、財務レバレッジをかけているか、PBRがゼロ以上の評価を受けているかのいずれか、もしくは両方であることが分かります。

PERとROE相関グラフに、青の直線が引いてあるのは、この線上が、ROE=株式益回り、であることを意味しています。別の言い方をすると、PBR=1のポイントでもあります。

ROE=PER×PBR ということは、PERは、ROEと正比例で、PBRと反比例関係にあるといえます。

つまり、この青線より上方に位置しているNTTドコモは、足元のROEで測定される利益水準から時価総額が過小評価されていることを意味しています。もし、それだけがすべての業績予測の要因であるなら、即買いです。

逆に、ソフトバンクは、この青線から大きく下方乖離(見方によれば右方乖離)しているので、現時点で既にめいいっぱい、株式市場で評価されているといえるかもしれません。

2020/1/10時点 NTTドコモ KDDI ソフトバンク
PER17.7212.4014.72
PBR1.861.776.42

上記は、Yahoo ファイナンス(2020/1/10時点)のものを転記しました。

※ 細かいことかもしれませんが、Yahoo ファイナンスのPBRは実績値でPERは会社予想利益を使っているので、逆算してもROEがピタッとは求まりません。そしてROEを計算するための利益は実績値です。

筆者は個別銘柄の推奨を職業柄、決して行ってはいけません。この記事は、ビジネス戦略の巧拙がどのように投資判断や計数分析にかかわってくるのか、財務指標(財務KPI)の見方・使い方を解説する趣旨のものです。

個別の投資判断は、各自で責任をもって行ってください。

  • PER単独で、その株が買われすぎかどうかを判断することは難しい
  • ROE = PER × PBR という恒等式を知っていると便利
  • PERの逆数(1÷PER)は、株式益回り

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