■ サッカーJ1クラブも企業体なので、経営評価してみたそうです!
管理会計・経営管理を生業としている筆者としては、こういう楽しい仕事もしてみたいなあとうらやましくなった次第です。J1クラブがやるのならば、NPB(日本野球機構)も筆者が知らないだけで、各運営会社の経営評価をやっているのでしょうか。そういえば、最近こういう記事がありましたね。
2016/1/22付 |日本経済新聞|朝刊 「横浜スタジアム」TOB成立 DeNA、野球黒字化へ道 改修「数十億円は投資必要」
「ディー・エヌ・エー(DeNA)は21日、子会社の横浜DeNAベイスターズが本拠地とする球場「横浜スタジアム」の運営会社へのTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。株式の過半を取得し、球場買収が正式に決まる。買収価格は74億円。球団買収から5回目のシーズン開幕を控え、野球事業の黒字化に向けた決め球を手にした格好だ。」
(下記は、同記事添付の横浜スタジアムのイメージ図を手にするDeNAベイスターズの池田社長の写真を転載)
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
こうした財務的な面だけでなく、クラブ経営全般の業績評価を行う取り組みが行われるようになったのは、BSC(バランスト・スコアカード)の多面的な業績評価指標(KPI)による企業経営の運転評価が一般的になってきた証左かもしれません。
2016/4/2付 |日本経済新聞|朝刊 Jクラブを格付け 浦和、経営力でV 効率や戦略で高得点14年時点
「サッカーJリーグの各クラブを経営の観点から順位付けしたらどうなるのか。Jリーグが公表した2014年の財務情報を基にコンサルティング会社のデロイトトーマツが「Jリーグマネジメントカップ」と題して算定したところ、J1の優勝は浦和、J2は松本山雅になった。」
(下記は、同記事添付の20160402_2014年マネジメントカップJ1順位表を転載)
ランキング表作成の概要手順は次の通り。
「同社はJ1、J2、J3の全51クラブのビジネス・マネジメントをマーケティング、経営効率、経営戦略、財務状況の4つのステージに分類。各ステージでマーケティングは平均入場者数、スタジアム集客率、新規観戦者割合、客単価、経営効率は勝ち点1あたりのチーム人件費と入場料収入、経営戦略は売上高におけるチーム人件費の比率、販管費百万円あたりの入場料等収入、財務状況は売上高、売上高成長率、自己資本比率と項目を立て、それぞれに独自のKPI(重要業績評価指標)を設けて点数化したという。」
KPIの設定について、記事では以下のような関係者による留意点とこうした取り組みへの期待値が述べられています。
「本邦初のランキング作成という試みについて同社の里崎慎スポーツビジネスグループ・バイスプレジデントは「公開された情報だけを基にしたランキングなので粗さはある」という。地域貢献活動などは点数化しにくいためランキングに反映されていない。それでも「財務を公開しているJリーグだからできた。経年で積み重ねて見ていけば、価値が出ると思う」と市場を活性化する議論のたたき台になることを期待している。」
わくわくしながら、ランキングを矯めつ眇めつ、眺めてみて、協議の方のランキング表と比べて見たりして。
● スポニチ Sponichi Annex より
ぴったり同順位とはなりませんが、ほのかに似たような順位になっていることがお分かりになるでしょうか。その理由は、平均入場者数、スタジアム集客率、新規観戦者割合、客単価から構成される「マーケティング」への配点が、他の「経営効率」「経営戦略」「財務状況」より大きいからに他ならないからです。競技上の順位が大きく、集客に影響することは誰も異論を挟む余地はないでしょう。
■ 今度は上場企業の経営評価ランキングを見てみよう!
