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株主資本等変動計算書を斬る

会計(基礎編) 会計(基礎)
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■ S/Sの構造と他F/Sとの相関関係

会計(基礎編)
前回」まで、「包括利益計算書(C/I)」の説明をしてきました。今回は「○○を斬る」シリーズの最終回として、「株主資本等変動計算書(S/S)」の内容を見ていきます。
まず、S/Sは、B/Sの「純資産」の前期と今期の差分の内訳を記載したものになります。
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書とBSの関係
名称の「株主資本等」の『株主資本』と『等』が気になると思います。そこで、その内訳を下記に示します。
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書の内容
●株主資本
株主としての財産額を表しています。もし、この瞬間会社を解散して、会社が持っている財産を山分けする場合の金額(あくまで会計帳簿に乗っている金額ベースですが)を意味しています。
① 資本金
そもそもの、株主から会社設立のために、根本となる出資額を意味しています。株主総会という株主が集まる会議で、その金額を減らしたり増やしたりすることが話し合われます。
② 資本剰余金
「資本取引」から生じる金額と説明されても、いまいちピンとこないと思います。株主から出資してもらったお金の一部を資本金にしないで、もしもの時に、資本金より取り崩しやすいように名称を変えて保有しておく金額とか、増資(新株発行)や会社組織変更により株主の出資金額の修正値を放り込んでおいたりする器として用意されています。
③ 利益剰余金
簡単に言うと、P/Lで計算された純利益から、配当金として株主に配った残りを放り込んでおく器として用意されているものです。P/Lで計算された「儲け」が積み上がったものを意味するので、「損益取引」に起因する会社財産という意味になります。
④ 自己株式
会社が自社の株式を購入した分なので、いつもマイナス表示になっています。普通は、会社の外の人(投資家=株主)からお金をもらって資本金が増えるところ、会社自身が持っている現金で自社の株を買うので、資本金がその分減ってしまいます。そこで、資本金のマイナスとして表示されます。株式市場に流通している株券を自社で買って、金庫にしまっておくというイメージから「金庫株」とも呼ばれます。
●その他の包括利益累計額
「包括利益計算書」で計算された「その他の包括利益」のその瞬間の累計残高を意味しています。
●新株予約権
極言すると、将来株式を新規に発行する時に、株券を購入できる権利として手付金を前払いした金額になります。まだ、当社の株主になっていませんが、その会社に手付金を払っているので、将来の株主から預かっているお金として、株主資本とは別で管理します。
●少数株主持分
親会社以外の株主から出資された金額に、出資後に会社が儲けた利益で配当されていない分を足した金額を意味しています。
「新株予約権」や「少数株主持分」は、厳格に、銀行からの融資金額とは異なります。とはいえ、純粋に今現在の会社を支配している株主から出資された金額(株主資本)とも違います。はっきりと「負債」といえないものは全てごった煮にして、「純資産」と呼んで放り込むことにしました。

■ S/Sの表示形式の留意点

実は、S/Sには定型フォームが会計基準ごとにことなり、同じ会計基準でも複数の表示方法が選択できるようになっています。したがって、有価証券報告書で各社のS/Sを見てみると、いろんなフォームのものにお目にかかることができます。
下記に、きわめて初心者に分かりやすくデフォルメしたフォームを紹介します。
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書_フォーム
縦は、今年の最初の残高、今年の変動内容、今年の最後の残高の順番に並んでいます。
横は、純資産の項目ごとに並んでいます。
この例では、株主資本は細かくなっていますが、実務では、その他の包括利益累計額も、C/Iの表示単位である細分類ごとになっているケースが多いです。
このデフォルメ表で、他のF/Sとの数字の突合せ方法を簡単にまとめます。
期首残高と期末残高は、該当項目がB/Sの昨年と今年の「純資産」に記載されています。大概のB/Sは昨年と今年の数字が左右に並んでいるので、見つけやすいです。
当期変動額の「配当金」はキャッシュフロー計算書の「財務キャッシュフロー」に該当の項目があります。ただし、本当に現金を株主に払っているかで多少金額が変わっているケースもあります。
当期変動額の「当期純利益」はP/Lの下の方に同額が記載されています。
今回一番の山場なのですが、当期変動額の「その他の変動額」の内、「包括利益」に関する部分は、「包括利益計算書」に該当の金額が見つけられるか、実は微妙です。というのも、日本基準とIFRSでは、「その他の包括利益」が「少数株主にかかわるもの」「持分法にかかわるもの」が別表示になっていたり、混入していたりするので、「包括利益計算書」をいくら眺めていても、S/Sと同じ金額を探すのが非常に困難だからです。
米国会計基準の場合、S/Sのその他包括利益累計額(の当期変動分)の非支配株主持分も合算した「経済的単一体説」の数字が、「包括利益計算書」にそのまま記載してあるので、お互いの数字のリンクを検証することができます。アメリカ人は不透明さを徹底的に嫌いますので、その性質がここにも出ています。

■ 実例をお見せします

論点は、前章で全て言及しましたので、ここでは、3つの会計基準によるS/Sの実例をご紹介するに留めたいと思います。
●日本基準
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書_日産自動車
●米国基準
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書_トヨタ自動車
●IFRS
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書_JT
IFRSでは、積極的に「株主資本」の定義がなされていません。それは、「新株予約権」を合算して親会社持分が定義してあるからです。フォーム名称も「持分変動計算書」となっていますから。もうひとつの特徴は、「その他の包括利益」と「当期純利益」の振替額が「85億円」ときちんと定義してあることです。前回、包括利益計算書の説明の際、IFRSでは、その他の包括利益の区分に、「後で純利益に振り替えられるか否か」というものがあるお話をしました。この85億円は、損益取引として認識され、当期純利益に計上され、結果として利益剰余金に足し込まれた分です。
もしよろしければ、ひとつひとつの数字を、B/S、P/L、C/Iと照らし合わせてみてください。トヨタ自動車(米国基準)のS/Sしか、他のF/Sと数字が一致しないと思います。
ここまで、「株主資本等変動計算書を斬る」の説明をしました。
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書を斬る

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