ちょっと怪しい正しく統計データを扱う素養
ちょっと、ナショナリズムをくすぐる記事があったのですが、違和感があったのでブログで感想を述べることにします。最近、ビッグデータとか、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:証拠に基づく政策立案)とかが声高に叫ばれています。では、こうした国際比較の統計データを見る目から養うことにしましょう。
2019/12/4|日本経済新聞|朝刊 日本の15歳の読解力、過去最低の15位 OECD学力調査 科学・数学は上位維持
経済協力開発機構(OECD)は3日、世界79カ国・地域の15歳約60万人の生徒を対象に2018年に行った学習到達度調査(PISA)の結果を公表した。日本は読解力で前回の15年調査の8位から過去最低の15位に後退した。科学的応用力は5位(前回2位)、数学的応用力は6位(同5位)となり、それぞれ順位を下げたが、世界トップレベルは維持した。
同記事添付の「日本の国際順位」を引用
2015年からPISAは、パソコンで入力する方式に試験方法が変わったそうで、文科省の説明によると、「機器の操作に慣れていないことが影響した可能性がある」だそうです。そういう了見だから、大学入試の英語試験に民間試験制度を導入する試みが失敗するのです。現場をきちんと見て発言しているのでしょうか。まったく。^^;)
そしてこの記事は、次の言葉で締めくくられています。
18年調査によると、日本では教室で実施される1週間の授業で「デジタル機器を利用しない」と回答した生徒は、国語で83%、数学で89%だった。比較できるOECD加盟国の平均を30ポイント以上も上回り、デジタル活用が進まない日本の学校の現状を示している。
まず、統計分析として、次のような推論がなされているように見受けられます。
- 読解力の国際順位が落ちた
- 2015年からパソコン入力に試験方法が変わった
- しかし、日本の教育現場には、デジタル機器の導入が遅れている
- だから、読解力を上げるためには、教育現場にもっとデジタル機器を活用すべきである
いやあ、教育現場に必要なのはハードウェアではなくて、ソフトウェアでしょう。誰ですが、本当はデジタル機器の中のソフトウェア大事だという人は? 一応、ソフトウェアが組み込まれているハードウェアであるデジタル機器(ガジェット)ということでここは勘弁してください。
私が言っているソフトウェアは、それを教える教師に対する教育や、ガジェットの効果的な使い方をトレーニングするカリキュラムやアプリという意味です。^^)
ちなみに、表題の「母集団」云々は、正確には、母集団から適切にサンプル(標本)を無作為抽出(完全にランダムな抽出)することが必要で、単純に60万人を対象にしたからといって、それだけで、日本の15歳と諸外国の15歳の学力を相対比較はできないということです。それが統計的推定というものだからです。
何をもって異常値=問題と考えるかの理由をまず知ることが大事
同日の日経誌面は関連記事が多数取り上げられており、こちらにも目を引く表が掲載されていました。
2019/12/4|日本経済新聞|朝刊 日本の15歳の読解力、過去最低の15位 OECD学力調査 科学・数学は上位維持
今回重点分野となった「読解力」の日本の得点は504点(前回15年は516点)、参加79カ国・地域中の順位は15位(同8位)だった。OECD加盟国の平均得点は487点。
同記事添付の「上位になった国・地域」を引用
個人的には、標本サンプルの取り方に疑義がある国際間の相対順位より、暦年の変化という側面でも、読解力が516点→504点に下がったほうにフォーカスして、要因分析をしたほうがいいと思います。
こちらの記事は次のような言葉で締めくくられています。
OECDのシュライヒャー教育・スキル局長も「日本の成績は記述式問題で顕著に下がっている」と注意を促す。同時に「日本の15歳は、情報の真偽が不明なデジタル世界の複雑な文章を読む経験が不十分なのかもしれない」と指摘する。
国立教育政策研究所によると、PISA3分野の成績は連動するのが普通で、読解力だけが低下している日本は異質。要因の詳しい検証が待たれる。
ここから、内外の教育専門家の目線でも、「読解力」だけがこれほど低下するのは、他の評価項目との相関分析から明らかに異常であるという気づきがあったということが分かります。でも、大事なのは、そこから原因を見出し、そして、解決策を導き出すこところまでもっていくことです。
ちなみに、この記事には問題文(イースター島でのフィールドワーク)が添付されていますので、気になる方はそちらをご覧ください。
さあ、この論調はどこに読者の関心を持っていきたいのか?
