■ 対公益性認定で税制優遇されている財団に有利な第三者割当を行うことの是非!
「ここがヘンだよ!日本の株“主”会社」として、日本の株式会社と日本の株式市場の特徴をシリーズで見ていきたいと思います。筆者は、「だから日本の株式会社、株式市場は未熟でダメなんだ!」と一刀両断するつもりはなく、個人投資家でもある自身の経験と、経営コンサルタント視点で会社経営をみてきた体験から、株式会社制度をじっくり観察して感じた思いを読者の方と分かち合いたいと考えています。
2017/3/25付 |日本経済新聞|朝刊 財団株主 じわり増加 「会社のいいなり」海外投資家NO
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「財団株主がじわじわと増えている。企業自身や創業家が株を割り当てる例が目立ち、財団が大株主の上場企業数は昨年末に176社と2012年3月末から19社増えた。大学への寄付などの財団活動は企業の社会貢献の一環だが、海外投資家には「公益性を隠れみのにした安定株主づくり」と映る。経営陣のいいなりになる財団株主の増加は、日本の企業統治改革にも水を差しかねない。」
(下記は同記事添付の「DMG森精機の株主総会に向かう株主」の写真を引用)
3月22日、工作機械大手のDMG森精機が定時株主総会を開き、森雅彦社長が代表を務める財団に3%弱の株を1株1円で割り当てる案を付議。これに議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)がかみつき、総会での同案の採決可否に注目が集まりました。結局、議案は可決されましたが、賛成比率は67.02%と最低必要な3分の2をわずかに超える「薄氷の可決」でした。
どうして海外投資家が本件を問題視するのでしょうか?
「海外勢が財団株主を問題視するのは、最近その増加が目立つからだ。昨年6月には出光興産と昭和シェル石油の合併案に出光創業家が突然反対を表明。創業家側は財団と美術館を合わせて3分の1超の株を掌握し、これを機に財団株主の存在が海外投資家の間でも注目を集めるようになった。」
(下記は同記事添付の「過去1年間で財団が株式保有比率を上げた主な企業」を引用)
■ 海外投資家ならずとも、企業統治(コーポレートガバナンス)の健全性に注目すべし!
本記事によりますと、海外投資家が財団株主に関して問題視する論点は2つ。
(1)株主平等の原則に反する
「1株1円など極端な安値で財団に自社株を譲る例が多いからだ。企業が有利な条件で株を割り当てるには総会で3分の2以上の賛成を得る必要があり、ISSは「財団の活動が企業価値の向上につながるか不透明」として反対を呼びかけた。」
会社法では、新株又は新株予約権を引受人にとって特に有利な価格(無償を含む。)にて発行することを「有利発行」と呼び、株主総会の特別決議を必要とします。会社法に則り、特別決議でなされた決議である限り合法であると考えるのが自然です。適法であるにもかかわらず、特別決議に納得いかない株主はさっさと当該株式を売り払って別会社に乗り換えれば如何でしょうか。
(2)財団が安定株主の役割を担うようになる
「銀行や取引先企業の持ち合い解消が進む中、会社に逆らわない財団は経営陣にとって魅力的だ。財団が創業家や取引先など第三者から株を引き取る場合は総会の決議も必要なく、この方法を使った安定株主づくりも水面下で進む。」
通常、財団法人が保有する株式について、その株式の発行会社に対して議決権を行使する場合には、あらかじめ理事会において理事総数の3分の2以上の承認を要する、との規定があります。それぞれが法の下で適法に議決権が行使されているのならば、何ら問題はありません。
すなわち、合法か非合法かという視点からならば、違法性は何らありませんので問題ではありません。ただし、経営者にとって安定株主の立場を採るのならば、その他の株主にとって、企業価値最大化(=株主経済権の行使、株主還元の最大化を意味するポジショントークならではの用語)の阻害要因になるリスクを唱えるものです。適法性を問うているのではなく、適切性を問うているのです。
しかし、何を持って健全なコーポレートガバナンスであるか、決めるのは当該株主たち本人です。いかに、東証や金融庁がこぞって、「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワードシップ・コード」を制定して、海外投資家におもねった方向へ日本の株式市場を誘導したとしても、最終的には企業自治の原則が働き、その会社の株主が決めること。全幅の信頼がおける創業経営者(オーナー経営者)に無批判に賛成票を投じる株主が経営参加すること自体を禁止する法はありません。いやなら、その会社の株式を売りなさい、とういことです。
