Pocket

■ 企業買収の損得

経営管理会計トピック
ローソンが高級スーパーの成城石井を投資ファンドの丸の内キャピタルから買収するとの報道がありました。

2014/9/30付 |日本経済新聞|朝刊
ローソンが成城石井買収 550億円、スーパー本格進出 小売り大手軸に再編

2014/10/1付 |日本経済新聞|朝刊
(真相深層)幻の共同買収提案 成城石井、ローソンが買収発表 三越伊勢丹 執念届かず

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

まず、売り手の丸の内キャピタルの損得から。
記事によると、丸の内キャピタルは、2011年にレックス・HD(現レインズインターナショナル)から成城石井を約420億円で買収しました。そして、2014年10月31日(予定)にローソンに550億円で売却するので、約3年で130億円のさやがとれたことになります。
投資収益率 = 130億円 ÷ 550億円 = 23.6%
この計算値自体にはあまり意味はありませんが、ひとつの目安として。
当然、この3年間に様々な支出があったと思われますし、収益力向上に骨もおったと思われますので、濡れ手に粟とは決して申し上げません。記事にあるグラフから目の子で、買収時の営業利益が28億円。そして記事内にある2014年12月期の予想営業利益が45億円程度ということなので、17億円もの営業増益になるための経営(支援)努力があったものと理解しております。
次に、ローソンの損得に移ります。
マルチプル法は比較対象企業の選定でぶれますし、残余利益(RI:Residual Income)系の指標を出そうとすると、資本コストを算定しなければならず、これもかなり面倒で外部の第三者が推測しても精度にも問題があるので、ここは簡便法で簿価だけで見ます。教科書チックに企業価値評価モデルの披露をするのが目的ではありませんので。。。
2011年に丸の内キャピタルが成城石井を買収した際には、営業利益が(推測)28億円なので、
NOPLAT(簡便法)= 営業利益  × (1 - 税率) 
                                = 28億円 × (1 - 40%)
                = 16.8億円
買収額が約420億円なので、
ROIC(簡便法)= 16.8億円 ÷ 420億円
             = 4.0%
となり、丸の内キャピタルは投資収益率が4%の投資商品として購入したと見なせるということです。
これが、2014年度の見込みで、営業利益が45億円となるので、同じ投資収益率の商品としての買値は、
4.0% = 45億円 × (1 - 40%) ÷ X 億円
X = 675億円
と計算できます。丸の内キャピタル(またはローソン)は損したのか、得したのか、見方・立場によって判断基準はいろいろありますので、最終的には読者の判断にお任せします。
ここで、丸の内キャピタルとローソンで合意した譲り渡し金額が550億円なので、
ROIC(簡便法)= 45億円 × (1 - 40%) ÷ 550億円
             = 5.0%
となり、ローソンは、投資収益率が5%の投資商品として成城石井を購入することを意思決定したとも見なせます。
ここで、ローソンの既存ビジネスのROICはどうだったか。それとの比較でないと、この方式によるローソンにとっての損得は評価できないので、FY13の連結財務諸表からローソンの既存ビジネスのROICを推計したいと思います。
《FY13 ローソン実績より》
ROIC(簡便法) = 681億円 × (1 - 35.6%) ÷ 3294億円
             = 13.3%
そこで、法定実効税率:35.6%で、成城石井のROIC(簡便法)を再計算とすると、
ROIC(簡便法) = 45億円 × (1 - 35.6%) ÷ 550億円
                 = 5.3%
となります。
逆に、13.3%のROICをひねり出すためには、
13.3% = 45億円 × (1 - 35.6%) ÷ X 億円
X = 218億円
となり、
買収資金の550億円との差額:332億円分はこれから、玉塚社長の手腕で、成城石井は、
13.3% = X  億円 × (1 - 35.6%) ÷ 332億円
X = 66.5億円
もの営業利益を追加的に生み出さなければなりません。
これでも、投下資本に、783億円のリース債務を組み入れて、保守的にROIC(既存ビジネス分)を算出してみたのですが、如何でしょうか?

