収益認識のための5ステップ (再掲)
収益の認識のためには、必ず次の5ステップを踏む必要があります。厳密には、収益計上のため、計上タイミングを決める「認識」と、計上金額を決める「測定」行為が必要なのでした。
- Identify the contract with the customer(顧客との契約の識別)
- Identify the separate performance obligations in the contract(契約における履行義務の識別)
- Determine the transaction price(取引価格の算定)
- Allocate the transaction price to the separate performance obligations(履行義務への取引価格の配分)
- Recognize revenue when or as the entity satisfies each performance obligation(履行義務を充足した時か充足するにつれて収益を認識する)
それでは、本稿では、上記5ステップについて、逐条解説的に丁寧に論点を拾っていきたいと思います。
Step 1: 顧客との契約の識別
顧客との契約とは、「強制可能な権利と義務を生じさせる複数の契約当事者間の合意」です。英語(原文)では、次のようになります。
A contract is defined as an agreement between two or more parties that creates enforceable rights and obligations.
では具体的に、どういう条件を満たすと合意が成立するとみなされるのか。口頭、文書または暗示された意志(含意)のいずれかがあれば合意があったとみなす、という形式面ではなく、要件として何を満たす必要があるかをここでは問題視しています。収益を認識できるのは、次の4要件のすべてを満たしたときに限られます。
- All parties have approved the contract and committed to perform their obligations.
- 契約が承認され、かつ義務の充足が確約されていること
- The rights of each party regarding contracted goods or services are identified. Payment terms can be identified.
- 契約当事者間の権利を識別できること
- The contract has commercial substance.
- 契約に経済的実態があること
- It is probable (based on the customer’s intent and ability to pay when due) that the entity will collect substantially all of the consideration due under the contract.
- 対価の回収可能性が高いこと
Step 2: 契約における履行義務の識別
顧客との間に契約の存在を確認したら、次は、その契約を果たすための履行義務の単位を明確にします。
A performance obligation is a promise to transfer a goods or a service to a customer.
では、どうすれば、履行義務を個別に識別できるといえる状態になるのでしょうか。そのためには、下記の2要件を両方を同時に満たす必要があります。
- The customer can benefit either from the good or service independently or when combined with the customer’s available resources.
- 顧客が財・サービスだけ、または、財・サービスと顧客が利用可能な資源との組み合わせから、便益を受けることができる
- The promise to transfer the good or service is separately identifiable from other goods or services in the contract.
- 同じ契約内の他の約束と別々に識別可能であること
TACテキストでは、この便益を受けることができ、かつ個別に識別可能な単位を見出すための事例が2つ紹介されていました。
ひとつは、集合住宅の建設のケースです。いわゆるEPC(Engineering, Procurement, Construction )契約のことです。
下記、日揮様サイトの新卒向け説明がEPCを理解するには秀逸です。
集合住宅の建設を請け負った場合、資材の調達、配管工事、架線工事、設備の備え付け工事などは、それ単独でも、当該サービスの請負契約が結ばれることもあります。そのすべてのベンダーが異なるかもしれませんね。そういう場合は、それぞれの会社ごとに、それぞれのサービス単位(工事単位)で収益が認識されることでしょう。
しかし、すべての建設工事を請け負って、完成した集合住宅を顧客に引き渡すことを約束するゼネコンやプラント工事会社は、どの単位で収益を認識するのが適切なのでしょうか? いわゆる元請けの責任範囲(履行義務)とこれは密接に関係することです。
やはり、ひとつひとつの工事が実施されても、顧客(=集合住宅を注文した人)は満足することはないでしょう(=便益を感じることはないでしょう)。なぜなら、完成した集合住宅ひとそろいを欲しているからです。
それゆえ、こうした設備工事ものは、注文主が全ての設備の完成引き渡しか、部分の完成でも、その一部を引き渡すことで、顧客が限定的な施設利用を開始できるのならば、その全てか活用できる一部の引き渡しが履行されたときに、収益を認識することが適切である、と考えるのが自然ではないでしょうか。
もうひとつ、ソフトウェアに関連するサービスの事例があります。例えば、とあるソフトウェア(汎用パッケージの購入だったり、特注仕様の開発ものだったり両方あり)の購入を図るとき、見積書の明細が次のように分かれていたら、ソフトウェアの提供会社は、どの単位をどの時点で収益として計上するのが適切なのでしょうか。
- Software license ソフトウェア・ライセンス
- Installation service インストール・サービス
- Software updates ソフトウェア・アップデート(パッチとか、バージョンアップとか)
- Technical support テクニカル・サポート(電話やメール、訪問形式での助言サービス)
これらは、さっきの集合住宅のケースとは異なり、それぞれ単独のサービスとして提供されて、それぞれ単独のサービス単体で顧客の満足を引き出すことができます。言い換えると、顧客側からすれば、ソフトウェア・ライセンスさえ購入してしまえば、それ以外のサービスを追加するかどうかは、オプションとなり、取捨選択することができます。
この取捨選択できる、という事実があるからこそ、それら単体での提供を別個のサービス、別個の収益認識単位、別個の顧客満足(便益)を引き出すことができる具材であるといえるのです。
収益認識単位の識別に迷ったときは、常識に従い、それぞれ単体のサービス提供を受けたときに、自分が顧客だったら、それだけで満足できるか、または、取捨選択できるオプションかどうかについて、思案を巡らせば、大抵は判別できるように感じています。如何でしょうか? ^^)
さて、そろそろ、文字数制限に近づいてきました。心残りですが、5ステップの3以降は、次回に回したいと思います。
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