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東芝、疑惑の手法明らかに 「テレビ販促費、計上せず」 不適切会計、なぜ・誰が不明

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ 材料の「有償支給」に潜む誘惑

経営管理会計トピック

前回」に引き続き、三面記事的とりあつかいではなく、あくまで会計基礎を学ぶ大変いい教材として、東芝を取り上げます。今回は、パソコン事業の材料の「有償支給」に伴う利益の過大計上(厳密には、期末在庫評価額の過大評価)の説明をします。

(前回:「工事進行基準」における「損失引当金」の処理について)
⇒「東芝不適切会計、半分は13年度 スマートメーターなど 損失引当金計上せず

2015/6/26|日本経済新聞|朝刊 東芝、疑惑の手法明らかに「テレビ販促費、計上せず」 不適切会計、なぜ・誰が不明

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東芝は25日に開いた定時株主総会で、テレビや半導体、パソコン事業で調べている不適切会計の具体的な手法を初めて明らかにした。経費の計上漏れや在庫の甘い見積もりなどが疑われていると指摘。すでに詳細が判明しているインフラ関連をあわせた主力4分野すべてに「不適切」の可能性が広がったことになる。ただ問題が起きた背景や業績への影響は依然、見えない。全容解明は7月中旬以降になりそうだ。」

(新聞記事より)

東芝_主要分野で考えられる不適切会計_日本経済新聞_20150626

「「ダイナブック」のパソコン事業はかなり複雑だ。東芝は安く仕入れた部品をいったん製造委託先に売り、組み立てられた完成品を再び買い入れて顧客に販売している。
 価格下落が激しいパソコン事業はもうけが出にくい。ただ、製造過程の部品の取引だけみれば収益性は高い。完成品在庫が膨らむと部品取引の利益が増え、期間損益が実態より押し上げられていた疑いがある。」

今回は、このパソコン事業の数字のカラクリについて説明します。

 

■ ODMを巻き込んだ一連の取引実態

下表は、「第176期定時株主総会(2015年6月25日)」にて、前田恵造最高財務責任者(CFO)が経緯説明をした資料の中から、本ブログで焦点を当てるパソコン事業でのできごとをまとめたものです。

⇒「第176期定時株主総会 報告事項 資料 [PDF 1.97MB/29ページ]

この説明から、部品業者とODM業者を含めた取引の全体概要を簡単にまとめると下図のようになります。

経営管理会計トピック_材料の有償支給取引

① 部品業者

② TOSHIBA

③ ODM業者

④ TOSHIBA

⑤ エンドユーザ(パソコンを購入する一般消費者)

この一連の取引を、経済学における「産業連関表」風に分解すると、最終売上高700を次のように分解します。

東芝の利益:100
ODMの利益:100
ODMの加工費:100
部品の材料費:400

通常は、このような一連の取引がビジネスサイクルとして最初から最後まで滞りなく行われれば、上記のような付加価値の分配となって、会計操作の余地も生まれません。

では、上図の取引において、一番最後の「最終販売」が実際には行われなかったら、あるべき会計報告はいったいどうなるでしょうか? ヒントは、連結決算の範囲外の「ODM業者」を仮に連結決算対象子会社と考えたら、、、というものです。

あるべき、東芝の会計処理は、製品在庫として「680」ではなく、「600」だけ棚卸資産評価することです。仮に、ODM業者が連結対象だった場合、東芝からODMに材料の「有償支給」した際に乗っけたマージン「80」は、連結処理における「内部取引」により発生する「未実現利益」と解釈できます。さらに、部品売上高「480」も計上しては、東芝グループ全体の売上高をその分かさ上げしてしまいますし、その部品売上取引に起因する利益「80」を計上するなどもってのほかです。

 

■ ではなぜ、「有償支給」から生まれる利益をP/Lに計上できていたのか?

しかしながら、東芝はこの事実上の「未実現利益」をP/Lに計上していました。これがなぜ数年来、会計監査上も容認(単に見逃されていた!?)されてきたのでしょうか?