筆者の生業のひとつである企業業績評価の本家本元のランキングも見てましょう。
新聞記事の保存の関係から、電子版でのご紹介になります。
2015/11/27付 |日本経済新聞|電子版 NICES 総合評価ランキング、セブン&アイが首位 2位に味の素 成長性に高評価
「日本経済新聞社は総合企業ランキング「NICES(ナイセス)」の2015年度版をまとめた。業績や成長性、働きやすさなどを総合して上場企業を評価するもので、セブン&アイ・ホールディングスが首位となった。独自の製品やサービスで高シェアを確保し、成長を続ける企業が高評価を得た。
時価総額の増減など「投資家」、認知度など「消費者・社会」、多様な人材活用など「従業員」、成長性をみる「潜在力」の4項目で点数を付け、合計して総合順位を決めた。なお昨年度まで別々だった「消費者・取引先」と「社会」を統合し、広く世間一般の評価を反映する項目とした。」
ちなみに、2015年度のランキングは次の通り。
さてさて、時価総額ランキングや、純利益・売上高ランキングではないので、アンケートなどの定性的な評価を定量的な指数に置き換えてのランキングは、順位そのものと同等ぐらいに、その作成方法にも興味が湧いてくるものです。
■ 総合企業ランキング「NICES(ナイセス)」の作り方を見てみよう!
2015/11/27付 |日本経済新聞|電子版 NICES 評価の方法と特徴
下記は、本記事の抜粋整理・コメント付き版です。
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● NICESとは
NICESは企業をとりまくステークホルダーに注目し、各ステークホルダーの視点ごとに企業を評価、これらを合算して総合ランキングを作成するシステム。企業向けアンケート調査や財務データなどから評価指標を作成し、企業を評価している。2015年度版より、「消費者・取引先」と「社会」の側面を「消費者・社会」と統合するなどリニューアルを実施
→評価指標の選択と評価点ウエートを各年で変更しているので、経年変化(時系列)で各指数のトレンドを分析するには向かない評価手法です。毎年、高い関心を持って、ランキング結果より、指標を選ばれ方をウオッチしているのですが、毎年変更が加えられています。
● 調査方法
1)調査は2015年7月、全国の上場企業のうち、企業規模などの条件により主要1051社を抽出し、実施した。有効回答は535社(50.9%)。なお、有力企業でもアンケートに回答を得られずランキング対象外となったり、回答項目の不足から得点が低く出たりするケースがある
→網羅性と順位の妥当性については、アンケート範囲によって、あるべき真の順位とは多少ブレが生じざるを得ません
2)財務データは、NEEDS(日本経済新聞社の総合経済データバンク)から収益力などを示す指標を作成。データは10年度(10年4月期~11年3月期)から14年度(14年4月期~15年3月期)本決算、および15年度予想値を使用した。原則として連結決算のデータを使用。連結データが取れない場合は単独データから指標を作成
→財務KPIは同じ土俵の上で勝負されているので、比較可能性は一定程度、保証されていると言えます。但し、会計基準の差異(日本基準、米国SEC基準、IFRS)および会計処理の認容範囲での違いは、どうしても埋めることはできません。これを指して会計の世界では、「相対的真実」と言います。
3)一部指標においては、日経リサーチインターネットモニター(3184人)および日本経済新聞社の企業担当記者(187人)の各社評価も使用した。
● 4側面と測定指標
1)投資家
時価総額の増減、配当・自社株買い、資本構成、利益率の確保、財務情報公開、取締役会・株主構成の6指標
2)消費者・社会
認知度・好感度、雇用の拡大・維持、納税、社会貢献・環境の4指標
3)従業員
ワークライフバランス、育児・介護支援、女性の登用、人材育成・定着率、多様な人材活用、給与・待遇改善の6指標
4)潜在力
業績の安定性・成長性、投資、外部評価の3指標
● 編集委員らの評価によるウエート付け
4側面のうち「投資家」「消費者・社会」「従業員」の3側面については、日本経済新聞社の編集委員ら(58人)が各指標の重要度について評価した結果をもとにウエートを決定した。「潜在力」については3指標を均等に評価
● 企業ランキングの作成
指標ごとにウエート付けした4側面の得点をそれぞれ最高200点、最低20点になるように変換し、4側面の得点を合計して最終的な総合ランキングとした
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■ 各種KPIランキング表を見る際の留意点とは?
