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■ M&A戦略のお手本見本市

経営管理会計トピック
今回は、日本電産のM&A戦略についての小考です。記事によると、「日本電産が成長の原動力としてきたM&A(合併・買収)で沈黙を保っている。昨年のホンダ子会社の買収合意以来、空白期間は近く1年になるが、買収額が小さいヒット量産型から数千億円規模のホームラン型への転換をめざしているからだ」とあります。

2014/10/23付 |日本経済新聞|朝刊
(ビジネスTODAY)日本電産のM&A「狙いは本塁打」 買収実績、1年なし 「永守流」転換、車載部品に的

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
記事では、「春から数えると8件のM&Aを見送ってきた」「ファンドが入ってきた」「金額がつり上がった」とあります。

ステレオタイプ的に、M&Aに積極的な企業の経営者は、事業意欲が強く、自分の縄張りである自社の成長のためにはなりふり構わない(買収金額に糸目をつけない)ことも散見されます。そうした強欲経営者とは一線を画しているが永守CEOです。
M&A戦略のお手本が日本電産には目白押しです。

■ 永守流M&Aの極意

ひとつひとつ数え上げたらきりがないのですが、目立ったものについて説明します。
《1.企業選定のブレない軸》
日本電産は、他のコングロマリット型企業と違い、決して非関連多角化を促進することはありません。ホームページから引用すると、「当社のM&Aは、「回るもの、動くもの」に特化し、技術・販路を育てあげるために要する「時間を買う」という考え方に基づき行っています。」とあり、企業規模拡大のために、いたずらに多角的事業を買収していくというより、「モーターというメカトロ技術のシナジー」が発揮できる案件にしか、手を出しません。
そのうえで、「PCのHDD中心の精密小型モーター」の一本足打法から「車載用モーター」「家電・商業・産業用モーター」へ素早い事業構造転換を図ろうとしており、規模だけのためのM&Aではないということです。
《2.シナジー発揮を重視》
上記にも重なる部分がありますが、関連多角化(日本電産の場合はモーター技術をコアにしている)しかやらないので、対象企業(事業)をわざわざ買収して、永守氏の事業ポートフォリオに加えた方が、単独経営よりも収益性・成長性に勝ったものにならないと、日本電産の株主もM&Aを支持しないわけであります。記事でも、永守氏は、「買収の成否の8割は買収後のシナジー(相乗効果)で決まる」「A社とB社の2社買収でシナジーを期待する場合、A社買収の見込みが立たなくなったらB社買収も見送る」との徹底ぶり。
株主(投資家)にとってみれば、モーター関連の産業機器分野において、自身で投資ポートフォリオを組むより、日本電産グループの中で、永守氏に目利きをしてもらい、事業ポートフォリオを組んでもらって、日本電産の株を持っていた方が投資収益性が高くなると思われるのも無理はありません。
《3.経営権プレミアムの誘惑に勝つ》
経営者は、高い成長目標を自身の事業意欲なのか、権勢欲なのか、高額報酬のためなのか、分かりませんが、兎角、M&Aによる企業規模拡大に執心しがちです。そうすると、普通にオーガニックグロースで到達するより、多額の資金を投じて、該当企業(事業)を買収することも厭わなくなります。この高値掴みをする際の増えた買収額のことを、「経営権(支配権)プレミアム」というのですが、記事の中でも触れている通り、永守氏はこれを十分わきまえている言動をされています。
日本電産のFY13の連結B/Sを確認すると、

  • 営業権(のれん)の総資産構成比:13.3%
  • DEレシオ:0.65
  • 現金および現金同等物:2,477億円、総資産構成比:21.1%
  • ネットDEレシオ:0.19

自制心の強い、B/S以外の何物でもありません。

■ (付録)日本電産のすごいIR

最後に、直接関係は無いのですが、日本電産のIRのすごさを紹介します。
日本電産は、創業者である永守CEOの強いリーダーシップで牽引されてきた会社であることは間違いありません。氏にはいろいろな逸話があり、正月しか仕事を休まないとか、ネタを探すと、枚挙にいとまがありません。
それより、何よりも目を引くのは、会社のホームページおよび有価証券報告書に16番目の「事業リスク」として、次の一節がきちんと説明されていることです。
以下、有価証券報告書「第2 事業の概況 4.事業等のリスク」より引用。

