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■ 経営者が事業ポートフォリオ管理をしたがるには理由がある

経営管理(基礎編)
経営管理 その管理対象」にて、経営を管理するにあたって、代表的な管理対象を4つ挙げました。
① 事業ポートフォリオ
② エンジニアリング・チェーン
③ バリュー・チェーン
④ 組織
経営管理(基礎編)_経営管理対象
今回は、「事業ポートフォリオ管理」を取り上げます。
そもそも「事業」とは、自社の提供商品・サービスの種類、セールスの仕方の違い(販売地域の違い含む)、あるいはターゲットとしている顧客層の違いで、会社の中の商売の仕方にある程度、特徴がある「かたまり」でまとめられたものです。
そして、この文脈での「ポートフォリオ」とは「複数種類の事業の組み合わせ」のことを指し、「事業ポートフォリオ管理」とは、ある企業が多角化している場合、多角化事業のそれぞれの組み合わせが最適になる、つまり会社が一番儲かる事業の組み合わせを、事業をいろいろと組みかえて、維持し続けること、を意味しています。
同時に複数の事業を営んでいない場合でも理屈は同じです。馬車メーカーが自動車メーカーになったり、パソコンソフト販売会社が通信会社になったり、繊維メーカーが高機能素材メーカーになったり、メイン事業を乗り換えることも、広義では事業ポートフォリオ管理をしている、といえましょう。
ではなぜ、経営者は、多角化(同時に複数の事業を保有する)したり、メイン事業を乗り換えたりするのでしょうか?同時に毛並みの異なる事業の面倒を見るのは骨が折れそうですし、全社あげてメイン事業を新規事業に乗り換えるなど、非常に大きなリスクを伴います。そうしたデメリットを上回る何か誘因がありそうです。

■ 経営者の事業環境に対する視座

経営者がどのように自社や競合の事業をどう見ているのか、筆者が分かる範囲なのですが、3つの基本的な視座があります。
1.プロダクトライフサイクル
「企業30年説」という言葉もあるのですが、各社が現在、顧客に提供している商品やサービスにもいつか寿命が来て、マーケットで不要なもの(陳腐化するともいう)になり、売れなくなってしまうという考え方があります。
経営管理(基礎編)_プロダクトライフサイクル
したがって、経営者にすれば、今現在儲かっている飯のタネがある間に、次に儲かりそうな商材を探索して、自社のものにしたいと考えるのが人情というものです。
できれば、「成長期」「成熟期」にある複数の事業が絶妙なタイムラグで断続的に頂点を迎えてくれると経営は安定的に収益を上げられるようになります。
2.市場セグメンテーション
コトラー氏のマーケティング理論から一般的になりましたが、顧客を細かくカテゴリーに分けて、カテゴリーごとの特殊性に着目して事業を展開、すなわちカテゴリーごとに異なる競争条件下での競争優位を保持しようと試みます。
下記例では、地域と商品特性でカテゴリーを9つに分けて、それぞれ、
① マーケット規模
② 自社シェア
③ マーケット成長性
に着目して、9つの市場それぞれについて、「積極投資」「撤退」「新規参入」「現状維持」などの市場内行動を選択します。
経営管理(基礎編)_市場セグメンテーション
3.マクロ経済動向への耐性
資本主義で経済を回している以上、好景気・不景気といった景気動向、円安・円高といった為替動向により、事業の収益状況が著しく変動してしまいます。
経済学でいうところの、「キチン循環(40ヵ月)」「ジュグラー循環(10年)」「クズネッツ循環(20年)」「コンドラチェフ循環(50年)」などのマクロ経済の景気変動もあれば、「シリコンサイクル(4年)」という半導体業界特有の景気変動まであります。
仮に単一事業を営んでいる場合、上記のようなマクロ経済状況の好不況の波に翻弄され、企業業績も同じ波動でシンクロする結果、不景気時に倒産リスクが高まる、と経営者は考えます。株主から経営を負託されている以上、自分の代で倒産させるわけにはいかないと保守的に考えるため、不況に強い財務体質にしよう、そのためには一本足打法から脱却し、異なる市場環境の事業を複数抱えることで、倒産リスクを回避しようとします。
経営管理(基礎編)_マクロ経済動向Ⅰ
また、為替変動に翻弄されないためには、原油などを含む輸入品を取り扱う事業と、家電・自動車のような輸出品を扱う事業を、同規模かつ同収益性であることを条件にして、2つ持っているだけで、為替がどちらに傾いても為替変動が中和されて経営の安定性は高まります(と、考えます)。
下図は、都合よく、マクロ景気と逆相関の事業Bが見つかったケースを描画しています。
経営管理(基礎編)_マクロ経済動向Ⅱ
好景気の際、好調な事業Aの獲得利益で、不調な事業Bの赤字を支えることで、逆に不景気に突入して急激に業績を悪化させた事業Aを抱えたままでも、事業Bの収益性が上向くことで、事業A・Bの器である企業そのものは存続が許される、というからくり(になると信じている)になります。

■ 経営者に事業ポートフォリオを考えさせてもいい条件とは?

