機関投資家の行動規範改定 議決権行使を個別開示 利益相反の懸念払拭 6月の総会から適用へ - スチュワードシップ・コード改訂の動向を受けて

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■ スチュワードシップ・コード改訂の意見公募が開始され機関投資家への縛りがよりきつくなる!

経営管理会計トピック

金融庁が主導する「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」から、平成26年2月26日に確定した現行の「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」(以下、「スチュワードシップ・コード」という。)の改訂案が平成29年3月28日に公表され、平成29年4月27日までの意見収集となっていますが、新聞報道ではこれが6月に集中する3月期決算会社の株主総会にフォーカスした当局の動きであると報道されています。

「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~ (案)の公表について|金融庁

2017/3/20付 |日本経済新聞|朝刊 機関投資家の行動規範改定 議決権行使を個別開示 利益相反の懸念払拭 6月の総会から適用へ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「企業の持続的成長を促すための機関投資家の行動規範「日本版スチュワードシップ・コード」の見直しが大詰めを迎えている。月内にまとまる改定案は、株主としての議決権行使と融資業務などとの利益相反を防ぐ仕組みづくりが柱になる。資産運用会社は個別議案への賛否の開示に踏み切るなど、顧客の利益に沿って行動する姿勢の明確化を急ぐ。」

まず日本版スチュワードシップ・コードとは、
「対話を通じて投資先企業の価値向上を促す狙いで、金融庁が定めた機関投資家の行動規範。7つの原則で構成される。2014年に適用が始まり、昨年末時点で214の機関投資家が受け入れを表明した」(同記事より)

スチュワードシップ・コード運用の体系は下記の通り。
(同記事添付の「企業との対話を通じて持続的成長を促す」引用)

20170320_企業との対話を通じて持続的成長を促す_日本経済新聞朝刊

スチュワードシップ・コードにより行動規範を示す必要がある「機関投資家」を今回の改定案では明確に分類し、それぞれの責任の明確化と情報開示を企図しています。
・アセットオーナー
年金基金や保険会社など、資産保有者としての機関投資家
・運用機関
投資運用会社など、資産運用者としての機関投資家

 

■ 今回のスチュワードシップ・コード改訂の全体像を整理する!

上記の新聞報道では、「運用機関」向けコード改訂のうち、「議決権行使内容の詳細公開」にのみフォーカスを当てた報道になっていますが、せっかくなのでスチュワードシップ・コード改訂の全体像を概括してみましょう。

● 運用機関向けコード強化のポイント

(1)運用機関のガバナンス強化
(指針7-2)をより具体化し、最終受益者の利益確保・利益相反防止のため、独立した取締役会や議決権行使の意思決定と監督のために第三者機関を設置するなどガバナンス体制を整備する

(2)利益相反管理
(原則2)の事例を提示し、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じる局面を具体的に特定し、回避や排除の具体的措置に対する方針を公表する

(3)議決権行使結果の詳細開示
(指針5-3)より踏み込んで、個別の議決権行使の結果を一般に公開することを原則とし、公表しない場合はその理由を説明する
(→今回の報道ではここのみに焦点が当たっている)

(4)運用機関の自己評価
(原則6)はスチュワードシップ責任を果たしたかの定期報告だけだったが、これに自己評価を加える

● アセットオーナー

(1)アセットオーナーによる実効的なスチュワードシップ活動の確保
① 最終受益者の利益確保のために、自らが進んでスチュワードシップ活動を実践する
② 自ら議決権行使を含むスチュワードシップ活動を行わない場合は、実効的な運用機関にスチュワードシップ活動を行うよう求める

(2)運用機関に求める事項の明示
運用機関の選定、運用委託契約の締結の際に、議決権行使を含めたスチュワードシップ活動に対して求める事項・原則を明確にする

(3)運用機関に対する実効的なモニタリング
運用機関のスチュワードシップ活動が自らの方針と整合しているか、運用機関の自己評価も活用しながら定期的にモニタリングする

ここでは、新聞報道がこれら改定内容の一部だけに焦点を当てていること、運用機関とアセットオーナーを明確に分けた背景を上手に説明していないことだけを覚えておいてください。

(参考)日本版スチュワードシップ・コード改訂へ – 大和総研

 

■ スチュワードシップ・コード改訂の全体像の理解から、今回の目玉を炙り出そう!