(16)NIDEC社長である永守重信(氏)への依存
NIDECの継続的な成功は主にNIDECの創業者であり社長兼CEOの永守重信氏の能力と手腕に依存しております。永守氏は積極的にNIDECの経営に携わり、特に企業買収活動をはじめとした戦略的意思決定に関与しております。永守氏への依存を軽減するためデザインされた経営構造の確立過程で、永守氏の突然の離脱があった場合、そのことがNIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

さらに、会計業務担当者なら、この一節が公表されている凄みも加味してもらうとよいかもしれません。

(18)管理会計において米国会計基準による財務情報を利用していないことに伴うリスク
NIDECは、連結財務諸表で報告しているオペレーティング・セグメント(「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表」の連結財務諸表注記「25.セグメント情報」参照)から毎月報告される財務情報に基づいて、NIDECの業績を予測し、事業活動の意思決定を行っております。この月次のセグメント情報は各セグメントの所在国の会計原則に基づいて作成されております。例えば日本電産は日本基準を適用しており、シンガポール日本電産ではシンガポール会計基準が適用されております。つまり、NIDECのセグメントデータは米国の会計基準またはその他の単一の会計基準に基づいて作成されておりません。加えて、財務会計で行う決算調整やその他の調整項目は月次のセグメント情報に含まれておりません。これら月次のセグメントデータの性質は、財務会計における米国会計基準調整後のセグメントデータと比べて、個別のセグメントや全体的な業績を相対的に評価することを困難にする可能性があります。

日本電産はSEC基準で財務諸表を開示しているのですが、きちんと経営会議でこうした会計基準の違いが意識されて、意思決定がなされていると考えらえます。
ちなみに、日本電産の事業別セグメント情報を確認してみてください。ちょっと一般的常識とは異なるセグメンテーションになっています。この点については、別途説明したいと思います。

