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経営戦略概史(32)ベゾズは新しいポジショニングを新しいケイパビリティで実現した

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ポーターの競争戦略類型からアマゾンを眺める

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。 今回は、チャン・キム、レネ・モボルニュによる「ブルー・オーシャン戦略」の一例として本書に取り上げられている、ジェフ・ベゾスのアマゾンの回になります。

表題にあるように、ベゾスの行動類型を、ポジショニング派とケイパビリティ派のいずれかに決め打ちせずに解説がなされようとされています。

どの辺りが「新しいポジショニング」と言えそうでしょうか。いまやアマゾン本は数多存在し、ネット上でもアマゾン成功の秘密みたいな論評記事は読み切れないほど世に出ています。

有名な話ですが、ジェフ・ベゾスは、ヘッジファンドD.E.ショーの4人目のシニア・バイス・プレジデントの高給を投げ打って、東海岸のニューヨークから西海岸のシアトルまで車で移動し(本書では最初は引っ越し用トラックで、テキサスからは継父から譲り受けたシボレーで)、その車中で次のビジネス(現在のアマゾンの祖業であるネット書店)を考えついたといわれています。

ポーターのポジショニング戦略には、3つの類型があります。

  • コストリーダーシップ
  • 差別化
  • 集中

M.E.ポーター著「競争の戦略」ダイヤモンド社のP61にもとづき、原書に忠実に沿ってこれを理解するならば、戦略ターゲットとする顧客が「業界全体」か「特定セグメント」だけとするかでまず大別されます。もちろん、後者が「集中」戦略であり、別名「ニッチトップ」とも呼ばれています。

特定の購買層、特定の製品種類、特定の地域市場などへ、企業資源を集中することを意味します。これは、弱者の戦法として名高い「ランチェスターの法則」でも明らかになっているように、弱者でも、ただ1点に集中して、そのポイントにおいては強者よりも多い戦力を投下すると、その集中点においては、強者を上回る戦力を投下したことになるので、その局地戦で勝利を得る可能性が飛躍的に高まるという基本原則です。

そして、これはあまり知られていないのかもしれませんが、ポーターの原著には、ニッチトップとして成功を果たした企業は、その業界の平均を上回る収益が得られることになります。集中がうまく機能すれば、やがて、その絞られたターゲット(セグメント)について、低コスト地位が得られるか、差別化に成功するか、それとも両者を同時に達成するか、ニッチトップとしての成功要因がやがて明確になります。

そういう意味では、弱者が競争優位を身につけるという意味において、ひとまずは「集中」戦略を採用し、その集中戦略の成功の果実は、結局のところ、コストリーダーシップ差別化、もしくはその両立(ユニクロなどが成功したベストプライス戦略)に帰結することになります。

こうした、ポジショニング派の文脈の中で、ジェフ・ベゾスのアマゾンはどういう軌跡を辿って、現在のようなGAFAと畏怖される巨大産業を作り上げたのでしょうか。

アマゾン誕生の秘話

ベゾスは、まだ世の中的にはそれほど認知されていなかったネット書店というビジネスモデルとしてのニッチに全ての経営資源を集中投下して成功を収めることになります。

本書では、どの辺りが新しいポジショニングなのか具体的な言及はありませんでしたが、ベゾスがシアトルまで移動する車中で、新しいビジネスモデルを見つけたことが先の成功を約束したものだったというくだりがあります。

1994年春、彼は生まれて間もないインターネットの利用率が異常な速度で上昇していることに気づきます。なんと前年比23倍!
 すぐにベゾスは「インターネットをコミュニケーション以外に使えないだろか」と、ネットで売れそうなものを20個リストアップしました。その筆頭が「本」だったのです。
 本はすでに、店頭だけでなく通販でも売られています。だから消費者には抵抗はないはず。でも本は品種が多すぎて、紙のカタログでは掲載に限界があるけれど、インターネットならそれが効率的にできるはず。競合を見ても、リアル書店のトップ企業のシェアも20%以下で、大したことはない。
 これは千載一遇のチャンスだ、とベゾスは確信しました。