つまるところ、経営者の心情として、
① 自社が現在提供している商品・サービスはいつか寿命が来るから新しい事業を常に探さなければならない
② マーケットは細分化されており、カテゴリー(セグメント)単位で事業の出し入れ(新規参入&撤退)を適切に判断しなければならない
③ 景気変動への耐性をつけるため、できるだけ離れた(マクロ経済条件が似ていない)マーケット同士で別々に事業を行いたい
ということになります。
これを、「会社の生き残りのため、身命を賭して賢明な経営判断をしている」と理解を示すか、「そもそもそんなことはあなたの考えることではない」と切って捨てるか、経営判断を委ねた側の株主視点からは、また違った「事業ポートフォリオ管理」の姿が見えてきます。
下記の、「投資ポートフォリオ」と「事業ポートフォリオ」の対比図をご覧ください。
経営管理会計トピック_投資ポートフォリオと事業ポートフォリオ
投資家(株主)から見れば、自分の大事な金融資産を運用するのに、コングロマリット(複合企業)の「経営者」を投資信託のファンドマネージャーに見立てて、全財産を委ねるか、投資家側で、他企業へも分散投資することでリスクヘッジするか、運用形態の選択権は投資家側にあります。
それゆえ、「事業ポートフォリオ管理をさせてください」、と投資家にお願いする以上、経営者は、他社に分散投資した場合より高い運用利回り(すなわち高い企業業績)を実現する責任が発生します。
投資家自身の分散投資を上回る運用成績を残せる場合のみ、経営者に事業ポートフォリオ管理をする資格があるといえましょう。
今回は、「事業ポートフォリオ管理を経営者がやりたくなる理由」をここまで説明しました。
次回は、「経営者は、どうやって分散投資に勝る運用成績を残せる事業ポートフォリオを組もうとしているか」を引き続き説明していきます。
経営管理(基礎編)_事業ポートフォリオ管理(1)経営者が管理したがる理由

