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HOYAの品性ある大人買い 投資規律を堅持 東芝とのTOB合戦 あっさり撤退 資本コスト基準、事業売却辞さず

経営管理会計トピック_アイキャッチ会計で経営を読む
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高すぎず安すぎず適正価格で買収する

ニューフレアテクノロジーに限らず、多くのM&A話が新聞紙上を賑わしています。あまりに、M&A話が多く、そして登場人物も増えたため、あまり目立つことがなかったHOYAのTOB合戦を颯爽と退場する姿。かえって報道されない姿が真に意味する投資スタイルこそ、”あっぱれ”です。

半導体製造装置のニューフレアテクノロジーを巡るTOB(株式公開買い付け)合戦は東芝の勝利で終わった。対抗案を出していたHOYAは価格引き上げなどには動かず、あっさりと撤退した。その根底には「資本コスト」をモノサシに、投資する事業を厳しく選別するHOYA独特の経営哲学がある。

「あ、そうなんだと。それだけの話」。滞在中の米国から電話取材に応じた鈴木洋最高経営責任者(CEO)は、東芝のTOB成立についてさばさばと答えた。

2020/1/23|日本経済新聞 |朝刊|HOYA、投資規律を堅持 東芝とのTOB合戦 あっさり撤退 資本コスト基準、事業売却辞さず

M&Aで既存のビジネスを買収する際、買値と対象ビジネスの会計上の価値の差額が大きくかけ離れることがあります。この差額を「のれん(Goodwill)」と呼びます。よく誤解されるのですが、簿価と買収金額の差額がのれんになるのではなく、買収時の時価評価額(Fair value)と買収金額の差額がのれんになります。

簿価と時価(公正な評価額:FV)の差額は、未実現利益が要因で発生します。再調達価額が簿価を上回っている不動産や時価が決算評価額を上回る証券投資の時価評価差額などが当てはまります。

会計基準が、自家創設のれんを認めないことにより、顧客との良好な関係、優秀な従業員の存在、将来花開きそうな知財権などは、会計上、資産価値を認めないため、これがのれんの発生原因となります。

会計上の Fair Market Value をさらに上回る買収金額を支出しないと発生しない「のれん」。よっぽどのことがないと発生しない金額が、最近は多額に上るM&A案件になることが通常化しています。最近、私たちの金銭感覚が徐々に狂ってきていないか、慎重にチェックしたほうがいいかもしれません。

さらに、この記事を書いている時点のIFRSでは「のれん」は、定期償却をすることはありません。IFRSを採用している場合は、より一層の注意が払われる必要があると思いますがいかがでしょうか。

特集:IFRS のれん償却の衝撃=浜條元保  | 週刊エコノミスト Online
のれんバブルへの警鐘か 経営者の説明責任の要求か  かたくなに拒んできた「のれん」の償却義務づけを国際会計基準審議会が検討するという。世界標準を目指した会計基準に何が起きているのか。

資本コストを下げるには入口の買収金額の適正化が必要

一方で、株主価値を重要視して、資本コストを意識した経営をすることも推奨されています。コーポレートガバナンス・コードにも、資本コストを意識する旨を強調する改正が2018年にあったばかりなのは記憶に新しいところです。

コーポレートガバナンス・コード(2018年6月版)

「のれんはIFRSでは定期償却しないから、期間損益には影響しない。だから、資本コストにも関係がない」、とするには早計過ぎます。

投下した資本(資産)が累積的に将来稼ぎ出す価値をもって、投下資本の稼ぎの力を投下資本利益率(ROIC)で評価します。

ROIC = NOPAT ÷ 投下資本
ROIC = NOPAT ÷(有利子負債 + 株主資本)

のれんは、しっかりと株主資本を構成する要素になるため、ROICの分母を大きくする作用があります。仮に、M&Aの買収費用を融資で調達していると、有利子負債を大きくしたうえで、のれんで膨れた分だけ、買収前より買収後の株主資本を大きくするので、LBOなどやろうものなら、余計に神経を使う必要が生じます。

HOYAが価格引き上げで対抗しなかったのは、当初示した1万2900円が「(求める)リターンを出せる金額」(鈴木CEO)として約4年もかけて計算し尽くされた額だったからだ。その基準となったのが、同社が20年以上前から重視する「SVA(Shareholder’s Value Added=株主付加価値)」だ。

2020/1/23|日本経済新聞 |朝刊|HOYA、投資規律を堅持 東芝とのTOB合戦 あっさり撤退 資本コスト基準、事業売却辞さず

ちなみに、SVAの語は、EVAがスターン・スチュワート社が開発し、商標登録を取っているので、そういう名前がついているだけで、EVAと基本的には同義です。

EVA(経済的付加価値)|創造と変革のMBA グロービス経営大学院
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M&Aで「のれん」が巨額になりがちな理由とは

M&Aの対象事業(企業)の株主から見ると、買収される前の独立経営時より、買収後により大きなグループ内で経営されることで生み出される追加的な価値が実際に生じないと、例えばTOBに応じる必然性は全くありません。

それはM&A(TOB)を実施する側の株主であっても同様で、例えば、現在の株価が100円で、TOB価格が+25%増しの125円とする場合は、リターンであるROICの方も+25%増し以上になることが保証されていないと、株主価値を毀損することになり、賛成しがたいM&A(TOB)ということになります。

この辺の経済計算をいい加減にして、あの会社がどうしても欲しいから、他社とのオークションになった際に、TOB価格をどんどんと吊り上げるのは、単に、経営者がその事業(企業)を己の経済的支配権に置きたいだけの我儘と断じられても言い訳できないかもしれません。

