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■ M&Aで企業成長させている日本電産の本質を探る

経営管理会計トピック
名経営者の呼び声高い日本電産の永守会長兼社長のインタビュー記事があり、熟読させていただきました。

2015/1/15|日本経済新聞|朝刊
(戦略を聞く)日本電産・永守重信会長兼社長 「全額配分」理解に苦しむ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日本電産が積極的なM&A(合併・買収)をテコに事業構造の転換を進めている。車載や家電・産業用モーターなどがけん引。2015年3月期(米国会計基準)の連結売上高は1兆円の大台に乗せる見通しで、純利益は2期連続で過去最高を見込む。永守重信会長兼社長に今後の成長戦略や株主配分について聞いた。」
若干、インタビューの経緯・編集から、両者の意図が正確に表現されていない箇所があると、筆者の拙(つたな)い理解力では認識しましたので、行間を埋めてみたいと思います。
(以下は、筆者の知識・読解力による作業なので、読者の皆様にもご自身で考えて頂きたいと思います)

■ まずは、「事業ポートフォリオ管理」について

新聞記事から、売上高1兆円達成が視野に入ってきたことについてコメントを求めたところ、
「100年後も生き残ろうと事業ポートフォリオを臨機応変に変えているのが奏功している。車載分野参入は1995年。ハードディスク駆動装置(HDD)向けモーターの利益を使い1000億円の開発費をつぎ込んだ。車載は18年間赤字だった。その後も赤字会社を買い産業用やエアコン用に参入した。来期はエアコン用だけで1000億円の売り上げが期待できる」
という返答がありました。
これを理解すると、
① 事業ポートフォリオは大胆に見直し続けていかないと、企業成長と収益力向上は目指せない(事業見直しを積極的に進める企業方針)
② 具体的には、「精密小型モーター事業」から「家電・産業用電子機器事業」「車載用電子機器事業」への開発投資原資の社内融通(BCGがいうところの「PPM」の実践)
と整理できます。
ちなみに、日本電産ホームページより、FY13現在の製品売上構成は下図のとおり。
この通り、祖業の「精密小型モーター事業」から技術シナジーを核にした多角化ができている様子が見て取れます。
経営管理トピック_日本電産_事業ポートフォリオ
その後、永守氏はこう続けます。
「捨てる経営も進めている。社内では『カメラもパソコンもなくなる。しがみつくな』と言っている。シェアが1番か2番のものは続けるが、3番以下の事業は売っていく」
この発言は、
③ 事業ポートフォリオの永続的な見直しに聖域はない。全ての事業が見直しの対象である。祖業といえども例外ではない
という意味と解釈しています。
このことは、機動的な開発投資が「Cash cow」から「Problem child」へなされ、現在「Star」として花開いたかは、FY14中間決算報告資料から下表のとおり。
経営管理トピック_日本電産_事業構成比_FY14中間決算報告資料
ここで、「1番・2番、3番以下」という具体的な数字にとらわれてはいけません。おそらく、この用語の使い方は、ジャック・ウェルチ氏がGEのCEOに就任した際に言い放った「No1. No2.戦略」に倣った言い方だと思われます。
世の中に誤解が多いのは、
① 市場で1位か2位の事業のみを保有することが素晴らしいことなら、自社内で新規事業を育成することは一切放棄し、M&Aでシェア1位か2位の事業を買収してくればよい
② 即座に利益を生まない先行開発投資はすべて無駄である。自社でそんなことにムダ金を使うことは愚かである
という結論を短絡的に導いてしまうことです。
これらのことが正しい経営ならば、事業家は、儲かりそうな企業を探しているファンドマネージャーとどう違うのでしょうか?
経営者が全員、自社での先行投資開発を放棄ししまうと、どこでイノベーションが生まれるのでしょうか? 少なくとも、この定義によるところの名経営者が経営する企業からは決してイノベーションは生まれないでしょう。
40万人いた従業員を30万人に減らすリストラを断行したウェルチは、「建物を壊さずに人間のみを殺す中性子爆弾」の特性になぞらえて「ニュートロンジャック」と綽名されたりもしました。当時の主力事業であった家電事業などもあっさり売却してしまいました。
でも、これは就任時の経営改革を断行した際の、ほんの数年間のショック療法だっただけです。だってCEO就任中の20年間、ずっと1位と2位以外の事業を売却し続けていたら、そのうち売り飛ばす事業は無くなってしまいませんか?
そして、GEの株価は、ハイテクに特化した投資信託の利回りでしか評価されなかったはずです。GEだけですよ、ダウ工業株30種平均が1896年にスタートしてから(30銘柄になったのは1928年ですが)、唯一現在でも登録されている会社は。もしそうならここまで続きません。
話がかなり横道に逸れましたが、永守CEOは、使っている言葉はウェルチ氏の伝説の名言かもしれませんが、真意をきちんと理解して、事業化にかかる時間と努力に敬意を払い、だからこそ「M&Aで時間を買う」と常々発言されているのです。
そして、M&Aで単純に当座の売上伸長を買っているのではありません。技術と人材を買っているのです。
それは、同じく、同社のホームページにある「日本電産の成長戦略」を見れば明らかです。
経営管理会計トピック_日本電産_M&Aによる売上貢献度
永守氏にとって、「M&Aは買うまでが2割、買った後の努力が8割」という言葉通り、買収後の企業の技術と人材を日本電産グループ全体でシナジーを発揮させるように統合作業をやりきるところにM&Aの達人としての真骨頂があるということです。

■ つぎは、「自社株買い」について

ROEの目標を聞かれて、永守氏はこう答えています。
「ROEは10%以上を確保し、15%を目標にしている。ただ、ROEを高めるために自社株買いをするようなことは考えていない。以前に自社株買いをしたのは自社の株価が安すぎると思ったから。保有する金庫株はグループ会社を完全子会社にするのに使った。残りは新株予約権付社債(転換社債=CB)の償還に使う予定だ」
「利益の全額を株主配分に回す会社もあると聞くが理解に苦しむ。そんな経営をしていたら会社は伸びない。手元資金は買収など成長に使い、そこからお金を生んで株価を上げて、配当も毎年着実に実行していく。」
恐らく、IRの一環として、仕方なくROE目標値に言及されたのでしょうが、残念ながら、ROE単独では、事業家の管理指標にはなり得ません。どれだけ、リスクをとって先行投資を行い、どのタイミングでリターンを回収するか、簿価上の出資評価額だけでいちいち事業収益性を目利きできません。その事を分かった上での発言と理解しています。
というのは、2014年に流行った、利益の100%株主還元は一刀両断されているからです。ガンガン投資してリターンを増やし、事業成長と利益率向上の中から、株主にも応分の分け前を配る。その分け前もどんどん増やすから心配しないで、ということです。
中長期的に、企業成長を目指す経営の方が、株価(時価総額)も高く評価されていくと思いますが如何でしょうか。
⇒日本電産の永守氏についてのコメントは下記投稿でもご覧になれます。ご参考ください。
(ビジネスTODAY)日本電産のM&A「狙いは本塁打」 買収実績、1年なし 「永守流」転換、車載部品に的

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