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(日本株番付)政策保有株比率が高い企業 建設や倉庫が上位に

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 政策保有株(持ち合い株)の見直しが株価に影響するか?

経営管理会計トピック

政策保有株式が今年の株式市場でテーマになりそうだという記事を目にしました。その流れと、現状、そしてそれらの背景にある当局の動きをちょっと整理してみたいと思います。

2016/1/4|日本経済新聞|夕刊 (日本株番付)政策保有株比率が高い企業 建設や倉庫が上位に

「今年の株式市場では企業が取引先などの株式を保有する「政策保有」の見直しをどれだけ進めるのかが注目点となりそうだ。東京証券取引所などが昨年から上場企業に企業統治指針を導入し、保有に合理的な理由がない株式の売却を促したためだ。総資産に占める政策保有株の比率が高い企業はどこか。上位には取引先の株式を多く持つ建設やグループ企業の保有が多い倉庫が目立った。」

(同記事添付の総資産に占める政策保有株の比率が高い企業ランキング(金融機関除く)を転載)

20160107_総資産に占める政策保有株の比率が高い企業_日本経済新聞夕刊

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、業種や企業グループごとに、政策保有株(持ち合い株)の多さの原因を次のように解説しています。

1.建設業
● 継続的契約関係の担保目的
・工事の受注元となる不動産会社やビルに入居する法人顧客の株式を多く保有
(5位:戸田建設、9位:奥村組、14位:清水建設、18位:大林組)

2.企業グループに属する企業
● 緩やかな企業グループ形成目的
・トヨタグループ
1位:豊田自動織機は、総資産の半分を政策保有株が占め、デンソー、豊田通商、アイシン精機などの株式を所有
・三井・住友グループ(倉庫業)
7位:住友倉庫は、住友不動産や三井住友トラスト・ホールディングスなどの株式を所有
13位:三菱倉庫は、三菱商事や三菱地所の株の保有が目立つ

記事の最後は、次のような事例とまとめで締められています。

「18位の大林組は昨年12月に東証に提出したコーポレートガバナンス報告書で「保有意義が薄れた株式は売却する」と記載するなど、建設業でも政策保有株の見直しに動き出す企業も出てきた。」

「だが売却するだけでは企業価値は上がらない。投資家は「売却で得た資金を成長投資や自社株買いなど資産効率の向上のために有効に使えているのかまで見極める必要がある」(野村証券の西山賢吾氏)といえそうだ。」

これまで、金融機関(銀行や保険)の政策保有株の放出・見直しの新聞記事が2014年は目立っていましたが、ようやくここにきて、非金融業に対する言及も増えてきました。こうした政策保有株の保有自体が、本当に企業の収益性や成長性に必ずマイナスで、減らすべきなのでしょうか? 伊藤レポートにある「ROE =8%」が必達ならば、自己資本比率が50%と仮定した場合、この記事に添付されているROAは、4%あれば十分に合格点といえます。ROA:4%越えは、20社中11社で半分超えています。必ずしも、この20社の資産効率性は、政策保有株を多く保有しているため平均より低いとは一概に言えないようです。

投稿半ばで筆者の結論を申し上げると、「政策保有株は、企業の収益性を必ずしも低下させるものではない」というものです。業界の慣行や、企業グループ形成による安定した契約関係の形成は、中長期的な高収益性の維持に貢献します。長期契約の取り付けは、契約当事者間で、

①中長期的なリスクとリターンを共有することで、契約から生み出される収益を高めることができる(新製品開発や顧客開拓など、長期間かかる投資の回収が一緒に待てるようになります)

②取引コストを低減させることで、契約に係るコストを最小化できる(一回こっきりの契約の場合は、契約事務費用の負担、失注時の負担コストの上乗せなど、契約が高くつく傾向があります)

というメリットがあり、それがお互いに「政策保有株式」の保有で担保されていれば、それは、出資した分の投資は十分に回収されていると言えなくはないでしょうか? 新聞記事にあるように、政策保有株の売却資金をどう活用するかで見極めるか、という課題の前に、政策保有株の持つ積極的な収益貢献度を再評価すべきであると進言したいところです。

そうした、収益性へのインパクト評価もそこそこに、政策保有株(持ち合い株)の売却を促すようなマスコミ報道や当局の政策にはどういった意味が込められているのでしょうか?

■ 政策保有株(持ち合い株)の削減を促す両コードに妄信的に従うことの是非

標題にある両コードとは、簡単に言うと、金融庁が制定した「スチュワードシップコード」と、日本取引所が制定した「コーポレートガバナンスコード」のことを指します。前者は、機関投資家として、投資先企業と対話(エンゲージメント)を深めることによって、投資先企業の中長期的成長に貢献し、預かっている資金の最大効率(要はローリスク・ハイリターン)を目指すための行動原則です。後者は、投資家から資金提供を受けた会社が、投資家ときちんとコミュニケーションをとるとともに、説明責任(アカウンタビリティー)を明確に果たすための行動原則です。

「スチュワードシップコード」本文(PDF)
http://www.fsa.go.jp/news/25/singi/20140227-2/04.pdf

「コーポレートガバナンスコード」本文(PDF)
http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/code.pdf

以下に、それぞれのコードがどうして政策保有株(持ち合い株)解消・売却を促す方向に作用しているのか、簡単に説明したいと思います。

「スチュワードシップコード」によりますと、
原則1.機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、
これを公表すべきである。
原則3.機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適
切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
原則4.機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資
先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。

という行動原則が機関投資家に対して、積極的に投資先企業の事業投資への収益性・成長性に関する口出しを積極的にさせようという記述にそもそもなっているのです。さらに、本コードの運用原則として、「プリンシプル・アプローチ」、つまり「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法が採用されていることの影響も無視できません。金融機関が、投資先企業の持ち合い株の保有、および自社の持ち合い株式の保有に対して、明示的に投資家(金融機関への出資・融資者)に保有理由説明をきちんと定量的に、分かりやすく説明できない、じゃあ、売却しよう、という動きが2014年に起きたことです。丁度、株式市場が2万円超えの水準だったため、売却もしやすかった。。。

■ コーポレートガバナンスコードでは名指しで政策保有株(持ち合い株)の削減が謳われています!

