ビットコイン、金融政策失墜が背景 岩村充早大教授 「Disruption 断絶を超えて」特別編 - 中央銀行の歴史と政府からの独立性を考える。法定通貨と仮想通貨の相克から

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■ ビットコインに代表される仮想通貨が法定通貨にとって代わるのか?

経営管理会計トピック

新春早々、仮想通貨の特集記事が組まれています。フィンテックや仮想通貨、その技術的基礎となるブロックチェーンへの関心は2017年も高いと思われます。本稿では、専門家の法定通貨VS仮想通貨のお話を嚆矢に、中央銀行や通貨制度について、経済学の復習も同時にやってしまえとミニ論点集としたいと考えています。

2017/1/7付 |日本経済新聞|電子版 ビットコイン、金融政策失墜が背景 岩村充早大教授 「Disruption 断絶を超えて」特別編

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「ビットコインなどの仮想通貨が台頭し、国家の信用を裏付けとする既存の通貨を揺さぶっている。「通貨」の未来はどうなるのか。日本銀行出身で仮想通貨に詳しい早稲田大学の岩村充教授に話を聞いた。」

(下記は同記事添付の「早稲田大学の岩村充教授」の写真を引用)

20170107_早稲田大学の岩村充教授は「ハイエクは際限なく金融政策に頼る危うさを警告していた」と語る_日本経済新聞電子版

それでは、下記に、岩村教授のインタビュー記事を筆者なりの視点からできるだけ簡単にポイント整理させて頂きます。

(1)非効率な仮想通貨
ビットコインは『マイナー』と呼ばれる不特定多数の参加者が、大量のコンピュータの演算能力と電力を消費して、マイニングと呼ばれる計算に取り組み、報酬としてビットコインを手に入れている。この意味で、ビットコインは金貨や銀貨と同じく、それをつくり出すための資源消費(コスト)が価値の源泉になっている。それゆえ、政府信用に『ただ乗り』してつくり出されている法定通貨(円やドル)に比べて、非効率な通貨である

(2)中央銀行への信頼失墜が非効率な仮想通貨の需要を高めている
過激な金融政策を追い求める中央銀行への信認の失墜があるため、政府や中銀に通貨のことを任せておくと自分たちの蓄えが損なわれるかもしれないという不安感が醸成されている(例:ドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利した後、ビットコインの価格が急騰)。

「ビットコインの良さは国家に頼らずに通貨をつくった点にある。政府から独立し、通貨価値をつくり出すことが可能だと示した意義は大きい」

3)使う通貨は人々が選べばいい
これからの経済において、企業や銀行が株式や債券を保有し、それらの資産を裏付けに通貨を発行してもいい。そうした自由通貨(仮想通貨を含む法定通貨以外のものの総称)の発行量自体は小さくても、次の2つの条件を備えていれば、十分に機能する。

① 通貨流通(価値交換)のための仕組みが備わっている
② 通貨の種類が増えても自由に相互決済できる

→本質的なのは物の価値の方で、通貨はそれを測る単位にすぎないから

「例えばメートルで測ろうがインチで測ろうが、対象物の本質的な大きさは変わらない。どの単位を使うか、すなわちどの通貨を使うかは人々が選べばいいではないか」

ただし、『価値を測る単位』としての通貨は、人々の信頼の上にその価値が見いだされることになる。例えば、小売業者が発行する通貨であれば、ボーナス商戦前になると買い物を促す狙いで、自前で発行しているその通貨価値を操作するなどといった疑念が生じた段階で、信認を失い通貨としての流通価値は無効になると思われる

(4)中央銀行制度の歴史はそう長いものではない
・経済学者フリードリヒ・ハイエクは、1944年の著書『隷属への道』で『金融政策は社会経済の困難に対して何ら本当の解決策を提供することはできない』と強調し、際限なく金融政策に頼る政治の危うさを彼は早くから警告していた
・1820年代あたりから西欧や米国などで経済が目立って成長し始めた『成長の時代』に、中銀による通貨発行の独占が英国で始まり、それによって金融政策が可能になったという経緯があり、そう中央銀行の歴史は長いものではない
・だが今、世界経済は成長が難しくなっている。地球の限りある資源と環境を考えると、世界経済が年率2%以上の成長を今後100年あるいは200年と続けるのは無理。その意味で、金融政策や中銀による通貨発行の独占を維持する必要性は薄れている

 

