■ 株価ではなく、企業価値を追求 強い企業への長期厳選投資
2015年4月21日の日本経済新聞朝刊の全面広告に、3月に開催した農林中金インベストメンツの設立記念セミナーの模様を広告の形で紹介されています。
⇒「農林中金バリューインベストメンツ株式会社のホームページより掲載広告」
ここで取り上げるのは、従来のROE一辺倒の投資スタンスから一線を画す同社の投資哲学に一理あると筆者が考えるからです。当社の投資姿勢は、流行に迎合せず、企業価値と真摯に向き合う形が自然と表現されていて、かなり共感ができます。
(本ブログでは、特定の金融商品・投資会社・投資助言会社を推奨する意図はありませんので、個別の商品・会社の詳細な解説や漫然とした紹介は致しません)
■ 盤石な財務は事業の成長と表裏一体
まず、信越化学工業:金川千尋会長の特別講演から講談内容から筆者が唸った箇所を抜粋させていただきます。
「持続的な成長を目指すためには、盤石な財務が必要である。会社の存亡にかかわるような投資を借入金だけで行うべきでない。」
「自己資金なら資金調達に余計な時間とエネルギーを費やす必要がない。」
これは、「持続可能成長率」の式を理解していると、このセリフの重みがより実感できます。
企業の成長を示す指標として仮に「売上高成長率」を採用したとします。売上を伸ばすには、また伸びた後、その事業を継続させるには、運転資金も同様に膨らんできます。その運転資金はどこから調達してくるか? 不安定な外部調達に頼ってしまうと、資金が目詰まりしたときに、成長機会そのものを損なってしまいます。したがって、中長期的に企業成長を安定的に達成するには、資金は内部調達(株主資本の成長)する方が適切です。
「持続可能成長率」をgとすると、
g = (株主資本の変化額)÷(期初株主資本額)
= ((1 - 配当性向)×当期純利益)÷(期初株主資本額)
= (利益内部留保率)× ROE(期初)
したがって、企業成長を決めるのは、配当性向と期初株主資本額をベースにしたROEということになります。
■ ROEを高めるために利益の絶対額を増やす
当然、金川会長は「ROE」への経営者としてのスタンスをきちんと表明して頂いております。
「ROE(株主資本利益率)は、経営における重要な指標の一つだが、ROEが高くても利益が少額で、自己資本が脆弱では大型投資を速やかに行うことはできない。ROEを高めるために最も必要なのは、利益の絶対額を増やすことであり、私はこれを企業経営の最重要の課題だと考えている。」
最近のマスコミ報道では、こういう文脈できちんと「ROE」を語っているでしょうか? 「期初」ベースで株主資本を評価することをしていないから、「株主還元」強化などで、ROEの分母を小さくして、表面上のROEをよく見せる、といった小手先の指標使いになってしまう。本質を理解していない証左ですね。
■ 売らない、配当を求めない長期保有者のありかた
農林中金バリューインベストメンツ運用担当執行役員(CIO)奥野一成氏のプレゼンから、納得感・説得力抜群の箇所を以下に抜粋します。
「短期分散投資が当たり前とされる時代に、当社ではあえて「長期厳選投資」を投資哲学に掲げる。「株を売る必要のない企業しか買わない」というのが基本的な投資姿勢だ。対象とするのは、その企業がなければ産業が成立せず、その事業がなければ世界中が困るような企業。持続可能なキャッシュフロー創出能力を有する「構造的に強靭な企業」だ。」
同社が、信越化学工業株への投資を助言する理由は次にように語られています。
「私たちにとっての株式投資とは、株券を売買してもうけることではなく、「お金を投資先の企業に預け、その企業に着実に利益を積み上げてもらう」ことを意味する。当社の助言によって信越化学に投資をするということは、金川会長と信越化学にしかできない分野の事業に投資することと同じだ。その投資が信越化学の企業価値増大を加速させ、その価値が投資家にも還元される。企業と投資家の間の信頼関係に裏付けられた、こうした良循環の構造を生み出し、それをドライブしていくことがNVICの事業理念だ。」
投資先の会社から、配当で短期で資金を引き出すのではなく、経営者を信じて投資を継続することにより、投資したお金が腕っこきの経営者の手元で複利効果で増殖し、結果として、投資先企業の財務も安定させ、同時に投資家への見返りもより大きくなる、というシナリオを描こうとするものです。
自分自身の投資から生まれる複利効果と、選別された企業が営む事業がもたらす複利効果、どっちが大いいでしょう? 逆に言えば、自分で運用するより高い利回りが得られる企業に投資をするのが自然な考え。複利効果は、時間が長ければ長いほど、その威力は累乗的に増大します。