前章のNICESの作成手順をご確認頂き、出されたアウトプットであるランキング表をそのまま無批判に鵜呑みにするのではなくて、批判的な目で見る必要があることを注意喚起させて頂きます。筆者は、こうしたランキング表の作成にあたり、「恣意的に作られる」という表現での批判は行いません。「恣意的」というのは、管理会計の分野では、共通費の配賦基準の選択の際にも使用される表現なのですが、基準を選定する側の立場の者が、特定の測定対象について、意図的にランキングだったら順位、配賦だったら計算結果を操作することを意味するものと理解しています。
恣意的かどうかを批評するのではなく、こうした一般公開される複数の指標を組み合わせたランキング表を見る際の、バイアスのかかり方について、3点指摘しておきます。バイアスの語には意図的かどうかの区別ないので、ここでは指標の使い方次第でランキング表の内容が変わってしまう可能性があることをバイアスと呼んでおきます。
① 指標の選択
例えば、投資家の指標について選ばれた6指標以外に、もっと投資家視点の企業評価にふさわしい説明変数があるかもしれません。キャピタルゲインを意識して、「時価総額の増減」「自社株買い」、インカムゲインを意識して、「配当」が選択されていますが、そこはひねって、TSR、PER、BPS、PBR、EV/EBITDA倍率や、成長率などでもいいかもしれません。また、選ばれている「利益率」も、おそらくROEだと思いますが、ROAやROICなども選択可能です。
② ウエート付け
指標は定まったのち、それぞれの指標での評価ポイントの重みづけ次第では、総合順位は変わってきます。あえて極端な例を挙げると、従業員を酷使して、利益を上げている会社があった場合(これを世に言うブラック企業という(^^;))、「投資家」指標(財務指標)の重みづけを増やして、「従業員」の指標の重みづけを軽くすると、このブラック企業のランキングが上方修正され、「従業員」指標を重くすると、相対的に順位は下がります。
③ 指数化
各指標の評価を統計値に置き換える時に、様々な変換がかかるので、その変換ルール次第では、最終順位を操作することができます。下記に、参考になるサイトをご紹介します。
● 統計データの種類 より引用
1)定性的データ ( 質的データ,カテゴリーデータ,カテゴリカルデータ )
① 名義尺度(nominal scale)
・単に分類するために整理番号として数値を割り当てたもの
例)血液型(A型:1,B型:2,・・・,O型:4),男女の性別(男:0,女:1)
② 順序尺度(ordinal scale)
・順序には意味があるがその間隔には意味がない数値を割り当てたもの
例)好きなスポーツの順位(野球:1,サッカー:2,・・・)
2)定量的データ ( 量的データ )
① 間隔尺度(interval scale)
・目盛が等間隔になっている(等間隔であると仮定されている)もの
例)知能指数,摂氏の温度
② 比例尺度(ratio scale)
・原点(0)の決め方が定まっていて,間隔にも比率にも意味があるもの
例)身長,体重,金額,絶対温度
おそらく、アンケート調査結果は、「順序尺度」でデータ収集されると考えられます。順序を、指数に変換するところで、意図的に順序の開きぐらいを数字(指数)変換する際に裁量の余地が生まれます。
1位:10点、2位:9点、・・・ と、
1位:100点、2位:50点、・・・ とでは、順位の開きの相対的評価が異なってきます。
また、例えば「認知度」「好感度」「定着率」など、「間隔尺度」「比例尺度」で取得されたデータも、順位指数に変換するところで、上記と同じように、順位の開きぐらいの相対的評価で意図的に調整できてしまいます。
みなさんも、さまざまなランキング表を目にすることがあると思いますが、
① 指標の選択
② ウエート付け
③ 指数化
によるバイアスにはご注意くださいませ。
蛇足
ちなみに、筆者の現住所は、首都圏の住みたい街ランキング上位によく名前が上がりますし、出身地は、暮らしやすい都道府県ランキング上位によく名前が上がるところです。でも、実際に住んでみた感想から、評価結果に???なところが無きにしも非ずなのですが。さらに、暮らしやすい都道府県ランキング下位になった都道府県が主導的に、指標を変えて異なるランキング表を出して対抗した、というものを目にしたこともあります。当然、採用する指標が全く異なっていたので、ランキングも上下さかさまになっていました。どっちが正しいねん!?
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