■ 2015年秋の「フィンテック」動向 - 経済紙はこのように報道する!
日本を代表する経済紙である日本経済新聞が、引き続きバズワードである「フィンテック」を使った記事掲載をしています。少し間口が広くなり、ITを使った金融サービスとしての動向が語られていますので、夏に続き、サマリ投稿を作ります。経済紙ならではの観点から、特定のテクノロジーの報道のされ方を見ていきたいと思います。
念のため、用語の定義から。
2015/9/30|日本経済新聞|朝刊 フィンテックとは
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「▼フィンテック ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を組み合わせた造語。スマートフォンや人工知能(AI)などIT(情報技術)を駆使した新たな金融サービスを総称する。規制の多い金融業はこれまで新規参入が難しい業種だったが、ITに強いベンチャー企業などが参入しやすい分野が広がっている。」
最初の動向記事は、銀行のグローバル連携のお話から。
2015/9/30|日本経済新聞|朝刊 日米欧22行が提携 金融・IT融合「フィンテック」、決済システムを安価に
「米シティグループやドイツ銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループなど日米欧の大手22行が金融とIT(情報技術)をつなぐ「フィンテック」で連合を組む。仮想通貨ビットコインでも使われた技術を応用し、送金などの決済を低コストで処理できる共通システムを構築する。手数料の引き下げなど利用者の利便性を高め、IT系の新規参入企業に対抗する。」
この大手行連合体に、日本からは唯一、三菱UFJが参加しています。
(下表は本記事添付のものを再掲)
この安価な決済システムの構築のカギを握るのが「ブロックチェーン」と呼ばれる技術。すでにビットコインなどで実用化されているテクノロジーです。
(下図は、「ブロックチェーン」を使った決済システムの概念:同記事添付のものを再掲)
「お金を送る際、従来は金融機関がお金の所有権が移ったことを承認してデータベースに記録し、取引が成立していた。
これに対して、新技術では同じシステムの利用者がお互いに取引があったことを承認し、確認し合う。承認作業は暗号化されたまま自動的にされ、改ざんなどの不正ができなくなっている。データベースが必要ないため低コストで手数料を安くできるうえ、決済などの処理速度も向上する。」
■ 「ブロックチェーン」を経済紙が説明するとこうなる
分かったような分からないような、そしてデータベースが無いのに、取引情報を確認し合って改ざんもできない、という説明。正体不明だと、気持ち悪いので同紙から「ブロックチェーン」を解説した記事紹介で解説の代用とさせて頂きます。
2015/10/16|日本経済新聞|朝刊 (エコノミクス トレンド)仮想通貨の技術的可能性 市場経済、構造変化も 小林慶一郎 慶応大学教授
<ポイント>
○ビットコインの採掘は無意味な計算作業
○自発的な採掘によってシステム維持可能
○マクロ的には金本位制と同様の特性もつ
まず、従来の金融における決済の本質を確認すると、
「一般に、「支払い」が成立するための本質的要請とは、「取引の不可逆性」と「安全性(二重払いなどの不正防止)」が通貨システムで確保されることである。取引の不可逆性とは、あとで支払いの事実が(データ改ざんやしらばっくれなどで)否認できないことである。紙幣や硬貨による支払いなら、貨幣を物理的に受け渡した事実によって、取引の不可逆性は成立する。二重支払いの問題も、紙幣や硬貨なら、Aさんに支払った貨幣をBさんにも支払うのは物理的に不可能だ。」
しかし、ネット上ではデータコピーが容易であるため、この『不可逆性』や『安全性の確保』が重要になります。これを何とかしてくれるのが、「ブロックチェーン」。
「不可逆性と安全性を実現するためにビットコインが採用している中核的アイデアが、マイニング(採掘)によるブロックチェーンの延伸である。ビットコイン経済では、約10分ごとに、過去10分間の全世界すべてのビットコイン取引を記録した取引記録(ブロック)をブロックチェーンに付け加えることで、ブロックチェーンを延伸していく。」
(下図は、新聞記事添付のチャートを転載)
この、内容的には全く無意味な計算問題の解答(これをプルーフ・オブ・ワーク(時間をかけて作業をしたことの証明)という)を得た者が、最新のブロックをそれまでのブロックチェーンに追加することができ、さらに報酬として、あらたにビットコインを得ることができます。この基本動作を金鉱の採掘になぞらえて、「マイニング」とよび、10分間の無駄な努力で得たビットコインの価値の方が、改ざんしたい時点から現時点までのすべての10分単位に出題される無意味な計算問題を解き直すことで取引記録を改ざんして得られる価値より大きいので、誰も改ざんを試みようとはしない、そういう取引参加者間の暗黙の了解で成り立っている取引の安全性なのです。
ですから、錬金術で鉛から金は作り出せませんが、ビットコインはデータ改ざん(これまでの10分間計算の全やり直し)で生み出すことは論理上可能ですが、経済的・技術的に割に合わない(現実的でない)ので、ビットコインの取引は安全だ、といえるのです。
「ビットコインのシステムを破壊する不正よりも、システムを守る作業をする方が利益を得られるのだ。つまり、参加者の利己的な利潤追求によって「不可逆性」と「安全性」が確保される設計なので、政府などの管理者がなくても、ビットコインのシステムは自律的に維持され存続していく。」
どうやって不正を防ぐか、ではなく、不正したくなる動機そのものを潰してしまえ!!