さらに、関連記事はこのように続きます。
2019/12/4|日本経済新聞|朝刊 学習でのIT機器活用、加盟国で最下位 「利用せず」大半
同記事添付の「1週間のうち教室の授業でIT機器を使う時間(国語)」を引用
コンピューターを使って宿題を「毎日」「ほぼ毎日」する生徒は日本で計3%で、加盟国平均の22.2%を大きく下回った。「学校の勉強のためにインターネット上のサイトを見る」の割合も6%と最低だった。
一方、学校外で「ネット上でチャットをする」「1人用ゲームで遊ぶ」の頻度が「毎日」「ほぼ毎日」はそれぞれ87.4%、47.7%で、加盟国中で最高だった。
文部科学省の担当者は「日本の学校では教科書を使った指導が浸透し、IT利用が広がっていない。機器の整備を進め、授業例を広げていく必要がある」としている。
記事もしつこいですが、私も負けず劣らずしつこい性格をしています。だから、ハードウェアの設備投資額が不足しているのではありません、と繰り返しここでも強調しておきます。
ということは、学生はガジェットを使いこなせるけど、本気でガジェットを教育現場に持ち込めていないのは、大人の方(現場の教員なのか文部科学省なのかはおいといて)なんですかね???
前日の夕刊でこういう記事を載せていましたよね。
2019/12/3|日本経済新聞|夕刊 (話題の株)内田洋行、教育事業好調 業績上振れ期待 学校PC「1人1台」追い風
2日の東京株式市場で、内田洋行株が20年ぶりの高値をつけた。大引けで前週終値に比べ705円(16%)高となる5240円と、制限値幅の上限(ストップ高水準)になった。小中学校向けのICT(情報通信技術)分野が好調で、11月29日に発表した2019年8~10月期決算が大幅増益となった。今後の業績上振れを期待した買いが個人投資家から集まっている。
投資家から注目を集めたのは、同記事で次のように分析されています。
政府が学校の生徒1人に対して1台のパソコンを使える環境を整える方針を明確化していると、11月中旬に伝わったことも追い風になった。2日はチエルなど、小中学校向けにICTサービスを展開する銘柄に幅広く買いが向かった。
ちょっと、こういう12/3、12/4の記事の一連の流れはなんか意図を感じてしまいますね(これ以上は、顕名のブログなので言えませんが)。
企業側はどんな教育を期待しているのか
最近、超高年収新人採用とか、スカウト型採用(逆に、企業側がサイトに登録してある就活生にアプローチや仲間を紹介してもらう形態の採用方法)を取り上げた記事をよく目にするようになりました。なんでも最初に取り組むことで有名なソニーの件と経団連の件を下記に紹介しておきます。
トラッキング・ストック、執行役員制度、カンパニー制度。いつまでもソニーには日本企業の先駆者であってほしいです。
2019/11/20|日本経済新聞|電子版 ソニー、IT人材に年収1100万円超 4割増で底上げ
2019/12/4|日本経済新聞|朝刊 経団連、デジタル人材獲得狙う 日本型雇用見直し訴え
中国や米国に新人だけでなく、エキスパートも採り負けていることは分かります。でも、採用条件だけを別口にした弥縫策だけでは早晩立ち行かなくなることは明らかです。
そういう意味では、同夕刊の火曜日の次の連載は毎週読むのが楽しみで仕方がありません。目からうろこですよ!
