どうしてお金で票を買ってはいけないのか?
選挙と民主主義についても、どうしてもお金とは縁が切れるものではありません。
選挙に関連してお金の話といえば、❶選挙活動をするのにお金がかかる、❷投票をお金で買う、等といった問題が思いつきます。
ちょっと気になって、今回は❷について AI(Copilot)に次の質問をしてみました。
「どうして選挙でお金を配ってはいけないか」
選挙でお金を配ること、いわゆる買収行為は、民主主義の基本原則に反するからです。選挙は公正で自由な意思表示の場であるべきであり、有権者が自分の意志に基づいて投票することが求められます。お金を配ることで、有権者の意思が歪められ、公正な選挙結果が得られなくなります。
また、買収行為は法律で禁止されており、発覚した場合には厳しい罰則が科されます。これは、選挙の公正性を守るための重要な措置です。選挙は信頼性と透明性が求められるプロセスであり、買収行為はその信頼を損なう行為とされています。
選挙の公正性を保つためには、有権者一人ひとりが自分の意志で投票することが何よりも重要です。
Copilotの回答:2024.11.7時点
また、公職禁止法にはつぎのようにあります。
公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域。以下この条において同じ。)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。(以下省略)
第百九十九条の二(公職の候補者等の寄附の禁止)
常識の範囲では、票をお金で買ってしまうと、金銭的利害以外の慮らないといけないことが蔑ろになると民主政治にとって良くないことだと理解しなければならない事柄なのでしょう。
投票行動に関する金銭的な利害に関して、候補者単独のお話ではなくて、選挙活動に関わる人や政党など、当事者じゃない関係者の行動も法的に制限されています。
要は、❶選挙活動において、❷候補者及びその利害関係者が、❸有権者に対して、❹特定の投票行動をとらせるために、❺投票前の寄付行為を、してはいけない、ということだと思います。
はてさて、この5つの要件はどれだけ人々に意識され、どれだけ順守されていると感じられるものなのでしょうか?
イーロン・マスク氏による100万ドルの「懸賞」
こちらは、ドナルド・トランプ氏が返り咲きを果たした、2024年11月5日に行われたアメリカ大統領選挙のお話です。
共和党のトランプ前大統領を支持すると表明しているイーロン・マスク氏が、ペンシルベニアなどの激戦州で有権者登録を済ませ、署名に参加した人の中から、投票日まで毎日抽せんで1人に100万ドル、日本円にしておよそ1億5000万円を配ると表明し、実際に100万ドルの「懸賞」が支払われました。
このことは、ペンシルベニア州裁判所が、4日付けで米連邦選挙法違反との検察側申請を却下したことで合法と認められました。
そして、このスイングステート一の大票田であるペンシルベニアをトランプ氏が制したのは我々の記憶に新しいことでもあります。
この事例についてですが、
❶選挙活動において ⇒該当
❷候補者及びその利害関係者が ⇒該当
❸有権者に対して ⇒該当
❹特定の投票行動をとらせるために ⇒非該当
❺投票前の寄付行為 ⇒該当
ということで、辛うじて❹が非該当だから、ギリギリセーフという感じかもしれません(もちろんこれはあくまで個人的感想で何ら法律上の意思表明や断定ではありません)。
しかしながら、過去に立件された寄附行為に関連する事案についていうと、何らかの投票行動をとることを条件にして、投票前に(事前に)寄付を受けた有権者が、寄附をした人が希望する投票行動を実際にとったかは、秘密投票のルールが守られている前提では、寄附者本人が実際に確認することは難しいでしょう。
そして本件でも、マスク氏は、懸賞金を受け取った人の投票行動を監視する権限も権利もないので、実際の投票行動がどれだけ、有意にトランプ氏の当選に働いたかを検証することは不可能です。
そこには、そこはかとなく、寄附者や懸賞金を出したマスク氏の意図をきちんと汲み取って、自身の投票行動を律するという暗黙の了解しか存在しないような気がします。
もちろん、必要に応じて自己申告で事後に寄附者や懸賞金を出したマスク氏に報告することがあるかもしれませんが、それもあくまで自己申告なわけです。
となると、事前の寄附がゆえに確実性に欠けるならば、事後の寄附にしてしまえばどうか、ということを考えたくなります。