三谷宏治著「経営戦略全史」P250-251

インターネットという新技術を用いて商売すれば何か成功しそうなのは分かった。でも、その20個リストアップした中で、どうして書籍だったのか? そこが問題なのです。

これも意外に知られていない公然の秘密というやつかもしれませんが、リストアップされた20個のビジネスモデル(または商材)の中で、書籍が圧倒的に資金繰りが楽だったからです。一般に、書籍は現金売上です。一方で書籍の仕入にかかる支払いは掛け(つけ払い)です。その期間が長ければ長いほど、資金繰りが楽になります。創業当時のこの資金繰り(運転資本)を有効活用して、支払期日が来る前のお金を使って設備投資や優秀な社員の採用に先行投資することで、長期的な企業成長という正のスパイラルに自分の身を置くことに成功しました。

言われてみればなるほどなのですが、実際に自分で実行しようとすると、躊躇してしまう。そういうところをいとも簡単にやってのけるところが、アントレプレナーシップというやつでしょう。

そういう意味では、無理目でもポジショニング派的な理解をするならば、

  1. 最初は資金もブランドない新興企業はニッチトップを目指す
  2. 一番運転資本に無理のかからない商材を選ぶ
  3. 余裕が出た運転資本を企業成長のための積極的な先行投資に回す
  4. 結果として、コストリーダーシップまたは差別化いずれかの競争戦略上の優位性が身に着く

という文脈での理解ができるようです。

ブルーオーシャンにアマゾンは投資し続ける

まだ、GAFAとかデータ資本主義、プラットフォーマーという概念が一般化する前に書かれた本書では、アマゾンの勝ちパターンを保証するなにものかに、ベゾスが一瞬の躊躇もなく破格の投資を続ける姿勢を貫いたことを説明しているくだりがあります。

2000年時点で、アマゾンは全米8ヶ所の物流センターを構えていましたが、そのうち6つがその年に建設されたものでした。建設費は1ヶ所あたり約5000万ドル。物流センターの総床面積は、3万平方メートルから50万平方メートルに拡張され、そのオペレーションのために、従業員は8000人近くにまで膨らみました。

三谷宏治著「経営戦略全史」P252

この巨額な先行投資に、ネットバブル崩壊の影響もあり、数多の証券アナリストたちは、口々に、物流センターへの投資の中止と桁違いの成長(アナリスト目線では、保有設備の成長ではなく利益の成長を意味する)を求めます。

しかし、ベゾスはそうした社外からの騒音を意に介することなく、巨大物流センターへの投資をやめませんでした。

それまでの全米の消費者に、翌日もしくは翌々日に確実にモノを届けてくれる物流プレイヤーは存在しませんでした。もし、その「クイック・デリバリー」が、顧客にとって価値であるならば、それこそバリュー・イノベーションとなるはずです。敵は、いません。

三谷宏治著「経営戦略全史」P252-253

商圏が広く、物流に障害が起こりがちの北米市場という特殊事情を考慮したうえで、アマゾンが築いた「持続的な競争力」の源泉は、

  • 実店舗の数十倍の品揃え
  • 的確なお勧め(ビッグデータ活用によるレコメンド機能)
  • クイック・デリバリー(アマゾンダッシュ、プライム翌日お急ぎ便、パントリー等)

アマゾン成長の秘訣とは

最後に私の分析を披露させて頂くとすれば、アマゾン成功の秘訣のひとつは財務戦略にあります。厳密には財務戦略に裏付けされた競争戦略とでも申しましょうか。

一言でいうと、「利益を出して法人税を払うくらいなら、先行投資に回して先に企業成長をさせてしまえ。配当金の分配より、企業成長による株価上昇(いわゆる企業価値向上)を果たしてしまえば、証券アナリストのうるさい口も封じることができる」でしょうか。^^)

AWSというクラウドサービスの立ち上げについて、証券アナリストは軒並み否定的でした。機を見るに敏。クラウドやデータセンタ、プラットフォーマーというテクノロジーに対する先見の明を持ち合わせていることは疑う余地もありませんが、皆さん忘れていませんか。

ジェフ・ベゾスは、もともと、シアトルにくる前は、ヘッジファンドのシニア・バイス・プレジデントだったんですよ。彼のビジネスの成功の一端には、比類なきファイナンスリテラシーがあると固く信じるところであります。^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

経営戦略概史(32)ベゾズは新しいポジショニングを新しいケイパビリティで実現した

・新興企業はニッチトップで成功し、コストリーダーシップか差別化で競争優位を築く
・時期の早いうちの巨額の先行投資で競合の新規参入の頭を抑えてしまう
・その巨額投資を実現させる
ために運転資本のかからないビジネスモデルを設計する

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