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小林 友昭会計で経営を読む■ M&A戦略のお手本見本市 今回は、日本電産のM&A戦略についての小考です。記事によると、「日本電産が成長の原動力としてきたM&A(合併・買収)で沈黙を保っている。昨年のホンダ子会社の買収合意以来、空白期間は近く1年になるが、買収額が小さいヒット量産型から数千億円規模のホームラン型への転換をめざしているからだ」とあります。 2014/10/23付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)日本電産のM&A「狙いは本塁打」 買収実績、1年なし 「永守流」転換、車載部品に的(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 記事では、「春から数えると8件のM&Aを見送ってきた」「ファンドが入ってきた」「金額がつり上がった」とあります。ステレオタイプ的に、M&Aに積極的な企業の経営者は、事業意欲が強く、自分の縄張りである自社の成長のためにはなりふり構わない(買収金額に糸目をつけない)ことも散見されます。そうした強欲経営者とは一線を画しているが永守CEOです。 M&A戦略のお手本が日本電産には目白押しです。 ■ 永守流M&Aの極意ひとつひとつ数え上げたらきりがないのですが、目立ったものについて説明します。 《1.企業選定のブレない軸》 日本電産は、他のコングロマリット型企業と違い、決して非関連多角化を促進することはありません。ホームページから引用すると、「当社のM&Aは、「回るもの、動くもの」に特化し、技術・販路を育てあげるために要する「時間を買う」という考え方に基づき行っています。」とあり、企業規模拡大のために、いたずらに多角的事業を買収していくというより、「モーターというメカトロ技術のシナジー」が発揮できる案件にしか、手を出しません。 そのうえで、「PCのHDD中心の精密小型モーター」の一本足打法から「車載用モーター」「家電・商業・産業用モーター」へ素早い事業構造転換を図ろうとしており、規模だけのためのM&Aではないということです。 《2.シナジー発揮を重視》 上記にも重なる部分がありますが、関連多角化(日本電産の場合はモーター技術をコアにしている)しかやらないので、対象企業(事業)をわざわざ買収して、永守氏の事業ポートフォリオに加えた方が、単独経営よりも収益性・成長性に勝ったものにならないと、日本電産の株主もM&Aを支持しないわけであります。記事でも、永守氏は、「買収の成否の8割は買収後のシナジー(相乗効果)で決まる」「A社とB社の2社買収でシナジーを期待する場合、A社買収の見込みが立たなくなったらB社買収も見送る」との徹底ぶり。 株主(投資家)にとってみれば、モーター関連の産業機器分野において、自身で投資ポートフォリオを組むより、日本電産グループの中で、永守氏に目利きをしてもらい、事業ポートフォリオを組んでもらって、日本電産の株を持っていた方が投資収益性が高くなると思われるのも無理はありません。 《3.経営権プレミアムの誘惑に勝つ》 経営者は、高い成長目標を自身の事業意欲なのか、権勢欲なのか、高額報酬のためなのか、分かりませんが、兎角、M&Aによる企業規模拡大に執心しがちです。そうすると、普通にオーガニックグロースで到達するより、多額の資金を投じて、該当企業(事業)を買収することも厭わなくなります。この高値掴みをする際の増えた買収額のことを、「経営権(支配権)プレミアム」というのですが、記事の中でも触れている通り、永守氏はこれを十分わきまえている言動をされています。 日本電産のFY13の連結B/Sを確認すると、 営業権(のれん)の総資産構成比:13.3%DEレシオ:0.65現金および現金同等物:2,477億円、総資産構成比:21.1%ネットDEレシオ:0.19自制心の強い、B/S以外の何物でもありません。 ■ (付録)日本電産のすごいIR最後に、直接関係は無いのですが、日本電産のIRのすごさを紹介します。 日本電産は、創業者である永守CEOの強いリーダーシップで牽引されてきた会社であることは間違いありません。氏にはいろいろな逸話があり、正月しか仕事を休まないとか、ネタを探すと、枚挙にいとまがありません。 それより、何よりも目を引くのは、会社のホームページおよび有価証券報告書に16番目の「事業リスク」として、次の一節がきちんと説明されていることです。 以下、有価証券報告書「第2 事業の概況 4.事業等のリスク」より引用。 (16)NIDEC社長である永守重信(氏)への依存 NIDECの継続的な成功は主にNIDECの創業者であり社長兼CEOの永守重信氏の能力と手腕に依存しております。永守氏は積極的にNIDECの経営に携わり、特に企業買収活動をはじめとした戦略的意思決定に関与しております。永守氏への依存を軽減するためデザインされた経営構造の確立過程で、永守氏の突然の離脱があった場合、そのことがNIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。 さらに、会計業務担当者なら、この一節が公表されている凄みも加味してもらうとよいかもしれません。 (18)管理会計において米国会計基準による財務情報を利用していないことに伴うリスク NIDECは、連結財務諸表で報告しているオペレーティング・セグメント(「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表」の連結財務諸表注記「25.セグメント情報」参照)から毎月報告される財務情報に基づいて、NIDECの業績を予測し、事業活動の意思決定を行っております。この月次のセグメント情報は各セグメントの所在国の会計原則に基づいて作成されております。例えば日本電産は日本基準を適用しており、シンガポール日本電産ではシンガポール会計基準が適用されております。つまり、NIDECのセグメントデータは米国の会計基準またはその他の単一の会計基準に基づいて作成されておりません。加えて、財務会計で行う決算調整やその他の調整項目は月次のセグメント情報に含まれておりません。これら月次のセグメントデータの性質は、財務会計における米国会計基準調整後のセグメントデータと比べて、個別のセグメントや全体的な業績を相対的に評価することを困難にする可能性があります。 日本電産はSEC基準で財務諸表を開示しているのですが、きちんと経営会議でこうした会計基準の違いが意識されて、意思決定がなされていると考えらえます。 ちなみに、日本電産の事業別セグメント情報を確認してみてください。ちょっと一般的常識とは異なるセグメンテーションになっています。この点については、別途説明したいと思います。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します