■ 「薄給」と酷評されている日本の経営者の質と量を問う!
日本の経営者には厳しい視線の記事が目についたので、論点をまとめて整理していきたいと思います。日本の経営者を取り巻く環境がそもそも、従来の延長線上では考えにくくなりつつあることを反映しているものと推察しております。
2016/2/25付 |日本経済新聞|朝刊 (アジアVIEW)社長が薄給の国ニッポン アジアは高給で人材確保
「米グーグルの最高経営責任者(CEO)スンダル・ピチャイ氏はこのほど1億9900万ドル(約225億円)の株式報酬を得た。米企業でも屈指の高給とされる同氏と比べては気の毒だが、日本の経営者の給与は国際水準から見て低い。英人材紹介大手、ヘイズの「2016年アジア給与調査」によると、日本の経営トップの報酬は中国、香港、シンガポールのアジア勢と比べても低く、いくつかの国・地域と比べれば半額という水準にある。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
比較基準が単純に年収の多寡だけだと、公平な比較にはならないように思います。
・ 報酬制度(固定給と業績比例給のバランス、現金支給やストックオプション等の形態)
・ 雇用の流動性(短期業績変動結果で絶えず取締役会(指名委員会)での選任リスクにさらされる機会の大小)
・ 就任タイプ(社内昇格か外部招聘か)
・ 法的責任(特に、法定の損害賠償責任の有無とそのリスク低減のための役員保険制度の充実度)
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役員報酬や賠償リスクについてまとめた記事は次の通り。こちらもご参照ください。
⇒「役員の賠償、会社も負担 政府、指針で容認 社外から迎えやすく」
⇒「役員報酬、成長戦略に連動 資生堂は業績を時間差で評価 アステラス製薬、信託方式で動機付け」
⇒「役員も従業員も報酬制度次第でモチベーションが変わります! 日本経済新聞より」
① 責任の大小と報酬の大小のバランスが取れているか
② 雇用の流動性に伴う失業リスクが反映した報酬金額になっているか
が本件を評価する大事なポイントではないでしょうか。
ここで、結論めいたことを既に言ってしまいますが、高い報酬には高いリスク(①業績比例報酬、②法的賠償責任範囲の拡大、③業績悪化に伴う解任可能性)が伴います。日本企業の役員報酬が相対的に、アジア圏の国々に比べて、絶対額で劣っていても、雇用が安定し、役員退任後も、顧問や関係会社の役員に天下りなど、ほぼ生涯雇用が担保されているなら、それ程、見劣りするものではないのではないか、という意見にも一理あるかと思います。
■ 日本企業の社長は本当に「薄給」なのか?
記事ではアジアと日本企業の比較分析が続きます。
「ヘイズがアジアで事業展開する多国籍企業の最高財務責任者(CFO)の給与を比較したところ、シンガポールは2660万~5150万円、香港は2130万~4570万円、中国は1810万~4520万円で、いずれも日本の1500万~3000万円を上回っていた。
エレクトロニクス業界では、中国のCEOが年400万元(約6950万円)、日本のCEOは3500万円と2倍のケースもあった。」
購買力平価でみると、倍半分の違いがあるように見受けられます。
「「日本はもともと経営者に重きを置いていない」と長内厚・早稲田大学准教授は語る。日本のエレキ産業は昔から技術が付加価値を生むという考えがあり、経営手腕はさほど重視されてこなかった。大事なのは「ウォークマン」やハイビジョンテレビなど商品であって、経営判断に高額報酬で報いるという発想は薄かった。ソニーに10年いた長内氏はこうみる。」
おっと、出ました。おきまりの経営者不要論。藤本隆宏教授がおっしゃるように、日本企業は、「現場一流、本社は三流」という論調に従えば、このような説明にも頷けます。
「だが、今、家電量販店に並ぶデジタル家電では、企業間の技術格差は大きくない。勝敗を決めるのは、似たような技術水準のもと、商品をいつ、どこで、どのように仕立て上げて売るかという経営判断だ。
技術へのこだわりはシャープでも垣間見える。かつて競合他社を上回る「コア・コンピタンス(優位性)」だった液晶事業が、今や「コア・リジディティ(硬直性)」となっている。「シャープに必要だったのは液晶オンリーにならないように注意を払う経営者だった」と長内氏は見る。」
確かに、事業ポートフォリオの決定権限とその結果責任は経営者にあるといえます。しかし、世の中には、特に電機・機械産業を中心に、「選択と集中」というキャッチコピーがはびこっているではないですか。シャープの液晶、東芝のメモリと原子力など、結果が悪ければ経営者の眼力・力量が問われ、一方で米GEのジャック・ウェルチ氏の「No.1、No.2戦略」はもてはやす。そのダブルスタンダードに耐え得る肝っ玉、懐の深さが経営者には必要なんでしょうね。
■ 社長だけでない。我々の働き方・仕事のスタイルまで問われている!
