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■ トヨタが値下げ要求しないサプライヤーへの波及効果の違いはどこで!?

経営管理会計トピック
好業績のトヨタがサプライヤーに対する恒例となっている半年に一度の値下げ要求を取り下げる対象が、鉄鋼大手にも広がることがニュースになりました。そもそもどうしてこれがニュースになるのか、他の部品メーカー業界(主に電機など)と素材業種はどう違うのか。手あかのついた解説で恐縮ですが、基本をおさらいしておきたいと思います。

2015/2/18|日本経済新聞|朝刊
(ビジネスTODAY)強いトヨタ、鉄にも分配 鉄鋼業界、値下げ免れる 電機とは交渉難航も

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「トヨタ自動車と鉄鋼大手は2014年度下期(14年10月~15年3月)の鋼板価格を14年度上期比横ばいとすることを決めた。交渉のベースとなる鉄鋼原料価格が大幅に下がり、本来なら値下げの環境にある。鉄鋼側も当初から想定していたわけではなかった。トヨタの強さの恩恵を、部品メーカーだけでなく売上高5兆円超の新日鉄住金なども受けることになる。ただ、電機など他業界との交渉で同様の展開を望むのは難しそうだ。」
先行した部品メーカーとの交渉も同様に記事になっています。

2015/2/19|日本経済新聞|朝刊
(ビジネスTODAY)「強いトヨタ」悩み映す 部品値下げ要請見送り、グループ追随 民主導「富の浸透」限界も

「自動車部品の値下げ要請見送りがトヨタ自動車だけでなくグループ各社にも広がっている。アイシン精機や豊田自動織機など主要な1次取引先が3日、相次ぎ追随の方針を表明した。この流れがさらに2次、3次へと広がれば、中小企業の利益の下支えになる。大手との業績格差が課題となるなか「還元」で賃上げに踏み切る中小企業が増えるかが次の焦点だ。」

■ 読者の方は飽きたかもしれませんが、また「固定費」の話です

記事によりますと、
「加工にかかるコストを合理化努力などで減らすのが部品メーカー。原価の半分近くを外部から調達する原料費が占める鉄鋼大手とは、自動車メーカーに製品を販売する際の価格のベースが異なる。販価を守るため、原料価格を盾に独自に自動車大手との厳しい交渉を繰り広げてきた歴史が鉄鋼業界にはある。」
とありますように、「部品メーカー」と「素材メーカー」は、原価構成が異なるために、価格交渉のやり方が歴然と異なるということです。これまた手あかのついたチャートで大変恐縮ですが、両者のコスト構造を図示してみます。
経営管理会計トピック_素材メーカーのCVP分析 
1.素材メーカー
コストの大半を、サプライヤーから購入する材料費が占めることになります。材料費は、販売数量比例のいわゆる「変動費」です。別の言い方をすると、装置産業なので、いったん高炉など、多額の設備投資を行い、生産体制を整えた場合は、その設備の稼働率がどうであれ、一定額の減価償却費が発生します。これは、販売数量に比例しないので「固定費」扱いです。
この場合、納品先の会社から、納入価格をたたかれると、どうしても仕入材料単価を下げざるを得ません。しかし、その購入価格は、たとえば原油や鉄鉱石、石炭など、市況品の場合、あまり買い手に価格交渉力がありません。
ということで、トヨタから、新日鉄住金が、鋼板の卸値をたたかれたとしても、新日鉄住金側は、お手上げになります。そこで、原料の購入単価をある程度正直にトヨタにお話し、適正なマージンをいくらに設定するか、を交渉することになります。
経営管理会計トピック_部品メーカーのCVP分析 
2.部品メーカー
コストの大半を、加工費が占めることになります。この場合、加工費は、機械設備やラインで実作業に当たる工員(ここでは正社員を想定)への労務費が相当します。加工費は販売数量に比例しないので、いわゆる「固定費」となります。
コスト構造的に、固定費が大半を占めるため、仮に、トヨタから値引き交渉があった場合、勢い、削減余地というか、削減効果が大きいのは、当初からコスト構成比として大きい加工費になってしまいます。「合理化」の名のもと、熟練工であろう正社員をリストラするか、加工技術を見直して、より少ない時間で作業できないか、はたまた生産ラインへの追加的設備投資を抑制する策を講じるか、という方法に頼らざるを得ません。

