■ 事業セグメントの収益性分析
米半導体大手クアルコムからの出資と共同開発のおかげで、シャープの液晶事業が復活し、収益力が大いに改善しました。今期は前期微減の営業利益見込みとなっています。イグゾー、FFD、MEMSディスプレーはいずれも既存の液晶生産設備の共同利用が容易で、設備の稼働率が大いに向上(固定比率の低下)したのが業績回復のキーポイントのようです。
2014/9/13付 |日本経済新聞|朝刊
ビジネスTODAY パネル消耗戦 「独自」に活路 シャープの新型、過酷な環境でも
記事では、シャープの2015年3月期の連結営業利益見通しの事業別構成の積み上げ棒グラフが掲載されており、
- 電子デバイス
- 健康・環境
- デジタル情報家電
- ビジネス・ソリューション
- 液晶
- 太陽電池
という事業名称が並んでいました。
目の子でトータル1,300億円ぐらいでしたが、
グラフに対する注として、
「連結消去前。合計営業利益は1000億円の見込みで、事業別合算とは合わない」
との記述がありました。
ここで、いつもの好奇心から、有価証券報告書でセグメント情報を確認してみました。
まず、連結P/Lの売上高と営業利益がセグメント情報と一致することを確認します。というのも、現行日本の会計基準では、連結財務諸表とセグメント情報の合計値が不一致でも許容されているからです。ご安心ください。シャープは一致していました。
確かに、液晶が含まれているであろう「デバイスビジネス」の収益性が大幅に改善していることが推測できます。
しかし、一目で、新聞記事の事業と報告セグメントの粒度があっていないことが分かると思います。
(その始末は後ほど)
ちなみに、有価証券報告書では、報告セグメントを下記のように製品視点で区分しています。
事業区分 |
主要製品名 |
プロダクトビジネス |
液晶カラーテレビ、カラーテレビ、ブルーレイディスクレコーダー、携帯電話機、タブレット端末、ファクシミリ、冷蔵庫、電子レンジ、エアコン、洗濯機、掃除機、空気清浄機、LED照明機器、結晶太陽電池、インフォメーションディスプレイ、デジタル複合機等の電子・電気機器 |
デバイスビジネス |
アモルファスシリコン液晶ディスプレーモジュール、IGZO液晶ディスプレーモジュール、CGシリコン液晶ディスプレーモジュール、カメラモジュール、CCD・CMOSイメージャ、液晶用LSI、マイコン、高周波モジュール、LED、光センサ、光通信用部品等の電子部品 |
FY13は、「連結消去前」でセグメント利益(営業利益)が、1,417億円。調整額として、売上高:2,084億円、セグメント利益:331億円なり。売上高の方の連結調整は、ほぼ液晶パネル・電子デバイスの内部取引消去です。セグメント利益の方は、内部取引に伴うセグメント間利益消去が2億円で、配賦不能な基礎研究開発費と本社管理費が330億円です。
なるほど。注記では、「セグメント間の内部収益及び振替高は、市場実勢価格に基づいている」とありますが、マージンが0.1%(取引額:2084億円に対して、内部利益:2億円)なのは市場実勢価格を参照してのプライシングなのですね。いやぁ、液晶パネルは実に薄利。。。
さらに、
「親会社本社の販売及び流通部門の償却資産、並びに販売子会社の事業部門に直接配分出来ない償却資産は、各報告セグメントに配分していない。一方、それらの資産の減価償却費については、合理的な基準に従い、対応する報告セグメントに配分している」
とあります。
なるほど。シャープのセグメント情報では、単純には営業利益ベースのセグメント別ROA(ROI)を計算させてもらえないことも分かりました。
■ 事業セグメントの粒度
どこかに、細かい粒度の事業セグメントが分かる資料がないか、調べたところ、あっさり2014年5月12日公表の「FY13決算報告資料」がホームページのIR資料室にあることを発見しました。
この明細こそ、新聞記事にあったグラフの事業と一致していました。
でもこれで、めでたしめでたしとはなりません。
- 「事業」と「部門」はどう違うのでしょうか?外部の関係者に要らぬ混乱と確認の手間をかけさせていないでしょうか?
- なぜ、新聞記事の「事業」や決算報告資料の「部門」の切り口が有価証券報告書における「報告セグメント」として開示されないのでしょうか?
- 「マネジメントアプローチ」に従った報告セグメントの定義であらねばならず、経営者は一体どの粒度のビジネスの塊(かたまり)でビジネスごとのリスクと収益性を管理しているのでしょうか?
(ただ、救いは、有報の報告セグメントの単純な細分化だったため、全く別体系の事業定義でなかったことで、これは不幸中の幸いでした)
そもそも、経営者と外部の投資家の間には、経営情報について「情報の非対称性」の問題が存在します。それを埋めるためのディスクロージャー制度、日本版スチュワードシップ・コードだと思います。言葉の定義がまちまちで、投資家全般に対する平等性の問題はどうなのでしょうか?
(決算報告会の実施は特定の相手ありきで、その後ホームページに使用した資料を掲載したとしても、投資家への平等性は法的に認められていません。決算公告に対する会社法の規定は別として)
よもや、細かい事業定義のセグメント情報の有価証券報告書での開示は、会計監査の手間暇を惜しんで見送られたのでしょうか?
確かに、決算報告資料の数表は雑です。作成単位も十億円で、四捨五入差異が至る所にあり、上記の表を作成するため、いちいち合計値を確認するのに手間取りました。 (関係者の皆様、無礼な言い様、すみません)
事業ポートフォリオに関する情報開示(IR含む)は、その会社の管理体制(内部統制)と管理会計の水準を外から品定めされるので、ゆめゆめ疎(おろそ)かにできませんぞ。
(経験者は語る、でした!)
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