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(経済教室)企業統治改革の論点(下)会社法の再構築こそ王道 上村達男 早稲田大学教授

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ コーポレートガバナンス法制は経済実態に適合しているか?

経営管理会計トピック

上村教授の舌鋒鋭い批評が非常に小気味よく、上下2編の経済教室をいずれも取り上げたいと思います。教授は、法制定の変革が稚拙・軽挙にすぎるのではないか、属性の異なる株主を十把一絡げにしての対策は実効性に欠ける、と批判されています。

上編はこちらから
⇒「(経済教室)企業統治改革の論点(上)経営の「質」高め低収益打破 伊藤邦雄 一橋大学特任教授

2015/4/2|日本経済新聞|朝刊 (経済教室)企業統治改革の論点(下)会社法の再構築こそ王道 上村達男 早稲田大学教授

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「昨年6月に閣議決定で改訂された日本再興戦略には、安倍晋三内閣の成長戦略の要石ともいわれる「第3の矢」の具体的な内容が網羅されている。政権与党として「稼ぐ力」を取り戻すための戦略を具体的に網羅しようとすること自体は理解できる。
この一環として、社会生活の基本法として六法の一つとされてきた会社法の機関構造について、攻めのガバナンス(統治)とか、稼ぐガバナンスを閣議決定によって迫るといった動きが出ている。本稿では、こうした取り組みが真の企業統治の改革につながるのかどうかを論じたい。」

(日経電子版でのポイントサマリ)
・企業統治指針は拙速に改正会社法上乗せ
・「公開会社法」など長期で法構築の議論を
・株主の属性を問わない対話重視も無意味

 

■ 企業法制のお国柄の違い

このところ、英国発祥の投資家の行動規範を示す「日本版スチュワードシップ・コード」や、企業統治の原則とされる「コーポレートガバナンス・コード」の基本理念は、「原則(プリンシプル)主義」といわれ、「comply or explain (順守せよ、さもなくば説明せよ)」という一節がその精神を表しています。

こういう立法上の位置づけは、「ソフトロー(法的拘束力のない規範)」と呼ばれ、英米法(コモンロー)の「判例主義」「訴訟中心主義」で、成文法より慣習法を上位に置く、この基本的概念から来る法制度です。

英国では、判例法の例外・確認としての「成文法」の形式解釈はガチガチになっており、高度な「何が正しいか」に対する判断基準はソフトローの運用にかかっています。したがって、成文法の上にソフトローが鎮座しており、そうした自主規制ルールに違反すると永久追放は普通であり、違反の効果も制定法以上の効力を持っています。

新聞記事で上村教授は、次のように指摘しています。

「これらは、総称してソフトロー(法的拘束力のない規範)とも呼ぶ。これらはいずれも英国でのルールのあり方を表現するものであるが、英国は自主規制の権威がきわめて高く、強行法的自主規制(enforced self-regulation)といわれるほどで、それは英国の「法」そのものである。」

翻って、日本は、明治維新の際に「大陸法」(仏・独(当時はプロシア))を中心に移植してきた結果、「成文法」の方が判例より上位であり、

上村教授によると、
「翻って日本では、2005年成立の会社法により、それまでの有限会社も株式会社とされた。そこでの基本原理は、当事者の意思が優先される任意法規性、あるいは契約の重視や定款自治となり、今や株式会社は300万社近く存在する(ドイツは1万社超)。日本では、組織法として画一的に適用される強行法規であった会社法自体が、任意法規化(ソフト化)している。」

英国と日本とでは、「ソフトロー」と「成文法」の上下関係が真逆であり、私法(会社法含む)の実運用にあたって、「自主規制」に対する意識が全く異なります。英米法の国で、「自主規制」というほうが最上位、翻って、日本では、おかみが制定した「成文法」の方が上位。今回の本来はソフトローにあたる「日本版スチュワードシップ・コード」「コーポレートガバナンス・コード」は、意識的にはおかみが制定したもので、同形式的に順守するようにするか、企業内の法務部門を中心に頭を悩ませているようです。

そもそも、本来は私的自治の範囲である会社統治のあり方を規定する「会社法」自体が、成文法としておかみから強制法規として与えられているので、その文脈で今回の立法化(ソフトローだけど)の動きを理解しているように見受けられます。

 

■ 輻輳している企業統治法制 - 社外取締役制度を例に

成文法とソフトローの混在具合は、本記事に添付があった図を下記に転載しますので確認してみてください。

経営管理トピック_社外取締役に関するルールの適用区分_日本経済新聞朝刊2015年4月2日掲載

(日本経済新聞朝刊2015年4月2日掲載)

1.改正会社法 → 有価証券報告書提出会社(9500社)
・監査委員会設置会社(構成する取締役の過半数は社外取締役)制度の新設
・社外取締役を置かないことに対する説明義務
2.東京証券取引所の上場規程 → 上場会社(3500社)
・独立取締役を少なくとも 1 名以上確保する努力義務
3.コーポレートガバナンス・コード → 東証1,2部上場会社(2500社)
・独立社外取締役2人以上の設置義務
・独立社外取締役のみの会合の設置義務

ちなみに、会社法は法務省、コーポレートガバナンス・コードの方は金融庁。日本は関係者が多くて、大変ですね。教授は、法務省と金融庁の共管として「公開会社法」を制定する話はどこ行ったんだと嘆いていらっしゃいます。

これでは海外からの企業誘致に対して立派な「参入障壁」になっていますね。まあ、いいか。最近、外資(ハゲタカ、懐かしい響き。。。)による日本資産の買収をやめさせたい輩も大勢いることだから。

こういう複雑な仕組みをあえて作り出すことで、士(さむらい)業の方々の仕事が生み出されるわけですね(皮肉で言っています)。

 

■ 株主平等の原則というけれど、、、

「コーポレートガバナンス・コード」でも、「株主との対話」の重視が求められています。

そこで、上村教授が疑問を呈しているのは、様々な属性を持つ株主全員を同条件で対応するのは経済的実態にそぐわないということ。

記事から、主な株主種類と教授の指摘を挙げていくと、
・タックスヘイブン(租税回避地)で設立された匿名性が高く税金を払わないヘッジファンド
・大衆個人株主
・中国の国家株主や中東の王族株主
・1000分の1秒単位で売買できる超高速取引(HFT)株主

「『会社は株主のもの』という発想は、株主とは個人・市民という欧州の規範意識を背景にして成り立ってきたのであり、対話の対象たる株主の属性を問わないようでは、文明国家とはいえない。」

まさしく、現状の経済実態に即した「株主平等の原則」を見直す時ではないかと筆者個人は思います。

最後にぐっとくる教授の二言で締めさせていただきます。

「企業統治とは、経営権の正当性の根拠を何に求めるかという問題である。経営権の根拠が十分に満足されるガバナンスがあれば、全力でアクセルを踏めるから、大胆な経営判断も安心して下せる。資本市場や株式会社をめぐる不正が確実に摘発されるから、良いアイデアの芽もすくすくと育つ」

「自由と規律のバランスのとれたガバナンスの存在と有能な経営者がいれば、企業目的の最大実現を期待できる」

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