本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

値決めと管理会計

管理会計(基礎)
この記事は約6分で読めます。

■ 「値決め」こそ「経営」なり

管理会計(基礎編)

前回」まで、「意思決定会計」の分野の説明をしてきました。今回からは、厳密には「意思決定会計」に含まれるのですが、特に重要と筆者が考えたため、別出しした「値決め」について説明を始めていきたいと思います。筆者の頭の中にある管理会計の領域整理を再掲します。

管理会計(基礎編)_管理会計領域3

筆者の敬愛する経営者の一人、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏の言葉に、「『値決め』こそ『経営』なり」というものがあります。自社の愛する製品・サービスの値段をいくらにして、大切なお客様に提供するか、会社経営にとって最重要課題のひとつではないでしょうか?
そこで、まず「値決め」に「管理会計(的思考とそのツール)」がどこまでお手伝いすることができるか、説明する前に、そもそもマーケティング学の分野にて、どのように「値決め= Pricing」をするように定義されているのか、マーケティング学における知恵を、おさらいしてみたいと思います。
フィリップ・コトラー先生的には、なにせ「4P」筆頭の「Price」ですから、、、

 

■ マーケティングにおけるPricingの方法

マーケティングの大家の教科書は世にいくつも出回っているので、あくまで下表は、管理会計との関連での整理にすぎませんので、その点ご了承ください。

管理会計(基礎編)_プライシングの類型

1.競争的プライシング
これは、筆者の経験値にすぎないのですが、マーケティング部門の方が、これらの手法をお使いの際に、十分な計数データが管理会計部門から提供されているケースは稀であるような皮膚感覚を持っています。
例えば、「スキミングプライシング」を採るときには、早期に回収すべきとしている「先行投資額」はどのように定義するのでしょうか?どのステージの研究開発費から算入すべきなのでしょうか?量産工場のライン新設費用は含めるのでしょうが、ラインの補修費用は回収対象からは除くのでしょうか?
また、「ペネトレーションプライシング」の場合には、製造(または販売)コストぎりぎりまで価格を下げる必要がありますが、将来販売する商品の製造コストや販売コストが予め分かっていることは極めて稀です。量産中に、経験曲線効果が出て、製造コストが当初見積もりより低減する分はどう考慮しましょうか?
別に、言いがかりをつけているのではなく、筆者の実務経験から、マーケティング部門と管理会計部門とはもっと密接なコミュニケーションが必要と言いたいだけでした。

2.コストプラス型プライシング
このタイプのプライシングの難点は、次の2つです。
まずひとつ目が、「あるべき想定マージン」はどうやって計算されるのでしょうか?例えば、中期事業戦略で社内外に約束したROEを達成するため、新規投入製品の利益率が○○%ないといけない、等とストーリーを描いて設定されることはありがちですが、その場合は中計期間中に一体何個販売されるのか、販売数量次第で利益額が変動してしまうので、マージン率自体を軽軽に設定することは困難なケースが多いと思われます。
また、コストの方ですが、回収すべきコストの範囲が常に議論の的になります。本社管理費用は除外しますか?全社基礎研究費用は除外しますか?そうすると、自ずと営業利益ベースではなく、売上総利益ベースの議論になります。そうなると、次は、製造固定費は想定しますか?生産及び販売数量次第で製品単位当たりの固定費負担額は如何様にも変動しますので、予め、回収すべき製品単位当たり固定費を算定することは至難の業です。

3.バリュープライシング
最近一番流行っている(と思われて、コンサルティングサービスでも引き合いが多い)やり方です。バリューエンジニアリング(VE)で、製品をバラバラにして、ひとつひとつの構成要素がどれくらい顧客に使用価値や所有価値をもたらしているのかを分析し、その価値に見合った価格を付けようとするものです。ブランド品の宝飾品・皮革品は、ロゴと値段そのものが所有価値を生み出しますし、電動ドリルはユーザの思い通りの穴をあけることに使用価値があるのでしたね(レビット先生の有名な言葉なので、ご存じない方は「レビット ドリル」でググってみてください)。
ちょっと、コンサル的に、価格と価値のマトリックスを作成してみましたのでここで披露しておきます。

管理会計(基礎編)_バリュープライシングの例

実は、ここまで来ると、バリュープライシングの規(のり)を超えて、「1.競争的プライシング」に抵触してしまいかねません。それでもあえてこの表を出したのは意図があって。。。何が言いたいのかというと、上記の分類はあくまで頭の整理のためのものであって、現場現実は常にその組み合わせと応用が行われているということ。コンサルがさも全知全能のようにあるフレームワークを示したとしても、実際はそんな教科書通りには進みません。賢明な皆さんは、自分の頭で考えることを決してやめないでください。

 

■ 管理会計のツールのお役立ち度

では、「値決め」に対して、「管理会計」がどこまでお手伝いできるのか、管理会計ツールを類型化したものを下図のように示します。

管理会計(基礎編)_値決めする際に使う管理会計ツール

まず、「収益(売上)」のみを計数分析対象とするか、「コスト」まで考慮するかで大別されます。「コスト」を考慮する場合には、1年に1回来る決算上の「会計的利益=期間損益」ベースで損得を考える場合と、値決めをしたい対象の商品・サービスの生涯獲得収益と生涯必要コストの総計で損得を考える場合にさらに細かく分類できます。

1.売上方程式
どういった販売要素(チャネル、顧客セグメンテーション、価格、販売形態等)で収益が上がっているか、要素ごとにキチンと数字で分析し、次の販売機会の値決めに反映しようとするものです。

2.原価管理
販売前は、想定コストを積み上げて、コストプラス型プライシング的に、販売価格を割出します。販売後(量産開始後)は従前の想定コストが思惑通りになるようにコントロール(原価統制)を行います。

3.ライフサイクルコスティング
広義な意味で使用し、「原価企画:構想・設計段階にて総コスト(製造・販売)を作り込むこと」を含めた概念として扱います。製品ライフサイクル(企画・設計・量産・収束・廃棄)にわたって、総ての収益とコストを集計して採算を見るものです。例えば、原発の場合だと、建設前に廃炉費用も全て考慮するということです。

あくまで親和性の高い組み合わせという意味では、
「1.競争的プライシング」には、「売上方程式」と「ライフサイクルコスティング」、
「2.コストプラス型プライシング」には、「原価管理」、
「3.バリュープライシング」には、「原価企画」
となりますでしょうか。
「次回」以降、「売上方程式」から順に内容を紹介していきたいと思います。
ここまで、「値決めと管理会計」の説明をしました。
管理会計(基礎編)_値決めと管理会計

コメント