■ 「ビットコイン」から外部経済へ
テクノロジーそのものより、やはり、テクノロジーが新たな経済的な意味付けをどうもたらすのか、新テクノロジーを使って、経済的便益は増えるのか? 当然、経済紙なので、その辺は執筆者も興味津々なわけで。。。
「「取引の不可逆性」や「安全性」は、それ自体は市場で取引できない外部経済効果であり、分権的なシステムでは、供給が過少になってシステムは崩壊する。従来はこの外部経済効果を確保するために、2つの方法が使われてきた。」
① 有体物の貨幣(紙切れ、金塊など)の受け渡しによって支払う方法
「貨幣として使われる物体は、本来の使用価値よりも高い価値を持って流通する。その差は流動性プレミアムといってもよいが、取引の不可逆性や安全性を確保するコストだと解釈できる」
② 信用力のある管理者(銀行)が不可逆性や安全性を保証する貨幣(すなわち銀行預金)による支払い
「不可逆性や安全性を確保するためのコストは、預金者から銀行への手数料として支払われる」
その中で、
「ビットコインは貨幣システムの第三の方法を提示したという意味で画期的なのである。つまり、システムの参加者たちがマイニングという利潤追求活動を自発的にすると、結果的に不可逆性や安全性が確保されるようにシステムが設計されている。取引の不可逆性や安全性を確保するためのコストは、マイニング作業(無意味な計算による時間と電力の消費)で支払われる。」
この採掘(マイニング)作業にかかるコストなど、技術的条件で生み出されるビットコインの供給量は調整されるので、ある種マクロ的には金本位制と同じような構造を持ちます。それだけですと、「金」から「ビットコイン」に置き換わっただけなのですが、ビットコインのマイニングにかかる無意味な計算を、例えば、
「「温暖化防止に関連する(公共財的な)意味のある計算作業」にできれば、仮想通貨による経済取引の増大が地球温暖化の解決に役立つことになる。あるいは、マイニングの計算課題をゲノム解析に関連付けられれば、仮想通貨の普及が医学の進歩に役立つ。マイニングのための計算が、公共財を供給する作業にもなるわけだ。」
という風に、世界の課題解決のための計算に置き換えることができれば、単なるマイニングコストであった10分間計算問題にかかるエネルギーは、世の中を良くするアクションに変換することができる、ちょっと考えただけでうれしくなる発想です。でもこれ、一昔前に流行った「グリッドコンピューティング」プロジェクトと発想がそっくりで、「みんなのPCの空き性能を使って、社会問題の解決に貢献しましょう!」って奴を思い出してしまいました。そういえば、当時勤めていた会社のPCにそのミドルソフトウェアを勝手にインストールして、課題に沿った計算処理にCPUの空き性能を提供していました。PCがすごく重くなったので、すぐやめましたが、、、(^^;)
■ 「日米欧22行が提携」の記事に戻ります
「22行はブロックチェーン技術で先行する米国のフィンテック企業「R3」と提携し、共通のシステム作りに取り組む。10月から設計技術や法規制などのテーマに合わせた3つの分科会を置いて、R3が拠点を構える米ニューヨークで研究を始める。三菱UFJはすでに分科会ごとに2~3人の社員を派遣した。1~2年でシステムの実証実験に入る計画だ。」
R3社のホームページはこちら
(http://r3cev.com/)
特定テクノロジー主導で、法規制や社会インフラ基盤も含めて総合的に、課題解決を図ろうとする発想とその行動力、どうしても筆者を含めた古いタイプの日本人からはなかなか出てこない。若い人たちに希望をかけます。
「仮想通貨は海外送金の手数料が既存の金融機関の10分の1程度と安いことが普及を促す一因となった。新技術は手数料を下げる圧力になるが、22行は自ら主導権を握って国際規格を目指すことを優先した。ブロックチェーンが持つ認証機能は、株式や債券、不動産などの取引にも応用できるほか、土地の登記簿や家のカギなどへの展開も研究され成長余地も大きい。」
金融業界では「フィンテック」、広告業界では「アドテック」、今度は「不動産テック」と、「●●テック」なる造語はこれからいくつ生まれることでしょう。
2015/10/9|日本経済新聞|朝刊 ソニー不動産、成約価格を高精度で推定 間取り・立地もとに
「ソニー不動産(東京・中央)は8日、集めた情報から規則性を見つけ出す「機械学習」と呼ぶ技術を活用し、中古不動産の成約価格を高精度で推定できるサービスを開発したと発表した。立地や部屋の特徴、地域情報など不動産の各種情報を基に独自のアルゴリズムで不動産価格を高精度で推定する。」
「「不動産価格推定エンジン」をソニーと共同開発した。東京都、千葉、埼玉、神奈川県のすべての中古マンションの推定成約価格を計算できる。同日からソニー不動産の営業活動で、売り主と買い手向けのサービスとして運用を始めた。
この「エンジンがはじき出した推定成約価格と実際の成約価格の誤差率は5.48%と同様のサービスのなかで最高水準の精度」なのだそうです。
つまりですね、「●●テック」と呼ばれている間は、まだ目新しいもの、と世間からは見られているということです。そう呼ばれなくなった時、すでに企業間、国家間の勝負はついていると思いますが。。。(><)/
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