しかし、記事ではどうも社長業だけがやり玉にあがっているわけではないようです。
「さて、日本を見限り、自分の手腕をアジアで試してみたいという人がいれば、いくらの報酬が期待できるか。役員一歩手前の部長クラスで比較しても、アジア企業は魅力的に映る。
ヘイズによると、中国の自動車産業なら研究開発(R&D)部長に120万元(約2080万円)支払うこともある。医療・製薬ならグローバル企業が相次ぎ参入するシンガポールがお勧めだ。規制当局との折衝を担う部長なら最大24万シンガポールドル(約1950万円)だ。日本企業なら役員クラスの待遇だ。
無論、言葉の壁などハードルはある。報酬の多寡より安定性や大企業に勤める社会的ステータスを重視する傾向がある日本人の価値観もその一つだろう。そんな発想もいつか変わり、給与格差が国境を越えた人材流動化を促す時代がくるだろうか。」
社長より高い年俸の一流プレイヤー。最近はIT企業を中心にそういう事例が増えています。しかし、そのことを議論するには、はたまた2つの視点が必要になります。
① 日本企業の雇用慣行は「就社」か「就職」か?
② 経営者も「マネジメント」という専門家という見方が成立のか?
(参考)
2016/2/17付 |日本経済新聞|朝刊 ゼミナール)変わる労働規制(10) 日本の良さ残し労働移動促す
「日本の雇用システムは基本的に、職業でなく会社を選んで就職し、人事異動を受け入れて長期継続雇用される「就社型」だ。」
「「就社型」は日本企業の強さの源泉だ。ただ、長期継続雇用が成立するには、年齢や熟練に応じ昇給できる経済成長や、人口増で若い働き手が増えること、夫が働き妻が家庭を守る「片働き」の家族モデルなどが条件となる。これらが崩れ、様々な問題が生まれ始めた。産業構造やニーズが変化しても企業が雇用を最優先で守るため、不採算事業が温存され、収益性が低下して賃金下落の原因にもなってきた。」
(下記は、同記事添付の「就社型」か「就職型」かの比較表を転載)
ズバリ、「就職」型ならば、社長より高い給与で、専門スキルと経験を買われて、雇われるという形もあり得ます。しかし、「就社」型のイメージしか持ちえない企業では、社長より高い給与など、とんでもない、ということになります。長期雇用慣行の中、出世すごろくの上がりが「社長」で、社内固有情報(商品知識・社内人脈など)を身に着けることで仕事がこなせるのだ、という前提条件では、年功序列的な給与体系で、より上のポスト(職位)の人の方が給与が高いのは、至極当然な労働環境となるからです。
また、経営職が、「マネジメント」という専門職である、という見方も存在していないと、社長の給与より高いプレイヤーの存在は許せなくなります。日本以外(本当にこういう分類があるのか分かりませんが)の国・地域では、「マネジメント」のプロとして経営者を外から招聘してきます。当然、「マネジメント」の専門家としての労働市場での時価が給与に反映されます。
ファンドマネージャーや、先進IT企業のCTO職など、業績結果が目に見えるもので、定量評価でき、かつ高い専門性が必要とされ、転社してもそのまま継続して活用できるスキルである場合、いち「プレイヤー」であったとしても、その専門職に当然の報いとして、雇う側より高い報酬が約束されることに、何ら拒絶反応は無いと思われます。
ベン・ホロウィッツ氏もその著書の中で触れていますし、その他の名経営者と呼ばれている人の中には、堂々と、次のような趣旨のことを言いきっている人がいます。
「自分より賢くて稼ぎがいいやつを、自分より高い給与で雇った方が何倍もいい。できの悪い自分ができることなどほんの一握りのこと。できるやつに思いっきり能力を発揮してもらって、その上がりを会社がもらえる方が簡単に儲けることができるのだ」と。
あなたの会社の社長(経営者)はいくらの年俸をもらっていますか? そしてその報酬に見合った結果を発揮しているでしょうか? 筆者は、立場上(経理部所属だったりと)、歴代自分が勤めた企業の経営者の年収をずっと知る立場にいました。筆者の評価ですか?
それは言わぬが花、ということです。。。(^^;)
(参考)
⇒「ソフトバンクのアローラ氏 600億円分の自社株買い 長期関与の意思明確に」
その前に、アローラ氏は165億円もの報酬で引き抜かれたのですが、、、
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