ヒントは、東芝の株主総会での説明資料にあります。

東芝_パソコン事業における部品取引_20150628

ポイント1:ODM(Original Design Manufacturing)業者は、連結決算対象ではない
ODMとは、「製造する製品の設計から製品開発まで、時にはマーケティング、物流や販売までを委託者のブランドのまま引き受ける」受託業者です。業務の独立性が高く、資本関係(支配関係になっていない)もなければ、そもそも未実現利益を消去する処理が厳格に適用されません。細かい連結処理規程を読めば、第三者のトンネル会社を使った取引に対する規程に引っ掛かり、相応の内部利益消去処理を義務付けられるのですが、相手がODM業者です、と言われれば、監査人も、以下に言及する要素も含めて総合的に判断して、「そうですか」と言わざるを得ません。

ポイント2:契約上、部品取引と完成品取引が独立している
上述の筆者のフロー図は、あたかも部品取引から完成品取引、そしてエンドユーザへの販売がすべてつながっている前提で記述しています。常識的に考えるとすべてつながっていると判断するのが適切なのでしょうが、契約書上は、この部品取引と完成品の脳品取引は別々のものである、という取り決めがあると、東芝としては、いったん、部品の有償支給取引だけ、独立の販売行為として、P/Lに売上と利益を計上することができる、という筋書きなのです。後の、完成品の納品状況や、ましてやエンドユーザへの実売があるか否かは一義的には関係ありません。

ポイント3:東芝にとって、部品取引のマージンが大きくなっていた
OEM(Original Equipment Manufacturing)業者は、「製品の詳細設計から製作や組み立て図面にいたるまで受託者へ支給し、場合によっては技術指導まで実施する」必要があります。ということは、キーパーツの供給もするケースがほとんどです。しかし、ODMは、設計・製造・マーケティングまでも自主的に行えるので、部品供給は必須ではありません。しかし、東芝のケースでは、従来のサプライヤーへのバイイングパワー等、東芝(受託者)で一括して部品を大量購入した方が、ODM(委託者)側で個々に購入するより、価格優位性があったものと推察されます。その価格交渉力が、値崩れを起こしやすい電子部品(だって、旬は2~3か月程度ですから)にも発揮されたのでしょう。

こうした場合、支給材の原価と支給単価の乖離が小さい(重要性の原則)、毎期比較的同じ物量の取引をしている(継続性の原則)ことが確認できれば、会計監査人としても、いたずらにことを大きくせず、容認するのが実務解です。

もうちょっとこの辺の会計実務に詳しい方なら「有償支給差益」「材料交付差益」という勘定を使って、この「内部利益」「未実現利益」をきちっと処理するのが本来の姿である、と主張されるかもしれません。理屈からはその通りです。しかし、何万点、時には何十万点の部品の管理で、有償支給にかかる内部利益の処理をどこまで厳格にするべきなのか? 管理のコスト倒れになる可能性が大です。

原価管理の実務をやってきた者のひとりの実感としても、有償支給の差益管理の前に、原価管理、原価低減でやるべきことは山のようにあります。こうした管理というものは、金額的影響の大きいもの、解決可能性の高いものから順に手を付けるものです。という実務慣行を逆手に取られたのが今回のケースなんですけどね。

最後に、株主への説明資料の最下部に、
「部品の相当部分が完成品に組み込まれて戻ってきている可能性」
という記述があります。

残念ながら、筆者は株主総会に出席していないので、ホームページ上の音声記録を確認しただけですが、ここの言いっぷりは、「ODMに安く部品を売る商売は独立した商売。ODMからパソコンを仕入れる商売は別で、売った部品が使われているか知らなかった」とも受け取れる説明です。それじゃ、聞いた方は本当~? となりますよ! どうせ説明するなら、腹をくくって説明することをお勧めします。
(あくまで、会計屋としての感覚ですが、、、)

では、最後の最後に、管理会計の目線からも改善の余地があることを一言。

完成品の納品を受け入れる際、全てを「仕入材料費」としてカウントしていると思うのですが、その中身は、元々東芝から販売された部品の購入原価とそのマージン、ODMでの加工費とそのマージンから構成されています。

「BOM(Bill of Materials):部品表」での管理をODMを含めてしっかりとやっていれば、どの工程(会社)のマージンなのか、本当の材料費と加工費の内訳なども分かってくるものです。その判別方法とBOMの構成の仕方を聞きたいですか? すみません。その知恵こそ筆者のコンサルタントとしての商売ネタでして。。。ここから先の説明は有償(支給)になります。決して交付差益は発生しませんが。(^^;)

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