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国際会計基準IFRSが変える(下)のれんや資産の「時価」重視 リスク管理の精度高める

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ 筆者も驚きです! IFRSが商品一つ一つの原価算定を指示しているなんて

経営管理会計トピック

「IFRS(国際会計基準)」が、原価計算処理において、商品一つ一つの原価算定を指示しているとの記述に、目玉が飛び出そうになったので、ここにその驚きを記しておくことにします。

2015/10/10付 |日本経済新聞|朝刊 国際会計基準IFRSが変える(下)のれんや資産の「時価」重視 リスク管理の精度高める

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「「商品一個一個の原価まで必要なんですか?」2017年3月期から国際会計基準(IFRS)に切り替える方針のカー用品大手、オートバックスセブンは準備の真っ最中だ。
■商品ごとに損益分析
全店で扱う品目数は3万~4万と膨大だ。日本基準では商品群をひとまとめにして原価を計算する方法が認められているが、IFRSはより厳密な原価計算を求める。扱う商品が多い小売業にはハードルが高い。」

ということで、小売業でのIFRS任意適用会社は、時価総額比率で20%に満たないようです。(下記は、記事添付の業種別IFRS適用比率表)

IFRS採用は業種により開きがある_日本経済新聞朝刊_20151010

今さらながら、IFRS導入にあたっての2つの大きな誤解・強迫観念があることに、胸を痛めざるを得ません。

(1)IFRSは、「原則主義」であって「細則主義」ではない
(2)IFRSは、「公正価値・BS重視」であって、「損益・PL重視」ではない

最近、上記(1)について、米国SEC基準とのコンバージェンスの結果、IFRSの「概念フレームワーク」にも、多くの例外事項が混在してきており、これでは「細則主義」と言っても過言でない、との評判も立っていますが、基本的に、原則的なルールのみが示されており、個々の会計手続きの適用については、詳細な説明(つまり、その会計手続きを採用するにあたっての合理的な理由を示すエビデンス)を求めているにすぎません。したがって、IFRSが、各社に、「とある製品番号、商品コードごとに原価計算すべし」と、原価計算単位について、具体的に指示している文書は存在しません。

ここで、先述のオートバックスセブンの対応はというと、記事によれば、

「オートバックスは2年前、フランチャイズを含む全店で個別の商品にコードを付け、仕入れから販売までのデータを蓄積する在庫管理システムに更新していた。この仕組みを使い、個々の商品の原価を算出することにした。「より詳細に商品ごとの損益を分析できるようになる」(椎野泰成部長)と在庫管理の精度を高める効果を狙う。」

とあり、詳細な原価管理データを扱うことになったというで、IFRS導入準備OKというニュアンスになっています。しかしながら、オートバックスセブンのFY14有価証券報告書の注記を確認すると、

—————-
(1)重要な資産の評価基準及び評価方法
③たな卸資産:主として移動平均法による原価法(貸借対照表価額については収益性の低下に基づく簿価切下げの方法)を採用しております。
—————-

とあり、在庫管理上は、商品コードの単位で原価を把握しているかもしれませんが、月次で「移動平均法」による在庫評価をしているわけで、単品ごとに、「個別法」で原価を算出しているわけではありません。そんなことは、取り扱い品数が3万点を超えているオードバックスセブンでは現実的ではありません。

■ IFRSをきちんと理解すると、小売業における棚卸資産の注意点はここ!

IFRSでは、「IAS第2号21項」で次のように規定し、「標準原価」「売価還元法」の採用に制限を付けています。

「標準原価及び売価還元法のような棚卸資産の原価の測定技法は、その適用結果が原価と近似する場合にのみ、簡便法として使用が認められる。標準原価は、正常な材料費及び貯蔵品費、労務費、能率水準及び生産水準を前提とする。標準原価は定期的に見直され、必要に応じてその時々の状態を勘案して改訂される」

IFRSでは、原価計算する単位についても別段規定しているわけではなく、利益率が近似しており、かつ、他の原価算定方法の使用が実務的に不可能は、回転の速い大量の棚卸資産の原価を算定する必要がある小売業には、売価還元法の使用も認めています。また、IFRSでは、「最終仕入原価法」を原則として認めていませんが、実際にIFRS強制適用対象のカルフールでは、「付随費用を加えた最終仕入原価法」を使用しています。これはいったいどういうことでしょうか?

ここで、
(1)IFRSは、「原則主義」であって「細則主義」ではない
(2)IFRSは、「公正価値・BS重視」であって、「損益・PL重視」ではない
を思い出してください。

カルフールでは、先入先出法との差異が無いことを十分に証明する根拠文書を作成・保管しておくことで、最終仕入原価法の採用を当局に認めさせています。そして、実際に日々、棚卸資産の評価額を把握できるように在庫管理システムを運用しており、大きく競合他社と同種商品の在庫価値が乖離したことが判明した時点で、棚卸評価減ができるように設定してあるのです。

つまり、(1)により、細かいルールに縛られず、(2)の棚卸資産の「公正価値」を常に把握することで、適正な在庫評価額を報告することに努めているのです。そこには、IFRSが「売価還元法」「最終仕入原価法」を原則禁止していたとしても、①証明可能なエビデンスで在庫評価額の適正性が担保されている、②常に在庫の公正価値が分かるシステムが運用されている、ことで、自社の在庫評価方法を自律的に決めているのです。

1社だけでは、事例が足りないのなら、マークスアンドスペンサーが「売価還元法」を採用していることも挙げておきます。当然、低価法による公正価値の適用後のことですが。

そもそも、厳正に製商品の原価を把握することは、IFRSの任意適用を待たずして、日本基準下でも必要なことです。ただ、IFRS導入を支援するコンサルティングファームや●●法人などが、「羮に懲りて膾を吹く」方式で、ここぞとばかり、細かい業務フロー変更や会計システムのリプレースを提案して来たら、一度、ご自身で本物のIFRSに目を通して、基本的な疑問を担当者にぶつけてみるといいですよ。きっと十中八九、「競合他社、先行他社ではそうやっています」以外の回答が出てくることは稀なことでしょう。

それより、IFRSでは「実際原価計算」でも「標準原価計算」でもなく、「公正価値計算」であることのインパクトの方が大きく、従来の会計・原価常識を覆すものなのですが。。。その中身ですか? 済みません、ここから先は有償サービスとなっております。(^^;)




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