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■ 稼ぐ力を示す指標

経営管理会計トピック
特集記事の最終回。「イオンの針路」がイオンの収益力についてある財務指標を使って分析していました。

2014/9/28付 |日本経済新聞|朝刊
イオンの針路(下)財務指標に潜む警告 「稼ぐ力」伴う拡大必要

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、
「投資家が重視する財務指標のROIC(投下資本利益率)。税引き後の営業利益を投下資本で割って算出する。投下資本とは株主資本と有利子負債の合計。つまりは調達したお金でどれだけ効率的に利益を稼いだかが分かる」
として、ROICで収益力を測る大切さを説いています。
また、
「低いROICはM&A(合併・買収)のたび、バランスシートが拡大する半面、見合う利益が上がっていない現実を物語る。岡田社長も「(規模と)利益の成長との間に時間差があり、それを最小にするのが課題」と認める」
とあり、経営者も自身の経営成果としての収益性についてROICを重視している表現が見受けられます。
投資家も経営者も重視している「ROIC」とは同じものを指しているのでしょうか?

■ 投下資本の算出方法

ROICは割り算指標なので、分子と分母がある基本ポリシーで統一されて、その比率に意味がないと成立しない指標です。
ここでは、分子は敢えておいておくとして、分母の「投下資本」について議論したいと思います。
投資家から見れば、たとえ簿価評価額だとしても、自分たちが投資(融資&出資)したお金がどれだけのリターン(ここではNOPLAT)を生んだか、その効率で投資採算性を評価する意思が働きます。
その場合は、
投下資本 = 有利子負債 + 自己資本
となります。
経営者から見れば、自身の経営手腕で、ある事業に投下した資産がきちんと収益を生んでいるかの事業採算性を評価したいとする意思が働きます。
その場合は、
投下資本 = 運転資本 + 固定資産 (+ 手元流動性)
となります。
ここでも気になるのは、「手元流動性」の内、何割が事業に投下しているのか、すなわち営業正常循環の中で、現預金がいくらないと、当該事業内のキャッシュフローが回らないか、簡単に測定・識別することが難しいということです。
難しいならば、全部入れるか全部外すか、どちらかですが、余剰資金は無いのだということで、ここでは全て投下資本に入れることにします。
もうひとつ、「固定資産」の内容を吟味する必要があります。「固定資産」には通常「投資その他の資産」ということで、「投資有価証券」「長期貸付金」など、直接事業活動に使用しているわけではなく、余剰資金をとりあえず1年以上の期間運用しているだけです。こういうものが「本当に事業に投下しているのか?」疑問符が付くものがあるということです。
簡単に下記に図示しておきましょう。
経営管理会計トピック_投資家から見た投下資本 
経営管理会計トピック_経営者から見た投下資本

■ 実際にROICを計算してみる

記事には、イオンのROICが約4%とあり、同業他社の数字も並んでいます。
物は試しにEDINETから有価証券報告書を引っ張り出して、こちらで試算してみます。
少々面倒くさいので、「平残」方式ではなく「期末在高」方式の採用をご容赦ください。
経営管理トピック_ROIC
留意事項は下表のとおりです。
経営管理トピック_ROIC_注意点
銀行業における預金は、試算上は投下資本に算入していますが、リース債務は入れていません。また、受取利息・受取配当金・持分法による投資利益は分子が営業利益とした時点で入れていません。
イオンは、銀行業の預金を有利子負債にしなければ(通常の財務分析でも入れませんが)ROICは約3%にはなります。しかし、イオンの営業利益の23.8%の409億円は、有価証券報告書のセグメント情報によると、「総合金融事業」からの儲けとなります。約1/4は金融業による儲けということは、単純に流通業同士の比較では、比較のベースがずれてしまうように思えます。預金者から預かったお金は、利子をつけて返しているわけですからね。イオンのセグメント情報における有利子負債にも預金は入っていません。実態を見ることをお勧めします。イオンにとってROICを説明したい債権者は一体誰なのでしょうか?
また、投資(事業)規模という観点からの注意が必要です。下のグラフは、ROICの分子・分母の分布を表したものです。当然素直に考えると、事業規模が拡大すると、規模の利益が得られるのか、収穫逓減の法則が働くか、必ず分岐点が出てきます。また、ニッチトップの企業は敢えて規模の拡大を捨てて、高利益率の方を選択する戦略もありということです。
経営管理会計トピック_ROIC_グラフ_イオン
くどいですが、筆者からのコメントは、

