■ 虚々実々の駆け引きで絶対優位を築く!
先に戦場にいて敵軍の到着を待ち受ける軍隊は安楽だが、後から戦場にたどり着いて、休む暇もなく戦闘に駆け付ける軍隊は疲弊します。したがって、戦上手な人というのは、敵軍を思うがままに動かして、決して自分が敵の思うままに動かされたりしないものです。
来てほしい(誘き出したい)地点に敵軍が自分から進んでやって来るように仕向けられるのは、敵に餌となる利益を見せびらかすからです。
やって来てほしくない(遠ざけたい)地点に敵軍が来られないようにするには、敵に進出を断念させるデメリットを見せつけ、その場に引き止めさせるからです。
敵が腰を落ち着けて休息をとり安楽にしていれば、それを引きずり回して疲弊させることができ、食糧の豊富な地点にいて満腹していれば、それを他の地域に移動させて飢えさせることができるのは、敵が必ず駆けつけて来る要地に出撃し、その地点まで敵を誘導するからです。
千里もの長距離を遠征しながら危険な目に遭わないのは、敵兵がいない地域を進軍するからです。攻撃すれば決まって敵陣地を奪取できるのは、そもそも敵軍が固く守備をしていない地点を狙って進軍するからです。そして、守備すれば決まって堅固に守り切るのは、そもそも敵軍が攻撃してこない地点を守るからです。
このように、攻撃の巧みな者にかかると、敵はどこを守ればよいのか判断できず、守備の巧みな者にかかると、敵はどこを攻めればよいのか判断することができないのです。
微(かすか)なるかな、微なるかな、無形の段階にまで到達する。
神業なるかな、神業なるかな、無音の段階にまで到達する。
だからこそ、敵の死命を制する主宰者となれるのです。
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これから、敵軍の行動を自在に操って、兵力の相対的優勢を確保し、「実」によって「虚」を撃つ戦術を説く篇に突入です。
「虚実の戦法」とは、敵の兵力配備の厚い箇所を避けて、兵力配備の手薄な箇所に自軍の攻撃力を集中することです。ゲリラ戦や、マーケティング理論でいう「ニッチャー戦略」、弱者の戦法の「ランチェスターの法則」に共通する戦い方になります。
こうした戦いを成立させるには、敵軍の虚と実を察知することは当然ですが、さらに積極的に、自ら敵軍を虚なる状態に陥れることも必要になります。そこで、孫子は、敵軍の行動を自己の思惑通りに操縦して、敵の実を回避し、敵に虚を生ぜしめる方策をいくつか示しています。
A.敵をある特定の地点に誘い出す → 移動・進出の制御
B.敵をある特定の地点に釘付けにする → 静止・滞留の制御
A.のためには、
1)プラス面の提示法(利益を見せかけて誘導する)
2)マイナスの提示法(座視すれば生ずる損失を見せつけて強制する)
B.のためには、
・マイナスの提示法(進出した場合の不利益を見せつけて牽制し、敵を現在地点に拘束する)
この2種類の敵軍へのアピール方法を組み合わせると、次の4つの操作方法が使用可能になります。
1.敵戦力の自在な消耗
A.を用いて、敵を有利な条件から他の地点に移動させ、疲労や飢餓などの苦境に導く
2.自在の進軍
自軍が進撃を予定する地域一帯から敵兵力を間接的に除去し、一切の妨害を受けずに自由に進軍する
そのために、
A.を用いて、敵をどこかに釣り出す
B.を用いて、進出を思いとどまらせる
3.自在の攻撃
目標地点の守備兵力を弱体化させ、自軍の思い通りに攻撃して目標を制圧する
そのために、
A.を用いて、敵を守備地点から移動させる
B.を用いて、こちらの攻撃地点への救援を断念させる
4.自在の守備
防御地点周辺の敵兵力を空虚にし、その地点を安全に守備する
そのために、
A.を用いて、敵の進路をそらす
B.を用いて、攻撃を思いとどまらせる
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