インクルーシブとダイバーシティの重要性
最近よく目にする「インクルーシブ(inclusive)」と「ダイバーシティ(diversity)」。これは、道徳的な視点からだけでなく、ビジネスパフォーマンスを向上させる見地からも大切になってきました。
各企業が直面する想定顧客層の多様性がますます進み、カスタマージャーニーを考える際に、掴みづらくなっているペルソナ( 商品・サービスを利用する顧客の中で最も重要な人物モデル) 。 年齢、性別、居住地、職業、役職、年収、趣味、特技、価値観、家族構成、生い立ち、休日の過ごし方、ライフスタイル がますます多様化し、変容のスピードも速くなる昨今。
だとすると、均質的なメンバーだけで構成する従業員によるステレオタイプな分析視点だけでは、いち早く顧客ニーズの変化にキャッチアップし続けることは持続可能ではなくなっていきます。
また、多様化する顧客層に対して、一番理解を示すことができるのは、同じ属性を共有するメンバに違いありません。
昔から、餅は餅屋 というではありませんか。
だとすると、「ダイバーシティ」に富んだ従業員にからの意見を120%活用できる「インクルーシブ」なリーダーシップの発揮のされ方こそが、組織のパフォーマンスを最大限に発揮する鍵となると考えるのは自然な流れとも言えます。
インクルーシブリーダーシップとは
従来、こうした顧客層の変化に対し、従業員の持つ属性からなる多様性(diversity)でもって即物的・即興的に対応しようとする試みがいくつか実行されてきました。そのすべてが必ず成功を収めてきたわけではありませんでした。
最近の研究成果により、多様性を誇るチームがきちんと機能するためには、そのための従来型ではないリーダーシップが鍵を握っていることが分かりました。
インクルーシブ(inclusive)を漢語で翻訳すると「包摂的」。平たくいうと、「包み込んであげる」という語感。「インクルーシブリーダーシップ」となると、次のような文脈で用いられることになります。
様々な属性を持つ混成チームを構成するメンバーの誰もが、自分は敬意を持って公平に扱われ、尊重され、チームに帰属し、自信があり、触発されている、と確信することができて初めて、成果を発揮することができる。 「インクルーシブリーダーシップ」 は、そうした混成チームの個々のメンバのパフォーマンスを最大限引き出すことに傾注することで、組織全体のパフォーマンスを最大限に高めるリーダーシップのこと。
では、具体的に何を、どうすれば「インクルーシブリーダーシップ」になるのかを見ていきましょう。
インクルーシブリーダーシップに必要な6要素とは
インクルーシブリーダーシップは、次の6つの特徴をきちんと踏まえたうえで行動する実践的な方法論です。従来の精神論や道徳論とはここが根本的に異なっています。
- コミットメント(Commitment)
- 勇気/謙虚さ(Courage)
- バイアス/偏見認識(Cognizance of Bias)
- 好奇心(Curiosity)
- 異文化適応能力(Cultural Intelligence)
- コラボレーション(Collaboration)
リーダーが「ダイバーシティ」を持つ組織内でリーダーシップをとる際、実践的なアクションプランは次のとおり。
コミットメント
継続実行は難しいからこそ、体現することに周りは共感するものです。
貴方のストーリーを語る
個人的なストーリーは心に響くものです。人前で話すたびに、インクルージョンの大切さをあなた個人の実体験を絡めて何度も話しましょう。
あなた自身と周りを巻き込む
ダイバーシティのターゲットや目標を公言し、同時にその実現に向けて最大限の時間を割きましょう。排他的、あるいはリスペクトのない言動に遭遇した場合、それを止める勇気を持ち、同時にそれを受け流す=許容する、心の余裕も持ちましょう。
勇気/謙虚さ
直訳するから勇気なのですが、内容的には「謙虚さ」のほうがしっくりきます。リーダーであるあなたが自己開示のリスクを取れば、相手の貢献意欲を高めることができます。
完璧な人間はいない
謙虚に間違いを認め、個人の限界をわきまえた言動を心がけましょう。皆が失敗を共有し、学びあえるトライ&エラーが許容される環境からイノベーションは生まれます。あなたが常に正解を持っているとの思い込みを捨て、進んで、他社との協働を持ち掛けましょう。
フィードバックを共有する
