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ビジネス・ラウンドテーブルの「株主第一主義」見直し宣言と株主の短期主義の関係とは

経営管理会計トピック_アイキャッチ会計で経営を読む
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事の真偽を理解するためには相手の視点に立って議論してみる

ジャーナリズムは、集団ヒステリーを煽ることで発行部数を上げることで富の占有を図る側面も無きにしも非ず。昨今の、気候変動をケアする企業経営方針と同一視することで、批判者に有無をも言わせないステークホルダー資本主義(公益資本主義)が大手を振って世論を席捲しています。

筆者は生まれつきのへそ曲がりなので、行き過ぎた論調には必ず反対論を提示して、世の中の行き過ぎにブレーキをかけたくなる性分です。それは、若かりし頃、Debate「ディベート」に傾注した時分の残滓なのかもしれませんが。。。

ディベートは一つのテーマに対して、肯定派と否定派に分かれて、議論を行います。そのテーマにおける自分の意見とは反対側に立って議論することで、そのテーマの理解を深めるとともに、持論の適切さも検証する、という野心的な企てです。

先にネタばらしておきますと、筆者の持論は「ステークホルダー資本主義」ではなくて、「株主第一主義」の方です。

(経済教室)「脱・株主至上主義の行方」の連載

日本経済新聞の経済教室で3回にわたり、「脱・株主至上主義の行方」として、3人の教授によるコラムが連載されていました。

株主資本主義とステークホルダー資本主義の適切なバランスを実現する国は21世紀の勝者となるだろう。そうした国が手にする利益は大きく、気候変動と低炭素社会への移行、テクノロジーが雇用と人的資本に与える影響、労働人口と事業慣行での社会的包摂の向上といった社会の大きな流れに先んじて優位な立場に立てると考えられる。

2019/12/16|日本経済新聞|朝刊「脱・株主至上主義の行方(上) 企業も環境・格差に配慮必須」ジョージ・セラフェイム ハーバード大学教授

同記事添付の「企業と株主価値、ステークホルダー価値の関係」を引用

重要なのは、会社の役割は各国の資本主義の形やそれを規定する文化、社会の価値観、法体系などの制度的要因と密接に関連しているということだ。世界は株主第一主義の国だけではない。今後の日本企業の経営の方向性を展望する場合にも、世界の企業の多様性に目を向けることが重要だ。

2019/12/17|日本経済新聞 |朝刊「脱・株主至上主義の行方(中) 資本主義・企業の多様性重視 」広田真一 早稲田大学教授

同記事添付の「各国の企業(製造業)の経営パフォーマンス」を引用

市場経済は富を生むとともに格差も生むことは確かだ。だが格差の是正は、個別企業に期待するのではなく、税制や社会保障制度(再分配政策)を通じて国が行うべきだ。それには企業が効率的に経営され、利益を上げなければならない。さもなければ弱者への再分配に回せる富も得られない。

2019/12/18|日本経済新聞 |朝刊「脱・株主至上主義の行方(下) 日本企業、安易な追随避けよ」田中亘 東京大学教授

同記事添付の「主要国企業の平均的収益性と株価水準」を引用

ここで三者の議論をかなり強引に整理させていただくと、

  • セラフェイム 教授
    • これまで日米企業ともに、一方に偏っていた(という現状分析)
    • これからは、ESG戦略基準を定型化・明示化して、ESG投資を積極的に推進すべし(という提言)
    • 株主資本主義と公益資本主義の両立が必要である(どっちがより大事ということではないという価値判断)
  • 広田教授
    • 株式市場のグローバル化が経済・社会格差の拡大の問題を生んだ(という現状分析)
    • 世界的にはステークホルダー重視の国の方が多いので日本企業は株主至上主義にも目を向けるべき(という提言)
    • 国や時代により様々な資本主義の形があり得る、資本主義の多様性を認める(という価値判断)
  • 田中教授
    • 資本市場がうまく機能すれば、株主の利益と長期的な成長が両立する(という現状分析)
    • 格差の是正は、個別企業に期待するのではなく、税制や社会保障制度(再分配政策)を通じて国が行うべき(という提言)
    • 取締役は長期的な株主の利益を図る義務を負うという解釈が判例で確立しているため、取締役が、様々なステークホルダーの利害を公平に調整する保証はない(という価値判断)