上記の「スチュワードシップコード」は、アベノミクス第三の矢としての成長戦略の一環として、外資の機関投資家からの投資を引き込むために、2011年に英国で生まれた同コードを導入することで、株式市場の透明化を図り、ひいては日本企業の事業成長のモト金を引っ張ろうという当局の意図から設定されました。したがって、コード本文に「政策保有株の売却促進」が明文化されていなくても、市場関係者はそのように行動したわけです。海外投資家は従来から日本的慣行の持ち合い株を毛嫌いしていましたから。

では、コーポレートガバナンスコードの方はどうなっているでしょうか?

【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

本コードにて、「「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。」と前置きがあり、そしてこの「原則1-4.」が置かれています。これでは、透明・公正・迅速・果断な意思決定を、政策保有株式の保有状態が阻害すると言わんばかりです。

じゃあ、政策保有株式の保有理由について、「コンプライ・オア・エクスプレイン」精神を発揮して、その批判を回避しようとした場合、

① 株式保有に関する資本コストを考慮した長期契約の収益性向上を客観的に計数で評価するための事務作業負担が大きい

② 長期契約の存在、内容、相手、政策保有株の保有効果(金額換算後)を全てディスクローズしていては、市場競争で不利になる恐れがある

というデメリットがあり、「エクスプレイン」の内容・方式に大いに工夫の必要が生じます。

さらに、経営者と金融市場とのこれまでの付き合い方から、政策保有株を売却し、現金化したうえで、その使途について、経営者は相当頭を悩ませるはずです(これがデメリットの③)。

この③については、もう少し解説します。政策保有株式を現金化した場合、企業にはその使途について3つの選択肢が与えられます。

A案:次の投資機会まで金融資産として継続保有
B案:即時、新旧事業に投資する
C案:余資として、株主還元に回す

昨今の、流行であるところの「ROE経営」的には、A案の採択が許される可能性は小さいでしょう。しかし、B案を即時決行するに足る魅力的な投資機会がない場合、残るC案を選択せざるを得ないようです。これは、ハゲタカとまではいいませんが、短期的な株式保有で、多額の株主還元を引き出すことを目指す悪い方の「アクティビスト」による株式市場への資金流入は望めますし、その期待に応えることになります。一時的には、C案採択による株式取引の活性化の可能性が望めます。そして、もし、企業が株主還元後、魅力的な投資機会を見つけた場合、改めて資本調達を行えば、これまた取引所の収入が増えることになります。

■ コーポレートガバナンスコードで企業を縛る前にやることがあるんじゃないかな?

どちらにせよ、「コーポレートガバナンスコード」を導入した日本取引所にとって、有利なことには違いありません。しかし、誰かの利得は誰かの損失。なかなか「Win-Win」状態にすることは難しいようですね。それは、次のような経営者の態度・見解があるからです。

2015/12/29|日本経済新聞|朝刊 (大磯小磯)企業の内部留保は「地震保険」か

「円安などで収益は増えているのに、なかなか企業は賃上げも設備投資も行わないと政府与党では不満が高まっている。日銀総裁も「春闘における賃上げに注目している」と異例のコメントをするくらいである。政策当局としては金融財政政策でこれだけ環境を整えたのになぜ企業は動かないのか、という思いだろう。
しかし、企業経営者には別の理屈がある。先日、東証1部上場の中堅製造業の経営者から非常に興味深い話を聞いた。東日本大震災で工場が被災したが、地震保険の保険金を請求しても様々な除外規定によって厳しく査定されて減額された。結局、保険金は想定していたよりも少額で、その後は保険料の値上がりもあって割に合わなくなった。
この企業は震災後は地震保険に加入していないが、今後も地震活動が活発になるかもしれないので被災したときの事業再開の備えは必要だ。そこで「自衛手段として内部留保を分厚く蓄えておくしかない」と、この経営者は話す。
震災や最近頻発している台風や水害などの経験から、大規模な自然災害への危機感は企業の間で強まっているはずである。企業が賃上げや投資を控えて内部留保をためる理由は「自己保険」という意識もあるのではないか。」

このコラムでは、生々しく地震保険による資金手当ての難しさについて語られていましたが、それは、株式市場や社債市場も同様。企業が魅力的な投資機会を見つけた際に、低コストで機動的に資金が金融市場から調達できるとは限らない。資金が無ければ、せっかくの投資機会を泣く泣く見送ることになってしまう。だから、内部留保(B/Sの左側では、その他の資産とか金融資産で保有されることになる)に頼らざるを得ない、というわけです。

一方的に、企業側に明朗会計を求めて、余資は全て即時、株主還元することを求める。じゃあ、その対価として、経営者の事業判断に応じた機動的な資金調達に応えることに市場関係者も努めなければならない。欧米から輸入された「●●コード」を企業に押しつける前(同時でもいいわけですが)に、欧米の資本市場と同様の機動的な資金調達の容易さを保証すべきでしょう。それじゃないと、「●●コード」普及も一気に広がりはしませんよ。「仏作って魂込めず」な政策はもうたくさんです。(`д´)

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