2019/11/26|日本経済新聞|夕刊 (就活のリアル)超高年収新卒採用の課題 エリート選抜の根拠甘く 海老原嗣生
日本の甘い甘い採用慣行の中に、形だけ欧米要素を取り入れてもうまくはいかない。こうした奇をてらう学生集めは、毎年打ち上げ花火として耳目を集め、しばらくすると消えていく。
雇用関連を見つめてもう30年になるが、いつもながら感じるのは大企業の人事は流行ものに弱いということだ。学歴不問採用、一芸採用、異能人材など一風変わった採用で耳目を集めたケースは多々ある。ただ、そんな小手先の施策は、決して良い結果は残していない。
そして、日本がよく真似をする海外の実情の説明があります。
まず、こうしたエリート採用の本場、欧米ではそもそもの学業システムが異なる。企業の寄付講座が開講され、そこに企業の実務者が来て実務を教えている。その過程で自社の仕事に似つかわしい優秀者を時間をかけてしっかり選ぶことができる。
つまり、企業側が欲しい人材を教育してもらうためには、学校側の教育システムそのものを見直す必要があり、採用条件という入り口だけの問題では解決しないということになります。
教育は、先に知っている人からではなくて、先に知っていることを教えること
先に知っている「人」が先生ではなくて、知っている「こと」を知らない人に教えるという環境が大事だということです。私は、(一部では悪名が高い!?)慶応義塾大学総合政策学部(SFC)の1期生です。「先生」は福沢諭吉先生おひとりで、あとは、学友同士、「〇〇君」と呼び合い、互いに知らないことを教えあうのだ、と塾生風を吹かせたいのではありません。
やっぱり、知っている人がきちんと教えないといけない、というシンプルに考えているだけです。私は、この年齢で一念発起して、英語を再学習(リカレント教育って響きがいいですよね)しているのですが、ちゃんとネイティブに教えてもらっています。日本語が分かるネイティブなので文句ありません。
M&AやSAPのインプリをやったこともないコンサルタントに、M&AやSAPのインプリを頼むの恐ろしくないですか?
これで最初の話にやっと戻れます。もし本当に、読解力が落ちた理由がデジタル機器の操作に真因があるのだとしたら、今の教員に無理やり教えさせるのでも、デジタル機器をやたらと配布して無駄な文教予算を使うことが正解ではないと思います。
ちゃんとデジタルができる人を、教員免許の有無や国籍に関わらず、先生として雇用して、生徒にあてがってあげるべきです。それこそ、企業人がどんどん教育現場に出て行って教えてあげればいいと思います。
どう考えても、デジタルデバイドされたジェネレーションより、デジタル・ネイティブの若者に後輩を教えてもらうほうが得策です。餅は餅屋ですから。
幸運なことに、私はSFCで、おそらく日本でもごく最初期に、何でもない一般学生が情報処理を学べた貴重な環境に巡り合うことができました。そのおかげで、いみじくも100%独学でこのブログサイトを運営できています。まあ、テクニカルには稚拙なトコロだらけですが、、、^^;)
実は何を隠そう、あの日本のインターネットの父(のひとり)である村井純教授に、ずぶの素人の自分がUNIXマシンで、まずshell(シェル)を開くところから教わる幸運を得ることができました。こういう経験が後々、文系だけれど、情報処理(IT)の独学の楽しさ、知識を増やす快感を覚えるきっかけになるのではないでしょうか。
私の村井先生に対する最初の質問が、
「先生、画面が真っ黒になってしまいました。どうしたらいいですか?」
村井先生:
「あー、前の席の人の椅子が引っかかって、モニタの電源が抜けていますね」
30年以上経った今でも鮮明に覚えていますよ。こんなものです。誰でも最初は。まあ、今でも、ときどきPC画面がフリーズして、いちいち秘書の方に聞いていますが。。。^^;)
それから、37歳になるまで、モバイル(当時はまだガラケー時代)を持ったことがありませんでした。当時の勤務先から配布されたのがPHSですからね。各部門の担当者の内線番号を登録するのにも四苦八苦していました。。。^^;)
立場や国籍、年齢や性別を問わず、知っている人が知っていることを知らない人に丁寧に教え、その人から自分が知らないことを謙虚に教わるというのがソクラテスの時代から教育の根幹ではないでしょうかね。
みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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