■ 中央銀行とは何者か? その歴史を簡単に復習しておく

岩村教授が指摘された「中央銀行の歴史はそう長いものではない」というその歴史を簡単に振り返ります。

そもそも、中央銀行の役割には、
① 発券銀行:その国・地域で通貨として利用される銀行券を発行する
② 銀行の銀行:市中銀行に対して預金を受け入れるとともに「最後の貸し手」として資金を貸し出す
③ 政府の銀行:国の預金を受け入れることで政府の資金を管理する

この3つがあり、今回の論点は最初の「① 発券銀行」。

世界最古の中央銀行は1668年に設立されたスウェーデンのリクスバンクとされています。少し遅れて、1694年に英国のイングランド銀行が設立されました。イングランド銀行は対フランス戦のための資金調達目的で設立された王国政府の銀行で、19世紀初頭までは単なる大銀行の1つの位置付けでした。その当時は特権認可された複数の銀行が独自の銀行券を発行していました。この点では、ビットコインをはじめとする仮想通貨の発行主体が非銀行系ですが、「MUFGコイン」に至っては、銀行業を営む経営主体が仮想通貨の発行を実証実験中ということで、歴史は繰り返す、ということになるのでしょうか?

2017/1/7付 |日本経済新聞|朝刊 ビットコインvs銀行 22世紀のカタチ そこに 「Disruption 断絶を超えて」第6回

「独自の仮想通貨「MUFGコイン」を今年度中にも発行する三菱UFJフィナンシャル・グループ。新たな成長の起爆剤が実現間近なのに、社内には危機感が充満する。
「他のメガバンクと店舗を共同運営してはどうか」。昨年半ば、構造改革を巡る会議。中堅行員が口にしたのは、「聖域」である店舗網をライバル行と相乗りにしてしまうという型破りな提案だった。ネット決済などが普及し、リアルな店舗や大量の人員は経営の重荷に変わりつつある。」

これは別の論点ですが、メガバンクがデジタル通貨を発行し、リアル店舗を縮小もしくはライバル行とリアル店舗を共有し始めれば、間違いなく、店頭業務に従事する職種に就く労働者の大量失業問題が必ず大問題になります。

「「国・中銀による独占発行」という通貨の常識まで崩れかねないから、中銀もざわめく。
「仮想通貨がどんどん増えていけば、(円の金利や発行量を操作する)金融政策が効きにくくなってしまう」。日銀の岩下直行フィンテックセンター長は語る。スウェーデン中銀や中国人民銀行はデジタル通貨の発行を検討し始めた。日銀内部でも「検討に入るべきだ」との声があがる。」

これもどこかで見た風景です。引き続き、中央銀行の歴史に話を戻すと、

英国では19世紀の初頭に金融恐慌が頻発し、多くの銀行が破綻して銀行券が無価値になる混乱が発生したため、1844年にイギリス首相ロバート・ピールの名を冠したピール銀行条例(正式名称:イングランド銀行設立特許状の修正法)が制定され、イングランド銀行以外の銀行による発行業務が禁止されました。

これらの自然発生型の中央銀行に対して、1882年に設立された日本の日本銀行や1913年に設立されたアメリカの連邦準備制度などは当初から物価の安定や通貨の発行業務を目的として設立されたものです。世界の国々において、中央銀行の数は1900年には18行でしたが、その後、1920年代から急増し、1960年までに約50ヶ国に、1990年には160行を超える状況となり、中央銀行があるのが当たり前の風景となったのです。

 

■ 中央銀行の国家からの独立性の問題とは?

中央銀行は政府から独立しており、金融政策に関して独自の判断をするという位置づけを与えられています。政府から独立性が求められるのは、政府が通貨価値の保持を怠り、目先の諸問題に対応することを避けるためです。その独立性がさらに重要視されるようになったのは、960年代に世界的にケインズ政策が行なわれるようになったからです。ケインズ政策は、財政政策と金融政策の組合せで行われます。

ケインズ政策においては財政政策として歳出を増大させるとクラウディングアウトが発生し、乗数効果に制約がかかります。しかし、中央銀行が適切に金融緩和を行なえば、クラウディングアウトは発生せず、財政政策が最大の効果を発揮すると考えられました。このポリシーミックスは供給力に未稼働の余剰部分がある場合は有効ですが、供給力が限界に達すればその政策効果は実質GDP増大ではなく物価上昇(インフレーション)の積極的な要因となってしまう諸刃の剣でもありました。