それゆえ、現在の株価にプラスアルファの値段をつけて、時価より高値でTOB対象企業の株を買う場合のその差額ことを、「支配権プレミアム」と呼んだりします。

支配権プレミアムは、駄々っ子のような経営者がその企業が欲しいために支払うものなのか、その経営者の手の内に納めると、従来以上の価値を増やすための切符代とみなすべきものなのか、歴史だけが証明することのできる真理であります。

しかし、私のような凡人にも、支配権プレミアムが現在の株価の何パーセント上乗せされているものなのか、その乖離幅が大きいと、より駄々っ子の我儘の成分も増えることぐらいは分かります。

支配権プレミアムが大きくなることとのれん評価額を大きく見積もることは、ほぼ同義であるといえます。

TOB合戦になった時、どっちの経営者の我儘をどっちの株主がどれだけ許容するのかな、という視点で観察するのが最近のマイブームになっています。^^)

永守氏とウォーレン・バフェット氏に見るM&A哲学とは

ここで、M&A巧者と呼ばれている国内外の2人についての記事をご参考まで。

日本電産の永守氏によれば、M&Aを成功裡に納めるためには、

  1. 高値づかみしない
  2. PMI(買収後の統合作業)と経営への関与
  3. 買収のシナジー(相乗)効果

の3つが必要なのだそうです。いの一番ですよね、高値掴みしないというのは。

毎年2月下旬に公開される「株主への手紙」。表紙にはバークシャーの株価パフォーマンスが誇らしげに記されている。1965年から2018年までの年平均上昇率は20.5%。S&P500種株価指数(同9.7%、配当込み)を大きく上回る。バフェット氏が「投資の神様」と言われるゆえんだ。ところが19年はS&P指数の上昇率が30%を超えるのに対し、バークシャー株は10%程度にとどまる。このまま年内の取引最終日を迎えれば、指数対比の成績は過去10年で最悪となりそうだ。

バークシャー株苦戦の理由は複数ある。まずバフェット氏のこだわりである大型買収がなかなか成就しないことだ。アップルなど上場株運用のイメージが強いバークシャーだが、実態はエネルギーや鉄道、保険などの事業会社を傘下に収める複合企業(コングロマリット)だ。最近は買収ファンドとの競争が激しく、16年の米金属部品メーカー買収を最後に大型M&A(合併・買収)から遠ざかっている。2月の手紙でバフェット氏は「価格が高すぎる」と嘆いた。

2019/12/27|日本経済新聞 |電子版投資の神様バフェット氏、受難の1年に 買収成就せず 米州総局 宮本岳則

この記事では、バークシャーの19年の業績が振るわなかったのを、大型M&Aを実行できなかったからではと指摘しています。さて、これは本当なのでしょうか?

2019/12/31|日本経済新聞 |朝刊 |(きょうのことば)世界の株式時価総額 86兆ドル、米国が4割占める 添付を引用

米著名投資家のウォーレン・バフェット氏は、株式時価総額を名目国内総生産(GDP)で割った「バフェット指標」を、株価の適正水準を見極める目安として重視している。長期的には株価は経済力に見合った水準に近づくという考え方で、同指標が100%を超えると過熱感があるとされる。株高によって世界の株式時価総額は名目GDPに近づいており、割高感が強まっているとの見方もある。

バフェットは、常に市場を冷静に見ていると思います。大型M&Aができなかったんではなくで、あえてやらなかったんです、多分、きっと。。。^^)

【ニューヨーク=清水石珠実】米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイは29日、傘下に抱える新聞事業を米中堅メディアのリー・エンタープライゼズ(アイオワ州)に売却すると発表した。売却額は1億4000万ドル(約152億円)。リーは傘下の新聞数を増やすことで規模を拡大し、経営効率化を目指す。

(中略)

10代で新聞配達を経験したバフェット氏はたびたび新聞業界への愛着を示してきた。11年にバークシャーを通じて地元ネブラスカ州オマハの新聞社を買収して以降、地方紙再生の事業モデルを模索してきた。だが19年、ニューヨーク・タイムズなど一部の大手新聞以外は生き残りが難しいとの意向を示し、その動向に注目が集まっていた。

2020/1/30|日本経済新聞 |電子版 | 米著名投資家バフェット氏 傘下新聞31紙を売却

話はそう単純ではなく、リーは18年半ばからバークシャー傘下の新聞の運営を受託していましたので、事業運営のシンプル化という見方もありますが、一方で資本コストもにらんでの意思決定のように見えます。

バフェット氏の最近動向から、過熱感はそろそろ無視できないレベルになってきているのかもしれませんね。

注)筆者の現職の立場から、相場観および相場観に伴う個別金融商品の推奨勧誘の意図は全くありません。あくまで、そういう記事があるという紹介ということで。

SVAというはっきりしたモノサシがあるから、新規投資や撤退を巡る決断も明確になる。HOYAは事業ごとの投資回収期間なども加味し、四半期ごとに各事業部の設備投資や開発計画を選別する。収益環境が厳しくなった場合なども、「手を打っても企業価値向上に寄与しないので撤退する」

2020/1/23|日本経済新聞 |朝刊|HOYA、投資規律を堅持 東芝とのTOB合戦 あっさり撤退 資本コスト基準、事業売却辞さず

何事も、戦う前の事前準備で事の成否は決まるものです。段取りう前の事前準備で事の成否は決まるものです。段取り八分 とはよく言ったものです。真言です。

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(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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