現在価値って何の価値?
USCMAの受験テキストの復習の解説ですが、今回は、一般的なファイナンスの学習にも最適な内容となっております。分かるようであまり理解できないような、現在価値(Present Value)とか割引計算、複利計算を扱います。
今回は、現在価値(Present Value)を復習します。TACテキスト内で、現在価値がこの配置になっているのは、この後、社債(Corporate Bonds)、投資(Investment)、リース(Leases)の順で学習していく予定なのですが、そのいずれにも、対象金融商品(金融取引)の現在価値を求める必要があることがその理由になっています。
ページを開くと、見開き2ページにわたって、何の断り書きもなく、
- 複利終価表(Future Value table)
- 複利現価表 (Present Value table)
- 年金終価表(Future Value of an ordinary annuity table)
- 年金現価表(Present Value of an ordinary annuity table)
が、どーん、と載っているので、初見は面食らいました。
それぞれの表の見方の前に、まず現在価値の基礎的な考え方のおさらいから。
今日の1万円は、来年の1万円とは持っている価値が異なる、というところから、この問題は出発します。なぜなら、手元にある1万円には、1年後には、金利(利息)が付いて1年後には1万円以上の価値になっているからです。
こうした素朴な説明をそのまま飲み込むためには、現実社会を見たうえで、教科書的な世界と割り切るために、以下2つのポイントを忘れないようにする必要があります。
- ゼロ金利またはマイナス金利政策を採っている2020年の日本では、銀行に普通預金をもっていても、年利は0.001~0.2%なので、金利(時の経過による貨幣価値の変化、貨幣の時間価値)をあまり感じることはできない
- 世の中のインフレーション(物価上昇)が5%だとしたら、名目金利が4%でも、実質金利は、-1%になり、現実的には、1%分だけ貨幣価値が下がっている
1.に関しては、やや乱暴ですが、日本の年利が10%ぐらいだった1970年代を思い出して(想像して)いただくしかないです。現在でも、インドは5%台、中国は4%台です。仮に、インド並みに年利5%の世界に住んでいるとしたら、現在の手元の1万円は、1年後には、10,500円の価値になっています。
現在価値:1万円 → 将来価値:10,500円
2.に関しては、USCMAの受験においては、会計の問題としては、名目金利と実質金利の差異が出題されることはありません。出題されるとしたら経済学。少なくとも会計科目の計算問題では、すべて名目金利と決めてかかっても問題ありません。
年利5%の世界では、1年間という時間の経過が、手元の1万円に、500円という付加価値を付けてくれます。これを、time value of money (貨幣の時間価値)と呼び習わしています。
現在価値と将来価値を計算する基本は、複利計算
常に1年後の場合は何の問題もないのですが、社債の償還期限もリースの契約年数も1年に限定されることはないので、通常は複数年にわたって、社債やリース契約の現在価値と将来価値を値踏みして、取引・契約にあたる必要があります。そこで重要なのが、複利計算(compounding)という計算技法です。
ここで話を簡単にするために、利払いは年一回、すなわち年利しかない世界を仮定します。そうすると、複利計算は、元本と毎年得られる利息の元利合計をそのまま次年度の運用に回すことで、2年目は、初年度の元本と利息の両方に、2年目の利息を稼いでもらうことが可能になります。
年利が5%の世界だと仮定すると、
【1年目】元本:10,000円 + 利息:500円(=10,000円×5%)
【2年目】元本:10,500円 + 利息:525円(=10,500円×5%)
毎年もらえる利息を引き出して、常に初年度の元本だけを運用に回すという手法だと、下記のような計算が毎年続くことになります。
【1年目】元本:10,000円 + 利息:500円(=10,000円×5%)
【2年目】元本:10,000円 + 利息:500円(=10,000円×5%)
このように、元本も変わらなければ、利息として受け取る金額も毎年変わらない仕組みを単利計算といいます。現在価値とか将来価値という概念を考える場合、時間の経過とともに、1万円の価値の推移を知りたいわけで、時間の経過とともに、生じる利息を勝手に引き出して使ってしまうと、計算が狂うので、利息には手を付けないものとする、というルールを徹底してください。
- Simple interest(単利)
- Compound interest(複利)
たかが、25円(=525円 – 500円)の差じゃないか、と思われるかもしれませんが、利息が利息を生む複利計算の世界では、時間が経過すればするほど、単利計算と複利計算の差は広がる一方になります。
ご参考まで、同じ条件(金利と期間)において、単利計算と複利計算の差がどれだけ広がっていくか体感できる計算コンテンツをご紹介します。ご自身で、数値を入力して実行ボタンを押してみてください。
このように、現在価値(Present value)、将来価値(Future Value)を知るための計算要素は、
- Principal(元本、元金)
- Interest rate(利子率)
- Time(期間)
の3つだけです。厳密には、利払い期間は、月・半年・四半期など、経過年数の中で複利期間が年以外である金融商品が現実世界には存在しますが、試験問題では、社債などの利払いに半年があるくらいで、現在価値を問う会計の問題で検討すべき複利期間が年以外ということは考えられません。
現実には、他条件が同じなら、複利期間がより短いほど運用が有利に働く(時間価値をより大きくすることができる)のですが、それにも数学的に限界があり、限界まで複利期間を短くした連続複利の効果値は「e = 2.71828182846…」(自然対数の底)に収斂することになっています。証券アナリストの試験とは違い、USCMAでここまでは出題されませんが。
複利計算 と 割引計算 は裏表の関係
今手元にある1万円(現在価値)の複数年後の貨幣価値(将来価値)を求めるためには、1万円を複利計算によって元利を共に運用していく感じにすると、将来価値が求まります。
逆に、2年後の将来価値が1万円で、それを現在価値に直したらいくらか? という問題は、複利計算の逆である割引計算を行います。
まず、年利5%の世界で1年後で考えます。期間を1年にするのは、単利計算と複利計算の差を考える必要がないようにするためです。
1年後の1万円は、現時点から考えると、年5%で運用された結果なので、現在価値から将来価値へは、元本を1とし、金利を5%(=0.05)と考えれば、
現在価値:1万円 ×(1 + 0.05)= 10,500円(将来価値)
の逆をやることなので、
将来価値:1万円 ÷(1 + 0.05)= 9,523.81円(現在価値)
または、上式の現在価値:1万円に金額をそろえた場合は、
将来価値:10,500円 ÷(1 + 0.05)= 1万円(現在価値)
となります。
複数年の場合は、複利計算や割引計算は、数学的には指数を用います。複利計算では、2年の場合は2乗し、3年の場合は、3乗します。割引計算では、2年の場合は、マイナス2乗し、3年の場合は、マイナス3乗します。
2乗というのは、2回掛け算をすることで、(1 + r)という数式を2回かけるのは、
(1 + r)×(1 + r) と記述できて、これをべき乗(指数)で表すと、
$$(1 + r)^2$$この勢いで、(1 + r)での割り算は、
$$ \frac {1}{(1 + r)}$$と表記され、これをべき乗(指数)で表せば、
$$(1 + r)^{-1}$$
なので、2年間の場合は、マイナス2乗となることから、(1 + r)という数式で2回割ることは、
$$(1 + r)^{-2}$$
となります。
最後は、高校1年生の数学の話になってしまいました。次回、この続きで、複利現価表、複利終価表の使い方と計算方法を復習していきたいと思います。
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