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-e1428166901472.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-150x150.jpg小林 友昭経営管理(基礎編)■ 経営者が事業ポートフォリオ管理をしたがるには理由がある 「経営管理 その管理対象」にて、経営を管理するにあたって、代表的な管理対象を4つ挙げました。 ① 事業ポートフォリオ ② エンジニアリング・チェーン ③ バリュー・チェーン ④ 組織 今回は、「事業ポートフォリオ管理」を取り上げます。 そもそも「事業」とは、自社の提供商品・サービスの種類、セールスの仕方の違い(販売地域の違い含む)、あるいはターゲットとしている顧客層の違いで、会社の中の商売の仕方にある程度、特徴がある「かたまり」でまとめられたものです。 そして、この文脈での「ポートフォリオ」とは「複数種類の事業の組み合わせ」のことを指し、「事業ポートフォリオ管理」とは、ある企業が多角化している場合、多角化事業のそれぞれの組み合わせが最適になる、つまり会社が一番儲かる事業の組み合わせを、事業をいろいろと組みかえて、維持し続けること、を意味しています。 同時に複数の事業を営んでいない場合でも理屈は同じです。馬車メーカーが自動車メーカーになったり、パソコンソフト販売会社が通信会社になったり、繊維メーカーが高機能素材メーカーになったり、メイン事業を乗り換えることも、広義では事業ポートフォリオ管理をしている、といえましょう。 ではなぜ、経営者は、多角化(同時に複数の事業を保有する)したり、メイン事業を乗り換えたりするのでしょうか?同時に毛並みの異なる事業の面倒を見るのは骨が折れそうですし、全社あげてメイン事業を新規事業に乗り換えるなど、非常に大きなリスクを伴います。そうしたデメリットを上回る何か誘因がありそうです。 ■ 経営者の事業環境に対する視座 経営者がどのように自社や競合の事業をどう見ているのか、筆者が分かる範囲なのですが、3つの基本的な視座があります。 1.プロダクトライフサイクル 「企業30年説」という言葉もあるのですが、各社が現在、顧客に提供している商品やサービスにもいつか寿命が来て、マーケットで不要なもの(陳腐化するともいう)になり、売れなくなってしまうという考え方があります。 したがって、経営者にすれば、今現在儲かっている飯のタネがある間に、次に儲かりそうな商材を探索して、自社のものにしたいと考えるのが人情というものです。 できれば、「成長期」「成熟期」にある複数の事業が絶妙なタイムラグで断続的に頂点を迎えてくれると経営は安定的に収益を上げられるようになります。 2.市場セグメンテーション コトラー氏のマーケティング理論から一般的になりましたが、顧客を細かくカテゴリーに分けて、カテゴリーごとの特殊性に着目して事業を展開、すなわちカテゴリーごとに異なる競争条件下での競争優位を保持しようと試みます。 下記例では、地域と商品特性でカテゴリーを9つに分けて、それぞれ、 ① マーケット規模 ② 自社シェア ③ マーケット成長性 に着目して、9つの市場それぞれについて、「積極投資」「撤退」「新規参入」「現状維持」などの市場内行動を選択します。 3.マクロ経済動向への耐性 資本主義で経済を回している以上、好景気・不景気といった景気動向、円安・円高といった為替動向により、事業の収益状況が著しく変動してしまいます。 経済学でいうところの、「キチン循環(40ヵ月)」「ジュグラー循環(10年)」「クズネッツ循環(20年)」「コンドラチェフ循環(50年)」などのマクロ経済の景気変動もあれば、「シリコンサイクル(4年)」という半導体業界特有の景気変動まであります。 仮に単一事業を営んでいる場合、上記のようなマクロ経済状況の好不況の波に翻弄され、企業業績も同じ波動でシンクロする結果、不景気時に倒産リスクが高まる、と経営者は考えます。株主から経営を負託されている以上、自分の代で倒産させるわけにはいかないと保守的に考えるため、不況に強い財務体質にしよう、そのためには一本足打法から脱却し、異なる市場環境の事業を複数抱えることで、倒産リスクを回避しようとします。 また、為替変動に翻弄されないためには、原油などを含む輸入品を取り扱う事業と、家電・自動車のような輸出品を扱う事業を、同規模かつ同収益性であることを条件にして、2つ持っているだけで、為替がどちらに傾いても為替変動が中和されて経営の安定性は高まります(と、考えます)。 下図は、都合よく、マクロ景気と逆相関の事業Bが見つかったケースを描画しています。 好景気の際、好調な事業Aの獲得利益で、不調な事業Bの赤字を支えることで、逆に不景気に突入して急激に業績を悪化させた事業Aを抱えたままでも、事業Bの収益性が上向くことで、事業A・Bの器である企業そのものは存続が許される、というからくり(になると信じている)になります。 ■ 経営者に事業ポートフォリオを考えさせてもいい条件とは? つまるところ、経営者の心情として、 ① 自社が現在提供している商品・サービスはいつか寿命が来るから新しい事業を常に探さなければならない ② マーケットは細分化されており、カテゴリー(セグメント)単位で事業の出し入れ(新規参入&撤退)を適切に判断しなければならない ③ 景気変動への耐性をつけるため、できるだけ離れた(マクロ経済条件が似ていない)マーケット同士で別々に事業を行いたい ということになります。 これを、「会社の生き残りのため、身命を賭して賢明な経営判断をしている」と理解を示すか、「そもそもそんなことはあなたの考えることではない」と切って捨てるか、経営判断を委ねた側の株主視点からは、また違った「事業ポートフォリオ管理」の姿が見えてきます。 下記の、「投資ポートフォリオ」と「事業ポートフォリオ」の対比図をご覧ください。 投資家(株主)から見れば、自分の大事な金融資産を運用するのに、コングロマリット(複合企業)の「経営者」を投資信託のファンドマネージャーに見立てて、全財産を委ねるか、投資家側で、他企業へも分散投資することでリスクヘッジするか、運用形態の選択権は投資家側にあります。 それゆえ、「事業ポートフォリオ管理をさせてください」、と投資家にお願いする以上、経営者は、他社に分散投資した場合より高い運用利回り(すなわち高い企業業績)を実現する責任が発生します。 投資家自身の分散投資を上回る運用成績を残せる場合のみ、経営者に事業ポートフォリオ管理をする資格があるといえましょう。 今回は、「事業ポートフォリオ管理を経営者がやりたくなる理由」をここまで説明しました。 次回は、「経営者は、どうやって分散投資に勝る運用成績を残せる事業ポートフォリオを組もうとしているか」を引き続き説明していきます。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します