■ (まとめ)固定費と変動費の性格の違い

メーカーにとって、ある程度削減の裁量余地があるのは、自社内で発生する「固定費」です。しかし、時間軸には大変弱いです。というのは、「固定費」は、生産設備であれ、熟練工であれ、準備するのに時間がかかります。そして、抑制(削減)するにも時間がかかります。『管理可能費』として、その発生をコントロールできるのは、自社で発生する「固定費」という位置づけには間違いないのですが、時間軸には粘着性があるので、機動的なコントロールには大変弱く、中長期的にしか対応できません。
一方、「材料費」に代表される「変動費」は、即時購入量をコントロールできるので、時間軸に対しては強いです。ただし、購入単価については、サプライヤーとの厳しい交渉事が待っています。したがって、素材メーカーは、規模の経済を享受するため、すなわちバイイングパワーをつけて、ボリュームディスカウントを引き出すために、合併(トラスト)で会社規模の拡大を目指します。
したがって、素材産業は傾向として、寡占的市場になりがちです。
アベノミクスで円安・株高の恩恵を隅々にまで行き渡らせるため、孫請け、曾孫請けにまで、労働者の人数的に波及効果が高い、部品メーカーへの値下げ要求の停止は、その論理の中では、至極真っ当ですが、素材メーカーに対して、値下げ要求を停止しても、相対的には、労働者の頭数だけで見ると、値下げ停止効果は限定的なようです。
そこで、関係者はトヨタと時の政権の真意がどこにあるか勘ぐっていますよね。
「三菱商事系の鉄鋼商社メタルワンのある幹部は「原料価格に連動しないのはかなり異例だ。トヨタ側の意思がこもった『横ばい』だ」と驚きをもって語った。経済全体の浮揚をトヨタに期待する政府の意向を踏まえ、鉄鋼業界内では「今回はアベノミクスの勝ちだ」(鉄鋼商社の阪和興業)との声も漏れる。」
意思込めされた横ばい。果たしてどういう意味を持つか、時が経つと分かるかもしれません。