ここで、スチュワードシップ・コード改訂のビフォア―・アフターで報道にある議決権の個別開示について考察を進めます。

2017/3/31付 |日本経済新聞|朝刊 総会議案の賛否、企業ごと開示 信託銀や運用大手、6月から 生保の対応焦点に

「三菱UFJ信託銀行など大手信託各行と大手資産運用会社は6月から、株を保有する企業の株主総会で議案に投じた賛否を、原則として企業ごとに開示する方向だ。金融庁が定める機関投資家が守るべき行動指針の改定で個別開示を求めているため。残る大口機関投資家である生命保険会社の対応が、次の焦点となる。」

(下記は同記事添付の「議決権行使の結果開示はこう変わる」を引用)

20170331_議決権行使の結果開示はこう変わる_日本経済新聞朝刊

まず、これまでの開示姿勢が消極的で問題があったのかが問われます。現行のスチュワードシップ・コードでは、

(指針5-3)
機関投資家は、議決権の行使結果を、議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべきである

と規定だけされているので、各機関投資家はこれにしたがって開示してきたにすぎません。では機関投資家の類型別にはどのようになっていたのでしょうか。

(3/20付記事に添付の「議決権行使結果の公表状況」を引用)

20170320_議決権行使結果の公表状況_日本経済新聞朝刊

ここから明らかなのは、信託銀行と生保・損保の開示姿勢が現行のスチュワードシップ・コード下で割いて減のものであり消極的であること。

 

■ 信託銀行などの金融機関にたいするチェック&バランスのしくみとは?

今回のスチュワードシップ・コード改訂を答申した意見書の冒頭では、「金融グループ系列の運用機関について、親会社等の利益と運用機関の顧客の利益との間に存在する利益相反を回避したり、その影響を排除するための措置が必ずしも十分に機能していないケースが多く、よりきめ細かな対応が必要ではないか、との指摘がある。また、同一の機関内において運用以外の業務を行っている場合における、当該業務を行う部門と運用部門との関係についても、同様のことが指摘されている」と言及されています。

それゆえ、冒頭で触れた
(1)運用機関のガバナンス強化
(2)利益相反管理
に関する施策が個別開示と同時に実行されないと、

「一方、個別開示には懸念の声もある。日本生命保険の幹部は金融庁の有識者検討会で「関心が議決権行使(の結果)に傾斜する」と指摘。「一定の数値基準のみで議案への賛否を決める『形式主義』に陥り、企業との対話がかえって形骸化する」(国内年金運用機関)という意見もある。」(3/31記事より)

という批判に応えることができません。

また、

「個別の議決権行使結果を公表した場合、賛否の結果のみに過度に関心が集まり、運用機関による形式的な議決権行使を助長するのではないかなどの懸念が指摘されている。しかし、運用機関は、自らが運用する資産の最終受益者に向けて、活動の透明性を高めていくことが重要である。さらに、我が国においては、金融グループ系列の運用機関が多く見られるところ、こうした運用機関において、議決権行使をめぐる利益相反への適切な対応がなされていない事例が多いのではないかとの懸念を払拭するためにも、個別の議決権行使結果を公表することが重要である」(意見書 注記15より)

という指摘もなされています。

これを受けて、

「資産運用部門と融資部門の両方を抱える信託銀行は利益相反の懸念解消に動く。」

● 三菱UFJ信託銀行
「投資先企業の議決権行使結果について、賛否の個別開示を始める方針だ。6月の総会終了後の8月にも公表する。三橋和之資産運用部次長は「これまでも利益相反の対策はしっかりとやってきた。ただ外部へのアナウンスは不十分だった」と話す。議決権行使の方針や結果を検証するため、第三者委員会を設置した。」

● 三井住友信託銀行
「議決権行使の詳細な判断基準を開示したのに加え、社外取締役を委員長とする「スチュワードシップ活動諮問委員会」を1月に新設した。「議決権行使の透明性を高めるため、第三者の目を入れた」(堀井浩之スチュワードシップ推進部長)。」

●野村アセットマネジメント
「昨年9月から、資金調達などを通じて担当企業とのつながりが深い野村証券の投資銀行部門などから自社の運用・調査部門への人事異動を禁止している。」

(3/20記事より)

と、各社、利害関係のグループ・社内での遮断に懸命です。

融資部門と融資先企業との利害関係を、運用部門の受託責任から遮断するには、
①事前のガバナンス機能の構築
②事後の個別議決権行使状況の開示
で実効性を担保しようというというのです。

さてさて、外資系の議決権行使助言サービス会社が、いろいろと企業統治や会社施策について意見を出しています。議決権行使の判断がつきかねた国内の機関投資家の皆さんが、思考停止して、それら助言会社の助言にしたがって議決権を行使しました、と、スチュワードシップ・コードが述べるところの、「コンプライ or エクスプレイン」の「エクスプレイン(説明)」として、言及したらそれはそれで面白いと思うのですが。今年の6月から8月にかけての報道が今から楽しみです!(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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