部下にあなたの意見ばかり言って、部下の行動に対してのみ部下自身のフィードバックをもらおうとしていませんか。もっと大切なのは、あなた自身の言動に対する部下からのフィードバックを虚心坦懐に受け止めることです。
バイアス/偏見認識
バイアスを持ってモノを見ることはリーダーの弱みになります。
自分自身を知る
自分のバイアスを認識しましょう。自分の言動を統制し、集中力が一番高まり、エネルギーに満ち溢れているときに会議や人事的意思決定の場を持ちましょう。セルフチェックには集中力が必要です。
第一印象
一方的に部下に話しかけていませんか。まず部下の声に傾聴しましょう。あなたの意見を伝えることより、自己のバイアスや盲点についてのフィードバックを得ることを優先しましょう。
好奇心
異なるアイデアや経験が成長を可能にします。
もっと話して、もっと教えて
他社の持つモノの見方・視座に興味を持ち、オープンマインドでそれを受け入れましょう。質問を重ねることで理解を深め、一方的に判断することは避け、あらゆる価値観を尊重しましょう。
プレイバック
相手の見方・視座を深く理解するために、「今の〇〇は、こういうことでしょうか?」という質問をして、相手の話の内容を必ず確認するようにしましょう。
異文化適応能力
全員が同じ文化的フレームを見ているわけではありません。
ひとつから始める
異なる文化について学ぶことを楽しみ、様々なバックグランドを持つメンバと交流する機会を増やしましょう。興味を持てる分野ができれば、そこにまず集中すべきです。 一点突破、全面展開の気持ちです。
Mini-me バイアス
自分と似た属性を持つ人の集団とだけ付き合っていませんか。個人や組織のバイアスをできるだけ少なくするには、可能な限り、自分とは属性の異なる人たちとコミュニケーションを取り続ける努力を怠らないことです。
コラボレーション
多様な考えを持つチームはそれらの個々単体よりも優れている、という前提を置くことが大事です。
最後に話す
会議では、あなたばかりが発言していませんか。リーダーは一番最後だけ発現する、ぐらいの工夫と度胸が必要かもしれません。もっとメンバの声に耳を傾ける姿勢を明らかにしましょう。なんでも聞いてくれるとメンバに安心してもらうことで、チームメンバ一人一人に自分らしさを発揮してもらうことができます。
障害を乗り越えて橋を架ける
人種・性別・国籍など、分かりやすいものだけでなく、メンバー間の緊張関係、母国語の壁、専門用語の壁など、あらゆる障壁の間の橋になるつもりの言動を心がけましょう。そのためには、共通のゴールを持ち、常に「私たち」というメンタリティを忘れないことです。
まとめ
インクルーシブリーダーシップを進めていく際、チームメンバの意識を以下の3ステップの順に高めていくことが重要になります。最終的には、リーダーの心がけを問題にしていますが、その心がけは、チームメンバの高い生産性となって、目に見える成果として、測定可能なものになります。
そういう意味で、インクルーシブリーダーシップを進めていく中で、どれくらいの進捗度なのかは、次のように、チームメンバの心理状況がどのレベルなのかを観察してみると分かるようになっています。
ここで大切なヒントは、第1のステップ、「公平性」と「個人への尊重」をチームメンバが実感しないと、次の第2ステップ、「価値」「帰属意識」を感じてもらうステージはやってこない、ということです。この3ステップは不遡行的です。
いささか、表現は不穏当かもしれませんが、
チームメンバの生産性を高めるためには、ボーナスや論功行賞で小細工するより、何を言っても頭ごなしに否定されないという心理的安全性を高めると帰属意識が高まり、帰属意識が高まると組織への貢献意欲が高まり、結果としてチームの生産性が高まる。
こうした好循環が組織内で機能するようにチームマネジメントをしたいものですね。
みなさんからご意見があればお聞かせいただけると嬉しいです。お気軽にコメント欄へご意見お寄せください。非開示にしたい場合は、お問い合わせフォームもご利用になれます。
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
インクルーシブリーダーシップのすすめ
❶ 多様で変化の激しいマーケットに追随するためにダイバーシティが必要
❷ チームメンバの貢献意欲を引き出すために、インクルーシブリーダーシップ が必要
❸ チームメンバの心理的安全を確保してあげることが第一歩!
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