民主主義の政府は、選挙のプレッシャーから、物価の安定よりも完全雇用を志向する性質があります。そのため、インフレが起きる可能性があっても財政政策の効果発現のため中央銀行へ金融緩和を求めがちになります。もし、中央銀行に政府の要求を断る力が無ければ、最終的にインフレとそれに伴う資産の再分配(インフレリスク)及び潜在成長力を損なう可能性が発生します。このため、中央銀行は政府から独立する必要が有り、政府の要求如何に関わらず、通貨価値を保持することが求められるのです。これを「通貨の番人」と呼びます。

 

■ 中央銀行の「独立性」はいつの世でも大関心事である

中央銀行の独立性が弊害を引き起こす場合もあります。中央銀行が雇用よりもインフレ抑制を志向した場合、景気対策を実施する政府の意向に対立して、独立性を持つ中央銀行が金融引締めにまわることで財政政策の効果が相殺され、デフレーションが続き、失業率が高止まりすることや、それに伴う潜在成長力低下のリスクが生じる可能性があります。

景気循環の責任を中央銀行だけが負うわけではなく、また自国の通貨価値の下落を避け、インフレ率を低く保つべきであるという立場を取ることは、中央銀行としては当然のことです。しかし、国際化された現代経済では、市場が予想していない時機での金利引き上げは景気萎縮効果よりも債券・株式市場や為替市場への影響が迅速かつ多大であり、債券価格の急落や為替の急上昇などが予期せぬ市場の混乱を招き、批判の対象とされることになります。

「7か国財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)」の枠組みで国際協調を前提とした財政政策及び金融政策を議論することもありますが、一国の中央銀行の判断がグローバル化した市場で常に最善(最低でも自国民の経済について)となるものばかりでもありません。例えば、2000年に、日本銀行は政府の反対を押し切りゼロ金利政策を解除し、市場に多大な混乱を招きデフレを加速させてしまった悪例があります。

 

■ ベン・バーナンキによる中央銀行の「独立性」の定義とは?

ベン・バーナンキ(第14代連邦準備制度理事会 (FRB) 議長)によりますと、中央銀行の独立性には2種類存在します。

① 目標の独立性(goal independence)
② 手段の独立性(instrument independence)

中央銀行が自由に目標を設定できるという目標の独立性を民主主義社会で正当化することは困難です。近年(というか現在)、アベノミクスにおける目標達成のため、何発も黒田バズーカが放たれ、ついにはマイナス金利に突入中の日本経済を観察しただけもその事実はよく理解できるところです。しかし、バーナンキにとっては、中央銀行が干渉を受けずに適切な金融政策を実施できるような手段の独立性は、経済安定のために極めて重要だとし、中央銀行の独立性については、「手段の独立性」だけを重要視する見解をとっています。

 

■ 中央銀行の「独立性」と「信認問題」について

中央銀行は通常は一つの通貨に対して一つ存在します。中央銀行はこの通貨量を調整する権限を持つため大きな影響力を持ちます。しかし、複数種類の仮想通貨が並立し、しかも国家や中銀の統制下に無い、交換価値と流通量のコントロールを民主主義政府が一手に行えない状態は、1844年の「ピール銀行条例」以前の自然状態に回帰するということです。

それゆえ、中銀は今後、自ら発行する法定通貨の『価値を測る尺度』としての側面が揺るがないよう、通貨価値の安定に専念することが役割の中心となっていくだろうと予想されます。

それと同時に、冒頭記事における岩村教授によりますと、

「付け加えておくと、中銀本来のこうした姿勢は、景気対策に奉仕しようとするあまりに『サプライズ』を追うような在り方とは正反対のものだろう。サプライズに頼る政策運営は長期的に通貨の信認を脅かすリスクを抱える」

とあり、勢い、民主主義政府による中銀への干渉・影響力行使も、中銀の金融政策へのガバナンス力低下に伴い、下火になっていくと思われます。それは、サプライズ(黒田バズーカ等)効果に頼る金融政策の終焉も意味するものと思われます。筆者はリバタリアン、アナーキストでは決してありませんが、群雄割拠する仮想通貨が、それぞれの通貨価値を競うことで、政治的には、国民・市民、経済的には、すべての消費者・企業を含む全ての経済主体が、通貨価値競争(狂騒)から、経済的果実が得られる時代になることを期待しています。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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