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業績管理会計の基礎(13)インベストメントセンターの管理 ①投資収益性の評価方法とは

業績管理会計(入門)
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■ インベストメントセンターは必ずしも責任会計制度の終着点ではない

責任会計制度を論じ始めて、ようやくインベストメントセンターまで辿り着くことができました。一般的には、コストセンターから始まり、徐々に管理手法を高度化させると、インベストメントセンター管理へ終着すると考えられています。そういう直線的な進化モデルを筆者は採りません。

なぜならば、

1)会計責任は、権限と責任の一致が大原則である
2)組織によって、設定すべき会計責任は異なる
3)業績測定ツールの運用次第で、会計責任の設定は工夫することができる

と考えているからです。

3)については補足しておきます。例えば、真正なるコストセンターでも、社内仕切制度を用いたり、営業差益概念を用いたりして、疑似プロフィットセンター扱いすることがその代表例です。

しかしながら、コストセンターにはじまり、インベストメントセンターに至るまで、業績測定がなされる会計情報がより包含的になるため、ここで便宜的に進化論的な構造図で、会計責任の違いと測定数字の増加の様を読者の理解のために説明していきたいと思います。

 

■ 会計責任と責任中心点の遷移を見る

責任会計制度は、会計システムがもたらす会計情報と、職制上の責任者の責任を結び付け、経営管理活動の良否を与えられた会計責任で持って測定・評価しようとするものです。

責任中心毎の会計責任をP/L、B/Sといった財務諸表のどこに起因するものかを便宜的に図示したものを再掲します。

業績管理会計(入門編)_会計責任と財務諸表

これだけだと、はぁ~、となりそうなので、もう少し構造的に説明を加えてみます。

業績管理会計(入門編)会計責任の構造

(1)コストセンター
与えられた原価または費用の執行管理、予算額をシーリングとしてそれ以上の超過支出をしないこと、かつ、その支出予定額に見合った効果を出すことに責任を持つ会計組織です。

(2)レベニューセンター
与えられた収益(売上)、原価、費用それぞれ個別の執行管理の責任を与えられた会計組織です。ここで注意すべきなのは、収益と原価・費用の差額で利益を計算していないところ。その差額概念は「営業差益」と呼ばれ、毒にも薬にもなる会計指標です。

(参考)
⇒「業績管理会計の基礎(6)機能別組織における会計責任構造の設計 - 予算統制のための情報連携がキーポイント

(3)プロフィットセンター
自組織の収益とコスト双方に責任を持ち、差額概念である結果として計算される利益に責任を持つ会計組織です。

(4)インベストメントセンター
自組織であがる利益と、その利益を生み出すために投下された資産(資本)、投下資本とか使用資産とも呼ばれますが、利益と投資額の差異を、「率」もしくは「額」で認識して、投資収益性が評価される会計組織です。さらに、時間軸(会計期間)を超えて、どれだけの収益価値を持つエンティティなのかを「事業価値」(会社全体の場合は「企業価値」と呼ぶ)として評価することもあります。上図では数ある事業価値評価手法の内、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法を用いた算式で示してあります。

 

■ インベストメントセンターの包括性と評価指標について

インベストメントセンターにおける業績評価指標は、投資利益率であろうと、残余利益額であろうと、それまでの、収益、コスト、利益に加え、投資額や資本コストまで含む包括的な評価指標であるため、管理のためのパラメータは増えてしまい、それにしたがって管理工数も増大しますが、部分的な評価から全体的な評価手法であり、業績測定の死角が少なくなり、推奨されるべき業績評価指標であると論じられることがあります。

この点について、筆者の実務面での一般的経験から得られた検討ポイントは次の通り。

(1)投資収益性をはじき出すための会計情報を評価単位(責任単位)で個別に把握できるのか?
(2)投資収益性を「率」で測定するか、「額」で測定するか?
(3)事業責任者の任期と業績評価期間の不整合はないか?