■ 配当ではなく再投資を
同時に、同社が助言するファンドがファナック株を所有する理由も述べられています。
「ファナックも当社の助言ファンドが株式を保有する企業の一つだが、最近同社に対しては米ヘッジファンドが、自社株買いを行って株主への利益還元を進めるように提案した。これは、私たちの考え方とは異なるものだ。」
2015/3/5|日本経済新聞|電子版 孤高ファナックが引き寄せる「第三の男」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「ファナックが上場来高値圏にある。業績拡大に加え、物言う株主として有名な米投資ファンド、サード・ポイントによる自社株買い要求が2月上旬に表面化したのがきっかけだ。だがファナックは高収益体質でも、ひたすら中長期の視点でモノづくり強化に邁進する「孤高」の企業との評がもっぱら。投資家向け広報(IR)も簡素化してきた。日本の株式市場で企業と株主との対話機運が高まるなか、孤高を貫くファナックの姿勢が結果的に長期投資家を遠ざけ、ヘッジファンドなどの海外短期筋を引き寄せる皮肉な結果を招いている。」
ことの顛末は、ファナックが投資家との窓口組織を設立、積極対話を開始、株価も上昇、という流れですが、これが本当に企業経営と投資姿勢両方にとって正常かつ持続可能か、という疑問を呈している、ということになります。
さらにこう続けられています。
「事業が強靭で、かつ経営者が事業に対して誠実であるのなら、私たちは「配当は要らない。利益は再投資に回すべきだ」と提案するだろう。まさにファナックの場合がそうだ。ファナックが潤沢な現預金をもち、常に事業拡大に向けて次の投資機会を虎視眈々(たんたん)と狙っている状態のほうが、企業価値の向上に資する。」
中長期の複利効果を、誰の手元に資金があった時に一番享受できるのか? さっと株式を大量購入して、潤沢な企業から一時的な資金を引き出すことを要求する人達が、企業と中長期的なパートナーとして、お互いに信頼関係を築けていけるものでしょうか?
「昨今議論の対象となっている自社株買いや増配の要求は所詮、限られた利益のパイをどう切り分けるかの議論に過ぎず、たとえ株主価値が向上したとしてもそれには持続性がない。」
「一つの企業の限られたパイを投資家がどう切り分けるのかではなく、企業価値の増大を通し、持続的にパイを大きくすることが重要だ。だからこそ、企業には絶対、利益を上げてほしいし、私たちはそうした会社を選ばないといけない。」
企業価値増大のためという掛け声のもと、会社法の枠組みや上場規程の中で、「社外取締役の増員」「監査等委員会設置会社への移行」、ソフトローとしての「日本版スチュワードシップ・コード」「コーポレートガバナンス・コード」の運用など、形だけ大勢に迎合したからといって、企業価値(株主価値)は高まりません。
そのことを、この広告(念のため、もう一度言っておきます)は的確に指摘しています。
興味を持たれた方は、あくまで、IR等の施策・制度設計の参考まで、同社のホームページにある広告全文をご一読いただければと思います。
コメント
さきほど創論の方にコメント差し上げたものです。
農中系のこの会社が日本のバークシャーハサウェイを標ぼうするということで、この全面広告は私の目をもひきました。方針はとても結構なことだと思います。
助言をクローズしているのに、この全面広告は、いったい何を狙ったのでしょうか。誰かに向けての広告だったはずです。
あとは、言うまでもないことですが、どの会社を、選ぶのかでしょうね。信越化学。とても良い会社と良い経営者だと思いますが。。。意見の分かれるところですね。
似たようなコンセプトのファンドで、スパークスアセットマネジメントの厳選投資という投信があります。こちらの組み入れ銘柄はなかなかよく考えられていると思います。
何度も失礼しました。
活発にコメントを頂戴でき、ありがとうございます。
基本的に筆者個人的な意見としては、「アクティブ型」より「パッシブ型」の方を好みます。
どんな立派な投資理論や、アルゴリズムを用いた堅牢な仕組みも、極論を言うと、必ずブラックスワンにやられると信じているので。そんなにヒトもアルゴリズムも信用していません。
しかし、「鎌倉投信」の投資スタンスは、ある種「アクティブ型」の範疇に入るとは思いますが、
大変興味深いスタンスでの投資を実践しております。本ブログでも、採り上げておりますので、
気になりましたらご一読下さいませ。
ありがとうございます。拝読させていただいております。
鎌倉投信は私は受益者の1人です。
いい会社を増やしましょうというコンセプトに共感しています。
おそらくですが、このファンドは300億くらいでソフトクローズするものと思います。