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丸紅、原油安で損失1600億円 今期純利益48%減(2)

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■ 減損と資産価値の関係

経営管理会計トピック
前回」は、丸紅が減損損失を認識せざるを得なかった理由と、減損損失が認識される会計的数字の動きを説明しました。「今回」は、減損損失の金額をどうやって把握するか、という視点で説明していきたいと思います。

2015/1/27|日本経済新聞|朝刊 丸紅、原油安で損失1600億円 今期純利益48%減

2015/1/27|日本経済新聞|朝刊 丸紅、海外投資戦略に狂い 1600億円減損、資源・穀物で二重の打撃

2015/1/27|日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)減損処理 帳簿上の価格を引き下げ

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「前回」、<事例1・2>にて、油田権益を買った場合のケースで、減損損失を認識する会計的メカニズムを説明しました。
実は、これは、「資産」価値についてどういう見方をするか、という会計的思考法に関係しています。
前回の事例を思い出してください。あなたは、油田を100億円もの現金を支払うことで購入しました。「取得するのに支払った金額が100億円だから、その油田は100億円の資産価値がある」という考え方がクラシック会計的な考え方で、「取得原価主義」といいます。
これに対して、「あなたの油田は、将来、200億円の収入をもたらすと考えられている。したがって、現在、この油田を売買するとしたら、200億円の値段がつく可能性が一番高い。だから、あなたの油田の資産価値は200億円である」という考え方が、最近流行の会計的な考え方で、「公正価値主義」といいます。
減損会計は、基本的に、「公正価値主義」に基づいた会計処理になります。IFRSや米国基準がそんな感じになっています。一方で、日本基準は、「取得原価主義」を原則としていながら、IFRSと考えを合わせていきましょう(コンバージェンス)という方針で会計ルールを修正し続けており、そのため、木に竹を継いでいる感じになっているので、日本基準で減損処理する場合は、IFRSに比べてめんどーな手続きになっているのが現状です。

■ 減損金額の計算をやってみる

まず、日本基準とIFRSの違いを感じないよう超簡単に説明します。
(専門家の方々、分かりやすい説明のための汎化をお許しください)
<事例3>
・あなたは、油田を100億円で購入し、貸借対照表にそのまま100億円と記帳しました。
・そして、会計期末を迎えたので、その油田の資産価値がいくらになっているか、「減損テスト」を行うことになりました。
減損テスト Step1:資産の帳簿価額と回収可能価額とを比較し、減損の兆候を検知すること(日本)
減損テスト Step2:資産の帳簿価額と公正価値とを比較し、減損損失を測定すること(日本/IFRS)
日本は2段階、IFRSは1段階。ここで省略・汎化なのです。IFRS流で説明します。
「公正価値」を調べるには、方法は2つ。
① 売却可能価額:その油田をいま売却したとしたら、いくらの買値がつくか?
② 使用価値:その油田でビジネスを続けたら、将来いくらのキャッシュがトータルで稼げるか?
下図をご参照ください。
経営管理トピック_減損テスト
「売却可能価額」:大富豪があなたの油田を70億円で買ってくれるといいました。
「使用価値」:あなたの油田が、可採年数3年の間に稼ぎ出すであろう収入合計は81億円となりました。
※ 81億円は、20億円、30億円、40億円といった毎年の収入を、割引率5%で現在価値(NPV)に置き換えたもの。
帳簿価額の100億円と、70億円および81億円を比較し、高い方の81億円と比べて、あなたの油田の現在時点の資産価値(公正価値)が、帳簿価額より19億円低いことが分かりました。
そこで、仕方なく、帳簿価額の100億円を、81億円に下げることにしました。この差分の19億円を損益計算書にて、「減損損失」として計上することになります。
ここで、前回の丸紅の減損損失の理由原因を今一度ご確認ください。
① ガビロン社の利益計画が未達
② 原油・銅・石炭価格の下落
③ 原油採掘コストの上昇
いずれも、「売却可能価額」か「使用価値(割引現在価値)」が下がる方向の理由になっているはずです。
新聞記事内で、
「開発にあたり丸紅は実際の採掘作業には携わらず提携先に任せている。「昔からのパートナーで油断があった」(国分文也社長)ことで採掘費用が想定より膨らんだ。そこに原油安が重なり損失計上に追い込まれた。」
「中国を中心に販売が伸び悩み、ガビロンの今期の利益は計画を50億円下回る100億円にとどまる。買収額が高額だとの指摘はかねてあったが、国分社長は「結果としてそうだった」と見通しの甘さを認めた。」
と、国分社長の反省の弁がありました。いずれも、「経営判断」という名の「将来損益予測」の精度の問題であることが分かります。では、この将来予測が外れたり、当たったり、経営者は「予想屋」にすぎず、一度買ってしまった資産から発生した「減損」はどうにもすることができないのでしょうか? そして、IFRSと日本基準とで、この経営判断について何か取扱いに違いはないのでしょうか?