(1)投資収益性評価のための会計情報の把握

下図をご覧ください。

財務分析(入門編)_ROIたちの分母 七変化

⇒「ROI: Return on Investment 投資利益率(1)

投資収益性を評価するには、まず評価組織の管理可能利益とか責任利益が把握される必要があります。プロフィットセンターでの会計責任を管理する段階で、この条件はいったんクリアされていると考えます。そうすると、後は、投資額、使用資産、投下資本というB/S由来の会計情報をどこまで、評価単位で把握することができるかが、インベストメントセンター管理の巧拙の分岐点となります。

よく、経営管理・管理会計を専門とする経営コンサルタントなんだから、きれいに、事業部別のB/Sを作ってよ、と依頼されることがあります。その場合の「きれいに」という表現が曲者です。それはつまり、「誰もが納得する配賦基準で分割不能な資産・負債項目を各事業組織に配分する仕組みを作ってくれ」ということを意味します。

筆者は、P/Lの世界の住人である共通費ですら配賦を嫌がるのですが、その私にB/S項目の配賦の依頼をしてくるクライアントがいるんです! きれいに(理屈をつけて何とか配賦した)事業組織別のB/Sを作ることはやぶさかではないのですが、そうして配賦されたB/Sで評価された投資収益性指標は、当該インベストメントセンター長の裁量でコントロールできるB/Sから算出されたものでしょうか? いきおい、プロフィットセンターと同じ行動しかできないものです。

責任と権限の一致が責任会計制度の1丁目1番地です。きれいに分割されたB/Sを作るには、その下地とその必要性の2要件が必須となります。結論から言うと、テクニカルに無理のないインベストメントセンターとしてのB/S項目の区分把握ができないとしたら、俎上に載せられた組織は、まずインベストメントセンター扱いしてあげる必要条件を満たしていないと断言します。

(2)投資収益性を「率」で測定するか、「額」で測定するか

これは、80年代から議論されている古くて新しい議論です。そして、未だにこれを議論しなければならないもどかしさに対するちょっとした怒りを隠すことは難しいものです。投資収益性を「率」で評価する指標の代表例として「ROI」を用いて説明します。

あなたが事業長である組織の現在時点のROIが10%であると仮定します。

ROI = 利益 ÷ 投資額(使用資産、投下資本)
ROI = 10 ÷ 100
ROI = 10%

ここに、新たに、ROIが5%の新規投資案件があなたの裁可の手許に届いたとします。あなたが事業長として、そしてインベストメンター長として、ROIで業績評価されている場合、これにどう対処しますか?

答えは簡単ですよね。あなたの業績評価指標がROIなら、現在のROIを悪化させるような新規案件への投資はすべて却下です。しかし、この5%はあくまで新規の投資機会から得られるリターンと投下資本の比率に基づく数字です。しかもプラスの値になっているのです。これが意味することは、この新規投資を実行すると、あなたの手許に残る事業利益は増えるということです。

新規投資におけるROIの計算式が、

ROI(新)= 5 ÷ 100
ROI(新)= 5%

として、合成後の事業組織全体のROIは、

ROI(合成)=(10+5)÷(100+100)
ROI(合成)=15 ÷ 200
ROI(合成)=7.5%

この場合、「率」は悪化するけれど、「額」は増える、という経営予測が成り立ちます。この場合の新規投資の可否判断は、用いている評価指標次第ということになります。

ここに、残余利益(RI:Residual Income)の概念を加えます。

あなたの事業における投資額、使用資産、投下資本には、資本コストがかかっているものであると考えるのです。ここでは、伊藤レポートに倣って、8%と仮定します。そうすると、上式は、

現時点のあなたの事業組織のRIは、

RI = 利益 -(投資額 × 資本コスト率)
RI = 10 -(100 × 8%)
RI = 2

新規投資案件にかかるRIは、

RI(新)= 5 -(100 × 8%)
RI(新)= -3

となり、リターン額で評価するとマイナスになるので、この瞬間、この新規投資案件は迷わず却下とすることができるのです。合成後のRIを計算するまでもありません。

問題は、現在のROIを低下させるけど、投資実行後のRIが増える場合です。

例えば、
RI(新2)= 9 -(100 × 8%)
RI(新2)= +1

RI(合成2)=2+1=3

となりますが、

ROI(合成2)=(10+9)÷(100+100)
ROI(合成2)=19 ÷ 200
ROI(合成2)=9.5%

となる場合です。

どうも、資本コストまで考慮に入れたとしたら、ROIよりRIの方が、インベストメントセンターの業績評価指標として使えそうであることが分かります。いわゆる過少投資問題の回避が可能になるのです。

さて、次回は上記の考察に加え、「時間軸」という経営要素を加えた場合のインベストメントセンター評価に対する考察をさらに深めていきたいと思います。

業績管理会計(入門編)業績管理会計の基礎(13)インベストメントセンターの管理 ①投資収益性の評価方法とは

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