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小林 友昭会計で経営を読む■ トヨタが値下げ要求しないサプライヤーへの波及効果の違いはどこで!? 好業績のトヨタがサプライヤーに対する恒例となっている半年に一度の値下げ要求を取り下げる対象が、鉄鋼大手にも広がることがニュースになりました。そもそもどうしてこれがニュースになるのか、他の部品メーカー業界(主に電機など)と素材業種はどう違うのか。手あかのついた解説で恐縮ですが、基本をおさらいしておきたいと思います。 2015/2/18|日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)強いトヨタ、鉄にも分配 鉄鋼業界、値下げ免れる 電機とは交渉難航も(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「トヨタ自動車と鉄鋼大手は2014年度下期(14年10月~15年3月)の鋼板価格を14年度上期比横ばいとすることを決めた。交渉のベースとなる鉄鋼原料価格が大幅に下がり、本来なら値下げの環境にある。鉄鋼側も当初から想定していたわけではなかった。トヨタの強さの恩恵を、部品メーカーだけでなく売上高5兆円超の新日鉄住金なども受けることになる。ただ、電機など他業界との交渉で同様の展開を望むのは難しそうだ。」 先行した部品メーカーとの交渉も同様に記事になっています。 2015/2/19|日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)「強いトヨタ」悩み映す 部品値下げ要請見送り、グループ追随 民主導「富の浸透」限界も 「自動車部品の値下げ要請見送りがトヨタ自動車だけでなくグループ各社にも広がっている。アイシン精機や豊田自動織機など主要な1次取引先が3日、相次ぎ追随の方針を表明した。この流れがさらに2次、3次へと広がれば、中小企業の利益の下支えになる。大手との業績格差が課題となるなか「還元」で賃上げに踏み切る中小企業が増えるかが次の焦点だ。」 ■ 読者の方は飽きたかもしれませんが、また「固定費」の話です記事によりますと、 「加工にかかるコストを合理化努力などで減らすのが部品メーカー。原価の半分近くを外部から調達する原料費が占める鉄鋼大手とは、自動車メーカーに製品を販売する際の価格のベースが異なる。販価を守るため、原料価格を盾に独自に自動車大手との厳しい交渉を繰り広げてきた歴史が鉄鋼業界にはある。」 とありますように、「部品メーカー」と「素材メーカー」は、原価構成が異なるために、価格交渉のやり方が歴然と異なるということです。これまた手あかのついたチャートで大変恐縮ですが、両者のコスト構造を図示してみます。   1.素材メーカー コストの大半を、サプライヤーから購入する材料費が占めることになります。材料費は、販売数量比例のいわゆる「変動費」です。別の言い方をすると、装置産業なので、いったん高炉など、多額の設備投資を行い、生産体制を整えた場合は、その設備の稼働率がどうであれ、一定額の減価償却費が発生します。これは、販売数量に比例しないので「固定費」扱いです。 この場合、納品先の会社から、納入価格をたたかれると、どうしても仕入材料単価を下げざるを得ません。しかし、その購入価格は、たとえば原油や鉄鉱石、石炭など、市況品の場合、あまり買い手に価格交渉力がありません。 ということで、トヨタから、新日鉄住金が、鋼板の卸値をたたかれたとしても、新日鉄住金側は、お手上げになります。そこで、原料の購入単価をある程度正直にトヨタにお話し、適正なマージンをいくらに設定するか、を交渉することになります。   2.部品メーカー コストの大半を、加工費が占めることになります。この場合、加工費は、機械設備やラインで実作業に当たる工員(ここでは正社員を想定)への労務費が相当します。加工費は販売数量に比例しないので、いわゆる「固定費」となります。 コスト構造的に、固定費が大半を占めるため、仮に、トヨタから値引き交渉があった場合、勢い、削減余地というか、削減効果が大きいのは、当初からコスト構成比として大きい加工費になってしまいます。「合理化」の名のもと、熟練工であろう正社員をリストラするか、加工技術を見直して、より少ない時間で作業できないか、はたまた生産ラインへの追加的設備投資を抑制する策を講じるか、という方法に頼らざるを得ません。 ■ (まとめ)固定費と変動費の性格の違いメーカーにとって、ある程度削減の裁量余地があるのは、自社内で発生する「固定費」です。しかし、時間軸には大変弱いです。というのは、「固定費」は、生産設備であれ、熟練工であれ、準備するのに時間がかかります。そして、抑制(削減)するにも時間がかかります。『管理可能費』として、その発生をコントロールできるのは、自社で発生する「固定費」という位置づけには間違いないのですが、時間軸には粘着性があるので、機動的なコントロールには大変弱く、中長期的にしか対応できません。 一方、「材料費」に代表される「変動費」は、即時購入量をコントロールできるので、時間軸に対しては強いです。ただし、購入単価については、サプライヤーとの厳しい交渉事が待っています。したがって、素材メーカーは、規模の経済を享受するため、すなわちバイイングパワーをつけて、ボリュームディスカウントを引き出すために、合併(トラスト)で会社規模の拡大を目指します。 したがって、素材産業は傾向として、寡占的市場になりがちです。 アベノミクスで円安・株高の恩恵を隅々にまで行き渡らせるため、孫請け、曾孫請けにまで、労働者の人数的に波及効果が高い、部品メーカーへの値下げ要求の停止は、その論理の中では、至極真っ当ですが、素材メーカーに対して、値下げ要求を停止しても、相対的には、労働者の頭数だけで見ると、値下げ停止効果は限定的なようです。 そこで、関係者はトヨタと時の政権の真意がどこにあるか勘ぐっていますよね。 「三菱商事系の鉄鋼商社メタルワンのある幹部は「原料価格に連動しないのはかなり異例だ。トヨタ側の意思がこもった『横ばい』だ」と驚きをもって語った。経済全体の浮揚をトヨタに期待する政府の意向を踏まえ、鉄鋼業界内では「今回はアベノミクスの勝ちだ」(鉄鋼商社の阪和興業)との声も漏れる。」 意思込めされた横ばい。果たしてどういう意味を持つか、時が経つと分かるかもしれません。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します