■ 減損発生かどうかを評価する単位

2015/1/21|日本経済新聞|朝刊
シャープ、スマホ液晶4割減産 中国向け販売低迷 亀山第2

「シャープが減産するのは亀山第2で生産する省エネ型パネル「IGZO(イグゾー)」。昨夏までは小米(シャオミ)など中国スマホメーカーへ販売が好調だったが、最近は競争が激化し在庫が膨らんだ。同工場の中小型液晶の生産量をガラス基板の投入ベースで1日あたり1200枚(スマホ換算で60万枚)から700~800枚に落とす。生産調整の期間は中国スマホ向けの販売量や在庫水準によるが、当面続ける。
工場の稼働が極端に落ちると減損処理を迫られる可能性があるため、亀山第2では空いたスペースでテレビ向けパネルを生産する。ただテレビ向けは利益率が低く、収益貢献は限られる。工場の稼働率も昨年12月の9割から7割程度に落ちる。」
この記事から、シャープ亀山工場は、工場単位で「減損テスト」が行われていることを示唆しています。そして、減損損失を回避するには、亀山第2工場では生産する品目を変えて、工場の稼働率をどうにか維持して、「使用価値」が下がることを回避しようとしています。
減損テスト対象の資産や資産グループのくくりは、具体的に法定の定義があるのではなく、「独立した将来キャッシュフローを生み出す経済単位」として合理的かどうかを判定するだけです。したがって、遊休資産や共有資産の取り扱いについては、その場その場の判断になります。
この減損テストの対象の選定、テスト対象の減損回避のための施策如何によっては、経営者は減損発生を回避することができます。ここは、経営者の腕の見せ所といったところです。
とはいえ、油田や銅鉱山は、それぞれひとつずつを減損テスト対象とせざるを得ません。あとは、共用資産をどう織り込ませるかです。
ガビロン社買収における「のれん」については、ガビロン社の連結P/Lの利益だけで、減損評価していいのか、逆に疑問です。というのは、既存事業との海外販売網の統合など、事業シナジーを目的として買収を決断したはずです。事業シナジーを発揮させる予定だった経済単位での減損評価の方が適切のような気がします。それでも減損を認識せざるを得ない、ということなら、そこで完全に買収失敗といえます。

■ 日本基準のわずらわしさ

減損認識は、実に経営者の経営判断次第でどうにでも左右されてしまいます。
(別に粉飾し放題といってはいません。工夫の仕方で何とかできる裁量の余地があるということです)
ただし、日本基準は、ちょっと四角四面なところがあって、取り扱い要注意です。
① 減損の兆候があるか否かの判断の際、帳簿価額の概ね50%以下という数字尺度があります。49%ならOKということです。一定の数字で線引きするのは、、、
② 将来キャッシュフローを計算する期間について、「経済的残存年数:その資産を使ってビジネスをする期間」」と20年のいずれか短い方で計算することになっています。
③ 将来キャッシュフローには、「支払利息」と「法人税」は含まれていません。これは、通常の固定資産の使用・処分から発生するものではないからという理由です。
これらは、経営者の判断というより、客観的な数字基準や、取得原価主義の考え方を優先しているので、クラシック会計学そのものの考え方です。本質的にその「資産の経済価値は?」という問いに真剣に答えていないと筆者は考えています。
ちなみに、丸紅はIFRS任意適用会社なので、念のため。

■ 公正価値をどこまでも追い求めるIFRS

一方で、IFRSの場合は、
① 対象の資産の減損テストを毎年行うという決まりがあるだけ
② むしろ、経営者の判断で、将来キャッシュフローの予測を最短5年は必ず行うべし、6年目以降は、一定の成長率で将来キャッシュフローを仮置きしてもよい
③ 過去に減損処理してしまった資産の帳簿価額でも、再評価することで、公正価値が再び増えたと認められる場合は、その分の帳簿価額を増やすことができる。
(→ 減損損失の戻し入れが認められている)
という感じで、経営者の経営判断が最重要である、という姿勢を貫いています。
ちなみに、再評価で切りあがった資産価値の増分は、「その他の包括利益」扱いとなり、「純利益」より上の損益計算書には関係ありません。
親心で客観的数字判定基準を与えてくれ、経営者を子供扱いする日本基準、逆に、経営判断を優先して、減損も戻し入れについても、あくまで資産の「公正価値」を推し量ることを経営者に促そうとするIFRS。
会計ルールひとつとってみても、その文化圏において、組織運営の中で何を最優先事項とするか、経営者の力量をどこまで信じるのか、が垣間見られるようで、大変興味深いものです。

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