■ 議決権行使助言会社はひとつではない。今度は賛成意見が!
議決権行使助言会社は1社ではありません。今度は、米グラス・ルイス(Glass, Lewis & Co., Ltd.)がトヨタの種類株発行に対して賛成の意を表しました。ちなみに同社は、大塚家具の委任状争奪戦(プロキシーファイト)の最中の2015/3/12に、会社提案による役員選任議案(第2 号議案および第3 号議案)に賛成推奨を、株主提案による役員選任議案(第5 号議案および第6 号議案)に反対推奨をしています。グラス・ルイスが常に会社寄りの提言をする助言会社かどうかのご判断は別途、各自で同社の過去の助言内容をご確認いただければと思います。
2015/6/2|日本経済新聞|朝刊 トヨタ、新型株の評価二分 株主助言のグラス・ルイス賛意、ISSの反対受け補足資料
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「トヨタ自動車が長期保有の株主を増やすため発行を計画する新型種類株について、議決権行使の助言会社の米グラス・ルイスが賛成していることがわかった。米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は反対しており、評価が分かれた。
種類株発行には16日のトヨタの株主総会で3分の2の賛成が必要。外国人株主などは助言会社の意見を参考にするケースが多く、大手2社の意見表明は一定の影響力を持つ。」
ISSの主要な論点
1.新型株による安定株主の増加は、経営陣への市場の規律が働きにくくなる
2.その他の株主にとってどのような利点があるかの説明も十分ではない
これに対して、グラス・ルイスの論点
3.財務の柔軟性を高め、将来の事業機会の確保につながる
(関連する過去投稿)
⇒「トヨタ新型株に反対 議決権行使助言のISS 株主総会での賛否が焦点」
⇒「トヨタ、個人向け新型株最大5000億円発行 元本保証、議決権あり 長期投資家取り込む」
■ 指新聞記事にある補足説明経緯は確認できませんでした
この新聞記事にある、
「ISSの反対を受け、トヨタは種類株の発行目的などを説明した補足資料を追加で開示した。配当利回りが普通株より低く資金流出が限られることや、発行は最大でも既存株数の5%未満にとどまる点などを説明した。」
という記述から、再度、トヨタのホームページにてプレスリリースを漁ってみましたが、件(くだん)の2015/4/28付で公表された「AA型種類株式の発行」のニュース以外は見当たりませんでした。この時点ですでに、補足説明資料が出ていますので、新聞記事を深読みすると、ISSの反対意思確認をトヨタは一般情報開示前に行い、4/28時点のトヨタのプレスリリースはその反対意見への対応措置としての「補足説明」付で一般情報開示したことになります。そういう動きが一般投資家への公開前に一部の社外利害関係者と行われていたとしたら、それはそれで大問題です。新聞記事の経緯説明の方がちょっとズレていた、ということにしておきましょう。
さて、4/28の後、トヨタからの一般向けの情報開示としましては、2015/5/8付で、「自己株式取得」のプレスリリースが出ております。
この中で、
1. 自己株式の取得を行う理由
株主還元および資本効率の向上と経営環境に応じた機動的な資本政策を遂行するため。
2. 取得に係る事項の内容
(2) 取得しうる株式の総数 40 百万株(上限)
(3) 株式の取得価額の総額 3,000 億円(上限)
(5) 取 得 期 間
平成27 年4月28 日開催の当社取締役会において、同年6 月開催予定の当社定時株主総会の承認を条件に募集事項の一部を決定した第1回AA型種類株式の発行後から平成28 年3月31 日まで
とあり、さらに追記として、
「なお、この自己株式取得は、平成27 年4月28 日に開示いたしました開示資料(「第1回AA型種類株式の発行、AA型種類株式の新設に係る定款の一部変更および第1回AA型種類株式発行に応じた自己株式取得に関するお知らせ」)に記載した自己株式取得とは別に実施いたします。」
とあります。トヨタとしては、普通株式所有者に対し細心の注意を払って、「1株利益の希薄化はありませんよ。安心して種類株式発行を認めてください」とのアピールをされているように見受けられます。また、会社の目論み通りの業績推移に基づく計算上はその通りになると思います。
■ そもそも議決権行使助言会社って!?
以下、議決権行使助言会社に関するネット上の記事を簡単にサマリしてご紹介します。
President ONLINE 議決権行使助言会社 -日本企業を襲う新たな「黒船」
PRESIDENT 2013年8月12日号
著者 相馬留美=文 ライヴ・アート=図版作成
明治大学商学部教授・三和裕美子氏が指摘する問題は次の2つ。
1.議決権行使助言会社が企業に対するコンサルティング業務を行っているため、利益相反の問題が起きる
2.この業界が非競争的である
1.については、エンロン事件(2001年)、ワールドコム事件(2002年)が記憶に新しいと思います。エンロンに対して、コンサルティングサービスと会計監査を合わせて担っていたアーサー・アンダーセンが2002年に解散。2002年7月には上場企業会計改革および投資家保護法(通称SOX法)が制定されました。まあ、会計監査業務とコンサルティング業務は別エンティティでおこなうこと、そして社内の業務監督として、内部監査制度の充実へ、というリアクションを生みました。
同様のリアクションが議決権行使会社業界にも起こり得ると考えています。
2.については、「トップのISSと2位のグラス・ルイスで97%のシェアを占め、企業への影響は甚大だ」ということで、米国では情報公開を求める声が上がったり、あるいは大手の機関投資家は自力で議決権行使判断を行う動きが見られ、「欧米では対抗勢力が育っている」とのこと。日本ではまだ、専門家集団の大所高所からのご意見を承る、という感じで平身低頭、右往左往している感が否めませんが、まだまだ欧米に比べて株式会社という企業運営や投資に対する構えが脆弱で、こうした勢力の影響をもろにかぶってしまう、ということでしょうか?
彼らも商売なので、まだまだ日本の株式市場でビジネスチャンスがある(あえて口悪く言うと、日本人を食い物にできる)と考え、精力的に日本でも活動し、その結果、昨今メディアへの露出も多くなっているという感じでしょうか。
投資方針は自分で決める。だけど助言は助言として参考意見として欲しい。プライベートで契約ベースの助言を賜るのはいいのですが、助言会社のスタンスがこうして一般マスコミを通じて公開されて、世論を動かす。その隠された誰かの意図は、きちんと考えて、報道の内容を各自で斟酌頂きたいと思います。
このブログもプライベートではないので、あくまでパブリックとしての意見表明です。お読みになった方の自己責任で内容を精査してください。
まあ、本当に筆者の特殊意見を個別に聞きたいという奇特な方がいらっしゃったら、恐れ入りますが、本ブログへの問い合わせフォームから、個別にコンタクトしてください。(^^;)
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