■ これからの買収余地はどれくらいか、どこまで買収資金が必要か

新聞報道では、「玉塚社長は、2018年2月期に連結営業利益1000億円(今期予想は750億円)を目標に掲げる。達成に向け、M&A(合併・買収)を積極化する方針を示していた」とあります。目標達成まで残り、250億円。550億円で成城石井の営業利益:45億円を買い、シナジーで生み出さなければならない営業利益が66.5億円。これらを足しても目標1000億円には残り、138.5億円。
138.5億円を積み増すために、
既存ビジネスと同じROICを出せる案件の買収に必要な資金は、
13.3% = 138.5億円 × (1 - 35.6%) ÷ X  億円
X = 671億円
成城石井並みのROICを出せる案件の買収に必要な資金は、
5.3% = 138.5億円 × (1 - 35.6%) ÷ X  億円
X = 1683億円
2018年2月期に、連結営業利益1000億円を達成するために、これからローソンには、
700億円~1700億円程度の買収資金が必要になります。
(当然、内部成長は一旦無視しています)
FY13の連結キャッシュフロー計算書から簡便的なFCF(営業CF+投資CF)は336億円。一方で、リース債務返済に175億円、配当金支払いに210億円。合計:385億円。
FY13の連結B/Sの現預金勘定は768億円。投資有価証券は128億円。
FCFは当てにならず、内部留保から見ても、十分な買収資金があるとは言い切れない様子です。
しかし、
この記事を書いている間にも、ローソンのホームページでプレスリリースを確認していたところ、10/1付で、ポプラ社の発行済株式総数の5%を12月上旬に取得することが公表されていました。
企業成長目標の達成と収益率の維持、必ずしもトレード・オフ関係ではありませんが、できるならば、外部のステークホルダーが納得する企業成長の目標設定とその達成のための戦略選択であってほしいものです。
誰のための企業成長目標なのか、一考の余地アリ???