■ 海外株式市場ではもっとあざといことをやっているのですが、、、
海外市場では、「種類株式」の発行が結構目立っています。中でも、「多数議決権株式」というものがあります。
筆者の知るところでは、
・アルファベット(グーグル持株会社)
・フェイスブック
・バークシャー・ハサウェイ
ラリー・ペイジ氏、マーク・ザッカーバーグ氏、ウォーレン・バフェット氏は、株主総会で自身の経営判断を妨げられることは決してありません。通常決議・特別決議を問わず、必ず多数決で勝利する議決権を予め与えられているからです。では、どうして経営参加権が万全ではない(プロキシーファイトがあっても決して議決権で過半数になり得ない)会社の株式を一般株主が購入して、そうした経営者に経営資金を提供するのでしょうか。なぜなら、そうしたカリスマ経営者の腕を信じて、自分が議決権を行使しなくても、虎の子の財産(出資金)を増殖させてくれると信託しているからです。
⇒「資金調達 新潮流(下) 種類株が生む新たな緊張」
⇒「風速計 ベンチャー上場 もろ刃の種類株」
日本のマスコミは、海外から何か批判されるとすぐさま日本の関係者の未熟さ、日本市場の異常さをことさら書き立てますが、多数議決権株式を発行している欧米企業の創業経営者には無批判で、安定株主作りをしている日本の経営者を悪者にしがちです。やっていることは本質的には同じはずなのに、、、
特に、議決権行使助言会社の意見表明に過敏に反応し過ぎです。議決権行使助言会社は、あまり日本企業のことを知らない海外機関投資家に議決権行使に関する日本企業の経営情報を有償でリポートすることを生業としており、決して株式市場で第三者的・中立的なポジションにあるのはありません。そういう議決権行使助言会社は、本国では「多議決権株式」発行会社へも批判的な意見(極論すれば株主保有に反対)を出しているのでしょうか。
直近の日本でも有名になった、トヨタ自動車のAA型種類株式発行をめぐり、議決権行使助言会社の1位と2位会社、ISSとグラスルイスが正反対の意見表明をしていたことは、記憶に新しいと思います。
⇒「トヨタ新型株に反対 議決権行使助言のISS 株主総会での賛否が焦点」
⇒「トヨタ、新型株の評価二分 株主助言のグラスルイス賛意、ISSの反対受け補足資料」
⇒「揺れる企業統治(3)「安定株主」トヨタも悩む IRよりSR」
2017/3/25付 |日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)財団 公益性認定で税制優遇
「提供された財産を管理・運用するために設立する法人。企業や創業家が株を提供し、株の配当で大学への寄付や学生の奨学金支援、美術館の運営など社会・文化貢献活動を展開する例が多い。」
「海外でも企業や創業者が財団を設立するケースは多く、米フォード財団や米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏のビル&メリンダ・ゲイツ財団などが有名。米国では株を寄付して活動原資にすることもあるが、議決権のない株を割り当てるケースも多い。」
財団の設立趣旨を考えるなら、ゲイツ氏に習って無議決権株式を割り当てるのが適切でしょう。もしそうでないなら、安定株主作りも兼ねた団体設立の目的もあると邪推されても仕方がありません。開き直って、下記の様に本心を出した企業もありますが。
「財団を最近設立して創業家が保有株を寄付したアオイ電子、竹内製作所、西川ゴム工業の3社は、開示資料に株の保有目的を「安定株主として」と明記した。」(冒頭の記事より)
どこかヘンだよ、日本の株式市場と株式会社。一番ヘンなのは、一部のポジショントークを拾ってきて、日本の経営者と市場関係者を批判している一部のマスコミかもしれません。ちゃんと制度を勉強して、財団の設立趣旨と無議決権株式の割り当て位の提言をしてほしいものです。(^^;)
(参考)
⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(2)日本株に優待バブル 裏技でタダ取り、株価高止まり… 機関投資家「配当を軽視」不満強める」
⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(3)(ゼロから解説)「複利」を投資の味方に 投信、毎月分配型は利点生かせず」
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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