会社法に内在する法理とミルトン・フリードマンの新自由主義

上記のように、論者の意見を比較考量していくと、3つの共通理解が存在していると考えられます。

  1. 従来、米国は株主主義が強く、日本はステークホルダー重視が強く、いずれも行き過ぎを緩和するように世論が動いている
  2. グローバル経済化がもたらした経済・社会格差は、いずれにせよ看過できないほどに各国で大きな問題になっている
  3. 世の中の大勢は、元々ステークホルダー重視の環境が多い中、英米の強い自由主義も「ESG」という錦の御旗により、よりステークホルダー寄りに軌道修正されつつある

ますますステークホルダー重視派が盛んになる中で、あえて反対の見解を持つという思想・良心の自由(権)をここで行使させていただきます。^^)

まず、田中教授が明快に解説されている通り、米国の上場企業の過半数が準拠するデラウェア州法に照らして考えると、取締役は長期的な株主の利益を図る義務を負っており、取締役に株主利益より株主以外のステークホルダー利益を最大にするよう行動・判断を制約するための法理が存在しません。

さらに、株主の長期的利益を最大化するために、企業業績を左右するようなステークホルダーとの関係の改善を進める、というロジックが成立するならば、従来の会社法に内在する法理で取締役の行動に制約をかけておけば、それで十分かもしれません。

そして、新自由主義を掲げるミルトン・フリードマン(1976年、ノーベル経済学賞受賞)の主張には耳を傾けるだけの価値があると信じています。

米国トップ企業の経営者181人が株主資本主義との決別を宣言 ビジネス・ラウンドテーブルの声明は経営を変えるのか | HBR.org翻訳マネジメント記事(1/2)
ビジネス・ラウンドテーブルは、米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体である。彼らが2019年8月19日に発表した声明は、ビジネス界に大きなインパクトを与えた。企業経営の原則とされていた「株主資本主…(1/2)

やはり、「企業の社会的責任は利益を増やすことにある」は正しいと思います。この言説と日本人が好きなピーター・F・ドラッカー教授の「企業という組織の目的は、顧客の創造である。 利益は目的ではなく、組織存続の条件である。」は、同じことを意味していると理解しています。

【要約】『実践するドラッカー 利益とは何か』 上田惇生[監修者] 佐藤等[編著者] ダイヤモンド社 | Dラボ
『実践するドラッカー 利益とは何か』 上田惇生[監修者] 佐藤等[編著者] ダイヤモンド社

フリードマンはリベラル派に対して本当に人気がありません。一方でドラッカーはたいていの日本のビジネスパーソンは大好きなはずです。同じことを言っていても、言う人によって賛否が分かれるとしたら、提言内容ではなく、その人柄(イメージ含む)だけで判断しているのかもしれません。

株主利益優先の短期主義と長期主義について

ちょっと前も、株主利益至上主義が叩かれていた時期がありました。米国大統領選挙で、現職のトランプとヒラリーが争っていた、今から4年前のことです。

短期的な株主利益尊重は、長い目で見ると、実は株主利益を損なうことが多いことは周知の事実です。それゆえ、上記の セラフェイム 教授が図示している「レントシーキング」に不幸にもプロットされた企業群は、何らかの操作により、第1象限の「生産的企業」 にシフトさせてあげる必要があります。

なぜなら、株主の長期的利益は株主以外のステークホルダーの利益と一致するからです。

上場企業と株主との間の行動原則を規定するものに、英国のケイ・レビューが出自であるコーポレートガバナンス・コードがあります。

ここでは、株主以外のステークホルダーとの協働が謳われており、過度な短期主義も翻って企業価値を損なうことがも言及されています。

なかなか含意を理解いただけないかもしれませんが、

  1. 取締役が十分に役割を果たすために余計な行動制約は与えない
  2. 長期的な株主利益を追求することは、企業価値の最大化につながる諸政策を自然と選ぶことになる
  3. 過度な短期主義は却って企業価値を損なうことから、経済合理性からそういう行動は慎まれる
  4. ステークホルダーにも配慮することは、企業価値の最大化と相反することはない
  5. 株主利益を尊重した企業行動を採っていれば、ステークホルダーにも配慮した企業行動になる

株主第一主義がNGなのではなくて、短期主義偏重が、株主を含む全てのステークホルダーの利益を損なうのだということにもっと多くの人が気づいてくれることを願います。

ダイエットしている人に向かって、「それ食べると太るよ!」と忠告するより、「これは●●キロカロリーです」と表示してあげるほうが、皆が生きやすい世の中になると思いますがいかがでしょうか?

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