つまり、前払いだと、義務の履行に不確実性がつきまとうわけだから、後払いにすれば、義務の履行に確実性の担保がとれるのでは、ということです。
そうなると、今度は、寄附や懸賞金ではない違う論点がいろいろと考えられそうな気がするのです。
”ポピュリストの公約”問題
ポピュリストの公約にはいろいろな問題がありそうです。
例えば、「私(とあるポピュリスト)がもし当選したならば、大幅な減税をして、給付金をじゃぶじゃぶ出します。だから私に投票してください」という公約で立候補して、そう公約したポピュリストが実際に当選したとします。
このポピュリストの選択は、ゲーム理論とか経済学の世界において、確かにとても賢い行動といえるかもしれません。
「当選したら、その地位に基づく権限により、経済的恩恵を与えます。但し、私が当選したらの話ですが」というのは、立候補者にとってとても有利な契約条件なのです。
もし当選したら、本意を果たしたことになるので、自分(ポピュリスト)は既に利得を得ています。その後、事前の契約(公約)通り、事後に経済的恩恵を実際に与えるか/与えないかのオプションは、彼(ポピュリスト)の手中にあるのです。
ポピュリストに限らず、当選者による事前の公約が実際に果たされるかについては定かではありません。むしろ、公約通りに政策が実行されたケースの方が少ないような気がします(個人的な感想)。
ポピュリストに公約を果たさせる強制力は、次の選挙での落選か、任期途中でのリコールか、支持率低下に伴う心理的ないやがらせ(マスコミ報道による正当な指摘含む)しかありません。
しかしながら、そのどの手段も即効性と強制力が常に伴うものではありません。いわゆる「言ったもん勝ち」状態になるかもしれません。
ポピュリストの空手形は、履行義務の有無だけが問題ではなく、もうひとつ重大な問題があります。
それは、公約実行のための対価が、ポピュリスト自身が保有する自由財産から支払われるのではなく、多くは、ポピュリストを支持した有権者から徴収した税金(公金)から支払われることです。
なんなら、債券発行により将来の有権者(納税者)のツケにすることすら可能です。
とても意地悪な言い方をいたしますと、ポピュリストは、履行義務を負わない約束をする権利(オプション)が与えられた上に、他人の財布(税金・国債)によって義務を履行することが許されているということです。
これは、ポピュリストにとって、とっても有利な「ディール(deal)」とは言えないでしょうか?
このことに気付いていれば、ちょっと目端が利くビジネスパーソンならば、立候補の経済的利得について、賢い計算ができているのではないかと邪推してしまいます(私は目端が利かないので当然対象外ですが)。
他人の財布で行う企業買収
もちろん、当の本人はそうした個人的な経済的利得計算があることは全否定しているのですが、公には、「資本の理論に沿い、株主利益がきちんと慮られ、株主権が適切に行使されるために、我々が企業買収を行って、適切な企業経営が実践されるように努力します」と宣い、敵対的TOBによるM&Aを仕掛けるのをよく目にするようになりました。
政治家による投票前の有権者に対する寄附行為は、政治家本人の自由財産から行われるものであっても、法律的には犯罪(または悪)ですが、M&Aの場合は、自身の自由財産はおろか、買収後の企業の保有財産から全ての買収資金を捻出しようとする LBO(Leveraged Buyout、レバレッジド・バイアウト)という手法があります。
まさに、他人の財布で甘い汁を吸おうとするポピュリストの典型的な事例と外形標準的には瓜二つのようにも見受けられるものです。
あくまで厳重な注意喚起をしておきますが、世の中の敵対的TOBやLBO案件の実施者がみんな腹黒で性悪だと言っているわけでは決してありません。契約内容とお金の流れが非常によく似た案件に見える、ということです。
❶先に自分の利益が得られて、相手への利益は後払いである
❷相手への利益供与について、履行義務が無い
❸相手への利益供与について、他人の財布で実行可能である
という条件が揃っている事案や契約の存在に気が付いたら、通常より多めの心配りをして慎重に意思決定することをお勧めいたします。
ハゲタカやポピュリストが跋扈する理由は、彼らをのさばらせておくだけの、衆人環視による世の中の規律維持・安全安心保全の力場が弱いことにあるのでしょうから。
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