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(チャートは語る)トップ企業、成長力見劣り 日本株の足かせに - 生存者バイアスがかかっていないか検証が必要

経営管理会計トピック_アイキャッチ会計で経営を読む
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日本の大企業の成長力が不足している!?

個別企業の財務分析だけでなく、各国の資本市場における企業活動を比較分析すると大変興味深い示唆を得ることがあります。今回は、日米の企業行動比較から、大企業の成長力の差がテーマです。

このテーマに関する大変興味深い記事がありましたのでご紹介します。朝刊より、電子版にある動画(Brightcove)が目を惹いたので、電子版のリンクでのご紹介です。

2019/12/15|日本経済新聞|電子版|トップ企業、成長力見劣り 日本株の足かせに

バブル経済のピークだった1989年末、日本企業は株式時価総額で世界上位100社のほぼ半分を占めていた。30年後の今ではトヨタ自動車1社のみだ。海外を見渡すとイノベーション(技術革新)や再編をてこに、巨大企業が止まることなく成長している。日本を代表する企業の成長力を高めなければ、株価の上昇は見込めない。

新聞記事とはエビデンスを示す順番をあえて違えて、結果からまずお示しします。記事の言わんとするところは、日本企業の成長が途中で鈍化するエビデンスとして、時価総額1000億ドル(約10兆円)の壁を突破した企業が3.9%に過ぎず、欧米企業の10%超えと比較して、力弱いというものです。いまや、中国企業より低い有様です。

時価総額を伸ばし続ける企業は米欧中よりも少ない_日本経済新聞_20191215

さあ、一体、要因はどこに隠されているのでしょうか?

昔からあるアノマリーを知らないうちに借用している?

ファイナンス、特に証券投資として、株式市場を主戦場にしているプレイヤーには良く知られているアノマリー(anomaly)があります。アノマリーとは、特に証券市場においては、 効率的市場仮説と矛盾するような金融市場の価格およびリターンのねじれ現象 のことをいいます。

2019/12/19|日本経済新聞|夕刊|4年ぶりのサンタは来るか?(市場点描)

株式市場には「サンタクロースラリー」というアノマリー(経験則)がある。海外投資家がクリスマス休暇に入って売り圧力が弱まり、株高になる現象だ。ところが、2018年まで3年連続でアノマリーが崩れた。米中貿易協議の部分合意で足元の世界株は高値圏。4年ぶりのサンタはやってくるだろうか。

この記事を書いている12/23時点では総じて、クリスマス休暇に入っている海外投資家の影響で相場全体の方向感に乏しい、類の論調が多く見受けられます。今年はまだサンタが来るかどうかわからないみたいです。^^;)

さて、話を戻すと、一般的には、株式市場は効率的市場であり、リスクとリターンが見合う形で株価が形成されていると考えられています。そこにくさびを打ったのが「ファーマ-フレンチの3ファクターモデル」で、単純明快なCAPM(キャップエム、ものにするにはポートフォリオ理論の理解が必要ですが)では説明しきれない株価形成のくせが3つあると指摘しました。

  1. 市場ファクター:市場インデックスの収益率と無リスク金利の差
  2. 規模ファクター:小型株の収益率と大型株の収益率の差
  3. 簿価/時価比率ファクター:この比率の高い株式と低い株式の収益率の差

この3要素の内、真ん中の2. が、「小型株」にパフォーマンスは相対的に「大型株」より良好になるというアノマリーは結構知られています。 だって、提案者の一人であるユージン・ファーマはこの業績も含めた資産価格の実証研究についての貢献により2013年にノーベル経済学賞を受賞しているくらいですから。

という長い前置きの後に、本記事における最初のエビデンス、日本の大企業の成長性が低いのは、TOPIX Core30とTOPIX Small500を比較するとよく分かる、というものを下記に引用させていただきます。

東証1部のトップ30社の株価はさえない_日本経済新聞_20191214

ちなみに、Core30の代表格は、トヨタやNTTで、Small500の例は、ガンホーとかペプチドリームです。気になる人には、コチラからTOPIXニューインデックスシリーズ(2019/12/6)をExcelでダウンロードできます。もちろん、このサイトのサーバ内からです。