(Visited 136 times, 1 visits today)
Pocket

小林 友昭会計で経営を読む■ 企業買収の損得 ローソンが高級スーパーの成城石井を投資ファンドの丸の内キャピタルから買収するとの報道がありました。 2014/9/30付 |日本経済新聞|朝刊 ローソンが成城石井買収 550億円、スーパー本格進出 小売り大手軸に再編 2014/10/1付 |日本経済新聞|朝刊 (真相深層)幻の共同買収提案 成城石井、ローソンが買収発表 三越伊勢丹 執念届かず(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます まず、売り手の丸の内キャピタルの損得から。 記事によると、丸の内キャピタルは、2011年にレックス・HD(現レインズインターナショナル)から成城石井を約420億円で買収しました。そして、2014年10月31日(予定)にローソンに550億円で売却するので、約3年で130億円のさやがとれたことになります。 投資収益率 = 130億円 ÷ 550億円 = 23.6% この計算値自体にはあまり意味はありませんが、ひとつの目安として。 当然、この3年間に様々な支出があったと思われますし、収益力向上に骨もおったと思われますので、濡れ手に粟とは決して申し上げません。記事にあるグラフから目の子で、買収時の営業利益が28億円。そして記事内にある2014年12月期の予想営業利益が45億円程度ということなので、17億円もの営業増益になるための経営(支援)努力があったものと理解しております。 次に、ローソンの損得に移ります。 マルチプル法は比較対象企業の選定でぶれますし、残余利益(RI:Residual Income)系の指標を出そうとすると、資本コストを算定しなければならず、これもかなり面倒で外部の第三者が推測しても精度にも問題があるので、ここは簡便法で簿価だけで見ます。教科書チックに企業価値評価モデルの披露をするのが目的ではありませんので。。。 2011年に丸の内キャピタルが成城石井を買収した際には、営業利益が(推測)28億円なので、 NOPLAT(簡便法)= 営業利益  × (1 - 税率)                                  = 28億円 × (1 - 40%)                 = 16.8億円 買収額が約420億円なので、 ROIC(簡便法)= 16.8億円 ÷ 420億円              = 4.0% となり、丸の内キャピタルは投資収益率が4%の投資商品として購入したと見なせるということです。 これが、2014年度の見込みで、営業利益が45億円となるので、同じ投資収益率の商品としての買値は、 4.0% = 45億円 × (1 - 40%) ÷ X 億円 X = 675億円 と計算できます。丸の内キャピタル(またはローソン)は損したのか、得したのか、見方・立場によって判断基準はいろいろありますので、最終的には読者の判断にお任せします。 ここで、丸の内キャピタルとローソンで合意した譲り渡し金額が550億円なので、 ROIC(簡便法)= 45億円 × (1 - 40%) ÷ 550億円              = 5.0% となり、ローソンは、投資収益率が5%の投資商品として成城石井を購入することを意思決定したとも見なせます。 ここで、ローソンの既存ビジネスのROICはどうだったか。それとの比較でないと、この方式によるローソンにとっての損得は評価できないので、FY13の連結財務諸表からローソンの既存ビジネスのROICを推計したいと思います。 《FY13 ローソン実績より》 ROIC(簡便法) = 681億円 × (1 - 35.6%) ÷ 3294億円              = 13.3% そこで、法定実効税率:35.6%で、成城石井のROIC(簡便法)を再計算とすると、 ROIC(簡便法) = 45億円 × (1 - 35.6%) ÷ 550億円                  = 5.3% となります。 逆に、13.3%のROICをひねり出すためには、 13.3% = 45億円 × (1 - 35.6%) ÷ X 億円 X = 218億円 となり、 買収資金の550億円との差額:332億円分はこれから、玉塚社長の手腕で、成城石井は、 13.3% = X  億円 × (1 - 35.6%) ÷ 332億円 X = 66.5億円 もの営業利益を追加的に生み出さなければなりません。 これでも、投下資本に、783億円のリース債務を組み入れて、保守的にROIC(既存ビジネス分)を算出してみたのですが、如何でしょうか? ■ これからの買収余地はどれくらいか、どこまで買収資金が必要か新聞報道では、「玉塚社長は、2018年2月期に連結営業利益1000億円(今期予想は750億円)を目標に掲げる。達成に向け、M&A(合併・買収)を積極化する方針を示していた」とあります。目標達成まで残り、250億円。550億円で成城石井の営業利益:45億円を買い、シナジーで生み出さなければならない営業利益が66.5億円。これらを足しても目標1000億円には残り、138.5億円。 138.5億円を積み増すために、 既存ビジネスと同じROICを出せる案件の買収に必要な資金は、 13.3% = 138.5億円 × (1 - 35.6%) ÷ X  億円 X = 671億円 成城石井並みのROICを出せる案件の買収に必要な資金は、 5.3% = 138.5億円 × (1 - 35.6%) ÷ X  億円 X = 1683億円 2018年2月期に、連結営業利益1000億円を達成するために、これからローソンには、 700億円~1700億円程度の買収資金が必要になります。 (当然、内部成長は一旦無視しています) FY13の連結キャッシュフロー計算書から簡便的なFCF(営業CF+投資CF)は336億円。一方で、リース債務返済に175億円、配当金支払いに210億円。合計:385億円。 FY13の連結B/Sの現預金勘定は768億円。投資有価証券は128億円。 FCFは当てにならず、内部留保から見ても、十分な買収資金があるとは言い切れない様子です。 しかし、 この記事を書いている間にも、ローソンのホームページでプレスリリースを確認していたところ、10/1付で、ポプラ社の発行済株式総数の5%を12月上旬に取得することが公表されていました。 企業成長目標の達成と収益率の維持、必ずしもトレード・オフ関係ではありませんが、できるならば、外部のステークホルダーが納得する企業成長の目標設定とその達成のための戦略選択であってほしいものです。 誰のための企業成長目標なのか、一考の余地アリ???現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します