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ICOの会計処理 難航 メタップスの決算深夜発表 監査法人が慎重姿勢

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ メタップスが深夜に決算短信を開示した経緯

経営管理会計トピック

イニシャル・コイン・オファリング(ICO)を用いた資金調達がいろいろと物議を醸していますが、会計はビジネスや経営の写像としての適正な鏡であるべきです。メタップスの決算発表にまつわる一連の報道を目にした筆者の感想を簡単にひとつ。

2018/1/17付 |日本経済新聞|朝刊 米減税、日本企業も影響 車3社、今期純利益8000億円増 アナリスト試算

「仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)に関する会計処理問題が浮上している。きっかけが15日に決算発表した、決済代行サービスなどを手掛けるメタップス。昨年ICOを実施したが、会計処理を巡り監査法人との協議が難航。深夜に決算を発表する異例の事態となった。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

まずは、メタップスの2017年9~11月期決算発表の経緯から。

同社が決算を発表したのは通常は午後3時ごろの開示が多い中、15日の午後10時45分と異例の遅さになりました。会社側の説明は、「ICO関する内容の正確性を期すため、監査法人などとの協議が直前まで続いた」とのこと。

同社のプレスリリースを順に追っかけていきます。

● 2018/1/15(開示事項の経過)当社連結子会社のICOに伴う会計処理について(PDF)

20180115_メタップス_(開示事項の経過)当社連結子会社のICOに伴う会計処理について

ここでは、ICOで調達した約10億円については、仮想通貨取引所“CoinRoom”が所定の期日までに設立されなかった場合は、参加者の希望に従い返済することを約しており、かつ実際には設立されたので返済義務が消滅しています。それゆえ、設立までは非流動資産(無形資産)と流動負債(預り金)にて計上していましたが、設立後は、全額収益として認識するものと考えていましたが、監査法人と協議の結果、少なくともこの四半期決算においては、受領した対価の全額を負債(預り金)として処理するものとしたと記述されていました。

それが、

● 2018/1/16(訂正)(開示事項の経過)当社連結子会社のICOに伴う会計処理について

において、
「監査法人と協議中でございました」→「監査法人と協議中でございます」
「監査法人との協議の結果、受領した対価の全額を負債(前受金)として計上する」→「将来的には収益として認識いたします」
という文言訂正が入りました。

決算短信は監査法人による会計監査上の承認が無くても開示できるのですが、この後に控えている有価証券報告書までには、監査法人とは結局のところ白黒つけなくてはなりません。

 

■ ICOに関する決算処理がここまで迷宮に入る理由とは?

では、どうしてICOに関する決算処理がここまで揉めてしまうのでしょうか?

(下記は同記事添付の「ICOの会計ルールは未整備で論点が多い」を引用)

20180117_ICOの会計ルールは未整備で論点が多い_日本経済新聞朝刊

仮想通貨自体の会計ルールについては、日本企業の会計基準を策定する企業会計基準委員会(ASBJ)が議論を重ね、昨年12月に公開草案をまとめました。

(参考)
⇒「資金調達のテクノロジー進化 - クラウドファンディングの先にあるICO(新規仮想通貨公開)

しかし、ASBJは、仮想通貨まではルール化しましたが、その先のICOについては会計ルールの制定が難しいと見送り、ICO関連の会計処理に関する判断については、個別ケースごとに、個々の企業や監査法人に任されているのが現状となっています。今回のメタップスの決算短信および適時開示の修正は、その渦中における出来事なのでした。

「ICOでは企業などが「トークン」と呼ぶデジタル権利証を発行。事業に賛同する投資家はビットコインなど流通性の高い仮想通貨で代金を払う。メタップスの韓国子会社の場合、昨年のICOで仮想通貨イーサリアムを当時のレート換算で約10億円調達した。」

これについて、メタップスについては、このICOで受領したイーサリウムなど複数の仮想通貨を四半期決算末時点で時価評価せずに、そのまま取得原価で資産計上し、売却時に簿価との差額を収益認識すること、期末時点で資産計上しているものを時価評価し、処分見込額が取得原価を下回っている場合は、その差額を期間費用としてP/Lで落とすことを想定しています。

この会計処理自体は、先のASBJの仮想通貨に関する会計ルールに準じたものであり、妥当性が高いというか、ルール準拠性が高いと個人的には思います。

 

■ 筆者が本件で一言いいたいこととは?

前章までの経緯について、多少ごたごたしているものの、新しいビジネスモデルが登場して、会計処理ルールがいつも後追いで判断基準を決めていくこと自体は何ら不思議ではないことと思います。会計とは、経営やビジネスの写像であり、会計処理が既に存在してその枠内でビジネスが行われると考えることは因果関係が全く逆ですから荒唐無稽以外の何物でもありません。

そこを問題視しているのではなくて、本記事中の下記の記述を目にして苦言を呈したくなったのです。

「訴訟リスクなどを避けたい監査法人としては、できれば関わりたくない案件。中国や韓国でICOが禁止されるなど世界で規制の動きが広がっていることもあり、一部では監査対象企業にICOを実施しないように求めているようだ。」

会計は、企業経営の適正な写し鏡となって、経営者、一般投資家、企業を取り巻くその他のステークホルダーが、当該企業の会計側面における実態を知る唯一かつ最有力な手段であるべきなのです。それが、会計処理をどうすればいいか分からないから、当該取引を企業にやめてくれとお願いするとか、そういう取引をしている企業の会計監査を避けるなど、言語道断です。こういう記述は、記者の取材中に拾われた現場における愚痴レベルの戯言として受け止めることに致します。そうでないと、一人の会計学の学徒としてやり切れませんから。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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