説明が回りくどくなりましたが、知らず知らずのうちに、潜在意識の中でこのような小型株アノマリーに影響されて、結論ありきで分析データを選んでいないかな~?という印象を持ちました。そういう印象を持った理由は、次章で説明することにします。

ROAの時系列分析するときに注意すべき「生存者バイアス」

ROAに限らず、観察対象を限定せずに、母集団の性質そのものの推移を評価するのに時系列分析を用いる際には、「生存者バイアス(survivorship bias)」: 何らかの選択過程を通過できた人・物にのみを基準として判断を行い、通過できなかった人・物は見えなくなるためそれを見逃してしまうという誤謬 を観察してしまっていないかに留意する必要があります。

では、本記事での第2の考察部分を見てみましょう。

日本企業は設立10年を超えるとROAが低下_日本経済新聞_20191214

日本企業は「成熟」が早い。早稲田大学の清水洋教授らによると、資産からみた収益力を示す総資産利益率(ROA)の平均が設立10年ほどで低下に向かう。米企業が10~12%を保ち続けるのと対照的だ。理由は、大胆な事業の新陳代謝ができない経営にある。「収益性の高い事業に経営資源をシフトしきれない」(清水教授)

上記の時系列グラフを見れば、まさしくその通りです。

投資家は「人材や資本を集中投下し、他社を圧倒する参入障壁を築くと成長は止まりにくい」(農林中金バリューインベストメンツの奥野一成氏)とみる。日本にも変化はあり、ソニーは家電を縮小して画像センサーに集中投資し、株価は18年ぶりの高値を付けた。

非中核事業を切り出す企業は増え、海外買収の経験も豊富になってきた。強い分野を伸ばすメリハリの利いた経営の広がりが、上位企業が停滞から脱するカギになる。

上記グラフを見たときの解釈の仕方が筆者とは真逆でした。選択と集中をしないと高い参入障壁を築くことはできない。高い参入障壁を築くことに成功すればその事業で成功し、高い成長がもたらされる。ここまでは良しとしましょう。

だから、「非中核事業」を切り捨てるではなく、だから、これから中核事業にしたい事業を「買う」のです。

これだからEBPMは難しい

最初の欧米中と日本企業の成長性の差異グラフを見て、日本企業の規模の成長性が劣っていることは正しい観察だと思います。

次に、東証を観察して、小型株(TOPIX Small500)のほうが、大型株(TOPIX Core)より高い成長性を示していることも事実だと思います。

最後の、日米企業の設立年からのROA推移の比較分析について、こういう風に数字を取れば、100%これは事実です。しかし、「生存者バイアス」を考慮していないことが決定的にいけていません。米国企業は、高い成長を継続させるために、その資力を持って、高い成長性を示している(あるいは示し始めている)ベンチャー企業や小型株銘柄の企業を買収して傘下に収めているのです。

日本企業が大胆に事業の新陳代謝ができないのは、全部自前主義でやろうとしてきたからです。雇用の確保や経済社会の安定、(あくまでクローズされた環境における)長期的な視点での経営を尊重して、そういう企業行動をこれまで採用してきました。

もし、そういう日本企業の立ち姿を米国企業と本気で比べるなら、米国企業の方の数字を企業買収(M&A)考慮前の時価総額に変換した後に推移を比べないと、Apple to apple にならないのです。

やろうと思えばできるけれど、M&A考慮前の比較なんて、あまり現実的ではないし、意味ないですよね。筆者も十分に分かって言っています。でも、記事での結論を導くためには必要な証明行為です。

むしろ、そういうデータを準備する無理目なところから、結論が妥当的でないことに、先に気づくべきです。

筆者の結論はこうです。

欧米中企業と同じ土俵の上で戦うことをお望みならば、日本企業もどんどんM&Aを行って成長を資力で補うべきであると。

その場合、 ジェームズ・C.アベグレン 氏らが指摘した日本的経営の長所だったものを捨てて、彼らと同質的な競争に入る覚悟が必要になります。いつまで、レッドオーシャンで戦っているつもりですか?

みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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