■ 4番目の会計帳簿 - 「株主資本等変動計算書」
前回まで、登場順に「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」という3つの会計帳簿を説明しました。
今回は、4つ目の「株主資本等変動計算書(かぶぬししほんとうへんどうけいさんしょ)」の紹介をすることになります。まだ基礎編シリーズなので、この会計帳簿の名前にある「等(とう)」に含意されている概念はとりあえず説明を後回しにします。皆さんは、玩具(おもちゃ)屋さん経営のケースで、お父さんから出資してもらった「資本金」を「株主資本」と呼び、その変動(増減)を記録するための会計帳簿だと素直に受け取ってもらえれば十分です。
■ 「損益取引」と「資本取引」の違い
「貸借対照表」の左側に記録してある「資産(財産)」が増減する時に、漏れなく「資産」を増やしたり減らしたりする取引を全て網羅して記録するものを「損益計算書」と呼びました。「損益計算書」にて、「資産」を増やす取引を「収益」、「資産」を減らす取引を「費用」と呼び、「資産」が増えた分を「利益」と呼ぶことを既に習得しました。
「損益計算書」上で、資産の増減取引を記録することで、「利益」を求めるのですが、こうした資産の増減を引き起こす取引のことを「損益取引」といいます。
「損益取引」の特徴として、取引の相手はメインとしては「財・サービス市場」の誰かになることが多くなります。当然、給与の支払いは「労働市場」、利息の支払いは「金融市場」での相手との取引になり、「損益取引」に含まれていますが、通常の会社の商取引においては「財・サービス市場」の誰かが圧倒的多数の取引相手になります。
一方で、上図の一番上の「現金 100万円」は一体どこから来たものなのか、不思議に思った方はいらっしゃいますか? 会社をつくるときに、金融機関(信用金庫)から融資してもらったり、株主(父親)から出資してもらったりして、開業資金を集めたことを覚えていらっしゃると思います。この取引のことを「資金調達」取引といいます。
さらに、「資金調達」取引の中でも、株主(父親)から出資してもらった分だけを「資本取引」のグループに入れることにします。なぜ、株主からの資金調達分だけを「資本取引」として特別扱いするのかというと、「会社法」という法律で「会社」は「株主」のもの、言い換えると、「株主」が「会社」という財産を所有している、という位置付けにしています。「会社」が「財・サービス市場」を中心に「資産」を増やす取引は「損益取引」として、「株主」が「会社」とお金をやり取りする取引は「資本取引」として区別することにします。
こうすることで、「会社」の「資産」が増えたのは、「会社」が頑張って「財・サービス市場」で商売を立派に行った結果なのか、「株主」が「会社」に出資した分だけ「資産」が増えただけなのか、「会社」の持ち主である「株主」目線で、区別しやすくなります。
これは、遠い昔の大航海時代の「財産法」による「利益」計算方式にその由来を持つのです。株主(出資者=王様)が航海を始める前にいくら元手を用意して、航海後に全ての財産を清算した結果、手元にいくら残ったか、手元に残ったお金から元手を差し引きしてこの航海の利益を計算します。この計算が成立するためには、最初の「元手」を「資本取引」として、航海による貿易という「損益取引」とは区別しないと、王様の利益(元手がいくら増えたか)を計算できないという理屈になるのです。
会社の持ち主である「株主」の立場からすれば、金融機関からの融資や、その結果の利息の支払いや借金返済も、自分自身が会社に出資したお金以外のお金の出入りなので、「資本取引」とはみなさないのです。
■ なぜ「株主資本等変動計算書」が必要なのか
大航海時代の王様ならば、通常ケースでは、出資は航海出発前の1回こっきりでした。しかし、産業革命以降、会社は半永久的に続くことを前提として事業が営まれるようになりました。鉄道会社が1回お客様をA駅からB駅に移動させた都度、会社を清算して利益を計算するなど考えられませんから。。。(まあ、現代でもこういう清算をわざとやって儲けを確定することは、JV(ジョイントベンチャー)等、ないことはないですが)
とすると、会社が何年も営業を続けていくうちに、必然的に、株主とのお金のやり取りが発生します。何度もお金のやり取りが発生する場合は、それをいちいち会計帳簿に記録しておかないと、いつか忘れてしまいますから。(^-^;)
① 「出資」:会社をつくるとき、資本金としてお金を出す
② 「増資」:会社をつくった後、資本金を追加するためにお金を出す
③ 「減資」:会社をつくった後、資本金を取り崩して株主に返却する
④ 「配当」:会社をつくった後、利益を取り崩して株主に出資のお礼をする
会社が「利益」を計算する目的として、「経営者に対する業績評価利益の計算」「株主に対する分配可能利益の計算」の2つがありましたが、上記④はこの2つ目の目的に合致するものです。
■ 玩具屋の事例で確認する
では、玩具屋さんの経営のケースから「株主資本等変動計算書」を作成してみます。
一度、「決算」を行って「利益」が計算された「貸借対照表(現金商売)」を再掲します。
このケースで、ひとつ取引を追加します。
- 配当金:10万円を株主(父親)に支払う
そうすると、「株主資本等変動計算書」は次のようになります。
この図を見て、疑問が生じた方のいらっしゃるのではないかと思います。「よく、上場企業なる会社の株式が市場で売買されていると聞くが、こうした株式市場での株券の売買取引はこの「株主資本等変動計算書」には記録されないのか?」
答えは、原則として「記録されない」です。
(細かいことを持ち出すと、株式市場での売買取引に付帯的に条件が付いて、条件次第では記録されるのですが、このシリーズの想定レベルでは例外として無視します)
株式市場で売買されるのは、「株主」としての「権利」です。この「権利」を投資家の間(現在の株主と将来の株主の間)で転売されているだけ、とみなすので、いちいち会社が「株主」間の株券の売買に首を突っ込んで会計帳簿に記録はしないことになっています。
どうしても例外が気になりますか?ではひとつだけ例を説明します。
「会社」自身が「株主」として、他の「株主」と「株券」を売買する時があります。「自社株売買」とか「自己株取引」というやつです。関連して「金庫株」という言葉もあります。「会社」が株式市場から株券を購入して、会社の金庫に入れておくイメージからその名がついています。
しかし、今の世の中、「株券」は電子データとなり、「紙」として保管することは極めて極めて稀に稀になりました。詳細は金融庁のホームページをご参照ください。
(筆者が事業会社に在籍している時代、財務部長の座席の後ろに大きな金庫があり、いろんな有価証券が確かに入っていました。暗証番号はほんの一握りの人しか知らなかったのであります。退職前に聞いたところ、当時はほとんど中身は空っぽになっているということでした)
ここまで、「損益取引と資本取引の区別」の説明をしました。
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