  1. ROICは、立場・分析目的によって計算式のバリエーションがある
  2. イオンは既に、流通業専業ではない
  3. 収益性指標は必ず事業規模を考慮して分析する

本日は以上です。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 稼ぐ力を示す指標 特集記事の最終回。「イオンの針路」がイオンの収益力についてある財務指標を使って分析していました。 2014/9/28付 |日本経済新聞|朝刊 イオンの針路(下)財務指標に潜む警告 「稼ぐ力」伴う拡大必要(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 記事では、 「投資家が重視する財務指標のROIC(投下資本利益率)。税引き後の営業利益を投下資本で割って算出する。投下資本とは株主資本と有利子負債の合計。つまりは調達したお金でどれだけ効率的に利益を稼いだかが分かる」 として、ROICで収益力を測る大切さを説いています。 また、 「低いROICはM&A(合併・買収)のたび、バランスシートが拡大する半面、見合う利益が上がっていない現実を物語る。岡田社長も「(規模と)利益の成長との間に時間差があり、それを最小にするのが課題」と認める」 とあり、経営者も自身の経営成果としての収益性についてROICを重視している表現が見受けられます。 投資家も経営者も重視している「ROIC」とは同じものを指しているのでしょうか? ■ 投下資本の算出方法ROICは割り算指標なので、分子と分母がある基本ポリシーで統一されて、その比率に意味がないと成立しない指標です。 ここでは、分子は敢えておいておくとして、分母の「投下資本」について議論したいと思います。 投資家から見れば、たとえ簿価評価額だとしても、自分たちが投資(融資&出資)したお金がどれだけのリターン(ここではNOPLAT)を生んだか、その効率で投資採算性を評価する意思が働きます。 その場合は、 投下資本 = 有利子負債 + 自己資本 となります。 経営者から見れば、自身の経営手腕で、ある事業に投下した資産がきちんと収益を生んでいるかの事業採算性を評価したいとする意思が働きます。 その場合は、 投下資本 = 運転資本 + 固定資産 (+ 手元流動性) となります。 ここでも気になるのは、「手元流動性」の内、何割が事業に投下しているのか、すなわち営業正常循環の中で、現預金がいくらないと、当該事業内のキャッシュフローが回らないか、簡単に測定・識別することが難しいということです。 難しいならば、全部入れるか全部外すか、どちらかですが、余剰資金は無いのだということで、ここでは全て投下資本に入れることにします。 もうひとつ、「固定資産」の内容を吟味する必要があります。「固定資産」には通常「投資その他の資産」ということで、「投資有価証券」「長期貸付金」など、直接事業活動に使用しているわけではなく、余剰資金をとりあえず1年以上の期間運用しているだけです。こういうものが「本当に事業に投下しているのか?」疑問符が付くものがあるということです。 簡単に下記に図示しておきましょう。   ■ 実際にROICを計算してみる記事には、イオンのROICが約4%とあり、同業他社の数字も並んでいます。 物は試しにEDINETから有価証券報告書を引っ張り出して、こちらで試算してみます。 少々面倒くさいので、「平残」方式ではなく「期末在高」方式の採用をご容赦ください。 留意事項は下表のとおりです。 銀行業における預金は、試算上は投下資本に算入していますが、リース債務は入れていません。また、受取利息・受取配当金・持分法による投資利益は分子が営業利益とした時点で入れていません。 イオンは、銀行業の預金を有利子負債にしなければ(通常の財務分析でも入れませんが)ROICは約3%にはなります。しかし、イオンの営業利益の23.8%の409億円は、有価証券報告書のセグメント情報によると、「総合金融事業」からの儲けとなります。約1/4は金融業による儲けということは、単純に流通業同士の比較では、比較のベースがずれてしまうように思えます。預金者から預かったお金は、利子をつけて返しているわけですからね。イオンのセグメント情報における有利子負債にも預金は入っていません。実態を見ることをお勧めします。イオンにとってROICを説明したい債権者は一体誰なのでしょうか? また、投資(事業)規模という観点からの注意が必要です。下のグラフは、ROICの分子・分母の分布を表したものです。当然素直に考えると、事業規模が拡大すると、規模の利益が得られるのか、収穫逓減の法則が働くか、必ず分岐点が出てきます。また、ニッチトップの企業は敢えて規模の拡大を捨てて、高利益率の方を選択する戦略もありということです。 くどいですが、筆者からのコメントは、 ROICは、立場・分析目的によって計算式のバリエーションがあるイオンは既に、流通業専業ではない収益性指標は必ず事業規模を考慮して分析する 本日は以上です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します